19話:氷の剣士
プラド山脈北部――それは南部よりもさらに険しく、人の手が加えられていない、まさに未踏の地だった。
俺はユニオンソードに宿る記憶を頼りに、《風の渓谷》を目指していた。道らしい道もなく、獣道を頼りに崖を越え、茂みを掻き分けて進む。
そんなとき――風音に交じって、金属がぶつかり合う剣戟の音が耳に届いた。
「……誰かが戦ってる?」
俺は音のする方へ駆ける。木々を抜けた先、開けた窪地で、一人の少女剣士が魔剣狩りたちに囲まれていた。
中央に立つ少女――ティアは、凛とした視線を敵に向けていた。刃を構えた男たちは五人。全員が黒ずくめの装束に、魔導兵装を腰に下げている。
「なぁ嬢ちゃん、その剣……氷の魔剣じゃねえか?」
「渡してもらおうか。凍らせる前にな」
男たちの挑発に、ティアはただ静かに息を吐く。
「なら――凍えて眠れ」
バシュンッ!
一瞬、彼女の姿がかき消えた。次の瞬間には、最前列の男の胸に、鋭い突きが突き刺さっていた。
「ぐっ……!」
凍気が瞬く間に男の身体を包み、氷の像と化す――これが氷の刺突《氷晶突き》。
「やりやがったな!」
残った四人が一斉に斬りかかるが――
ガキィン!
「なっ、氷の壁⁉」
ティアの足元から立ち上がった《氷晶壁》が斬撃を受け止め、隙を突いて彼女は次の男の肩を貫いた。
「防御と刺突……これが氷の剣術か!」
俺は刀を抜き、炎を纏わせながら駆け込む。
「援護する!《爆炎斬》!」
爆風とともに、一人を吹き飛ばす。ティアがちらりと俺を見て、わずかに頷いた。
俺が前衛を引きつけ、ティアが側面から確実に仕留める。炎と氷、相反する属性だが、呼吸は合っていた。
「こいつら、連携してやがる!」
「逃がすか!」
俺は最後の一人に蹴りを叩き込み、吹き飛ばす。背後の氷壁に叩きつけられた男は、そのまま動かなくなった。
――静寂が戻る。
「ふぅ……助かった」
ティアは刀を納め、俺の方に向き直る。
「君が来なければ、少し厄介だった」
「こっちこそ驚かされたよ。あの盾と刺突の連携、すごいな」
「あなたも、炎の纏い方が尋常じゃなかった。……普通の剣士じゃないわね」
自然に言葉が交わされる。俺たちは互いの素性を語り合うことにした。
風が通る岩陰で、俺たちはしばし休息を取っていた。
「私はティア。氷の魔剣を受け継ぐ家に生まれた。けれど……師だった人は、帝国の魔導技師――レイノスに敗れて、魔剣を砕かれた。今の私では、彼に届かない。だから力を求めて、この地に来たの」
ティアの声には静かな怒りと悲しみが宿っていた。
「レイノスに……俺も、奴にやられてる」
俺は無意識に拳を握っていた。
「君も?」
「ああ。俺はユーマ。背負ってるのは《ユニオンソード》っていう剣だ」
「ユニオンソード……?」
首を傾げるティアに、俺は剣を見せた。赤黒い刀身に、白く脈打つ光が宿る。
「これは、過去の剣士たちの記憶と技が宿っている剣なんだ。持つ者に、それらの剣術が流れ込んでくる。……けど、それでもレイノスには勝てなかった」
「……まるで、生きてるみたい」
ティアの目が、ユニオンソードに吸い寄せられるように光る。
「今、俺は風と炎の剣術を融合させて、新しい力を得ようとしてる。《風の渓谷》なら、その答えがある気がするんだ」
ティアはしばらく黙ってから、空を仰いだ。
「私も同じ。氷の技だけでは限界がある。でも、あの渓谷なら……何かが掴める。そう信じてここまで来たの」
胸の奥が熱くなる。同じ過去を持ち、同じ敵を見据え、同じ場所を目指している――
「だったら、一緒に行こう。俺たちが進む先は、同じだろ?」
ティアはわずかに驚いた顔をしたが、すぐに真っ直ぐ頷いた。
「……分かった。共に風を掴みに行こう、ユーマ」
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