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5 なぜここにレナルド様が!?


「聞いたわ。ノエル、レナルドと結婚するんですって?」


「ゴフォッ!!!」



 優雅で優しいレナルド様の母──奥様とのお茶の場で、思いっきりお茶を噴き出してしまった。

 奥様は軽蔑する様子もなく、ニコニコと私を見つめている。



「け、結婚じゃありません。フリです。妻のフリを……」


「うふふ。わかっているわ。ちょっとからかったのよ」


「からか……!?」



 あんなにレナルド様に女であることがバレないように──と言っていたのは奥様なのに、この状況に焦っているどころか少し楽しそうに見える。



 

 あれ? 反対して……ないの?



「あの、いいのですか? あんなにレナルド様には近づかないようにって……」


「いいのよ。だって、目の前で話したのに全く気づかなかったっていうじゃない? 最近……いえ。前から薄々思ってはいたんだけど、うちの息子はどうやらとーーっても鈍いみたい」



 ふふっと微笑む奥様は、50歳手前とは思えないほどに美しく可愛らしい。



「私としては、本当はあなた達には仲良くしてほしかったのよ。だから、正直2人が並んでいる姿を見られるのは嬉しいわ。しかもノエルの女装姿で」


「女装……」


「ふふふっ。女性とは知らず、女装してくれって頼むなんて……本当にあの子は……っ」



 奥様は口元に手をあてて、肩を震わせながら上品に笑っている。

 ツボに入ってしまったらしく、しばらく笑い続けている奥様からはレナルド様に対する愛情を感じられた。




 うーーん。まさかこんなにあっさりと賛成されるとは……。報酬とご飯に目が眩んだものの、本当に大丈夫なのか心配でもあったんだよね。




「大丈夫……でしょうか?」


「きっと大丈夫よ。ノエルなら」


「?」



 意味深な笑顔でニコッと微笑む奥様に、私も口元を少しヒクヒクさせながら笑顔を返す。

 不自然な私の笑顔がおもしろかったのか、奥様はまた肩を震わせていた。




 私なら大丈夫って、どういう意味だろう? 私なら女に見えないから平気ってこと? それとも、万が一女だとバレても平気ってこと?




 昨日、本当に憂鬱そうに王女との結婚話をしていたレナルド様の姿を思い出す。




 ──うん。平気なわけない。女だってバレたら、即追い出されるはず。……気をつけなきゃ。









「で、どうだった?」



 奥様のところから戻ってきてすぐ、トーマに詰め寄られてしまった。

 元々怒っているような無骨な顔をしているトーマだけど、今はさらに恐ろしい顔をしている。睨まれただけで石にされてしまいそうだ。




 こ、こわっ。正直に言ったらもっと怒りそう……。

 だけど言わなきゃだよね。




「え、と。奥様は賛成してる……みたい」


「はあ!? 本気か!?」



 トーマは理解不能といった感情をそのまま顔に出し、ひどく眉を歪ませた。




 やっぱり怒った!

 もーーなんでこの件でこんなに怒るの?


 


「まぁ、もう覚悟を決めるしかないね。でも奥様もノエルなら大丈夫って言ってくださったし、きっと大丈──」



 そこまで言った時、ガシッとトーマに両方の二の腕を掴まれる。

 顔を上げると、真剣な表情のトーマと近い距離で目が合った。ここまで顔を近づけたのは、子どもの頃以来かもしれない。



「なんでそんなに呑気なんだよ! バレたら追い出されるんだぞ!? いいのかよ!?」


「……トーマ。もしかして、怒ってるんじゃなくて心配してくれてるの?」


「はあ? 俺がいつ怒ったんだよ」




 え。無自覚? これで怒ってないっていうの?

 ……まぁそれでこそ、世話焼きのトーマね。




 最近ここまで怒鳴られることがなかったから驚いたけど、心配してもらってるというのは嬉しいことだ。

 私はふぅと小さなため息をついてから、ニッコリと微笑んだ。



「大丈夫! 僕だってここから離れる気はないし、絶対にバレないようにするから! ねっ?」


「…………」


「僕を信用してよ」


「…………はぁーー」



 胡散臭そうな目で私を見下ろしていたトーマは、急に深いため息をついて私から離れた。

 さっきまでの勢いがなくなって、今は疲れ切ったように暗くなっている。



「トーマ?」


「悪い。お前が今さら断れないことなんてわかってるのに。……本当に気をつけろよ。さっきみたいな笑顔は絶対にレナルド様に見せたらダメだ」


「は?」



 そう言うなり、トーマは仕事の続き──シーツをジャブジャブと洗い出した。

 昨日に引き続き私達は今日も洗濯係なのだ。




 笑顔を見せたらダメ? なんで?




 聞きたかったけど、今は我慢して私も洗濯を手伝うことにした。奥様のところに行っていた分、急いでやらないと終わらない。

 しばらく無言で洗濯を続ける私とトーマ。




 やっぱり連続で洗濯係はキツいなぁ〜。手が真っ赤だ。でも、あと少し──。




 そう思って最後の洗濯物に手を伸ばした時、パシッと突然誰かに腕を掴まれた。

 目の前にいるトーマが、私の横に視線を向けたまま固まっているのが見える。



「ノエル」


「……レナルド様!?」



 振り向くと、そこにはレナルド様がいた。

 私の腕を掴んでいるのは、間違いなくあのレナルド様だ。



「ど、どうしてこちらに──」


「ノエルに話があって来たのだが、何をしているんだ?」


「え? えっと……せ、洗濯を……」




 何? 何? なんでここにレナルド様がいるの?




「洗濯? ……手が真っ赤ではないか」



 レナルド様は眉を寄せて、私の手をジロジロと見たりベタベタと触っては肌の荒れを確認している。

 



 ちょっと……こんなに男の人に手を触られたことがないから、き、緊張しちゃう! それに、あんまり触られると女の手だってバレちゃう!




 トーマも同じ心配をしているのか、どこか不機嫌そうにレナルド様を細い目で見ている。

 そんなに睨みつけていいのかとハラハラするけど、レナルド様は私の手しか見ていないので気づいていない。



「仮にも俺の妻の手が荒れていてはおかしいだろう。違う仕事に代わってもらえ」


「ですが……他の仕事も手を使います」


「何? 手を酷使しない仕事はないのか?」


「他は、お皿洗いに床や窓の拭き掃除、庭の草むしりに生ゴミの処理……」


「…………」




 えーーっと。どうしよう。手を使わない仕事なんてないんだけど、この中だとどれが1番いいのかな…………って、ん? なんか、レナルド様がポカンとした顔で見てるんだけど……何?


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