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【配信記念番外編】トーマの勘違い(トーマ視点)

こちらは本編38話に書かれなかった宿でのお話です。


トーマ視点でお楽しみください✩︎⡱


本編最終話の後書きに各キャラのイラストを載せておりますので、そちらを確認してから読んでいただくとより楽しめるかと思います。


 ……もっとゆっくり来るんだった。



 

 荷物を持って外に出た俺は、馬車の前に立っているレナルド様とアルフォンス様を見て心の底から後悔した。


 ノエルを迎えに来たレナルド様に言われ屋敷に戻ることになったわけだが、荷物を取りに一度宿に戻ってきたのだ。

 ほぼカバンから荷物を出していなかった俺は、ノエルよりも先に外に出てきてしまった。



「お、早いな。トーマ」


「……はい」



 俺に気づいたレナルド様が明るく声をかけてくる。

 ノエルの言っていた通り、優しく話しやすい人のようだ。




 だからといって、今1番話したくない相手と笑顔で会話する気なんてないけどな!




 ついさっき、俺は失恋した。

 長年の想いを伝えることのないまま、ノエルは目の前にいるこのレナルド様と結ばれてしまったのだ。


 どこか覚悟ができていたからそこまでショックを受けてはいないが、すぐに明るく話せるほど何も感じていないわけじゃない。




 くそっ……勢いあまって店からここまで同じ馬車に乗っちまったけど、別に来ればよかった!

 帰りは絶対別々に帰ってやる!




 すぐに「じゃあ失礼します」と言ってこの場を離れたいが、3人が行くのを見送ってから出るべきだろう。

 つまりはノエルが来るまでここで待ってなきゃいけないってことだ。




 ノエル! 早く来い!




 そう心の中で叫んでいると、レナルド様が俺に近づいてきた。

 ノエルのいない間に話したいことがあるのか、宿の入口をチラッと見てノエルが来ていないかを確認している。



「トーマ。ノエルの雷嫌いはいつからだか知っているか?」


「…………はい?」




 ノエルの雷嫌い? なんのことだ?




 突然の意味不明な質問に、少し失礼な返しをしてしまった。

 でもまったく心当たりのない質問をされたんだから、そんな反応になるのも当然だ。



「原因がわかれば何か怖くなくなる対策ができるんじゃないかって思っているんだが、本人に聞くのは悪い気がしてな」



 

 雷が怖くなくなる対策?

 ……なんだ、それ。怖いどころか、あいつは昔から雷雨の中だって普通に走れるような女だぞ?




 レナルド様はその件を本気で心配しているらしく、眉を下げて真面目に問いかけてくる。ここまで信じきった様子を見る限り、ノエル本人が雷が怖いとレナルド様に伝えたんだろう。




 なんでそんな嘘を……。

 まさか、弱い女のフリして雷が苦手だって言ったのか?

 

 ……あのノエルが?




 世の中には裏表が激しく、好みの男の前では自分を偽る女もいると聞いたことがある。自分を可愛く見せるために弱いフリをしたり声の高さを変えたりするらしい。


 だけどノエルはそんなタイプの女じゃないし、どうにも結びつかない。




 あいつ、俺たちの前じゃそんなことしなかったけど、レナルド様の前だけは自分を可愛く見せようとしたのか……?




 ノエルにもそんな一面があったのかと驚きながらも、俺への態度と違いすぎて正直イラッとする。

 ノエルは雷なんか余裕な女ですよ、と言ってやりたいのを我慢して、ここは話を合わせてやることにした。




 可愛い女のフリとか似合わねーことしやがって!

 めんどくせーな! ったく!




「あーー……いつから……だったかな」


「そうか。原因も知らないか? 苦手になったきっかけとか」


「覚えて……ません、ね」




 くそっ!! 俺は嘘が苦手だっていうのに……!




 アルフォンス様は俺の嘘を見破っているのか、何かを察したような顔で俺を見ている。でもそれをレナルド様に伝える気はないらしい。

 なぜかずっと黙ってくれている。


 反対に俺の言葉を信じているレナルド様は、困った顔で腕を組んだ。



「そうか……。雷で腹が痛くなるなんて初めて聞いたが、いったい何が原因なんだろうな」




 は?




 思わずレナルド様に向かってそう言ってしまうところだった。

 なんとか喉元で言葉を止めて、落ち着いて聞き返す。



「ノエル、雷が鳴ると腹が痛くなるって言ってたんですか?」


「ああ。……あまり人に言わないようにしてたのか?」


「いえ。そんなことは……」




 なんっだそれ!?

 雷が鳴ったら腹が痛くなる!?

 それのどこが可愛い女なんだよ!?




 弱く可愛い女を演じたいのであれば、ただ雷が怖いと言えばいいはずだ。

 そこで腹が痛くなると言ってなんのアピールになるというんだ。




 ……バカか、あいつは!?

