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17話:大地剣術

「おいユーマ、化け蟹様との戦いで刀、砕けちまってただろ。俺のを使え!」


「え? おじさん、いいの?」


「いいも悪いも、それしか刀がねえだろうが。壊しても構わん、ディランに後で直させりゃ済む!」


 そう言って、おじさんは腰から刀を抜いて俺に投げた。


 手にした瞬間わかる。お古の刀とは比べ物にならない、重みと精度。鍛え抜かれた鉄が、俺の魔力の流れにすっと馴染んでくる。


「それと――ユニオンソードは預かっとくぞ。背負ってるだけでも、お前をアシストしてるっぽいからな、あれ」


「……了解。お願いします」


 俺はユニオンソードをおじさんに渡し、深く息を吐いてから、ゆっくりとディランの前に向き直った。


 大地剣士ディランは既に構えていた。まるで岩壁のように動かないその姿から、凄まじい圧が伝わってくる。


「お待たせしました。いつでもいけます!」


「そうか――では遠慮なくいかせてもらうぞ」


 次の瞬間、地を裂くような音と共に、ディランの大剣が俺に迫ってきた!


キィンッ!


 金属の悲鳴と共に、ディランの大剣の一撃を受け止めた。その衝撃はまるで、巨大な岩塊がぶつかってきたかのような重量感。


 ――でも!


「化け蟹様のハサミよりは、軽い!」


 渾身の力で大剣を撥ね退けると、即座に刀に炎を纏わせる。魔力を限界まで高め、一気に振り抜いた!


「爆炎斬ッ!!」


 ドゴォォォンッ!!


 轟音と共に爆風が吹き荒れる。しかし、煙の中から現れたのは――


「っ……!」


 巨大な岩壁。まるで自然の要塞のように、ディランの前に聳え立っていた。


「大地剣術は攻防一体。……まあ、これは氷剣術の『氷晶壁』の模倣だがな」


 壁を払うようにしてディランが一歩前に出る。


「お前の戦い方、だいたいわかった。……なら今度は、大地剣術“らしい”戦いをさせてもらうぞ」


 ディランの手がふわりと空をなぞった瞬間――


 シュッ! シュシュシュシュシュシュッ!


 空中に、7本の剣が次々と出現した。それぞれの刀身が異なり、岩石・金属・鉱晶のような材質で輝いている。


「高速錬成術。複数の剣を生成し、同時に操る技だ。……捌ききれるか?」


 7本の魔剣が一斉に飛びかかってくる!


「くっ……!」


 襲いかかる刃を読み、魔力を刀に集中して受け流す。人が振るう剣よりも軌道は単純――なら、見切れる!


 しかし――


「剣を操っていても、俺自身は止まっていないぞ?」


「――ッ!?」


 その声が聞こえた瞬間、視界の隅にディランの姿。


 ドスッ!


「が……あっ!」


 脇腹に重い衝撃。次の瞬間、俺の身体は地面を転がっていた。


 7本の飛剣に気を取られていた一瞬の隙。ディラン本体が懐に入り、容赦なく叩き込んできた。


 ――これが、大地剣術か。


 剣そのものだけじゃない。地に足をつけた動き、硬軟織り交ぜた攻防、そして全方位からの圧。


「7本の剣と本体のコンビネーション……これは、厄介すぎる……」


 土の感触が背中に広がる。だが、立ち上がらなければならない。


 ここを越えなければ、俺は“次”に進めない。


「おじさんの刀……跡形も残らないかもしれないな……」


 唇を噛む。ディランは、間違いなく強い。今のままじゃ追いつけない。なら――使うしかない。


 俺は刀に魔力を集中し、その炎を極限まで高めていく。


 ゴォォ……


 赤熱した刀身が、やがて蒼く変化していく。蒼炎――高濃度の魔力が生み出す、限界の炎。


「おいおい……ユーマのやつ、《蒼焔剣》を使う気か……! あの刀、もたねえぞ……一度限りだ!」

 リュウガの焦り混じりの声が響く。


「……っていうか、あれディラン吹っ飛ばすつもりだろ……!」


「うおおおおおッ!!」


 爆発的な咆哮と共に、俺は蒼焔を纏った刀を振るう!


 ――バギィン!!


 迫りくる飛剣たちを、一撃で粉砕する。まるで氷を割るように、蒼い炎が次々と剣を灼き砕いていく!


