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12話:襲撃

 俺が故郷に戻ってから、すでに数ヶ月が経った。


 剣の稽古を重ねたことで、体は以前とは比べ物にならないほど逞しくなり、魔力制御の鍛錬によって、今では〈爆炎斬〉を十発ほど放ってもほとんど疲れを感じない。


「ユーマ、そろそろその辺の枝で炎纏い、できるようになったか?」


 おじさんが様子を見にやってきた。枝での炎纏いは、魔力制御の修練として欠かせない課題の一つだ。


 乾いた木の枝に炎を纏わせつつ、それを一瞬で灰にしない――繊細な魔力のコントロールを身につけることが、炎剣技の究極奥義を扱うために必要不可欠なのだという。


「ああ、ちょっと見ててくれよ」


 俺は地面に落ちていた長めの枝を拾い上げ、魔力を指先に集中させる。次の瞬間、枝の表面に赤々とした炎がゆらめき始めた。


 昔は一瞬で炭と化していたこの枝も、今では赤熱したまま穏やかにその形を保っている。


「おお……やるじゃねぇか。やっぱ呑み込みが早いな。もう〈蒼焔剣〉を扱えるかもしれねえな。……耐えられる剣がユニオンソードしかないのが難点だけどよ」


「おじさんさ、修行中はユニオンソード使うなって言うけど……そろそろいいんじゃないの?」


 俺がそう尋ねると、おじさんは眉をひそめて首を横に振った。


「ああ、ダメだ。ユニオンソードはお前が気づかなくても勝手に補助してくる。今のお前には甘えになるだけだ」


 そう言ってから、おじさんは声を潜めて続けた。


「それにな、あの剣で魔力波なんか出してみろ。レイノスがすっ飛んできかねんぞ」


「……やっぱり」


「今のお前じゃ、はっきり言って奴には勝てねえ。だから今は黙って炎剣術をしっかり身につけろ。それまでは――」


 おじさんは作業台の奥から一本の剣を持ってきて、俺の前に差し出した。


「――これを使え。俺のお古だがな、重さもクセも、お前の今の腕にはちょうどいい」


 東方様式の片刃刀を手に取った瞬間、ふと空気の密度が変わった気がした。


「ユーマ注意しろ。」


 おじさんの声が低く響く。冗談ではないとすぐにわかった。俺は刀を握り、身構える。


 木立の先、村の方角から金属の軋む音がいくつも重なって聞こえてきた。


 ――ギギィ、ジャリ……バチッ、バチチッ!


 霧の中から現れたのは、帝国兵とは明らかに違う、重装の兵士たち。漆黒の全身魔導鎧マギア・フレームをまとい、両手には青白い雷光を纏った軍用兵装プラズマジャベリンを装備している。


 「……帝国の魔剣狩り部隊か」


 おじさんの声には、怒気とも焦燥ともつかぬ気配があった。


 「……まずい、完全に追跡されてたってことか」


 俺は思わず背中のユニオンソードに手を伸ばしかけたが、おじさんの鋭い視線がそれを制した。

 

 「使うな、まだ時期じゃねえ。だが……逃げる準備はしておけ。村を巻き込みたくねぇ」


 その時、先頭の兵士が兜のスピーカーを通して響く声で告げた。


 「指名手配犯、ユーマ。帝国法に基づき、魔剣所持の罪により拘束する。抵抗は不要だ。引き渡せば村への処分は最小限にとどめる」


 ――最小限?


