【チラ裏】1〜142話の出来事まとめ
1話〜142話の流れ
・ヒナが義両親の元を離れ、エリンの屋敷に仕える為に訪れる
・エリンはヒナにこう告げる
「緊張しなくて大丈夫だよ、肩の力を抜いて。
君がここにいる間、君のことを本当の家族だと思って大切にするつもりだから──仲良くしよう。
よろしくね、ヒナ。」
・ヒナはご主人エリンの優しさに触れ、心を開くようになる
・夜の湖に出かけ、流れ星を見逃したヒナに
エリンはヒナの手を祈るポーズへ導き「こうやって、お祈りするんだよ」、
「願えば叶うと思うから…とりあえず小さな事でもいいからお祈りしてみたら?」と教える
エリンの魔法で流れ星のように見えた光にヒナは咄嗟に
(ご主人ともっと…近づきたい…!ご主人の恋人になれますように!)と祈ることで
今までの胸の高鳴りが恋だと自覚するようになる
『小説16話~18話:星に願いを、24話』
・遅い時間まで起きていたエリンが友人に手紙を出していたことを知るヒナ
どんな方なんですか?と聞くと
「大胆で、好奇心旺盛で、僕が思いつかないようなことをよく言ってくる人だったよ。
すごく知識が豊富で、一緒にいると振り回されるけど楽しいんだ」とエリンが答える
見た目は幼いが、エリンより年上でエルフ種だという
(注:悪魔とエルフの混血種だが、エリンのヒナを怖がらせまいと無意識的な気遣いがありエルフと紹介している。久しぶりに会う友人リオンは見た目も当時より大人びていた。)
『小説28話:エルフの友達?~』
・エリンとリオンの会話を聞いてしまったヒナは
初めて種族や魔力の譲渡などの知識を得る『小説32話:不穏~小説43話:譲渡の方法』
・エリンやリオンがずっと探していた、エリンの妹のミアをリオンが見つける
・リオンはヒナに眠ったままのミアを紹介する
「こんだけ種明かししたんだ、もうわかるよね?協力して欲しい。
できるなら一刻も早く天使として覚醒してエリンの妹を助けて欲しい。」
『小説49話:リオンの提案』
・魔力が枯渇し、意識がない彼女を救う為に天使の治癒能力を開花させる為
、エリンとリオンがヒナに魔力の譲渡を行う事になる。(リオン側の譲渡はエリンには秘密にしている)
『小説50話:魔力の誘導』
・ヒナはご主人への気持ちをずっと胸に秘めている。
もし今 自分の恋愛感情に気づかれたら「家族愛」を向けているのに魔力譲渡を行ってくれているエリンがきっと傷ついてしまうから。
「家族に手をかけ(注:魔力譲渡は基本的に性交渉。ヒナは誰とも血縁関係はない)
ヒナの気持ちを利用し、天使として搾取する」
それをかつてエリンが受けた奴隷としての扱いを思い出させ、加害者として強く自己嫌悪するだろうと思ったから、今はまだ気持ちを明かそうとはしていない。『小説53話:決意の夜~55話:絆の証』
・愛する主人エリンにより魔力が譲渡され、
満たされた幸福感と同時に胸に秘めた恋心の切なさ、2つの気持ちを抱えたヒナ
その翌日の夜、悪魔との契約を守るために湖へ行き
リオンの嗜虐心を満たすような魔力の譲渡が行われる
「悪魔の精液は天使にとって魔力吸収効率が悪いんだ。だから特別に、何度も注いであげる。
泣いて感謝してくれてもいいよ!オレが飽きるまでは可愛がってあげる」
『小説57話:揺れる湖畔の影~小説63話:涙の痕』
・酒を楽しむリオンの口から彼の過去の話を聞く
リオンは奴隷の天使と会ったことがある、最後には嚙み殺したが天使について色々話を聞きだした
死にかけのエリンを地下から引きずって部屋に持ち帰り、魔力譲渡をした
「オレ混血じゃん、エルフと悪魔の。うまく混血種が生まれるってのは、そうそうないんだよね。
魔族の王の父親と、奴隷として長く捕らえられてたエリンの母親…純血同士の血で生まれたのがオレ。」
「エリンやミアとは異父兄弟ってこと。」
「エリンやミアは異父兄弟だってこと知らないし、知る必要もない。
エリンはオレのことを恩人だって言うけど魔力が枯渇してたエリンに無理やり魔力も注いだしね」
(母の願いの為にもエリンの生命を優先し、異父兄弟であることを知りながらも
リオンは性行為による魔力譲渡を行った。
リオンはその行為に抵抗や葛藤があった為、エリンには兄弟であることを明かしていない)
『小説64:赤い夜のささやき~65話:真実の余韻』
・リオンやエリンの魔力譲渡による影響でヒナの背中に羽根が生え始める
『小説70話:熱~74話:天使の誕生』
・ヒナは天使としての急成長の代償と、天使の愛し合いたい本能に背き続け、魔力の消耗もあり、
精神的に不安定になる。
エリンへの気持ちをリオンに吐露するようになり、リオンの過去を知り、
天使の本能を受け止めてくれるリオンにヒナが やや依存気味になる。
『小説83話:溢れる告白~85話:揺れる心
91話:渇望する心と天使の本能~93話:優しい腕の中で
98話:本能に支配される夜~103話:天使の涙、
107話:揺れる心、眠る悪魔 108話:揺れる心と決意』
「天使は愛と魔力を強く求める生き物なんだよ。別に恥ずかしいことでも情けないことでもない。
むしろそれが本能だって自覚した方が楽になるだろ。
…オレだって悪魔だから血液を求めるしね。
その欲求が強い時に目の前の奴を噛みたい、
浴びるくらい血が飲みたい…って思ってたこともあった。」
(注:アリアを噛み殺し天使の血液の過剰摂取で正気を失っていた幼少期の話。)
『98話:本能に支配される夜』
「ヒナさ、うるさい。もっと割り切れよ。本能だって理解しろよ。
オレは自分のやりたいようにやる。いつもお前に構ってられない。過保護エリンじゃないからね。」
「手がかかりすぎる。思ったことは隠さなくていい、探り合いなんて無意味だから。
ヒナのいいところは素直なとこだろ?困ったらさっさと言え、いつまでも悩むな。」
「オレだったら言うけどね。相手がなんて思ってようが関係ない。
もし人を好きになったとして、それを言って、相手がどう言おうと関係ない。
欲しかったら絶対に手に入れるだけ。」
『99話:揺らぐ天使、揺るがぬ悪魔』
「同じことで悩むなよ。何度も言わせんな。」
「前も言ったけど、魔力の消耗が自然回復で間に合ってないから体調や精神に出る。
精神が不安定なのは天使としての急成長による代償と、天使の愛し合いたいって本能が満たされてないせいだろ。
その感情に蓋をするから暴発する。
湖でやった魔法と一緒だ、使い慣れてないからコントロールできない。
無駄に魔力を枯らすから倒れるし、枯渇した魔力や願望を本能的に埋めようとするんだよ。」
『103話:天使の涙』
・ピアノの音を聞いたリオンがエリンの元へ訪れ、
ヒナの魔力譲渡について話を切り出し、エリンと意見が食い違い対立する
