木曜探偵団結成!
時計の針の短い方が9と10の間を指している。そろそろ約束の時間だ。夏休みの宿題はだいたい3割ほど…まだまだ先は長そうだ。さぁそろそろ集合場所に向かわねばと立ち上がると、詰んであった宿題に手が当たったのか雪崩が起きてしまった。やってしまったと思いながら屈んだ瞬間、頭にとんでもない衝撃をくらった。「イテッ」なんて声も出ないほどの痛みに頭を抱えてうずくまる。隣でバサッという音を立てて何かが落ちてきた。落ちてきたそれを手に取ると、表紙に大きく猫が描かれている手帳だった。表紙の猫に一目惚れして買ってしまい、使うのも嫌で上の方の棚に飾っていたはずだ。なぜ硬い素材でも無いのに痛いのかと思ったら…なるほど、道理で痛いわけだ。今日はついてないなと思いながら手帳をパラパラとめくってみる。中にも沢山の猫が描かれているが、何も書かれていないせいで寂しさの方が際立っていた。せっかくなら使ってみるかとペンを取って最初のページに今日の日付を書いてみた。紙の上の猫が少し、笑った気がした。
その後何とか宿題を積み直し親に「行ってきまーす」と声をかけドアノブを握った。スマホに表示された最高気温35度という信じられない数字がこちらを嘲笑っている。深呼吸をしたあと、勢いよく玄関のドアを開けたとたん、一気に蒸し暑い熱気が襲いかかってくる。今、私はこの家に感謝していた。こんな地獄のような熱気を家に入らないようにしてくれている、しかも集合場所である葵ちゃんの家はこの家から公園をひとつ挟んだ向こうだ。これより遠ければきっと諦めていた。自分にたった数メートルの我慢だと言い聞かせて外へ飛び出す。もちろん日焼け止めを塗り、日傘をさし、さらに小型ファンという徹底装備をしている。早歩きをしながら向かう途中、道路を挟んだ向こう側にある九幡神社という神社の前で警察官の様な二人組と竹箒を持ったおじいさんが何か話している。あのおじいさんは確か…九幡神社の神主さんだったはず、名前はど忘れしてしまったので思い出せそうにない。家の前の道路は結構大きいので向こう側にいる3人が何を話しているのかは全く聞こえなかった。でも予想はつく。十中八九あの殺人事件の事だろう。本当に起きてたんだと改めて感じながら、すでに目の前にある葵ちゃんの家のインターホンを鳴らした。数分経っても反応がないのでかの有名な雪の映画の様に扉を直接叩いてみようとした、と同時に扉が開く。いったい何をすればこんなに不運が重なるんだ…「いらっしゃい、ゆっちゃ…大丈夫!?」
「大丈夫じゃないよ…だいぶ痛いよ…」
「ごめん!取り敢えず冷やす?」
「そうする」
あいかわらず葵ちゃんの家は綺麗だ。リビングの方から飼い犬のトイプードルがてこてこ歩いてくる。かわいい。
「あれ?四津はまだ来てないんだ」
「そうなんだよ〜」
隣の家なのに。まぁ、どうせ寝坊なんだろうけど。先に階段を昇る葵ちゃんに「先に遊んでる?」と聞く。すると何かを思い出したかのようにあっと言ったあと「それなんだけど…」と、飛び出したのは思いも寄らない提案だった。
「まずい、寝坊した…」まぁ2時間なら起きれるだろとたかをくくって昼寝したのがいけなかったのか、昨日夜遅くまでプラモを組み立ててたのがいけなかったのか、なにはともあれとてもまずい状況だ。三山が怒るとどうなるかわからないし、二畑には確定でアイスを奢らされる。つまり財布が未曽有の危機にさらされている訳だ。とにかく急げと速攻で身支度をして家を出る。まだ間に合うはずだと淡い期待を胸にして。
遊びだしてからすでに約10分ほど経過している。ちなみに遊んでいるのは四角だらけのあのゲームだ。四津は今だ来ず、少しずつ心配が大きくなる、のも次の瞬間には塵と消えたが。「ごめーん、寝坊した!」玄関先でそう口にしたこいつ、四津 朔は髪型がマッシュルームヘアーというやつのようになっていて、えのきみたいな体型をしている。頭が良いし運動も出来るのに気弱なので葵ちゃんの尻に敷かれている。なんか可哀想なやつだ。
