24話:再会
俺たちはプラド山脈を下り、西山港へと戻ってきた。
つい数日前に立ち寄ったばかりなのに、どこか懐かしく感じる。東方での出来事が、それほど濃密だったということだろう。
――感傷に浸ってる場合じゃない。今はカンナを探さないと。
港の入り口を抜けてしばらく進むと、すぐに海刃丸の帆先が見えた。あの特徴的な剣のような帆先、漆黒の船体、そして小さく動き回る人影。
「おーい! カンナ! ちょっといいかな!」
俺が声をかけると、甲板の上からぴょこんと顔を出したのは、いつも通りの快活なカンナだった。
「ん? ユーマじゃないか! またあたしに会いに来たのかい?」
陽気な口調で手を振ると、彼女はすぐに跳ねるように飛び降りてきた。そして、俺の隣に立つティアを見てニヤリと笑う。
「あれあれ? リュウガのおっさんがいつの間にこんな美人に変身したのかと思ったら……そっちの趣味に目覚めたとか?」
「いやいや、全然ちが――」
「私はティア。氷の魔剣士。ユーマとは剣を共にする旅の仲間よ」
俺の言葉を遮るように、ティアがさらりと自己紹介を挟む。その声は、どこか――いや、明らかに冷たい。
「ふうん、そうなんだ~。……ねぇユーマ、あんた、女の子の扱いにはもう少し気をつけたほうがいいよ?」
カンナは楽しそうにくすくす笑う。
俺は頭をかきながら、肩をすくめた。
「ほんと、そういうんじゃないんだ。ただの仲間なんだよ」
「ええ、“ただの仲間”よ。ね、ユーマ?」
ティアは微笑みすら見せずにそう言った。口調は変わらず冷ややかだ。
――なぜか知らないが、俺は少しだけ汗をかいていた。
「まあ、いいや。あたしに会いに来たってことは、どこかに乗せてってほしいんだろ? また淵平城かい?」
カンナが軽口を叩きながら聞いてくる。
「あ、いや……今回は聖都に行きたい。海側から」
「――はあっ!? 聖都? ってことは……密入国する気!?」
カンナの顔が一気に真面目になる。俺は少し気まずそうに頷いた。
「うん……まあ、そうなるかな」
「ちょっとあんたねぇ、東方から聖都に行く航路なんて確立されてないんだよ? 中央大陸の南東にある独立商業区までは定期航路があるけど、そこから先は完全に帝国の領海。下手に入ったら即撃たれる可能性もあるし、聖都の周りは聖光謙教会の巡視艇がうろついてるってのに」
カンナの言葉に、ティアも緊張した面持ちで口を挟んだ。
「……やっぱり無謀だったかしら」
だがカンナは大きく息を吸って、胸を張った。
「――けどまあ、いいや! 化け蟹様にだって挑んだカンナ様が、これくらいのことでビビって仲間を助けないなんてこと、あるわけないでしょ!」
彼女の笑顔は太陽のように明るく、俺とティアは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「ありがとう、カンナ。本当に助かるよ」
「ただし覚悟はしておいてね。海刃丸といえど、聖都まではかなりの長旅になる。食糧や水の準備も必要だし、天候や巡視のリスクもある。嵐にでも遭えば……命がけになるよ」
「わかってる。それでも俺は行かないといけない。あそこに……ユニオンフレームのひとつがあるんだ」
俺が真剣な声で言うと、カンナは一拍置いてから頷いた。
「じゃあ、準備が整い次第出航だ。命張る旅なんだから、ちゃんと気合い入れておけよ!」
「話はまとまったみたいね」
甲板の縁にもたれながら、ティアがふっと微笑んだ。
「ユーマ、提案があるの。私は独立商業区で降ろしてもらうわ」
「え? なんで……」
俺は驚いて彼女を見る。だが、ティアの瞳はまっすぐだった。
「聖都って場所は、聖剣士以外の剣を“邪剣”として排斥してる。魔剣士なんてもってのほかよ。そんなところに魔剣士二人で入ったら……すぐに目をつけられるわ」
「でも、それでも一緒に――」
「それだけじゃないの。私は、ずっと考えてたの。風の渓谷であの幻影を前に何もできなかったこと、あなたの《蒼焔爆風》に自分の《凍絶盾》が砕かれたこと――悔しかった。でもね、あのとき確信したの」
ティアは真剣な表情で言葉を続けた。
「私には、風の剣術の才能はなかった。でも、大地の剣術なら……氷と近い“静”の力。きっと自分の限界を超えるヒントがあると思う。だから私は、大地の里を目指すわ」
その瞳に、迷いはなかった。
「……そうか。わかった」
俺は静かに頷いた。
「ティアがそう決めたなら、応援するよ。俺は聖都でユニオングリーヴを手に入れる。だからまた、どこかで」
「ええ、また必ず」
ティアがそっと微笑む。ほんの少し寂しげだったが、凛とした芯の強さがあった。
「カンナ、独立商業区でティアを降ろしてあげられるか?」
「そっちはお安い御用さ!」
カンナがいつもの調子で元気よく笑った。
「独立商業区までは通常航路だから、帝国の目をかいくぐる必要もないしね。あたしに任せときな!」
「じゃあ、長旅に備えて荷物の積み込みをするかね!」
カンナが腕をまくりながら笑う。
「ああ、その……言いにくいんだけど、カンナ。その、お金の持ち合わせがちょっと……」
言いながら、俺は気まずく視線を逸らした。
「ユーマ……」
ティアがポーチに手を伸ばしかける。
「私が払うわよ」
「いやいやいや!ちょっと待った!」
カンナが大きく手を振って言った。
「仲間からお金なんて取らないよ!それに今回は独立商業区にも寄るんだろ?ちょうど積み荷運びの依頼もあるし、ついでってやつさ!」
力強く言い切るカンナの顔は、どこまでも頼もしかった。
「カンナ……本当にありがとう」
俺は素直に頭を下げた。
「ふん、照れるねえ。まあ、その代わりってわけじゃないけど、ちょっと積み込みくらいは手伝ってもらうよ?」
「もちろん!」
「当然でしょ」
ティアもすでに縄を手に取っていた。
こうして俺たちは、海刃丸の積み荷を運びながら、再び旅路へと足を踏み出した。
港町・西山港を背に、聖都を目指す新たな航海が、静かに幕を開ける――。
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