リオン:「ふざけんな”過保護”。お前の魔力を譲渡しろ。
ちんたらやってないで魔力注いで治癒の練習だけさせろってずっと言ってるだろ」
エリン:「ヒナはミアを助けようって良心で動いてくれてる、純粋で努力家だ。僕たちはその事に感謝して、支えなきゃいけない立場だよ。絶対にヒナに無理はさせないで。」
エリン:「できない。魔力の譲渡方法は家族にするような行為じゃない。何度もヒナの気持ちを無視して傷つけるようなことはこれ以上したくない。」
リオン:「天使が魔力を回復する最高効率は”愛されること”だ。家族愛でも何でもいいけどヒナが努力するって決意したんだから応援したいなら きちんと支えろ」
リオン:「お前がヒナに魔力を注いでる時ヒナが嫌そうな顔してなかったこと、気づいてるんだろ?」
リオン:「お前の感情なんて考えてる暇ない。感情殺して効率考えろ、絶対にミアを死なせるな、間に合わせろ。じゃなきゃ探し出した意味がない。」
『小説87話:優しさと冷徹の狭間』
・ヒナが夢でミアに会ったことをエリンに話す
眠ったままの彼女のことは容姿しか知らないヒナだが夢の中での彼女の言葉に救われる
「ボクがご主人様から貰った種を植えて咲いたガーベラをミアさんが見ていたんです。」
「上品にスカートを少し持ち上げて、『はじめまして、ミアです』って可愛らしく頭をぺこっと下げて…すごく優しい笑顔だったんです。」
「本当のミアさんと話したこともないのに、不思議と懐かしい感じがしました。
なんていうか…すごくほっとするような微笑みで─」
「それで…ミアさんがボクに言ってくれたんです。
『焦らなくていいんです。
のんびりと、ゆっくりと向き合ったって間違いじゃないですよ。合ってる場合もたくさんあるんです。
自分をしっかり信じてあげてください。それが魔力の源になりますから──』」
「全部、ボクの都合のいい夢なんですけどね。
でも…その言葉にすごく救われた気がして…なんだか安心しちゃいました。」
「…ううん、ミアだと思うよ。
彼女らしい言葉だと思った。まるで本当にミアがヒナに語り掛けたみたいで…驚いたけどね。」
『小説94話:夢の中の微笑み、95話:ミアの微笑みと思い出の香り』
★魔法の練習をするヒナと見守り導くエリン
天使としての使命、自分の存在価値に悩み、
人の役に立ちたい気持ちが確かにあるのに魔法の成功に結び付いていないことに焦り、落ち込むヒナ
そんなヒナにエリンが言葉をかける
「焦らなくていいよ、ヒナ。成長は少しずつでいいんだ。
天使としての成長って、ただ魔法が上手くなることじゃないと思う。
何を大切にしたいのか、自分がどうしたいのかと知ること。それが本当の強さに繋がるんだ。」
「天使はね、本当は愛される以上に、愛を与える存在なんだと思う。
人を癒して、導いて、そうすることで自分も救われる…そんな種族なんじゃないかな。」
「無理に自分の気持ちを否定する必要はないよ。天使の本能って確かに厄介かもしれない。
でもそれを受け入れることで初めて、自分がどうしたいかが見えてくるんじゃないかな。」
「それに僕たちエルフも他者に寄り添うことが本能の一部だ。誰かと一緒に喜びを分かち合うことで、初めて自分も満たされる。それは天使と似ているのかもしれないね。」
『109話:エルフの優しさと天使の本能』
・ヒナが決心し、勇気を出してエリンに再び魔力を譲渡してもらえるようにお願いする
「ボク、もっと強くなりたいんです。天使として自分の本能と向き合って、自分の役割を果たせるように頑張りたい……!だから、ご主人様にお願いがあります。ボクに魔力を分けていただけませんか?」
「…ヒナ、君が本当にそれを望むなら僕が応えるべきなんだろうね。」
★『112話:誓いの口付け』
ヒナに魔力譲渡(性行為による体液の摂取での魔力の補充や強化のこと)を求められ、
ヒナとエリンはベッドで少し会話をして、
別の種類の愛情で互いを思いやるような満たされる時間を過ごす
それは、新しく家族として受け入れられて結ばれる婚約の儀のようだった
─弱いボクを支えてくれた2人のためにも、自分のためにも、成長したい。
自分の天使としての本能、そして過ちのように感じた行いも全てを受け入れよう。
どんな経験も意味が無かったなんて思わない。愛を与える──……
「……なんだか、緊張するね。」
「…ご主人様も、ですか…?」
「もちろん。大切な(家族の)君を抱くんだから。」
「少しでも不安を感じないようにとか、
ヒナの心の傷になりませんように…とか色々考えることはあるよ。」
「でもね、ヒナ。可能なら僕は君を支えられる存在でありたい。
それは僕の本心でもあり、少し個人的な欲でもあるんだ。」
エリンは抱きしめていた腕を緩め、ヒナの目を見据えながら少し照れたように微笑んだ。
「不束者ですが、よろしくお願いします。」
軽やかに冗談を交えるエリンの言葉に、ヒナは幸せを感じ、ふふと声に出して笑っていた─
ヒナは自分の精液がもつ媚薬の効果でエリンの心の負担が少しでも和らぐように願っていた
──どうか、ご主人様がこの行為を後悔しないでくれますように。
暗い罪悪感や自己嫌悪、後悔が棘となって心にささりませんように。
「大好きだよ、ヒナ。これからもよろしくね。」
「ご主人様…ありがとうございます、ボク、幸せです…」
「…大好き、です。ご主人様のことが。」
震える唇で、胸に秘めた気持ちを半分ほど含めた愛の告白をする。
初めての、大好きを伝えた。伝えられた…………
泣きそうな、嬉しいような、切ない気持ちを込めて─次の言葉を選ぶ。
「…これからも、ボクを…。…っ、…
”家族として”見守ってくれますか…?」
ヒナの声は小さく涙ぐんでいたが、それでもどこか力強さも感じられた
エリンは微笑んで「もちろん。僕でよければ。」と優しく答える。
そして、誓いの口付けをそっとヒナの唇に落とした。
──────
・魔法が上達し、エリンと共に喜びを噛みしめるヒナ。
エリンとヒナがその様子をリオンに報告する
エリンに魔力譲渡をしてもらえたか確認するリオン
「へぇ、そうなんだ、いいね。でもまぁ(魔法の練度や天使としての成長は)まだまだだよね」
『小説114話:窓越しの帰還』
ヒナとリオン2人きりの浴室
「ボク…リオンさんに何度も励まされました。だから天使としてもう少し頑張ってみたいって思えたんです。」
「へぇ、偉いじゃん。……けど。
自信がなくなったら、またオレに来れば?」
ヒナの決意を試すようにキスをするリオン
「…ま、冗談だよ。エリンとうまくやれてるなら、それでいいんじゃない?とりあえずは。」
『小説116話:濡れた夜の続き』
★リオンの過去が明かされる。
「…何に悩んでる?エリンに『家族』を押し付けられること?
