嘘つきは叫べない
「俺達、ずっと一緒だろ?」
そう言って兄上、貴方は笑いましたね。
僕はその時こう言いました。
「そうですね」
はにかんで。
曖昧に。
だけど兄上。
貴方は僕の正体を知っても、まだそう言ってくれますか……?
嘘つきな僕にも……。
ずっと一緒。
それは幻想。
僕らは家族。
なのに、僕のこの気持ちは何?
ただ、貴方と一緒に居たくて。
ただ、貴方の傍に居たくて。
ただ、貴方の優しさを僕だけのものにしたいというこの気持ち。
嗚呼……。
ごめんなさい。
嘘つきで汚れた僕のことを赦してください。
貴方はこの嘘を知ってしまった時どう思うのでしょう。
この僕が偽物の弟なのだと知った時、どんな顔をするのでしょう。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
赦してください。
産まれてきてごめんなさい。
生きていてごめんなさい。
お願い。
お願いします……!
僕を突き放して。
僕を嫌って。
僕に近付かないで。
僕に優しくしないで。
僕を……終わりにして。
全部、全部終わりにしてください……!
僕という存在を壊してください。
崩してください。
消してください。
忘れて……。
貴方が僕の頭を撫でた
温かい体温。
掌の温もり。眩しい笑顔。優しい言葉。
そんな貴方の温もりが、存在が、僕には強すぎて。
僕には大きすぎて。
僕には痛いもので。
貴方の全てが。
嫌いで、大嫌いで、怖くて、恐ろしくて、痛くて、哀しくて、切なくて、愛しくて、大切で、好きで、大好きで。
苦しいよ。
兄上……兄上……。
助けてよ。
痛いんだ。凄く胸が、心が痛いんだ。
助けて……助けて兄上。
僕の総てを無くしてよ。
僕は嘘つきだから。
穢れた僕は兄上の半身にだなんてなれないから。
兄上の本当の弟になんてなれないのだから。
全部全部切り刻んで欲しい。
この顔も身体も内臓も心も全て跡形もないくらい僕を罰して。
大好きなんだ……。
苦しいよ……兄上。
僕は……僕が普通の―――だったら良かったの?
僕を産んだ母上様が掟を守っていたら良かったの?
僕を産んだ母上様が誰とも関係のない赤の他人だったら良かったの?
そもそも、僕が産まれてこなければ良かったの?
教えてよ……兄上。
答えてよ……兄上。
助けてよ……兄上。
消えたい。
そうすればこんな苦しみなんてなくなるのに。
なのに、その気持ちと同じくらいに。
生きたい。
生きて兄上と一緒に居たい。
一緒に笑ったり、遊んだり、修行をしたり……色んな事を兄上と一緒やりたいんだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
穢れた血と、肉で、総てを汚してしまうくらいなら、いっそ無くなればいいのに。
ただ、貴方の近くで生きて、最期の夢を見たいという願いを捨てることができない。
この作品は2010年9月に個人サイト(現在は閉鎖)にて公開していた文章を一部修正したものになります。
1の世界 春花