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34話:里の秘密

「えーと、ティアだよね。なぜ店番を……?」


 俺はもう一度、目の前の少女に問いかけた。


 ティアは大きく息をついて、そっけなく言った。


「今は話せない。店が閉まった夜にまた来て」


 それだけ告げると、再び無言で接客に戻ってしまった。


「ユーマ、ここにいてもティアさんの迷惑になるだけですし……言われた通り夜に出直しましょう」


 フィーナにそう促され、俺たちは金物屋を後にした。


 ――大地の里は、商人が頻繁に行き交う土地だ。そのせいか、旅人向けの宿はすぐに見つかった。


 独立商業区で得たお金もあるし、今回は自分の財布でちゃんと払える。


「いらっしゃいませ! お部屋が必要ですか?」


 元気な声の宿の女将が、ぱっと笑顔で出迎えてくれた。


「はい。部屋を二つ、お願いしたいのですが……」


「うーん、今は一部屋しか空いてないんですよ」


「えっ、そうなんですか。それじゃ、他を当たったほうが……」


「お客さん、今の時期はどこもそんなもんですよ? 安くしておきますから、ぜひうちに!」


 商売上手な女将が食い気味に畳みかけてくる。


「それに……お二人さん、仲のいいカップルに見えますし。一部屋でも問題ないんじゃないですか?」


「な、仲のいいカップル!?」


 フィーナの声が裏返った。


「あ、いや……俺たちはそういうのじゃないんですけど……でも、フィーナが嫌じゃないなら。一晩休むだけだし……一部屋でも、いいかな?」


「へ!? あ、だ……だ、大丈夫ですっ!」


「毎度あり~! 銅貨五枚、お願いしますね!」


 俺は財布から銀貨を一枚取り出し、お釣りをもらって部屋へと向かった。


 部屋は広々としていて、ベッドが二つ並んでいた。最初から二人用の部屋だったようだ。


「女将さん、からかってたなあ……」


「そ、そうですね。これだと、海刃丸の船室よりもずっと広いです」


 俺たちは、どこかぎこちない空気のまま会話を続けた。


「ここが大地の里で間違いなさそうだな。ティアがいたし、想像してたのとは違ったけど……何か秘密があるのかもしれない」


「ティアさんは、剣の修行に行ったと聞いてました。なのに、金物屋の店番をしているなんて……やっぱり不思議です」


「そのへんの謎も、夜になればわかるだろう。……今は少し休もう」


 そう言って、俺はベッドに体を預けた。


 ──しばらくして。


「ユーマ、日が暮れましたよ。すっかり夜です、起きてください」


 体をやさしく揺すられる。


「ん……? んん~……ああ、寝落ちしてたみたいだ。起こしてくれてありがとう」


「どういたしまして。やっぱり緊張の連続で、疲れてたんですね」


「そうだな。ここで休んでおいて正解だった。……よし、それじゃあティアに話を聞きに行こうか」


 俺たちは宿を出て、金物屋へと向かった。


  金物屋の表はすでに閉まっていたが、裏手の勝手口からティアがひっそりと手招きしていた。


 中に入ると、そこはちょっとした休憩スペースのような造りになっており、腰を落ち着けて話をするにはちょうどいい雰囲気だった。


「ティア、それで――どうして店番なんてしてたのか、教えてくれるんだよな」


「ええ。でもその前に、一つだけ確認しておきたいことがあるの」


 ティアの視線が、俺の隣に立つフィーナに向けられる。なぜか、その目は少し冷たかった。


「隣の女性……彼女は、誰かしら?」


「ああ、彼女はフィーナ。発掘協会時代からの仲間で、凄腕の治癒士だ。何度も命を救ってもらったんだ」


 俺は、できるだけ明るく、信頼できる仲間であることを強調するように紹介した。


「フィーナです。……ティアさんは風の渓谷でユーマとご一緒だったとか。危ない目には遭いませんでしたか?」


「別に。むしろ……私のほうが助けられたくらいよ」


 (……な、なんだろう。会話の温度は低いのに、見えない火花が飛び散ってる気がする)