…いつまで『家族ごっこ』付き合わせられてんの?」
「あいつが家族に対して強いこだわりがあるのは知ってるよ。オレのせいだからね。」
「まだオレらが幼かった頃の話だけどさ。エリンが奴隷として捕まってた時、オレがあいつを部屋に持ち帰って魔力の譲渡したって話はしただろ?」
「…あの時、色々あってさ。噛み殺した天使の血液の過剰摂取で正気を失ったんだ
悪魔の本能に従って、父親を殺した。」
「父親を殺して、身体に天使の血液で魔力が溢れてるまま、本能のままに暴れた、周りにいた悪魔もまとめて殺した。こんな奴らいても役に立たないってね、奪ってやるって悪魔の本能に従ってさ。」
「その時、エリンがオレを探してたみたいでそこに現れた。
顔が強張って固まったエリンを見て血(魔力)を奪おうとして…オレは正気を失ったまま、迷わず嚙みついた。けど、どこで手に入れたのか、ミアの涙を身体に塗ってたんだよね。
悪魔の城をうろつくための魔除けかなんかのつもりだったんだろうけど、それで怯んで…噛み殺さずに済んだ。」
「その後、母親…、エリンの母親が『聖域』を使ったんだ。
それでオレは弾かれてエリンから引きはがされ『聖域』の効果で魔力をジワジワと失った」
「『聖域』を張ったせいで元々の体力や魔力も限界だったんだろうな。その場で倒れたよ。
『最期に2人に会えてよかった、リオン頼ってばかりでごめんね、どうかミアのこともお願いね…。
愛しているわ家族のこと、みんな…』って言い残して亡くなった。」
「エリンはずっと泣きじゃくっててさ…オレのことを責めもせず、感謝してるなんて言ってたけど
どうだろうな…責める気力も無かっただけかもしれない。
それからあいつはずっと『家族を守りたい』って呪縛に縛られてる。」
「だから、ヒナが悪いわけじゃない。
オレが作り出した、あいつの歪んだ『家族愛』を押し付けられてるだけなんだ。」
『小説124話:明かされる過去』
★
静かに泣いているヒナの薄く黒ずんでいる天使の羽根の端を見て、リオンは無意識に舌打ちした
──まだ間に合う。
涙を流し続けるヒナの姿が過去の天使の影と重なる
その瞬間、リオンの記憶の奥底から、殺した天使の声が蘇る
「リオンくん、おねがい……」
あの明るい声。リオンを呼ぶ彼女の瞳はいつも優しく、どこか儚げだった。
「愛を与え合うこと、それを知ってほしいんだ……。そうじゃなきゃ、きっと君のお父さんと同じ道を辿ることになるよ……」
目の前で泣きじゃくる天使──アリアの姿が思い出される。
彼女の囁いた言葉が耳に残るたび、リオンは心の奥で鋭い痛みを感じた。
「奪い合いに縛られて、誰かを支配して…悪魔としての本能は満たされるけど……
君の良心がきっと君を苦しめるよ」
アリアは微笑んでいたが、その瞳には隠し切れない恐れがあった。
「天使は愛を失えば力を失うの……
そして……心から願う信念が折れれば堕天する。悪魔に堕ちるんだよ……」
その瞬間、アリアの絶望的な姿が脳裏に浮かんだ。
黒く染まり切った彼女の羽根、泣きながら赦しを乞う言葉。
アリアの水色だった瞳が紫色に変わり、徐々に赤く染まっていく─…
「お願い……たすけて……君の力で……君なりの『愛』で……」
リオンはその言葉を聞いたとき、自分がどう答えたのか思い出したくなかった。
だが、その後に彼女を救えなかった事実は今でもリオンの心に棘のように刺さっている。
愛なんて知らないはずの自分が、こんな形でまた同じものを背負おうとしている。
それでも──何かを守りたいという衝動だけは確かに存在していた
『小説125話:天使のアリア』
・アリアとは父の命令で子供を設ける目的で会わせられていたが、その時は少し話す程度で、幼少期リオンは父のコレクションになることを嫌い反発していた為、肉体関係はない
・堕天しかかった天使アリアの血液を過剰に摂取したことで悪魔としての欲求が抑えられなくなり、
急激に魔力を得たリオンは「奪う」ことに突き動かされ、良質な血縁を求めて駒として子供を物のように扱い作っていた父親や高位魔族を殺害してしまう。
・堕天の兆しが見え始めたヒナの堕天を止めるには「天使と愛し合うことが条件」と過去アリアに聞いた話をエリンにして、説得しようとしたが対立し、
オレがやると言い捨て、
追ってきたエリンを昏睡魔法にかけ、幻覚を使いエリンになりすまし、ヒナとまるで愛し合うかのように思い込ませて譲渡を行うことで結果的に堕天を止めている
★『小説128話:護る覚悟』
「……リオンさん、ボク……ボクはご主人様のことを……好きでいる資格なんてないんです…」
「今までずっと、ご主人様の優しくて心地よい家族愛に包まれて守られてきました…撫でられるたびに嬉しくて…優しくされるたびに…好きだなって気持ちが強くなって……。
ご主人様に守られるだけじゃなくて…役に立ちたいって…
ずっと、その気持ちが大きくなるばかりでした。」
「与えられた心地よい家族愛がそのままボクの居場所になって……
ボクはご主人様を好きになったんです……。こんなに優しい人、初めてだったから……。」
「それから、よくご主人様の顔とか仕草とか目で追うようになっちゃって……手を引かれた日は1日中ドキドキして……朝に庭で紅茶を飲む時間は幸福感でいっぱいで……。」
「ご主人様がくれた温もりは全部、全部大好きで……感謝しています……。
いくら言っても足りないんです……今までずっと言えなかったから……。」
