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本当に許嫁だった

 確認してみる価値はあるだろう。

 万が一にも俺と関さんが“許嫁”なら、それはそれで美味しい状況だ。

 こんな美少女と将来を約束されるとか幸運でしかないのだから。



「分かったよ、関さん。ついて行く」

「良かった。断られても連れて行くつもりだったけどね」



 花のように微笑む関さん。

 表情がまぶしすぎて直視できん……。

 さすが人気者の風格は違うなぁ。


 というわけで、俺は関さんの背中を追った。


 静かな街並みの中を歩いていく。

 やがて見えてくる一軒家。おぉ、あの豪邸が……豪邸!? マジかよ。まさか、関さんってお嬢様なのか。



「……凄いところに住んでるんだな」

「よく言われる。お父さんが経営者だからね」

「納得。やっぱり、関さんってお嬢様なんだ」

「そう思ったことはないかな。わたしは、普通でありたいから」


 なにやら訳ありっぽいな。

 あまり突っ込まないでおくかね。


 門を抜け、庭を歩く。


 ……庭広いなぁ。

 凄く手入れがされている。

 まるで異世界の屋敷みたいだ。


 やがて大きな玄関の前に辿り着く。

 なんだこれぇ……なにもかも規格外か。


 どうぞ、と言われ俺は中へ入っていく。なにげに女子の家に初めて入る。緊張の一瞬だな……。


「お邪魔しますっと」

「どうぞ、あがって有馬くん」


 靴を脱ぎ、部屋へ向かう。

 廊下を少し歩くとリビングに入った。やっぱり、というか広すぎる。なんだこれ、テニスコートみたいに広いぞ。


 なんて広々とした空間なんだ。


 カフェみたいに落ち着きのある部屋があった。

 そんな風景に溶け込む一人の男性。


「関さん、あの人はお兄さん?」

「え? あはは、有馬くん。キッチンに立っているのはお父さんだよ」


「はいッ!?」



 まてまて。

 お父さん若すぎだろッ!!


 インテリっぽい雰囲気はあるけど、かなり若く見える。それこそ二十代のような若さ。あれがお父さん!? 信じられないな。



「おかえり、咲良」

「ただいま。ようやく有馬くんを連れて来れたよ」

「有馬……。まさか、有馬 純くんかな」


 優しい視線を向けられ、俺は戸惑った。

 まさかそんな歓迎されるとは。


「あ、あの……俺を知っているんですか?」

「もちろん。君のお父さん……有馬(ありま) 宗一郎(そういちろう)とは旧知だからね」


「本当なんですね……」


「ああ。本当だよ。それに、聞いたかもしれないけど君と咲良は“許嫁”なんだ。いつか言おうと思っていたけどね」


 それも本当だったんだ。

 真面目な顔して言われたし、ドッキリとは思えない。


 俺は……。

 俺は関さんと許嫁だったんだ。


 つまり、俺は関さんと結婚するってことだ。


 俺の与り知らぬところで、そんな約束事がされていたとは。親父のヤツ、勝手にやりやがって……ナイスだ。


 正直、困惑はあった。

 でも、関さんのことは一人の男として憧れがあった。


 お近づきになれるのなら、この上ない幸せだ。



「ひとつ教えてください。親父とどんな約束を?」

「そうだね、それを話すべきだろうね。でも、出来る事なら君のお父さんから聞いた方がいいだろう」


「……分かりました。そうします」


「ところで有馬くん。咲良のことはどう思う?」

「――ッ!? ちょ、直球ですね」

「当然さ。大切な娘を君に預けるわけだからね」



 ここは思ったことをそのまま言葉にするべきだ。下手に嘘をつけば、それこそ印象が悪い。だから、俺はあの運命の出会いから、今に至るまでの気持ち。それと学校生活の中で感じり、思ったりしたありのままを言葉にした。



「関さんは隣の席なんです。だから、いつも顔を合わせるし……気になっていました。その、好きとか今はまだよく分からないんですけど、でも、この憧れは本物です。俺なんかでよければ……うぅ」


 だめだ。頭の中がグチャグチャになって、思考が止まった。無理、無理! これ以上、関さんのことを話したら、俺が爆発しそうだ。


 もう顔が真っ赤だし、足だってガクガク震えている。


 なんでこんなことになったんだ!?



「お父さん、有馬くんが困ってる。もういいから、あとは二人きりにさせて」

「……そうだな。また次回、詳しく話そう」



 関さんのお父さんは背を向け、リビングから出ていく。とりあえず、厳しい人でなくて良かったけど……無駄に緊張したぞ。


 静寂が戻ると、関さんが俺の前に立った。



「ねえ、こっちのソファで話そっか」

「お、おう……」


 手を引っ張られ、俺は従うしかなかった。

 嬉しい反面、緊張でガチガチだった。

 ……俺としたことが、関さんのペースに飲まれっぱなしだ。


 女の子とこんな長時間過ごすなんて、なかったからな。



「有馬くん、あのね。さっきは本当にありがとう」

「さっき? ああ、猫ね。そういえば、姿が見えないな」

「さっきお父さんに任せた。ウチ、猫部屋あるし、お父さんが猫カフェ経営してるから安心して」


 そうだったのか。

 ああ……猫カフェのオーナーだったんだ。

 それでこんな金持ちなのか。


「凄いな。圧倒されてばかりだ」

「ねえ、有馬くん。顔をよく見せて」


「え……」



 ジッと見つめられ、俺は固まった。

 関さんがこちらをゆっくりと眺めるように見てきた。俺の姿をその瞳に映し出して、細い指を伸ばし、頬に触れてきた。



「わたしもね、君のこと、ずっと隣の席から見てた」

「関さん……俺。俺はちょっと難しいかもしれないよ?」


「ううん、有馬くんは命の恩人だもん。許嫁で良かった」



 接近する桜色の唇。

 ……キス、されちゃう……!?

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