「――まあ、いいわ。どうして私が金物屋で店番をしているのか、だったわね」


 ティアは軽く息をついて、話を続けた。


「ああ。たしか、ティアは“大地の剣”の修業に行ったはずだよな」


「その通りよ。でもね、大地の里では、表立って“大地剣術”の修業なんてできないの」


 ティアの声が少しだけ陰を帯びる。


「大地の里は、魔剣廃棄法が制定されたときに――とくに厳しく、皇帝に弾圧されたらしいの」


「魔剣を奪われただけじゃなく、その使い手も……命を奪われたり、二度と剣を握れない身体にされたりしたそうよ」


 ティアの語る言葉の中には、怒りとも哀しみともつかない感情が滲んでいた。


「それでも、剣術を捨てなかった人たちがひそかに集まって、大地剣術を継承してきたの。表向きには“刃物の里”なんて名乗ってね」


「そんな場所に『剣術を教えてください』なんて飛び込んだ私、当然すぐに店の奥へ連れていかれて、こっぴどく怒られたわ」


 ティアは苦笑しながらも、当時のことを思い出しているようだった。


「でも……私の真剣さだけは伝わったみたいで。結局、お昼は金物屋の店番を手伝うことを条件に、剣術を教えてもらえることになったのよ」


「――今のところは、これといった成果はないんだけどね……」


 最後にぽつりとこぼしたティアの声には、わずかな悔しさと、それ以上に諦めきれない情熱が感じられた。


「よぉ、話は終わったかい?」


 ティアの話がひと段落ついた頃、店の方から陽気な声が飛んできた。


 声の主は、里の入り口で鍛冶屋を営む陽気な男だった。


「ユニオンソードを持ってる兄ちゃん、里長がお呼びだ。すぐに会ってほしいってさ」


「ユニオンソードを知ってるのか!?」


 俺たちは思わず声を揃えて驚いた。


「ま、そのへんは里長に会えば分かるさ。さ、早くついてきな!」


 促されるまま、俺たちは鍛冶屋に案内されて里の奥へ向かった。そこにあったのは、里長の家――と言っても、質素な作りの一軒家だった。


 だが、この地味な外観こそが、里の本質を隠すためのものなのかもしれない。


「じゃあ、案内はここまで。俺は戻るぜ」


 鍛冶屋はそう言って、無駄のない動きでさっさと引き返していった。


(……意外とせっかちだな)


 俺は少し緊張しながら戸を開ける。


「ごめんください」


「よく来たな、ユニオンソードの継承者よ」


 重く、落ち着いた太い声が返ってきた。


「まあ、まずはくつろぐといい。話はそれからだ」


 俺たちは里長の正面に座り、姿勢を整えた。


「自己紹介をしておこう。わしはディノス。この大地の里を治める大地剣士だ」


 彼は続けて、俺の腰に差した剣に目をやる。


「君にとって分かりやすく言えば――その『大地の炎刀』を打った鍛冶師、ディランの父だよ」


「見ただけで誰が作った剣か、分かるものなんですか?」


 そう聞くと、ディノスは少し眉をひそめて答えた。


「今どき、新造の専用魔剣を創れるのは、もうあいつくらいしかおらん。仕上がりを見れば分かるさ」


 どこか誇らしくも、複雑な表情を浮かべていた。


「俺はユーマです。後ろの二人は――右がフィーナ、左がティアです」


「左の嬢ちゃんのことは知っている。大地と氷、二つの剣術を融合させたいとは、なかなか意欲的だ」


 ディノスの視線がティアを捉え、満足げに頷いた。


「お前がこれから見るものは、その融合へのヒントになるやもしれん」


 そして、彼の声が少し低くなった。


「さて――ここからが本題だ。ユーマ、お前はユニオンアーマーを求めてここに来たのだな?」


「……はい。でも、どうして分かったんですか?」


「我ら大地の里は、ユニオンソードの継承者をユニオンアーマーへ導くため、五百年もの間、ここを守ってきた」


 その言葉に俺は息を呑んだ。


「鍛冶屋の報告を聞いたときは半信半疑だったが……君が背負っていたその剣をこの目で見て、すぐに確信した。間違いない――それは真のユニオンソードだ」


「わが愚息ディランは確かに天才だ。しかし、その剣を見たときは、自分の鍛冶が赤子同然に思えたよ。古代の大地剣士ドーガ様の力は、それほど隔絶している」


 彼は少し苦笑しながらも、その敬意を隠そうとはしなかった。


「話が逸れたな。本題に戻ろう。ユニオンアーマーは、大地の迷宮に安置されている」


「大地の迷宮……?」


「ああ。これは、古代の大地剣士たちが、ドーガ様の設計図を元に造った試練の場だ」


「それと同時に、ユニオンソードの継承者以外がアーマーを持ち出せないようにするための封印でもある」


「迷宮は、大地剣術を使えぬ者には入ることすら許されない。だからこそ、君に迷宮へ挑む資格があるか――その剣術の練度を見せてもらおう」


 そう言うと、ディノスは片手を上げた。


 空気が震え、五本の見事な魔剣が空中に生成される。


 鍛冶の技と剣の意志が共鳴するような、見惚れるほどの錬成だった――。


「さて、君はどれほどの錬成ができるのかな?」


 ディノスの問いに、俺は無言で応えるように集中し、全力の高速錬成を行う。空中に、光の粒子が走り、数十本の剣が瞬時に形成された。


「ほう……見事な数だ。それだけの高速錬成ができる者は、今や世界に君だけだろうな。ただ――」


 ディノスは一歩前に出て、宙に浮かぶ剣の一本をじっと見つめた。


「一本一本の完成度は、まだ粗いな。剣としての精度も、威力も未熟だ。しかし、迷宮に挑む資格はある。大地の迷宮は、高速錬成ができなければ、即座に命を落とす場所だからな」


 その言葉に、フィーナとティアが顔を見合わせる。


「……それなら、仕方ありませんね」


「ええ。足手まといになるのは避けたいわ」


 二人とも、悔しさをにじませつつも納得したように頷いた。


「よし、それじゃあ早速挑んでもらおう。とはいえ、あそこに白昼堂々と案内するのも気が引ける。今、行ってもらえると助かるんだが……」


 ディノスは苦笑を浮かべながら提案する。


「はい。昼の間に十分休憩しましたし、問題ありません」


「そうか。それじゃあ、ついてきてくれ」


 そう言って彼は家の裏手へと歩き出す。俺たちはその後に続き、やがて岩盤むき出しの崖の前に立たされた。


「ここが、大地の迷宮の入り口だ。もっとも、大地剣士でなければ、ただの岩にしか見えないだろうがな」


「これが……」


 俺は静かに歩み寄り、岩盤にそっと手を当てた。


 そして、大地剣術の錬成を発動する。


 大地の迷宮いったいどんな試練が待ち受けているのだろうか……

最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます!

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また次回、お会いできるのを楽しみにしています!


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