「…大好きで…たまらないんです。
ご主人様にお会いしたばかりの頃からずっと…お慕いしてきました…。
ご主人様に会いたい…触れたい…また抱きしめてもらいたい…ボクの気持ちも本当は伝えたいんです……」
リオンはその告白を聞きながらも、静かに幻覚魔法を編み上げていく。
その力は彼の内側から渦巻き、ヒナの前にエリンの姿を作り出していた。
──幻覚のエリン(リオン)が、ヒナに微笑みながら優しく言葉を返す。
「…ヒナ、君の気持ちは全部ちゃんと伝わったよ。ありがとう、心から嬉しいよ。」
「嬉しい、ですか…?それが本当なら……赦されるなら……。見せてください……
ボクに…ご主人様からの愛しいって視線を感じさせてくれますか……?」
・ヒナの見たい理想の幻覚を魔法で映し出し、エリンを演じるリオン
エリンへの昏睡が続く間は魔力が消耗し続け、幻覚魔法と魔力譲渡による消耗により
リオンの魔力は急速に消耗していき、彼の中に天使の血液を求める本能が湧きあがる。
甘美な香りがリオンを誘い、牙がヒナの首筋に向かう──…
(だめだ……噛むな、血液を求めるな……。)
・エリンはエルフの為、悪魔のように血液をすすったりしない
今はエリンで居続けるため、ヒナの血液を貰うことでヒナの魔力を奪わない為、
リオンは本能を抑え、首筋に向かって立てられた牙は甘噛みに変わる。
その甘噛みは幻覚のエリンによって、ヒナにとっては首筋への優しいキスに変わる。
ヒナは小さく震えながらも幸せそうな笑みを浮かべる。
その時、不意にヒナの口から漏れる声。
「……リオンさんっ……」
その一瞬、リオンの動きが止まる。
彼はヒナの顔を見下ろし、何かを感じ取ろうとするが、ヒナの瞳はどこか遠くを見ているようだった。
(オレの名前……?何で今……。)
リオンはヒナの腕を掴む、その動きは一瞬荒々しく、ヒナは驚いたように目を見開く。
「……!」
リオンは言葉を発さずにヒナの唇に噛り付くような激しいキスをした。
ヒナの体は一瞬緊張するが、すぐに快楽に吞み込まれ、甘い声を漏らす。
その音がリオンの耳に響くたび、彼の瞳がほんの僅かに揺れ動く。
ヒナの小さな体を押し倒すようにしてその唇を味わい尽くした後、リオンは突然動きを止めた。
一瞬、ヒナの瞳がリオンを見上げる。
その瞳には戸惑いと、しかし同時に絶対的な信頼と愛情が滲んでいる。
深い息をつきながら、再び冷静さを取り戻し、幻覚のエリンとしての役割を再開した。
彼は再び優しい表情を作り、ヒナに微笑みかける。
「ヒナ……愛してるよ。」
「ボクも…愛しています。ずっとこのまま…”甘い夢の中にいたい”…」
その瞬間、リオンは無意識のうちに「エリン」ではなく「リオン」としてヒナの背を抱き寄せた。
その腕に込められた強さに、ヒナがまた小さく甘い声を漏らす。
リオンは僅かに目を伏せたが何も言わず、ただヒナの髪に顔を埋める。
リオンは再び我に返り、そっとヒナを腕の中で落ち着かせた。
ヒナの表情は幸福そのものであり、彼の愛情がどれだけ深いものかが痛いほど伝わってくる。
やがてヒナは疲れと安心から正気を失いかけながらも微笑みを浮かべながら「大好き…」と囁き、
ヒナは深い安堵に包まれて眠りに落ち、その羽根は以前にも増して白く輝いていた。
リオンはヒナの穏やかな寝顔を見つめながらそっとその唇にキスをし、舌を入れ唾液を絡めとる。
その動作は普段より慎ましやかで、ほんの少量の魔力を補充しようとする意図が隠されていた。
「…んっ…」と、ヒナが眠りの中で微かに呟く声がリオンの胸をわずかに締め付ける。
リオンは静かに体を起こし、乱れたヒナの服を丁寧に整える。
小さく息を吐きながら部屋を出ると、自らがかけた幻覚と昏睡魔法を解除し、エリンの部屋へ向かった
『129話:偽りの安らぎ 130話:愛の模倣』
・魔力の消耗が激しく、エリンに血液を求めるリオン。
エリンは自身もリオンに魔力譲渡を施され救われた過去があり、
リオンの強引だけど解決に向かって迷いないとこは尊敬してると伝える。
しかし同時にヒナには家族として寄り添いたい、この気持ちは変わらないとリオンに告げている。
★131話:強制の愛
リオンはふらつきながらエリンの部屋へたどり着いた。
扉を軽く押し開け、部屋の奥にいたエリンを一瞥する。
「……エリン、血液くれ。」
リオンの声はだるそうで、力が抜けていた。
「ヒナの堕天は止めた、安心しろ……。」
エリンは椅子から立ち上がり、リオンの様子をじっと見つめる。
その疲れ切った表情と消耗しきった魔力の気配に眉を寄せた。
(昏睡魔法と魔力の譲渡……? それだけでここまで消耗するとは思えない……一体何が……。)
エリンは少し距離を詰め、穏やかな声で問いかけた。
「何があったか教えてくれる? ヒナに何をしたの? 教えてくれたら血液くらい喜んで渡すよ。」
その言葉に、リオンは一瞬だけ目を細めた。だが、何も言わずにエリンを睨みつける。
「……悪魔種の魔法使って、今の状態でもお前の魔力を無理やり奪うくらいはできる。」
その低く荒れた声に、エリンは少しだけ肩を竦めた。
「明かすつもりはないってこと?」
エリンは問いを続ける。
リオンは視線を外しながら、不機嫌そうに吐き捨てた。
「……わざわざ言葉にする必要がない、…堕天は確実に止まったんだから…いいだろ…」
エリンは一瞬考え込み、それから静かに口を開く。
「……天使と愛を与え合うって言ってたよね。魔力の譲渡もしたんでしょ?