「な〜んだ、生きてたのか〜」
「葵ちゃんちょっと怒ってる?」
「ぜんぜん?」
そう言う葵ちゃんの目はまったく笑っていない。これは絶対怒ってる。四津も同じように感じたのか「ほんとごめん!アイス!アイスおごるから許して!」と、必死に謝っている。それに葵ちゃんはそれならしかたないな〜と満面の笑みで返していた。「それにしてもまさか寝坊するとはな〜。昨日の夜のパトカーのせいだな、これは」「パトカー!?もしかしてそれってアパートの方?」今日の葵ちゃんはいつもよりテンションが高い気がする…「確かにアパートの方に行ったとは思うけど、どうした?」「ナイスだよ四津!たまには役に立つね!」と言って四津の肩を思いっ切り叩くと葵ちゃんは机に置いてあるノートに何かを書き始めた。
「何書いてるの?」
「時系列だよ」
「なるほど。時系列は大事だよね」
「時系列?なんの?」
そういえば四津にはまだ話していなかったんだった。何も知らない四津に葵ちゃんが説明している間、私も持ってきた手帳に葵ちゃんの書いた時系列を書き写す。字、綺麗だなー。
「最近ずっとゲームしてるでしょ?だから今日はいつもと違うことしよってことだよ」
「ホラーゲームすんの?」
「それもゲームでしょ」
こいつは察しが悪いなー。
「朝のニュース見てないの?」
「そりゃ見たよ。あんなの見てない人の方が少ないだろ」
「で、ニュースでやってたでしょ?殺人事件の話」
「こんな街でも起きるんだなーって朝飯食べながら見てたよ」
二人とも同じような事言うんだなーとふと思った。やっぱり付き合いが長いだけあるのかな。
「なら分かるでしょ!」
「いや分からないって!」
「しかたない。説明してあげてゆっちゃん!」
「えっ、この流れで回ってくるの?」
唐突な指名に驚きつつ答えを教える。
「えっと、つまりめったにこんな事ないからこの殺人事件を私達で解決してやろう!ってことだよ。あってる?」
「そうゆう事!さすがゆっちゃん!」
褒めても何も出ませんよ……スッ(葵ちゃんに持ってきたチョコレート(一袋)を渡す音)
「なるほど〜。オーケー、、、よしっやろう!」
葵ちゃんは何を言っても止まらないとすでに知っている四津は少しの間考えた後、気持ちを入れ替えた様だった。
「よーし、じゃあ早速聞き込みから始めよう!」ノリノリな葵ちゃんが手を前に出す。何をしているんだろう。
「アレッやらないの?あの、エイエイオー!ってやつ」
なるほど。そういうことか。完全に理解した私が葵ちゃんの手の上に手を乗せると、四津も意図が分かったのかさらに手を乗せる。「よしっじゃあ…えっと、チーム名的なやつなんかない?」
「うーん…木曜に集まるから木曜会?」
「それはなんか別のやつになっちゃう」
「じゃあ、混沌の…」
「「却下で」」
「普通にくっつけただけだけど木曜探偵団とか?」
「もうそれでいいか」
「よしっそれで行こう!」
このまま続けていたら四津の悲しいネーミングセンスがさらされるだけだ。丸く収まって良かった…。
「じゃあ改めて…木曜探偵団、行くぞー!」
「「「エイエイッオー!!」」」
そうして二人は先に暑い暑い外へと飛び出した。あいかわらず速いな〜なんて思いながら、私も手に持ったペンを握りしめ、深呼吸をし、覚悟を決めて、外へと飛び出していったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
セリフのところの書き方を少し変えました。(僕自身、結構読みにくかったので)
四角だらけの某ゲームはリアルでよくやるんですが自由度が高くてなかなか楽しいです。この脱出ゲームもそのゲームで作ったものなんですよ(^^)