「こ、これは……!」

 ディランの目が見開かれる。


「炎剣術の……究極奥義かッ!!」


 接近していたディランが、思わず大きく距離を取る。動揺ではない――戦術的撤退だ。


「ユーマ!お前の実力、もう十分にわかった!」


「え……終わりですか!?」


 刀を構えたまま、俺は息を整える。


 蒼焔の出力は限界を越えている。このままでは本当に、刀ごと燃え尽きる――


「剣を納めてくれ!そのままじゃ俺が死ぬ!!」

 ディランが真顔で叫んだ。


 俺は咄嗟に魔力を断ち、蒼焔剣を解除する。


 刀身がひび割れ、パキンと乾いた音を立てて砕け落ちた。


「お前がどうして俺に“刀を打ってほしい”と言ったか……今ので、よく分かった」


 ディランの声には、戦士としての敬意が滲んでいた。


「その剣……その炎……ただの武器じゃ足りねえってことだな。お前に必要なのは――お前自身の“魔剣”だ」


俺たちはディランに促され、彼の家──というよりは、まるで神殿のように静謐な雰囲気をたたえた建物へと案内された。


「さて、これから“魔剣”を創るわけだが……ユーマ、お前、大地剣術の知識はあるな?」


「あ、はい。ユニオンソードから流れ込んできた知識で……基本は理解してます」


 ディランは頷く。


「なら話は早い。お前のための魔剣だ。素体はお前が錬成しろ。俺がそれを“仕上げる”」


「え、でも……俺、大地剣術を実際に使ったことがなくて……」


「関係ない。今は不細工でもいい。大事なのは、お前が自分の手で形にすることだ」


 ディランの目は真剣だった。


「……それにな。お前はいずれ、全ての剣術を使いこなさなきゃならなくなる。大地剣術も、その一つだ」


 その言葉は重かった。未来を予見しているような……そんな予感があった。


「……わ、わかりました。やってみます!」


 俺はさっきの戦いでディランが見せた“錬成”を思い出す。


 呼吸を整え、目を閉じて魔力を練る。


 イメージするのは、俺だけの剣──


 シュウウウ…… 


 空間が歪み、魔力が収束する。


 目の前に、一振りの刀が姿を現した。


 だが、それは……無骨で、歪で、どこか頼りない。


「……うん。不格好だな」


 ディランが手に取る。


「だが初めてにしちゃ上出来だ。これは“創りたい”という意志が形になったものだ。お前の魂の輪郭が、ここにある」


「……魂の輪郭?」


「忘れるな。剣を鍛えるのではない。鍛えるのは“意志”だ。大地剣術は、それを形にするだけだ」


 ディランは刀を両手で掲げると、目を閉じて精神を集中させた。


「よく見ておけ、ユーマ。これは、いずれお前自身が辿る道だ」


 彼の周囲に、粒子のような魔力が舞い始める。


 ──カン……カン…… 


 何かを打つ音が響いた。だが金槌などは持っていない。ただ、彼の意思と魔力が、刀に“触れている”だけだ。


 次の瞬間。


 空間から様々な鉱石や素材が呼び出され、音もなく分解・再構築されていく。


 それらは淡い光の糸となって、俺の不格好な刀に吸い込まれるように統合されていく。


「……すげえ……」


 その光景に、俺もカンナも息を呑んでいた。


 研ぎ澄まされる刀身。歪だった形が収まり、代わりに現れたのは淡い緋色の光沢をまとった美しい刀だった。


「これは……」


「まだ途中だ。最後の仕上げは、素材でも技術でもない。“意志”だ」


 ディランが目を開き、俺を見据えた。


「お前は、この刀に何を託す? それが“魔剣の核”となる」


「……俺は、災厄からみんなを守りたい。

 そして、災厄を倒せる強さに到達するまでの、相棒が欲しいんだ」


 俺は拳を握りしめて、ディランさんをまっすぐに見据えて言った。


 迷いはなかった。心の奥底から湧き上がる想い。それだけが、目の前の刀に命を与える鍵だ。


 ディランは静かに頷いた。


「――そうか。いい決意だ」


 彼は淡く光る刀身を手に取り、言葉を紡ぐ。


「この刀は、炎を得意とするお前と、大地剣術の合作だ。

 名を――《大地の炎刀えんとう》としよう」


「……《大地の炎刀》」


 その響きは、不思議と胸に染み込んでくる。


 俺の想いが込められた刀。これからの戦いを共に進むための、たった一つの武器。


「――ほら、できたぞ。受け取れ」


 ディランが刀を差し出す。


 緋色の光沢を帯びた美しい刀。炎のように脈動し、まるで生きているかのようだ。


 俺は両手でそれをしっかりと受け取った。


「……これが、俺の相棒か」


 そっと刀身を撫でながら、俺は静かに言葉を紡ぐ。


「――よろしく頼む」


 こうして俺は、東方に来た目的――自分だけの刀を手に入れるという願いを果たした。


 だが、これは終わりではない。

 ここからが、始まりだ。

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