ヒナは……君のする事をどう思ってるの? 堕天を止める条件が成立したってことは……。」
エリンの瞳が少し鋭くなる。
「“誘惑”なんて、悪魔なら誰でも使える魔力の消耗量じゃないよね。」
その声には疑念と確信が混じっていた。
「その上の、相手の理想を映して誘導する”幻覚”か……。いや、今となっては君くらいしか使えない、相手の意思を無視して新たな意識を強制的に植え付ける”洗脳”……。」
エリンはリオンをじっと見つめた。
「どれにしても手段を選ばない悪魔らしい選択をしたってことだよね。」
リオンは軽く舌打ちし、脱力した体を椅子に投げ出すように座り込む。
その顔には、不機嫌そうな色が浮かんでいた。
エリンは息を吐き、表情を柔らかくしながら静かに言葉を続けた。
「ヒナの堕天を止めてくれたのは感謝してる。僕じゃきっとすぐには行動できなかった……。」
リオンは視線を外しながらも、エリンの言葉を黙って聞いていた。
「リオンの、強引だけど解決に向かって迷いないところは本当に尊敬してるよ。
実際に僕も命を救われてるし……。」
エリンはリオンをじっと見つめながら、穏やかに微笑んだ。
「だから、今度は僕がヒナの心に寄り添って、ヒナの心の傷が少しでも癒えるよう接してみるよ。」
エリンは一歩近づき、その瞳に優しさを滲ませながら言葉を続ける。
「……いつもヒナを支えてくれて、ありがとう。僕は家族として寄り添えるようにしたい。
この気持ちは変わらない。ヒナの体調が落ち着いたら、今度改めてヒナと話をしてみるよ。」
そう言うと、エリンはリオンの前まで歩み寄り、首筋を差し出した。
「……」
リオンは短く息を吐き、不機嫌そうな顔をしたまま立ち上がった。
そして、何も言わずにエリンの首筋へ牙を立てる。
血液がリオンの喉を通るたび、魔力が満たされていく感覚が広がる。
エリンは微かに眉を寄せながらも、それを受け入れた。
数秒後、リオンは血液を吸い終えると、軽く息を吐きながら顔を上げた。
「……借りは返す。」
短くそう言うと、再びエリンを一瞥し、部屋を出ていった。
エリンは静かにリオンの背中を見送りながら、ヒナのことを思い返し、深く考え込むのだった。
★132話: 愛の魔法
夢を見ていた。
優しく頭を撫でられ、抱きしめられる感触。耳元で囁かれる温かい言葉。
そして、首筋に降りた優しいキス。
信じられないほどの幸せが胸いっぱいに広がる。
ありえないけれど、どこか懐かしいような、とても優しい夢だった。
──気がつくと、ヒナは美しい庭園に立っていた。柔らかな光が差し込み、心地よい風が頬を撫でる。
その中で、薄紫色の長い髪の少女が微笑んでいた。
「おはようございます、ヒナさん。とっても幸せそうな笑顔、素敵です。」
そう言いながら、ミアはにこにこと微笑む。
「ミアさん……おはよう……。」
ヒナは少し恥ずかしそうに微笑み返した。
「あの、ボク……夢の中だけど、やっと自分の思いを言葉に出せた気がして……スッキリしたんだ。」
ヒナの表情が少し和らぐ。
「好きな人に、気持ちを伝えた。受け入れてもらえて、首にキスしてもらえた。
すごく幸せで、都合のいい夢だったけど……。
1人でいた寂しさが溶けて無くなって……すごく楽になった。」
ヒナはそっと自分の首筋を撫でる。その感触に、まだ夢の余韻が残っているような気がした。
「首筋にキス、ですか。素敵です!」
ミアは目を輝かせながら答える。
「私、絵本や聖書が好きなんですけど、とても好きな絵本があるんです!」
そう言うと、ぽんとミアの手に一冊の本が現れた。
「この絵本、何度読んでも素敵で泣いてしまうんです!ヒナさんにもぜひ読んでほしいんですけど……。
この絵本はね、天使と悪魔が出てくる愛と信頼の物語なんです。
とっても可愛いイラストなんですよ。」
ミアは楽しそうにページをめくりながら話を続ける。
「絵本ではね、悪魔と天使は理解し合えないとされてるんですけど、
2人は時間と共に深い信頼関係を築くんです!
悪魔は……本能に従って血液を求めて天使を噛もうとしてしまうんですけど、
天使を想って”甘噛み”に留める……。これってとっても素敵だと思いませんか?」
ミアはぎゅっと本を抱えながら、目に涙を浮かべている。
「まるで優しいキスのよう……。悪魔の歩み寄り、2人の絆が感じられて……
私、本当に感動してしまうんです……!」
ヒナはその話に耳を傾け、しみじみと頷いた。
「素敵ですね……。種族が争うことなく、絆と信頼を結んで……本能を乗り越えていく……。」
「そうなんです!」
ミアは嬉しそうに微笑む。
「ヒナさんにこの絵本の良さを分かっていただけて嬉しい!
きっとその夢も、誰かの優しさです。現実ではないと思っても、周りの人があなたを支えたいとか守りたいって心が、夢に表れたのかもしれませんよ。」
その言葉を聞き、ヒナは少し照れたように笑った。
「……そうかもしれませんね。ボク、周りに助けてもらって、甘えてばかりで……。」
そして、どこか決意を宿したように続ける。
「でも、受けた優しさはやっぱり返したい。
ボクもいつも支えてくれる2人のことを支えたい、助けたい。
一方的じゃなくて、対等になりたい……役に立ちたい!」
その瞳は真っ直ぐで力強い光を宿していた。
ミアはその言葉に満足げに頷き、優しく微笑む。
「きっと、もうヒナさんは2人の心を動かしていると思いますよ。
私はヒナさんを見て、話していて、そう感じました。
大丈夫です、自分を信じて。
ヒナさんは少しずつ、前に進んでいます。」
ミアは嬉しそうに笑って手を振った。
「会える日をお待ちしています。きっと、もうすぐです。楽しみにしていますね!」
その瞬間、ミアの姿が光に包まれる。
ヒナは手を伸ばそうとしたが──気がつくと、涙が頬を伝っていた。
「……ミアさん……ありがとう……。」
ヒナは心の中でそっと呟きながら、少しだけ穏やかな気持ちになっていた。
★133話: 天使の遺言
リオンの夢の中、淡い光に包まれた天使──アリアが微笑んでいた。
その柔らかな表情に、リオンの胸が少しざわつく。
「ありがとう、リオンくん。助けてくれて。」
その言葉に、リオンの顔が苦痛に歪む。
「……なんだよ、これは……。」
アリアは穏やかな笑みを浮かべたまま話を続ける。
「私、もしも堕天使に堕ちそうになったら……
君に殺してほしいって随分前に、冗談半分に頼んじゃったよね。」
「その後に実際、堕天しそうになったら身体が冷たくなって、悪魔になっていく感覚が怖くて……。
生きる希望も愛も信念も失った私を……助けてくれるのは目の前の君だけだった。」
リオンは言葉を返すことができない。ただ、歪んだ表情でアリアを見つめていた。
「ごめんね、弱くて。そんなつもりなかったんだけどな、最期に出ちゃったね。」
アリアは弱々しく笑う。
「君は、過去を引き摺らない。リオン君はさ、その君らしい強さと愛で誰かを救えるよ!
