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31話:脱出

 聖剣士たちが次々と展示の間に押し寄せ、俺たちを囲もうとしていた。


 「フィーナ、本当に俺についてきていいのか? このままじゃ、お尋ね者になっちまうぞ」


 「ユーマ……私、アル・プラドで別れたときに決めたの。もう二度と、置いてかれたりなんかしないって」


 フィーナの瞳は揺るがない強さを宿していた。


 ……覚悟は、できてるってことか。


 俺は無言で頷き、背に《ユニオンソード》、腰に《大地の炎刀》を装備。《ユニオンアーム》と新たに手に入れた《ユニオングリーヴ》も展開し、戦闘態勢を整える。


 そして、戸惑うフィーナをひょいと肩に担ぎ上げた。


 「ちょっ、ユーマ!? え? なんで、なんで担ぐの!?」


 「これが一番効率的に、二人で逃げる方法だから」


 「お、おろしてよ! わたしだって走れるってば!」


 フィーナが俺の背をポカポカ叩いて抗議する。が、無視。


 「我慢してくれ。今は時間がない」


 逃走経路は――一点突破だ!


 まずは、後ろの追手を断つ――。


 「《氷晶壁》!」


 振り向きざま、氷剣術を発動。生まれた氷の壁がいくつも重なり合い、聖剣士たちの進行を阻んだ。


 《ユニオンアーム》によって強化された氷壁は、並の攻撃では砕けない。精鋭揃いの彼らといえど、突破には時間がかかるはずだ。


 俺はすぐさま正面に向き直る。目の前には、こちらの行く手を塞ぐように聖剣士たちが布陣していた。


 だが――展示の間は天井が高い。


 「跳ぶぞ」


 そう呟いて、手に入れたばかりの《ユニオングリーヴ》に力を込める。脚部が魔力を集束し、次の瞬間、俺は空へと舞い上がった。


 「えっ、ちょっとユーマ!?」


 フィーナの困惑をよそに、聖剣士たちの頭上を越えていく。


 着地の衝撃を殺さぬまま、そのまま一直線に大聖堂の出口を目指した――が。


 「……やっぱりな」


 出入口には、あらかじめ待ち構えていたかのように聖剣士たちが密集していた。隊列は隙がなく、突破は難しい。


 「ユーマ、このままだと捕まっちゃうよ!?」


 「大丈夫だ、フィーナ!」


 俺は叫ぶ。


 「出口なんて――自分で作ればいい!」


 壁際まで一気に駆け寄り、地を蹴る。手をかざし、大地剣術の《錬成》を展開。触れた壁が砂のように崩れ、ぽっかりと外へ通じる穴を開けた。


 「行くぞ!」


 そのまま空いた道を駆け抜ける。背後から風が吹き込むのを感じながら、通路の奥で再び《錬成》を放つ。崩した壁が元に戻り、追手を遮断した。


 ――これでしばらくは撒ける。


 だが、聖都全体にすでに戒厳令が敷かれていた。

 それも当然だ。俺は今、貴重な聖遺物ユニオングリーヴを強奪した張本人なのだから。


 以前の俺なら、広大な聖都の警備網をかいくぐるだけで精一杯だっただろう。

 だが今は違う。《ユニオングリーヴ》がある。この足鎧があれば、風のように街を駆け抜けることができる。


 俺は手頃な建物の屋上に跳び乗り、南東に広がる《嘆きの断崖》を目指す。

 城壁の外へ出るには、そこが最も警備が手薄だと踏んだ。


 屋根から屋根へと、風のように飛び移るたび、肩に担いだフィーナから悲鳴が上がる。


「目、目が回る〜!ユーマ、お願い、もう少しゆっくり飛んで〜っ!」


「無理だ!今は急ぐ!」


 俺は彼女の抗議を無視して全速力で駆け抜ける。

 兵たちの叫び、警報の鐘の音が背後から迫ってくるが、振り返る余裕はない。


 そしてついに、聖都の高く厚い城壁が目前に現れた。


 だがこの分厚い石壁を《錬成》で崩してから通り抜けるには、時間がかかりすぎる。

 ――ならば、飛び越えるしかない。


 俺は地面を蹴り、《ユニオングリーヴ》の力を最大限に引き出す。

 《嘆きの断崖》を越えたときと同じように、空中に足場を作り出し、高速で跳び上がっていく。


「ユーマ!待って、ダメだってば!落ちる、落ちるってばああああ!」


「大丈夫、安心しろ!」


 叫ぶフィーナを背に、俺は最後の足場を踏み切る。

 目の前に広がるのは、どこまでも続く空と、何もない大地。


 だが、恐れることはない。風剣術の応用で、俺たちの落下速度はふわりとやわらぎ――

 二人の体は、地面に優しく着地した。


「はあ、ユーマ……ここまで来たら、もう降ろしてくれてもいいよね?」


 フィーナが肩の上から情けない声で言う。


「いや、ダメだ。嘆きの断崖まで全速力で行く。仲間を待たせてるからな」


「ええっ!? まだ走るの!?」


 俺は《ユニオングリーヴ》に魔力を注ぎ、再び猛然と走り出した。風を切って地面を蹴り、断崖を目指して突き進む。


 耳元では、フィーナの悲鳴が絶え間なくこだましていた。

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