29話:聖都
聖都が見えてきた。
白亜の城壁が陽光に輝き、その向こうには、空を突くようにそびえる大聖堂の尖塔が静かに佇んでいる。
城門の前では、参拝者や商人たちが長い列をつくり、ひとりひとりが厳重な検問を受けていた。
俺とフィーナも、その列の中に身を紛れさせる。
呼吸を整えながら、順番が近づくたびに高まっていく鼓動をなんとか抑えようとしていた。
ついに、検問の順番が回ってきた。
白亜の鎧を纏った衛兵――聖剣士がこちらへ歩み寄ってくる。
「身分証か通行証の提示をお願いします」
フィーナが懐から証明書を取り出し、恭しく差し出す。
「巡回治癒士のフィーナです」
「――ああ、フィーナ殿でしたか。そちらの方はお連れでしょうか?」
「はい。来月の聖歌コンクールに演奏隊として参加される音楽家の方です」
「ほう、それはご苦労様です。では、その大きな荷物は楽器ですかな? 中を確認させていただいても?」
「もちろんです。ご確認ください」
俺たちはできるだけ自然に、そして慎重に、トランペットケースを開けた。
「ふむ……これはよく磨かれておりますな。しかし、楽器にしては微かに魔力を感じますが?」
フィーナがすぐさま応じる。
「この楽器は、聖なる祝福を受けた金属で作られているのです。その加護の余波かと」
「なるほど。なるほど……聖都の催しともなれば、それほどの気合も必要ですな。応援しておりますぞ」
穏やかな笑みとともに、聖剣士は道を開けてくれた。
俺たちは軽く頭を下げ、静かに聖都への門をくぐった。
聖都の街並みは、どこまでも整然としていた。
建物のほとんどが白を基調とし、青いラインが端正に施されている。まるで一つの意匠に統一されたかのようだった。
(すごい……東方や独立商業区とはまるで違う。整いすぎてて、かえって迷わなそうだな)
「フィーナ、聖都って立派だけど……いつもこんなに静かなのか?」
「ええ、基本的に、目的もなく外を歩く人はいないから」
「礼拝とか、買い出しのときくらいね」
「へえ……それってみんな自主的に? 不思議な感じだなあ」
「わたしからすれば、アル・プラドのあの雑踏の方がびっくりだったわよ?」
「はは、所変われば、ってやつだな」
「それで、《ユニオングリーヴ》って、あの真ん中の大聖堂にあるんだっけ?」
「ええ、その《ユニオングリーヴ》かどうかは分からないけど……教会が代々奉っている、聖なる足鎧がそこにあるわ」
「ふーん、どんな言い伝えがあるの?」
「聖剣技の始祖・アイリス様が使ったとか、教会の設立者――聖剣士ヨハン様が持ち込んだとか。いろいろよ」
「……ヨハンが関わってるなら、本物の可能性が高いな」
そのとき、ユニオンソードから小さな声が頭の中に響く。
『私は、聖光謙教会の設立には関わってないぞ』
「……えっ、そうなの!?」
『私は封印戦で死んでいる。まあ、後の同門の仲間たちが祀り上げてくれたんだろうな』
――衝撃の事実を聞いてしまった。
フィーナには……黙っておこう。
「ん? ユーマ、どうしたの? 変な顔して。早く大聖堂に行きましょ」
「あ、うん……いや、街並みに見とれてただけ。大聖堂、行こうか!」
ぎこちない笑顔を浮かべながら、俺はフィーナと並んで歩き出す。
大聖堂の入り口には聖剣士たちが控えていたが、礼拝者が多いからか、それともフィーナのおかげか、特に咎められることもなく中へと通された。
「外は白一色だったのに、中は……金だらけですごいな」
「ユーマ、宝物殿はこっちよ!」
「あ、ああ、今行く」
案内された宝物殿には、教会が誇るさまざまな聖遺物が並べられていた。
ヨハンの聖剣(※多分レプリカ)、聖女の衣(※たぶん偽物)……そんな品々を通り過ぎて、視線が自然と吸い寄せられた。
一際立派な装飾ケース。その中に納められていたのは、白銀に輝く、神々しいほどの足鎧だった。
一目で、これだけは本物だと分かった。
ほかの展示品とは、漂わせる「気」がまるで違う。
――小型化して装着していた《ユニオンアーム》が、わずかに震える。
共鳴している。この鎧は間違いない。
「フィーナ、間違いない。これは《ユニオングリーヴ》だ」
「……やっぱり、そうなのね」
「問題は、どうやって持ち出すかだけど……。白昼堂々、盗むわけにもいかないしな」
「教会も、ユーマの話を素直に聞いてくれるとは思えないものね……」
フィーナと顔を見合わせ、どうするかを考えていたその時だった。
――突然、空間に迸る金色の光。
四方から伸びた黄金の鎖状の魔力が、俺の四肢を絡め取る!
「くっ、これは……一斉縛封ッ!」
バチン、と空気が鳴り、背後に気配が現れた。
振り向く間もなく、堂内に重い足音が響く。
――現れたのは、五人の聖剣士。
その瞳に浮かぶのは、怒りか、あるいは警戒か。
俺は完全に包囲されていた。
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