お父さんとは同じにならない、だって私も救われたから!」
「……。」
リオンの口元がわずかに動くが、言葉にはならなかった。
アリアは優しい眼差しで彼を見つめ、さらに続ける。
「君はね、こういうの、嫌うよね!」
「ただの夢だとか、そんな夢を見た自分を愚かだって思いそうだよね。
お邪魔しちゃってごめんね、これは私が最期に残した魔法なの!遺言ってことになっちゃうかな〜!」
そう言って、アリアはおかしそうに笑った。その笑顔には、どこか懐かしい温かさがあった。
「私ね〜短い間だったけど、そんな誇り高くて強がりな少年のこと、好きだったよ!
来世は私も悪魔かな〜?なんてね!」
「……。」
リオンは歪む視界の中で、アリアの姿をじっと見つめていた。
「1人でも生きていけるとか言わないで、
愛を知るってのもいいもんだよってお姉さんからの最後のアドバイス!」
「それじゃ……元気でね!」
アリアは笑顔で明るく言って、そのまま振り返ることなく遠くへと歩き出して行った。
リオンはその背中を見つめながら、声を上げることもできなかった。
そして、目が覚めた。
リオンはぼんやりと天井を見つめ、小さく、疲れたように呟いた。
「……最悪。」
その言葉には、自分でも理由が分からない複雑な感情が混じっていた。
・ヒナの魔法が上手くなっていく。
ヒナの主人への気持ち的にリオンに魔力譲渡をしてもらうことは抵抗があったが
他に方法もないと感じたヒナはエリンの家族愛もリオンの譲渡も受け入れると決意する
『136話:魔力譲渡』
★
『小説137話:天使と悪魔の本能』
全然、違う──。
幻覚の中でエリンに抱かれている時のヒナを見たリオンは、静かにそう感じていた。
──じっと長く見つめては目を逸らし、また見つめて。
頬を染め、心から嬉しいというように幸せそうに微笑むヒナ。柔らかく「好きです」と何度も呟く姿。
だが、目の前にいるヒナは別人かのように違う。
快楽に溺れ、抗えないまま乱れて。視線は彷徨い、理性の残滓すら霞むように薄れ、ただ天使の本能に支配されている今のヒナ──。
その違いに、愛が関係しているのだとリオンは初めて理解した。
だが、理解したところでそれに共感する心は持ち合わせていなかった。
互いに必要だからしているだけだ。
ヒナは魔力と触れ合いを求めて、リオンは目的のために魔力を注ぐ。
ただ、それだけのことのはず──…。
「お前、今オレのものだってわかってんの?」
低く囁く声に、ヒナは一瞬だけ驚いた顔を見せた。
★『138話:白い羽根と遠い記憶』
「あの時…羽根が黒くなって、なんだか身体中が寒く感じて……どうにかなってしまいそうな不安がこみあげてきて…怖かったんです。」
「でも、夢を見て、救われた気がして…起きたら羽根も白くなってて、心が軽かったんです。」
「どうしてなのかわからない……天使の羽根が黒くなる理由も、突然また白く戻った理由も、ボクにはわからないんです…。」
「前にも似たようなことがあった。壊れそうなのに、全然折れないやつがいてさ。」
その言葉に、ヒナは思わず問い返した。
「どんな人だったんですか?」
「まぁ家族みたいなもんだね、オレからしたら。
……姉…?アイツが姉ってのもなんか癪だな。」
どこか冗談めかした調子で言いながらも、その言葉の裏には微かな感情の揺らぎがあった。
「オレ自分の父親と母親と話す事ってほとんど無かったんだよね。魔王の息子だから対等な関係ってやつもいなかったしさ、アリアが1番話したかもね。」
「アリアさん……?」
ヒナが小さく反応すると、リオンは少し苦笑して続けた。
「アリアは奴隷として捕まって、混血種のオレの子供を産むために生かされてた天使。
オレは父親の駒を、コレクションを増やす為に生きるなんて冗談じゃないって思ってた。
毎日 会わせられたけど ただ少し話しするだけだった、
アリアは天使の話しもよくしてくれたよ。」
「そいつは囚われてるとは思えないくらい、前向きで明るく、よく喋るヤツだった。落ち込んだり泣いたりしてもタダじゃ起きない、絶対に自分の力で立ち上がってくる。」
ふとリオンはヒナの顔を見て、少し目を細めた。
「ちょっとヒナもアリアに似てるかもな。同じ天使だからかな。」
リオンの何気ない言葉に、ヒナは驚き、そして戸惑いを見せた。
自分がそんな存在と同じ扱いを受けるのは、申し訳ない気持ちと誇らしさが入り混じっていた。
しかし、ヒナは少しの間迷った後、意を決して口を開いた。
「ボクも……リオンさんやご主人の家族って認めてもらって、誇りに思ってもらえるように……
アリアさんみたいに…力強くいられる天使になりたいです」
★『140話:触れない温もり』
「ただいま、ヒナ。そう、ミアの様子を見てきたんだ。」
「聖域を張ってたんだけどね……僕の魔力もかなり消耗してたから、知人のエルフに理由を話して代わってもらったんだ。優秀な人たちだし、口も固い。信頼できる人だから心配しなくても大丈夫だよ。」
「聖域……エルフの強い守護魔法ですよね。ボクにはできないし……何か、別のことで力になれたらいいんですけど……」
「ヒナには十分すぎるほど頑張ってもらってるよ。いつもありがとう。」
「ヒナ、今までごめんね。」
「僕は、ヒナにとって何が幸せかを考えられていなかったと思う。
家族として君を大切にしたいというのは僕の願いであって、君の気持ちじゃない。」
「家族と言いながら、ミアのためだと言いながら、君に酷いことをしてしまった。本当にごめん。」
その言葉は、エリンの深い自責の念が込められているようだった。
「そ、そんな……! ご主人様、ボクは……!」
ヒナの声は震えていたが、それでも絞り出すように続けた。
「何も後悔なんてしてません! ボクの意思で、ご主人様に協力してもらってただけで……。
ご主人様の家族として大切にしてくれた気持ちも、温かくて……幸せで……だから──」
好きになった、と言いかけた言葉を、ヒナはぐっと飲み込んだ。
・先日、エリンはリオンに昏睡魔法をかけられて、
