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8 そんなに笑わないでください……


 どうしよう……!

 2人の前で着替えなんてできないよ!




「あ、あ、あのあのあの、僕は……あっ、やけど! やけどの痕が! その、お腹にあって、あまり見られたくないといいますか……」


「やけどの痕?」


「は、はい」


「…………」



 ジトーーッとした目で私を見下ろしているアルフォンス様。

 疑っているような目だけど、見られたくないと言っている相手に対して確認させろとは言えないはずだ。



「……わかった。それなら、隣の部屋を使うといい」


「ありがとうございます!」




 よかった!!




 また何か聞かれる前に……と、私は急いで部屋の中からつながっている隣の個室へ向かった。棚には本がたくさんあり、この個室は資料室のようなものなのだろう。

 待たせては失礼だからと、急いで下位使用人の服を脱いでシャツを着る。




 うわ! 服の生地が全然違う!




 スルッと滑らかで着心地の良い生地。心なしかいい匂いまでしてる気がする。テンション高く着替えをしていた私だけど、すぐに喜びは焦りに変わってしまった。

 服が想像以上にブカブカだったのだ。




 こ、これは……! なんて不恰好!




 袖を何回か捲って長さを調整したけれど、手首と足首部分にボテッと膨らんだ服がなんとも格好悪い。本来ならピシッと皺なく着るはずの服なのに、上も下も皺だらけ。

 でも、もうこれ以上どうにもできないのだから仕方ない。



「お、お待たせしました……」



 そう言って部屋から出てきた私に、2人の視線が集中する。

 一瞬2人が真顔で固まった──と思った途端、レナルド様が「ぶはっ!!」と吹き出した。



「そ……それは……ひ、ひどすぎる……だろ……」



 さっきは肩を震わせる程度の笑いだったけど、今はもう我慢できないらしい。思いっきり笑いながら机をドンドンと叩いている。




 笑われるとは予想してたけど、まさかこんなに笑われるなんて……。




 意外なことに、冷酷と言われているアルフォンス様ですら私から顔をそらして口元を押さえている。レナルド様ほど大笑いはしていないものの、こちらも肩が震えているのできっと笑っているのだろう。




 まぁ、無理もないか。貴族なら、いつも体型にあった服を着てきただろうし。こんなブカブカな格好をした人なんて、初めて見たのかもしれないな。それにしても恥ずかしい……。




「今日……身体のサイズを……全部測って……もらえ」



 まだ笑いのおさまらないレナルド様は、できるだけ私を見ないようにしてそう言った。

 アルフォンス様はもう大丈夫らしく肩を震わせてはいないけど、私から視線は外したままだ。



「はい。わかりまし…………えっ!? 身体のサイズを測る!?」




 そんなことをしたら、女だってバレちゃう!!




「あのあの、僕はこのままでも大丈夫ですし、わざわざ測らなくとももっと小さいサイズの服があればそれで──」


「遠慮するな。どっちにしろ、ドレスを作るのにサイズは測らないといけないからな」


「ドレスを作る!?」


「女性に見えるように工夫されたドレスが必要だろう?」



 

 ドレス!? そうか。女装するんだから、ドレスが必要なんだよね。えっ、どうしよう! そこまでちゃんと考えてなかった!




 一気に入ってきた情報で、私の頭の中は真っ白だ。

 自分がサイズを測られているところを想像すると、背筋がゾッとしてしまう。さすがにその状況だと女だってすぐにバレる。



「ノエルに妻のフリをさせると報告したら、母が口の固いデザイナーを呼ぶと言ってくれた。男だと知られては困るからな」


「え……奥様が呼んだデザイナー……ですか?」


「ああ。女性らしいから、本邸ではなく別邸でやってもらう。午後になったら別邸に行ってくれ」


「わかりました」




 あああーーよかった!!

 奥様がすでに動いてくれてたんだ!




「おい」


「はっ、はいっ」



 ホッと安心した瞬間、アルフォンス様に肩をガシッと掴まれた。



「そんな格好で本邸をあまり出歩くなよ。お前の今日の仕事は、本の整理だ」


「はい! ……あの、本、とはどちらの……」


「さっき着替えた部屋に、たくさん本があっただろ? あの本を、年代順に並べるんだ」


「年代順に……」



 説明をしながら、アルフォンス様は先ほどの個室の中に入っていく。そして分厚い本が並んだ棚の前でピタリと止まる。



「文字は読めるか?」


「は、はい。難しい言葉でなければ」


「それなら問題ない。これはヴィトリー公爵家の過去の業務に関する資料だ。参考によく確認するのだが、見ての通り年代や業務の内容もバラバラに保管されている」


「本当だ……。これでは探すのも一苦労ですね」


「ああ。いつも俺が探しているが、とにかく面倒極まりない」



 アルフォンス様は、メガネの位置を直すようにクイッと動かす。クールそうに見えて、不快な顔がそのまま全面に出てしまっている。




 そんなに面倒なら、自分で整理すればいいのに……。




「今、『そんなに面倒なら自分でやればいいのに』とか思っただろう?」



 ギクッ




 何この人!? 人の心が読めるの!?




「いえ。まさか、そんな……あはは」


「はぁーー。俺だって何度も直したさ。だがな、あいつがすぐにまたバラバラにするんだ」


「あいつ?」


「レナルドに決まってるだろ。あいつは仕事もできるし要領もいいが、こういうところは壊滅的に適当な男なんだ」


「…………」



 容姿端麗で、若くして出世した令嬢達の憧れの的──レナルド様の意外な一面に、プッと吹き出しそうになってしまった。

 可愛い……と思うのは失礼かな。

 


「わかりました。今日はここで本の整理をしてますね」


「ああ。何か不明な点があったら聞け」


「はい」



 それだけ言うと、アルフォンス様は資料室から出ていった。




 少し怖いけど、なんだかんだ面倒見てくれるところはトーマに似てるかも。




 クスッと1人で微笑むと、私は早速本の整理を開始した。



ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


ブクマ、ポイントを入れてくださった方々、ありがとうございます。

応援していただき嬉しいです。


完結まで毎日投稿する予定ですので、よろしくお願いいたします✩︎⡱

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