サザナミとシオサイ
初投稿です
心象風景の中の細波が揺れる。押せて、寄せて、ぶつかり、砕ける。小さく犇めくように群れる海面の高低を割りながら進んでいく。
船速15ノット。ゆっくりと流れていく風景とは裏腹に、船が海水を押し返した跡が尾を引くようにしながらぐんぐんと置き去りにされていく。
憐憫とはすこし違う。胸中に渦巻く虚脱感。私も、その正体はああして割られる波と大差はない筈だ。置いて行かれ、捨て置かれる。どうして憐れむなどと、上からの物言いができようか。私は、ただ、幸運にも船上に転がり込めたにすぎないのに。
海が鳴る。ちゃり、ちゃぷんと小さな響きがそこら中から鳴り続け、私の耳には重苦しい大質量の蠢きになって届く。一つ一つに注目すれば大したものではない。小さいけれども確かに在って、積み重なり響きあう。集合が見せる僅かな傾向が一瞬一瞬に特色を見せ過去へと押し流されていく。
船は悠然と航行をとめない。流れ、揺れて、乗り越え、崩れる。むずがるように揺れながら、海中の動力を回し進んでいく。
乗り出していた身を戻し、背中を柵に任せる。木のデッキを爪先でこんこんと叩きぼんやりと空を見上げる。一面ずっとに広がる青。飛沫の混ざる反射光がきらめく海の青とは違う、純粋にして奥行のない無常なまでの青。音もなく、ただそこに広がる在り様は私の何を表した心象なのだろう。海が反射しオゾンが応える。揺れることのない光の虚像。
雲の一つも見えない、遠い日の快晴。潮の匂いを風に感じながら肌寒さを噛みしめる。どこかで海鳥が飛んでいる。鳴き声も上げず、無尽蔵に広がる青の中に小さな影を落としている。
どこに居るのだろうか。柵に身を任せたまま首で辺りを見回す。気配はすれども姿は見えない。飛行速度70㎞/h。平面でない三次元空間としての空に溶け込んでしまったようだ。
心が揺れて体が揺れる。海が、船が、デッキが、空が。私をその中に含みながら諸共に揺れて、一つの像として共鳴する。
私を映す心象風景。記憶の中の色々を、モンタージュのように切り貼りして作られている私だけの幻の世界。船は礎、波は過去に。空に理想を見て鳥は私に捉われない。
ならば赤い靴を履いた少女は何なのだろう。当時の私はこれ程幼くはなかった筈だ。
見た目は真実を暗喩する。実情を誤魔化し、綺麗に取り繕いながら幻を成り立たせる。これらは何を意味するのだろうか。いまだに分からず蹲り、私は心象風景に夢を見る。
さざなみがなる。
しおさいをきく。
うみをのぞく。
そらをみあげる。
とりをおう。
からだがゆられる。
わたしはおもう。