堕天を止めた条件の「愛し合うこと」「リオンの魔力消耗が激しいこと」から
幻覚や洗脳を用いたリオンとヒナの魔力譲渡に気づいたエリンはヒナを心配していた。
変わらず家族として接すると決めていたエリンは
その日ヒナの頭を撫でる事は一度もなく、ヒナは寂しさを感じた
★『141話:悪魔の贈り物』
「一つ、精神安定剤が手に入った。」
「…精神安定剤…?」
リオンは特に表情を変えず、淡々とした仕草で小瓶をヒナに向かって放った。
慌てて受け取ると、透明なガラスの中で淡く輝く液体が揺れる。
「精神の浄化効果があるミアの涙が入ってる。ミアはもう長いこと眠ってるから、今は貴重な薬だよ。
これで魔力譲渡のデメリットを緩和できる。」
「譲渡の…デメリット?」
「……同一の悪魔と譲渡を長期的に繰り返すと、精神が少しずつ蝕まれる。
魔力を吸収する側──つまり、ヒナの精神汚染が進行するってこと。
依存しやすくなったり、思考が悪魔寄りになったりとかね。」
「今はこの安定剤も貴重な物だし、デメリットと言ってもそこまで深刻な問題じゃない。
だから、どうしても精神的に無理だと思ったら使って。渡しとくから。」
ヒナは小さく頷きながら、手の中の小瓶を改めて見つめた。
そこにあるのは、淡い光を放つ透明な液体。
精神の安定を保つ薬──でも、それ以上に、これは”ボクが譲渡を続ける前提”で渡されたものだ。
「…本当はエリンが譲渡してくれればいいんだけどね。」
「天使自身からの愛があるやつが譲渡した方が、ヒナの吸収効率もいいし、エルフの精液は基本的には無害だ。」
ヒナはそっと視線を落とし、小瓶の中の液体を揺らす。
淡く光るそれは、手の中に収まるほど小さくて、それなのにとても大きな意味を持っている気がした。
「魔力譲渡のデメリットを緩和するには互いが愛し合えばいいらしいんだけどね。
あとは偏らないように相手の種族を変えるとかさ。
悪魔は悪魔の精液で依存したくないから、その安定剤に頼り切ってる。あとはエルフを凌辱してくるか、だね。」
──昏睡と幻覚に魔力譲渡を複数回……。
本当に、エリンがヤッてくれれば ここまで苦労することないんだけどな……。ヒナの治癒で使い切った魔力をあいつが注いでくれれば何も問題がないのに。
「リオンさん…」
ヒナがふいに、ぽつりと呼んだ。
「……ん?」
「おクスリのこととか……ボクのこと、気にかけてくれて……ありがとうございます。」
ヒナはどこか気まずそうに言いながら、もじもじと手を握りしめる。
「……えーと……」
少し間を置いてから、小さな声で続けた。
「ボク……リオンさんとするの……イヤじゃないです……。
嫌じゃない自分が嫌なだけで……。
今までリオンさんには沢山助けてもらって、感謝してますから……。」
言い終えた途端、ヒナの顔は真っ赤に染まった。
ふいっと視線を逸らし、頬を押さえる。
リオンはそんなヒナを見て、一瞬だけ目を細めた。
そして、薄く笑う。
「……ふぅん?」
「まあ、オレが魔力を注ぐのは必要なことだからな。お前が何を思おうが関係ない。」
その言葉に、ヒナはなんとも言えない気持ちになった。
確かに、魔力譲渡は必要な行為。
でも、リオンはそれをただの義務のように言う。
それが、少しだけ寂しく思えた。
★『142話:迷いと決意』
静かな部屋の中、ヒナは手の中の小瓶をじっと見つめていた。
淡く輝く液体が、ガラスの中でゆらゆらと揺れる。その動きを目で追いながら、ヒナの思考は絡まり合うようにまとまらないまま、どこか遠くへ彷徨っていた。
(これって…貴重なお薬だって言ってたよね…)
リオンさんが、ボクのためにわざわざ用意してくれた薬。
精神の浄化効果があるって、魔力譲渡のデメリットを緩和できるって、そう言っていた。
(ボクのこと、心配してくれたのかな…)
その考えが浮かんだ瞬間、ヒナはぎゅっと小瓶を握りしめた。
(でも……リオンさんはやっぱり、ボクのことなんて何とも思ってない)
譲渡のことも、まるで義務みたいに言っていた。
「エリンに頼んだら?」って、当たり前みたいに言っていた。
(ボクだって、ご主人様に触れられたら…嬉しいよ、でも….)
それが叶わないのは分かってる。
だからこそ、家族としての関係をありがたく受け入れて、ボクの恋はずっと胸にしまっておくつもりだった。
叶わない恋はつらいけど、それでも、ご主人様が好き。どうしようもなく、大好きで……この気持ちを、無くしたくない。
(たとえつらくなっても、大好きでいたいし……好きじゃなくなるなんて、全く思えないのに)
なのに。
リオンさんが気まぐれに与えてくれる優しさとか、温もりとか。
ボクは、それに安心してしまう。
(仕方がないから、って思ってしてた譲渡なのに……)
いつの間にか、自分の中でその意味が変わり始めている気がする。
ヒナはそっと小瓶を持ち上げ、中の液体を眺めるように揺らした。
(これって……悪魔と譲渡するデメリットを緩和するお薬なんでしょ……)
(それってつまり……また、するってことだよね……)
分かっているのに、なんだか気持ちは複雑だった。
──リオンさん、なんであんなに平気な顔をしていられるんだろう……?
ボクが天使だから
愛や温もりに惹かれてしまうのが、本能だから?
悪魔にとっては、こんなこと…魔力譲渡くらい普通なのかもしれない。
──リオンさん、恋とか分かんないって言ってたっけ……。
ボクがこんなに、ご主人様のこととか、いろいろ悩んでるのも……全然わかんないのに。
それでも聞いてくれてたのかな……?
ヒナはそっと唇を噛んだ。
(温もりを求めて、与えられるものをすぐ受け取って、喜んでしまう……)
そんな自分を、どうしても受け入れられない。
(でも……考えても仕方ない)
今、ボクがやるべきことは決まっている。
魔法の練習をしなくちゃ。
それが、ボクに存在する意味を、価値を与えてくれる。
【143話以降の追記】
・ヒナはエリンの言葉を聞き、魔法が成功する。
─誰を助けたい?
