中編
喫茶店のマスターに相談すると「ウチは1人で回せるから。」と言ってもらえた事もあって雅は喫茶店のバイトを混雑する日祝のみにして平日は学童のバイトに行く事にした。そして今日はクリスマスだ。
といっても雅は夕方まで学童のバイトで夜の予定は何も無かった。学童ではクリスマス会を催した。
クリスマス会も終わりに差し掛かった頃サンタクロースのコスチュームを身に纏った小嶋が子供達にお菓子が詰まった赤い靴を1人1人に手渡していた。
そして続々と子供達の保護者が我が子を迎えに来た。
雅はようやく一息ついて掃除をしようとした。
「遠藤先生!」雅は呼ばれて振り返るとそこにはサンタクロースの格好をした小嶋が立っていた。
「これ一つ余ったんで持って帰って下さい。」そういうと小嶋は雅にお菓子が詰まった赤い靴を手渡した。
「ありがとうございます。でもせっかくなので皆さんで食べませんか?」雅は他の従業員に気を回してそう答えた。「はは、実はこのお菓子はまとめ買いだから毎年一つか二つ余るんだよ。だから毎年違う人に配っているから気にしなくて良いよ。」小嶋がそう笑って答えてくれたから雅はありがたくお菓子を貰う事にした。
そして小嶋は周りをみて周囲に人が居ない事を確認すると雅の方に近づいて囁いた。
「今晩、一緒に映画行かない?」
雅は静かに頷いた。
ーーー映画は洋画のラブロマンスだった。
「こんなおっさんと一緒にクリスマスに映画なんてなんか申し訳ないね。」そう小嶋が自虐した。
「小嶋先生は全然おじさんじゃないですよ。私にとってはいつまでも憧れの人です!」雅は本心でそう答えた。「ありがとう遠藤さんは優しいね。」しみじみとした様子で小嶋はそう答えた。
「ねぇ、先生…2人きりの時は私の事下の名前で呼んでくださいよ。」雅はドキドキしながらもようやく言えた。恐らくはクリスマスのこの雰囲気のお陰だとそう思った。
「あれウチでバイトしてる遠藤さんじゃん。」
声が聞こえた方を振り返るとそこには喫茶店のマスターの息子の陣が居た。
(このお邪魔虫)雅はイライラして無視しようとした。
「おい無視すんなよ。今ウチの店でみんなでクリスマスパーティやってんだ。遠藤さんの両親も来てるから、一緒に行こうぜ。」
陣は雰囲気を読まずグイグイおしてくる。
「じゃあ遠藤先生今日はそちらのパーティに行ってください。もう年内はバイト来ないかな?また年明けから頼むね。少し早いけどよいお年を。バイバイみさきちゃん。」
雅は小嶋の別れの言葉を聞いてしばし呆然としていた。すると陣が雅の手を握って強く引っ張った。
やがて人混みの中で小嶋が見えなくなると陣が手を解いて雅の目を見た。
「雅がどこの誰と付き合うのも雅の勝手だけどあの男はやめとけよ。」雅は陣を見つめ返した。
陣の目は本気だった。
「なんで、あんたなのよ…ホントに名前で呼んで欲しかった人は…」気付くと雅は涙を流していた。
嗚咽で上手く言葉が出てこない。
そんな雅の様子を眺めながら陣が言葉を続けた。
「雅あのバイトを辞めてうちに戻ってこいよ。おじいちゃんも俺も雅が居ないと寂しいんだよ。」