35話:大地の迷宮
大地の迷宮の入り口にある岩盤へ錬成を施すと、一枚岩にしか見えなかったその表面が音もなく左右に開いた。
まさに、大地剣術を身につけた者にしか開かぬ試練の扉──そういう仕組みなのだろう。
「ユーマ、頑張ってくださいね!」
「あなたが戻ってくるころには、私も一つ新しい剣技を身につけておくわ」
フィーナとティアがそれぞれの言葉で俺を送り出してくれる。
俺は二人に背を向け、気を引き締めて迷宮の中へと足を踏み入れた。
入り口の岩盤が背後で静かに閉ざされ、再び世界が隔絶された。
直後、ユニオンソードから重厚な男の声が頭の中に響く。
「設計は俺がしたが、実際に迷宮を造り上げたのはかつての大地剣士たちだ。覚悟して挑め」
ドーガ──大地の剣士のひとりの声だ。
外界の光が完全に遮断され、漆黒の闇が広がる。
だがしばらくすると、壁や床がほのかな光を帯び始め、淡く迷宮内部の様子が浮かび上がった。
目の前には、ただ一本の直線的な通路が続いているだけだった。
──だが、その「何もない」はずの通路に、最初の試練が隠されていた。
一歩踏み出したその瞬間、壁や床から無数の剣が雨のように降り注いでくる!
凄まじい量、そして目にも止まらぬ速度。
氷剣術で防壁を作ろうが、風剣術で流れを読もうが、この密度では防ぎきれないだろう。
だがすぐに気づいた──この剣の雨はすべて、錬成によって生成されている。
ならば逆に、錬成を分解に転じれば、対処は可能なはずだ。
俺は極限まで集中し、高速錬成の応用技としての「高速分解」を発動させる。
だが、剣の雨は想像以上に密で、わずかな処理の遅れが命取りとなる。
分解が間に合わなかった剣が、手足、背中、肩口を次々に切り裂いていく。
流れる血、焼けつく痛み。それでも俺は歯を食いしばり、歩みを止めなかった。
──そしてついに、通路の最奥に辿り着いた瞬間。
剣の雨は、嘘のようにピタリと止まった。
一つ目の試練──突破。
再び、ドーガの声が頭に響く。
「……よくやった、ユーマ。最初の試練は、合格だ」
「だが、安心するのはまだ早い。この迷宮は、その最深部に眠る《ユニオンアーマー》そのものを動力源として稼働している」
「つまり、この迷宮の魔力は無尽蔵。お前が力尽きるまで、試練は終わらない」
「迷うな。振り返るな。ただ、まっすぐに進み続けろ。それだけが、この迷宮における唯一の正解だ」
俺はその言葉を深く胸に刻み、次なる通路へと足を踏み出す。
だが、次の空間には壁も床も天井もなかった。ただ、はるか前方にぽつんと浮かぶ、一枚の扉が見えるだけだ。
俺は《ユニオングリーヴ》の力を使い、風を操って宙を駆ける。だが──その瞬間、突如として壁が前方に現れ、天井がせり出して進路を塞いだ。
「うっ、危ない!」
咄嗟に《大地剣術》で足場を創出し、なんとか空中で静止する。
──やはり、これも試練の一つだ。
この空間は、大地剣術によってのみ進行が可能。道を生み、壁を分解しながら、慎重に一歩一歩を刻む必要がある。
俺は集中を研ぎ澄まし、錬成と分解を繰り返しながら、徐々に向こう岸へと進む。
「はあ、はあ……ここまで、これほど連続で錬成を使ったのは初めてだ……」
魔力にはまだ余裕がある。だが、精神の疲労は確実に蓄積していた。集中の連続で意識がじわじわと削られていく。
一息ついて扉を開けると、そこには重厚な扉と、それに対峙するように台座が一つ──中央に置かれていた。
入室と同時に、再びドーガの声が降ってくる。
「ユーマ。その台座に、ただの剣を納めても意味はない」
「この扉は、凡百の剣では決して開かん。それは、お前がこの試練に挑む資格がない、という証だ」
「お前が今、その魂で、その心で、考えうる“最高の一振り”を創り出せ。それを、ここに納めろ」
「剣を……錬成する、か」
俺は、背中の《ユニオンソード》と腰の《大地の炎刀》をそっと床に置く。
(……これは、古代の英雄たちが魂を宿した絆の剣。俺なんかが、真似できるものじゃない)
(そしてこっちは、ディランさんとおじさんの想いが宿った、俺の“相棒”。でも、これも俺一人の力で創ったものじゃない)
(どちらも、最高のお手本。でも、ドーガが求めているのは、模倣じゃない)
(「今、考えうる、最高の一振り」──それはつまり)
(俺自身の、“魂の形”。この手で、ゼロから生み出せ、ということか)
俺は静かに目を閉じ、これまでの旅路を心に描く。
──師・リュウガから受け取った、お古の刀。
──自らの《蒼焔剣》の出力に耐えきれず砕け散った、あの無念の一振り。
(ただ、強いだけじゃ駄目だ。その力を支えられる、強靭な器が必要なんだ)
──化け蟹様の巨大なハサミ。
──《大地の炎刀》ですら受け止めきれなかった、圧倒的な一撃。
(どんな攻撃でも、決して折れない。その信頼性こそが、剣には必要だ)
──そして、仲間たち。
──自分を信じ、支え、背中を預けてくれたフィーナ、ティア、カンナ、そしてリュウガ。
(そうだ。俺は、いつだって……何かを守るために戦ってきた)
(今、俺が創るべき剣は──)
(どんな衝撃にも折れず)
(仲間たちを、その身をもって守り抜く、そんな剣だ!)
俺は全神経を集中させ、心に描いたその剣を錬成する。
──装飾は一切ない。だが、異様なまでの厚みと頑強さを備えた、素朴な一振り。
「決して壊れないという願いを込めたこの剣の名は──《アンブレイカブル》!」
俺はその剣を台座に納めた。
次の瞬間、台座が光を放ち、ドーガの声がまた響く。
「……ふっ、なるほどな。お前が創り出したのは、“守る”ための剣か」
「……見事だ。いや、本当に凄い剣だ。今の、お前にとっての“最高の一振り”だ。……よくやったな、ユーマ」
ゴゴゴゴゴ──。
重厚な扉が音を立てて開いていく。
その先は、まるで祭壇のような荘厳な空間だった。古びたマネキンに装着された、汚れ一つない白銀の鎧が、静かに鎮座している。
「これが、《ユニオンアーマー》……!」
俺が祭壇に近づき、鎧へ手をかざすと──
《ユニオンアーム》と《ユニオングリーヴ》が共鳴を始め、炎(赤)、氷(青)、風(緑)、雷(紫)、大地(鉄)、聖(金)、時(白銀)の七色の光が一斉に放たれる。
光に包まれた三つの装備が融合し、俺の身体を隙間なく包み込む。全身鎧──《ユニオンフレーム》が完成した瞬間だった。
「……これが、《ユニオンフレーム》……」
だが、次の瞬間、強烈な眩暈が俺を襲い、意識が遠のいていく。
その中で、ユニオンソードに宿るユーノの声が、静かに響いた。
「ユーマ……これから君には、大切なものを見てもらう必要がある。少しの間、辛抱してくれ」
そして、俺の意識は、深い闇へと沈んでいった。
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