思い浮かべるのは、長い間眠ったままの、大切な人。
今も眠りの中で一人きりの、ミア。
(会いたい……ミアさんに……!
必ず……助ける……!)
ヒナの心が強く、純粋に願う。
・魔法の成功で主人に久しぶりに頭を撫でられ、喜び、安堵するヒナ。
★『小説146話:ヒナという存在』
「天使の本能って、何でしょうか……?」
「……『性愛』って聞いた気がするな。アリアに。」
「親同士が天使じゃないと天使は生まれないんだってさ。
特定のパートナーがいないと、自分をより強く愛してくれる相手に惹かれやすいらしい。
アリアはパートナーがいなかったから、
天使の種の存続に協力きたって言ってたな」
「ヒナは幼い頃の記憶あるの?親は?」
「…孤児だったんです。施設で一度は引き取られたんですけど、義両親とボクの判断で施設に戻ることになって…」
「しばらくして、今のご主人エリンに引き取ってもらって、この屋敷に来たんです。」
「ご主人は、本当の家族みたいにいつも優しくしてくれて…今ならわかるけど、ボクのためとご主人様自身の願いで本当の家族のように迎えてくれた。」
「でも……不義理ですよね、ボクって。
ご主人様の家族愛を受けて、ボクは恋愛感情を抱いてしまったんですから。」
「でも今のボクには使命があります。
二人に与えてもらった魔力で、天使としてミアさんを必ず救います。
夢じゃなくて、本当のミアさんと会って話してみたい。
それがボクの希望で、今の信念です。」
─揺れ動きながらも、自分の答えを見つけていく。
その姿に、かつての天使の姿が重なる。
いつの間にか…いやもしかしたら最初からリオンの中に芽生えていたもの。
貴重な種族への純粋な興味、好奇心。
天使としての本能を揺さぶられ、与えられた出来事に
何を思い、どう行動し、成長するのか
天使がどこまで自分で自分を見つけるか試してみたい
ヒナを通じて、かつて自分が理解できなかったものを知りたい
そしてヒナの水色の瞳に彼女の姿を見た
タダじゃ起き上がらない、アリアの芯の強さを。
─ふと、気がついた。
気がついたら、そうだとしか思えなくなった
幼く、羽根がないまま生きてきた少年。
天使の生き残り。
──ヒナは、アリアの──……。
リオンはその思考を振り払うように笑う。
ヒナはヒナだ、アリアじゃないし、ミアでもない。
リオンとエリンが過去を思い出し、
誰かの面影を重ねたとしてもそれは目の前のヒナを見ればすぐにその姿を消す。
「…いいね、そういうとこ好きだよ。」
「えっ…」(リオンに好きだと言われたのが おそらく初めてで少し動揺するヒナ)
「お前がもしまた堕天しそうになったり、魔族に襲われそうになったら──
オレとエリンで必ず護るよ。
絶対に他のやつに奪わせない。」
「オレは自分のモノが誰かに奪われるのは絶対に許さない…悪魔だからね。」
リオンらしいその言葉に、ヒナは胸が温かくなるのを感じた
そして同時に思った、
ボクも、強くなりたい。
二人と、対等な関係になりたい。
・「天使って魔力が枯渇すると生存本能で愛を求める、らしいね」
「てっきりエリンにそれが向くと思ってたんだけど、
譲渡による依存かな、
オレにも尻尾 振ってくるとはね。」
『147話:未知なる愛の境界』
・(本当に愛を知らないのかな……)
ヒナはリオンの横顔を眺めながら心の中で呟いた
愛を求めることなく、愛を知らないまま生きているリオンに対して
ヒナは愛を教えられるかは わからないけど、
愛を感じて欲しいという純粋な想いが芽生える
これは愛することで色んな葛藤こそあれ
成長してきたヒナが
愛することは必要なこと、
素敵なことだと思っているからこそ、
リオンにも愛する意味や存在を今後みつけて幸せになってほしいと、
心の底で無意識に近い感覚で思っていたのだった
行為に溺れ、倒錯する中で、
それでも「すきです…」と伝えたヒナは
その気持ちがどんなものなのか まだ自分の中ではわかっていなかった
ただの魔力の譲渡だった行為が、
ヒナの承認欲求と天使の本能からくる求められたい触れ合いたいという心と性欲を満たし、
抑え続けてきたエリンへ与えることができなかった愛の捌け口になり、
リオンに触れられることで愛は得られないが、その温もりに依存していく。
『148話:求めるたびに、遠ざかるもの』
・帰宅するエリンの声が控えめに玄関に響く
青ざめるヒナを腕の中に抱き、正気に戻った?とリオンが言う
使いたくなかったと言いながら"洗脳"の魔法を使う。
それは父との血縁関係を示す、いまやリオンしか使えない魔法。
相手の意思を無視して、
本音を引き出したり、無理やり命令を与えたり、
違う意識を植え付けられる、悪魔の魔法だった。
対象者の血液摂取が必要ではあるが、
その量に応じて強く暗示をかけたり威力が変わる。
少量の血液摂取では目を合わせて強く暗示をかけることが必要。
直前に血液を摂取していた方が強く効果があらわれる。
洗脳されたエリン。
「……ヒナ、僕たちのために……ミアを救うために、無理させてばかりでごめん。
ヒナがその責任を持つ必要はないのに……頼ってばかりで……。
君が一番つらい立場なのに、何もしてあげられなくて、本当にごめん。」
「……ヒナは、まだ僕のこと好きでいてくれてる?」
「恋愛対象として、って意味だけど。」
エリンがそう付け加えた瞬間、ヒナの涙が溢れた。
「……いつから、知ってたんですか……? なんで……どうして……?」
震える声で問いかけるヒナ。
エリンは微笑み、ヒナの頬を優しく撫でた。
「……気がつくのが遅くてごめんね。
最近になって家族という関係だけじゃなくて、
君の気持ちを受け止めて、一度、考え直してみようと思ったんだ。
今までヒナの気持ちを無視して「家族愛」を押し付けて…ヒナを個人として見ることと、ヒナの気持ちを尊重する事ができずに傷つけてきたから…。」
「僕は君のことが好きだよ。
家族として大切な気持ちは変わらないけど、君の気持ちに寄り添えるように、真剣に考えてみたくて。
ヒナはどう……?
まだ僕のこと、好きでいてくれてる……?」
ヒナは言葉を失った。
ずっと望んでいたはずの言葉。
なのに、今になって、何も言えなかった。