 それで弱い女のフリをしたつもりか?


 あ。まさか、弱いって精神的にじゃなくて肉体的に弱く……!? いやいや。だとしてもそれで『可愛い女』には結びつかないだろ!


 ……でもレナルド様はこんなに心配してるし、弱い女のフリは一応成功してるのか?




「あの……ノエルはそんなに腹を痛がってたんですか?」


「ん? ああ。顔を真っ青にしてげっそりとやつれて、まるで幽霊みたいに精気をなくしてたぞ」


「…………」




 弱くなりすぎだろ!?

 そこまで弱まったら可愛さ通り越してただの病人じゃねーか!


 あ。だからこんなに心配されてんのか。……ってそれじゃ失敗じゃねーか!!




 頭の中でノエルへのツッコミが止まらない。

 男を射止めるための作戦をことごとく理解していないノエルに呆れてしまう。




 まぁ……それでこそノエルか。




 それに、その作戦が成功か失敗かは今となってはどうでもいいんだ。

 結局ノエルはレナルド様に選んでもらえたんだから。



「お待たせしました! 遅くなってすみません!」



 大きい荷物を持ちながら、ノエルがバタバタと急ぎ足で宿から出てくる。

 荷物を持とうと足がノエルに向いた瞬間、俺よりも早くレナルド様がノエルのもとに駆け寄っていた。



「あっ! レナルド様、大丈夫です! 自分で持てますから!」


「馬車に運ぶだけだからそんなに気にするな」


「ですが……!」



 ノエルの荷物を軽々と持ち上げたレナルド様と、それを申し訳なさそうな顔で見守るノエル。

 一見まだ雇用人と使用人の間柄に見えるが、レナルド様からノエルに向けられた瞳からは深い愛情しか感じない。



「帰りも同じ馬車に乗って帰るか?」


「っ!?」



 ボーーッと2人を見ていたからか、アルフォンス様が俺のすぐ横に来ていることにまったく気づかなかった。

 


 

 び、びっくりした……。気配なかったぞ!?




「……いえ。帰りは別で帰ります」


「そうか。まぁ……あんな状態の2人と一緒なのは色々ときついだろう」


「…………」

 



 さっきも思ったけど、なんでこの人会ったばかりの俺の気持ちを知ってんだ!?




 アルフォンス様に不審な目を向けていると、会話が聞こえたらしいノエルとレナルド様が話に入ってきた。



「トーマ。なぜ一緒に帰らないんだ? 遠慮せず馬車に乗ってくれ」


「いえ。俺は乗合馬車で帰ります」


「えっ、じゃあ私もそれで一緒に帰るよ!」


「ダメだ!」



 俺と同時にレナルド様も声を発した。

 2人に反対されて、ノエルがビクッと肩を震わせる。




 こんな状態で2人で帰ったらレナルド様に対して気まずいじゃねーか!




 俺とは違う理由で反対したらしいレナルド様は、ノエルに「そんな格好で街をうろついたら誘拐されるだろう!?」と真剣な顔で言っている。

 すぐ近くで心底呆れた目をしているアルフォンス様には気づいていないようだ。


 自分は別で帰れないと察したノエルが、申し訳なさそうに俺を見た。



「トーマ……本当に大丈夫なの?」


「ああ。だからノエルはこの馬車で帰れ」


「トーマも気にせず乗ってくれていいんだぞ?」


「大丈夫です。1人で帰れますので」



 心から俺を心配するような顔でジッと見てくるノエルとレナルド様。

 人の良さは2人ともそっくりのようだ。……鈍いところも。




 今はあんたたちと同じ空間にいたくないんだよ!

 頼むから気づいてくれ! ……いや。気づかなくていいけど。




 

 俺たちの様子を見てたアルフォンス様が、ため息まじりに助け舟を出してくれる。



「トーマ本人がこう言っているんだしいいだろう。それより早く帰るぞ」



 よほど信頼されているのか、アルフォンス様の言葉を聞くなりノエルもレナルド様もすんなり引いてくれた。

 3人が出発するのを見送ってから俺も街に向かって歩き出す。



「はぁ……。屋敷に戻ったらみんな色々と驚くだろうな……」



 めんどくせーなと思いながら、ポツリとそう呟いた。



お読みくださりありがとうございました。


本日、こちら『女嫌いの公爵子息に「女装して妻のフリをしてくれ」と頼まれましたが、私は男装中の女です!』の電子書籍が配信されました✩︎⡱


✿︎電子書籍1、2巻同時配信!

こちらweb版より5万字ほど書き下ろししています!

今回とは違うトーマ視点や、その後の2人など読めます。


✿︎コミカライズ1〜3話同時配信!

コミカライズも同時に配信しています。

とても素敵な漫画にしていただいてるので、ぜひこちらも読んでいただけると嬉しいです。


菜々


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