番外編:ヒナの誕生日、ノアからのプレゼント
──繁華街の喧騒が少し落ち着いた夕暮れ時。
通りを歩く人々の隙間をぬうように、ヒナはノアに手を引かれながら歩いていた。
「さんぽ、いこっ!」
ノアに誘われるまま特に行き先を聞くこともなくついてきていたが気がつけば、どこからともなく甘い香りが漂っていきた
ノアは足を止めると、ピンク色の耳をぴくぴくと動かしながら鼻をクンクンと鳴らす。
その仕草にヒナが不思議そうに見ていると、ノアがぱっと笑顔を向けてきた。
「入ろっ!ここ、最近見つけたんだけど、おれのお気に入りなのっ。ヒナちゃんと共有したいな〜♡♡」
そう言いながら、ノアはヒナの袖を控えめに掴み、くいっと引っ張る。可愛らしいおねだりのようなその仕草にヒナは少しうろたえたが、
断る理由もないので、素直に頷いた。
嬉しそうに耳と尻尾を揺らすノアに手を引かれるまま、店へと入った。
──────
「はい、あ〜ん♡」
店内の飲食スペースで、ノアが自分の食べていたクレープをヒナに差し出してくる。
ヒナは少し戸惑ったが、ノアの期待に満ちた瞳を見て断ることができず、一口かじった。
「おいしい〜?これすごいよね〜!初めて見つけて食べた時、感動しちゃった!」
ノアは嬉しそうに尻尾をぱたぱたと揺らす。
「苺が入ってるやつにアイスつけてもらうのが今のおれのブームなの〜!」
ヒナはノアの無邪気な笑顔を見ながら、甘さの広がる口の中でそっと呟いた。
「……おいしいです。」
すると、ノアがふと何かに気づいたようにヒナの顔をじっと見つめた。
「あ、ヒナちゃん、口にクリームついてるよっ」
そう言って、ノアは指でぬぐい、そのまま指を舐め取る。
ヒナは一瞬息をのんで、思わず視線を逸らした。
「ねっねっ!ヒナちゃん!おれね〜ヒナちゃんに渡したい物があるの!」
ノアは唐突に話題を変え、テーブルを挟んでいた席からヒナの隣に移動する。
「そっち座ってもいい?」
ヒナが小さく頷くと、ノアは鞄の中から小さな箱を取り出し、
「じゃん!」と楽しげに掲げた。
「これね、ヒナちゃんへの誕生日プレゼント!
ずっと前に買ってて、ず〜っと渡したかったんだけど、やっと渡せるよ〜!」
「ありがとう…ございます、開けてもいいですか…?」
「いーよ♡ヒナちゃんの好きなものわかんなかったから、おれの趣味だけどね〜」
ヒナが小さな箱を開けると、そこには赤いリボンのついた可愛らしいアクセサリーが入っていた。
「かわいい…ありがとうございます…」
「それね、イヤーカフ!ヒナちゃん、ピアス開けてないからね〜良かったらつけてみて〜」
ノアはもう一つの箱を取り出し、人型の耳の方につける。
「見てみて、おそろいなの!赤い糸みたいなリボンだよ〜!」
ノアはニコニコとしながら、ヒナの耳にもそっとイヤーカフをつける。
「ヒナちゃんとおれの恋が叶うといいなって思って!」
その無邪気な言葉に、ヒナは思わずうつむいた。
「おれね〜ヒナちゃんと友達になれて嬉しいんだ〜!」
ノアはしっぽを揺らしながら、ぽつりと続ける。
「昔、奴隷だったし…城を出てからは母親と会えたけど、亡くなっちゃって……。
リオくんだけが時々、頼みたいことがあるって会いに来てくれてたんだけどね、
好きな人以外にもおれと一緒に遊んでくれる人がいるの、すっごく嬉しいし楽しいよ!」
その真っ直ぐな言葉を聞いて、ヒナはしっかりと頷いた。
「ボクも…嬉しいです…。ご主人様がいるだけで幸せだったけど、今はリオンさんもノアさんもいて賑やかで楽しいです。」
ヒナは控えめに微笑む。
「だよね〜♪」
ノアは尻尾を揺らしながら、ぽつりと呟く。
「リオくんさ、混血だけど悪魔なんだし、パートナー持つとしたら何人もいてもおかしくないと思うんだけどな〜!
悪魔社会って、従える人が多ければ多いほど強くて魅力的って価値観みたいだし……。
おれもヒナちゃんもまとめて付き合ってくれたら、ヒナちゃんともずっと一緒でハッピーだし!」
ヒナはその言葉に驚いたように顔を上げた。
「ヒナちゃんがエリンさんがいいって言っても、もちろん応援するし、会いに行くけどね〜!」
ノアは何の迷いもなく純粋にそう告げる。
ヒナは驚いて、その後うつむいた。
自分の気持ちがいまだにはっきりしない。
けれど、ノアの真っ直ぐな想いを聞いて、
その恋が報われてほしい気持ちと、
リオンを失いたくない気持ちが混ざり合い、
複雑な思いが胸に広がった。
それでも、ノアの無邪気な愛情はリオンとは違う種類のものであり、
確かに自分にも向けられている。
そんな彼を羨ましく、そしてありがたく思いながら、
ヒナはお揃いのイヤーカフをそっと指で撫でた──。




