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彼女は

作者: 西坂 海

初めての投稿になります。よろしくおねがいします。

最近になってよく思い出すようになった女の子のことを書きました。


 視線の先に見覚えのある人物が歩いて来るのに気が付いた。

 すっかり忘れていたが、その人物が中学一年の時の担任であったことはすぐに思い出した。

 その人物とはもう会いたくなかった。中学一年のときの担任とは苦い思い出ばかりだ。

 過去の出来事を思い出して胸がモヤモヤする。




 放課後に教室の掃除をしていると、「なぜ職員室にこないのかー!」とヒステリックに大声を出して私の所にやってきた女教師は私の顔を見るなり頬をはたいた。

 今ではあってはならない事だ。

 左の頬にじんじんと熱を感じながら「行きたくないからです」と答えた。


 もうどれくらいになるだろうか毎日呼び出されて同じやり取りを繰り返す。いい加減めんどくさい。

 プリントを忘れたとか、宿題をしていなかったとかそういう小さいことが始まりだった気がするがよく覚えていない。


 (この人とは分かり合えない)そう思っていた。

 

 自分の何が気に入らないのかも分からない。こちらとしては職員室になぜ毎日呼び出されていたのか。

 

 (わからない)

 

 そういう記憶がよみがえる。


 その人物は近くにきてから気が付いてはっとこちらを見上げたようだったが、視線を遠くのほうに向けたまま、あの頃とは違い見下ろすようになったその人物に気づかないふりをしてすれ違った。

 すれ違ってしばらくあれこれ過去の記憶を遡ることになってしまっていたが、不意にある少女の事が思い出された。

 

 そういえば。


 あの頃隣の席になった女の子がいた。

 小柄で、肌色は褐色だった。おそらく何かの病気にかかっていたのだろう。

 体育の授業には出席せず、スケッチ大会などの外出行事にも参加していなかった。


 彼女のお弁当はゴルフボールよりちょっと大きいくらいの小さなおにぎりが2つ小さな弁当箱に入っているだけだった。

 彼女はそのおにぎりも半分しか食べていないことが多かった。


「ご飯食べないと元気出ないよ」

 何気なく声をかけると彼女は小さな声で「うん」といって微笑んだ。

 かわいい人だった。

 

 その彼女はある日突然入院してそのまま亡くなってしまった。

 なんの前触れもなかった。


 当時の幼い自分は時間とともに成長するにつれ、彼女も徐々に元気になるのだろうと思っていたが、それは違っていた。


 教室の彼女の机の上には花が飾られ、横に青い習字入れがぶら下がっている。

 

 ある日、何気なくその習字入れを眺めていると、例の担任がそれを彼女の家に届けるように言ってきた。

 なぜ自分なのだろう。

 不思議だった。


 まあ、隣同士だったよしみかなと飲み込んでとりあえず彼女の習字入れは家に持ち帰った。

 そして、しばらく放置したままになった。

 なぜすぐに持って行かなかったのかは分からない。

 放置状態を見かねたのだろう。母親に早く持っていくように急かされてようやく重い腰を上げた。


 彼女の家に着き、引戸の玄関をあけ「こんにちは」と声をかけた。

 おそらく彼女の母親と思われる女性が家の奥から出てきた。

 名前を名乗り彼女の習字入れを持ってきた事を伝えた。


 彼女の母親は少し驚いた様子でこちらをまじまじと見て、それからゆっくりと手を伸ばして習字入れを受け取り「ありがとう」と言った。

 女性の視線に、わからないけれど何かうまく言葉にできない違和感があった。


            ◆


 それから数年経ち高校生となった。


 家で畳の上でごろごろしていると、母親が突然中学一年の時に隣の席になった女の子の事を覚えているかと聞いてきた。

(お袋がなぜ彼女ことを)

「おぼえてるよ」と、あの時のモヤモヤを思いだしつつ返事をした。


「その子があなたの隣の席になったのは本人が隣の席になりたいと言ったからよ」

「え?」

「席替えの時に担任の先生がくじを細工して隣同士になるように仕組んだの。お母さんにも事前に連絡が来てたのよ」

「そうだったの?」


 ああ、そうだったのか。あの視線の違和感はそういうことだったんだ。

 中一男子の自分は彼女の想いには全く気が付いていなかった。

 隣の席の友達として仲良くしていただけだった。


「でも」

 思い出せる彼女はいつも笑顔だった。

 話しかけると、いつも嬉しそうにしていた。

 そして、

(この人はきっときれいな人になるんだろうなぁ)

 とも思っていた。

 

 彼女は自分の人生がもうすぐ終わることを知っていたのだろう。

 周りの大人も知っていただろう。

 彼女は勇気を出して、残り少ない時間を少年の隣の席で過ごしたいと大人に伝えたんだ。


(なんてこった)


(気づけなくてごめん)


 そう心の中でつぶやいた。


 ごろりと転がって天井を見ていると少女の顔が浮かんできた。

 彼女はあの頃のままにっこりと微笑みかけて来る。

 幼い少年の頃の淡い淡い恋心があぶり出される。

 ほろりと涙が頬を伝った。

「ありがとう」

 そうつぶやいた。

2024/11/8修正しました。

2024/11/9修正しました。

2025/2/5全体に見直しました。


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