 その言葉に、背筋が凍る思いがした。


 「ユーマ、選べ。ここで戦うか、村を守るかだ」


 おじさんの声が重く、静かに響く。


「おじさん、戦おう。ユニオンソードは渡すわけにはいかないし、村に迷惑はかけたくない」


「……そう言うと思ったぜ。だが出力は上げすぎるなよ。お前が持ってるその刀じゃ、長くは保たねえ」


 おじさんの忠告を心に留め、俺は東方刀を構えて炎纏いを展開する。刀身が赤熱し、うっすらと紅蓮の揺らめきがまとわりつく。


「――ほぉ、抵抗するか。まあそのほうが、こちらとしても楽しめる」


 スピーカー越しの声は歪んだ愉悦に満ちていた。


 帝国の魔剣狩りたちは一斉に散開し、円陣を描くように俺たちを包囲する。その数、六人。どの鎧も黒光りし、雷光をまとった《プラズマジャベリン》が静かに唸っていた。


 足元に電光が走る。空気が乾き、髪の先が逆立つ。


 ――緊張感が、刃のように張りつめる。


 まず動いたのは――魔剣狩りたちだった。

 全員が一斉に、プラズマジャベリンを雷撃モードで構える。


 「バリィッ――バシュゥッ!」


 空気が焼ける音とともに、無数の雷槍が火花を散らして飛来する!


 俺は即座に反応し、炎を纏った刀を振るう。

 炸裂するような軌道で雷撃をはじき落とし、背後の木々が蒸気とともに煙を上げる。


 ちら、と視線を横に送る。

 おじさんも、同じように炎の刀で雷槍を叩き落としていた。年季の違いを感じさせる余裕すらある動きだ。


 「……次は、こっちの番だ!」


 俺は脚に力を込め、まっすぐ目の前の魔剣狩りへと斬りかかる。

 狩り兵はジャベリンを瞬時に近接モードに変形、雷光をまとった刃が俺の刀と衝突した!


 キィン――!

 火花が散る。力負けしないように、炎纏いの出力を一段階上げる。


 「うおおおっ!」


 赤熱した刃が雷光を断ち割り、ジャベリンが真っ二つに折れる。


 だが――!


 「っち!」


 背後から二人目が迫る!

 刃が来る直前、俺は咄嗟に身をひねってかわし、その勢いのまま振り返りざまに斬り上げる。


 ザシュッ!


 二人目のプラズマジャベリンも、斜めに断ち切られた。


 ズドォォン!


 後方から地鳴りのような轟音が響いた。思わず振り返ると――

 おじさんの前方で、爆風に吹き飛ばされた魔剣狩りが転がっていた。


 「パーソナルウォールなんざ、炎剣術じゃ紙同然だっての!」


 そう叫んだおじさんの周囲では、標準装備の魔導盾ごと、兵士たちが薙ぎ倒されていく。

 爆炎斬――。あれが、炎剣士としてのおじさんの本気の一端か。


 「あはは……おじさん、すごすぎ……」


 俺は思わず苦笑する。

 自分も少しはやれるようになったと思っていたけど、やっぱり格が違う。


 ――だが、目の前の敵はもういない。


 倒した魔剣狩りたちは武装を解除し、動けないように縛り上げた。

 敵とはいえ、無駄な殺しはしない。それが、おじさんのやり方だ。


「ユーマ!東方に行くぞ!」


 おじさんの言葉に、俺は目を瞬いた。


「突然だね……まあ、もう村にはいられないのは分かってたけど」


 目の前の現実――村がもう安全じゃないこと。その実感が、俺の胸にずしりとのしかかる。


「さっきの戦いを見てたがな、お前の実力、もう俺とそう変わらん」


「……えっ? それは言いすぎじゃ……」


「いや、ユニオンソードを使ってれば、あの連中は瞬殺だっただろう? でも今は使えねえ。分かるな?」


 おじさんの表情が険しくなる。


「レイノスの《ステイシス・シールド》は、炎剣術だけじゃ絶対に破れない。つまり――他の剣術の真髄を身につける必要がある」


 他の剣術……融合させて、ユニオンソードを完成に近づけるために。


「でもその前に、お前には《ユニオンソード》なしでもまともに戦える力が必要だ。自分の武器がな」


「……だから、新しい刀を?」


 俺の問いに、おじさんはにやりと笑った。


「そうだ。東方に、俺の知り合いの腕のいい鍛冶屋がいる。そいつに、お前専用の刀を作らせる」


 風が吹き抜け、焦げた木の匂いがわずかに残る集落を見渡す。


「それに東方は、帝国の監視網が届きにくい。しばらくは身を隠すにも都合がいい」


「……わかった。行こう、東方へ」


 俺は背中のユニオンソードをぎゅっと握り、頷いた。

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