後編
雅と陣は2人で並んで「喫茶 JUN」へ向かっていた。2人には微妙な距離があった。だけど雅はその距離感が心地良かった。小嶋の前ではよく思われたいという思いが先走っていて別の自分を演じている感覚があった。だけど陣の前では素の自分な感じがした。
「喫茶 JUN」に着くと店は暗く辺りも静かだった。陣が持っている鍵で「喫茶 JUN」の扉を開けると中には誰も居なかった。
「今からコーヒー淹れようか?」いつもの憎まれ口ではなく優しい言葉で陣が語り掛けてきた。雅は無言で頷くと陣は手際よく準備をして5分くらいで2人分のコーヒーを淹れてくれた。カウンター越しにコーヒーを渡された。一口飲んでみるとものすごく美味しかった。
「これ…美味しい。」雅はそう言って陣の方をみると陣は今まで見た事のない笑顔をしていた。
「あんた、あんなバカみたいなノリじゃなくていつも静かにコーヒー淹れておけばモテるんじゃないの?」
思わず雅は陣に憎まれ口をたたいていた。
「おお、元気になったじゃん。」
そう言って陣はコーヒーを一口飲んだ。
「なぁ、雅。あの小嶋っていう男昔から女癖が悪いって噂だぜ。昔生徒の親に手を出したとかで学校でいられなくなってああいう施設を作ったらしいぜ。全部噂だけどな。」雅はその噂を知っていた。なぜなら当時雅のクラスには雅の従兄弟が在籍していた。その従兄弟の母親つまり雅の叔母さんにあたる人物に小嶋はアプローチをかけていたのだ。
それでも雅は小嶋の事が好きだった。
なんで好きだったのかはもう忘れてしまったけれども。「雅、俺じゃダメかな?」陣は真剣な眼差しで雅をみつめていた。「ごめんね。あの恋を忘れるためにもう少し時間が必要かな。その間に別の女に手を出したら私許さないからね。」そう雅は答えた。
その答えを聞いて陣は笑顔になって自分が淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでいる。
そういえば昔お母さんが聞いていた曲の歌詞もこんな感じだったな。
思わず笑みが溢れながら雅もコーヒーに口をつけた。
「大好きだったけど〜彼女がいたなんて〜
大好きだったけど〜最後のプレゼント〜
bye bye my sweet darling さよならしてあげるわ〜」
「ねぇーパパーまたママがおんなじ歌うたってる。」
「ママはパパと出会う前の事を思い出しながら歌っているんだよ。ママはパパと結婚したから良かったものの、男を見る目が無くて…」
「あなた、うるさいっ!そんな無駄口叩かず前向いて安全運転して!」
「はいはい、分かりました。」
「クスクス…やっぱパパとママは仲良しだね!」