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4 ここぞという時に女装するだけ、ですね?


 女装というのも引っかかるけど、その前に『妻のフリ』とはいったいどういうことなのか。

 それを尋ねると、レナルド様は青い顔で経緯を説明してくれた。



「実は、俺に他国の王女との結婚話が上がってきているんだ」


「他国の王女……ですか?」



 さすが優秀な公爵子息様!

 他国の王女様との縁談話がくるなんてすごい!

 ……と褒めてはいけないんだろうなとわかるくらい、レナルド様の顔は本気で憂鬱そうだ。



「以前交流パーティーで知り合った方なんだが、そんな話がきてしまったらしい。殿下からも、余程の理由がない限りは断れないと言われている」



 まぁ……それはそうでしょうねぇ。



「だが、ノエルも知っているとは思うが俺は女性が苦手なんだ。契約結婚ならできないこともないが、愛したり触れることはできないだろう」



 ……女嫌いって知ってはいたけど、そんなにひどい状態なんだ。



「お互い契約結婚で納得しているのならともかく、相手は俺との恋愛結婚を望んでいる──らしい」



 わざわざ他国の公爵子息に求婚するくらいだもん。きっと、その王女様はレナルド様に惚れちゃったのね。

 それならむこうも愛を求めちゃうよね。



「それは……本当に無理なんだ。まともに目を見ることすらできないのに、愛するなど……。そこで、すでに結婚していたということにしようと思っている」



 なるほど! それで妻のフリってことか。でも、それなら──。



「それなら、何も男に女装させなくても誰か女性に協力していただいては?」


「それも考えたが、やはり若い女性をこの屋敷に入れることに拒否感が出てしまうんだ」



 ギクッ




 い、今、目の前にいます! ごめんなさい!!

 でも、どうやら本物の女だとはバレてなさそう。




「だから、ノエル。君しかいない。ここぞという時にだけ、妻として人前に出てくれればいい。家にいる間はもちろん女装なんてしなくていいし──」



 うう。そんなこと言われても……。



「食事は、俺の妻としていい物を用意させるし──」



 えっ? あの豪華料理を食べれるってこと?



「報酬は、今支払っている金額の倍払おう」



 えっ!? 倍!? 

 今でも多く貰ってると思うのに、その倍!?

 それだけ貰えたら……ここを辞めることになった後のお金を十分に貯められる……。



「どうだ? ノエル」



 いざという時にだけ、女装するだけ。それだけで、あの美味しいご飯が食べられる……!!

 いざという時女装するだけ! それでこの高待遇!


 ……大丈夫だよね?

 これだけ近くで見られても話しててもバレてないんだし。




「わかりました」


「ありがとう、ノエル!」



 パアッと眩しい笑顔でお礼を言ってくるレナルド様。

 この笑顔を見たら、一度しか会っていない王女から求婚されるのにも納得してしまう。




 思っていたよりも素敵な方だなぁ。

 こんな下位使用人相手に交渉してくれたり、さらにはお礼を言ってくれるなんて。




「これから色々と詳しく決めるから、用ができたらまた呼ぼう」


「はい。では、失礼します」



 ペコッとお辞儀をして部屋から出ると、トーマとバルテルが私を待っていた。

 どうやらずっと部屋の前で待機していたようだ。



「あれっ。2人ともまだここに──」



 ガシッ


 そう話す私の言葉を遮り、トーマはすごい勢いで私の腕を掴むとその場から走り出した。バルテルが後をついてくる。



「ちょっ……トーマ! 何!?」


「…………」



 トーマは無視して足を止めることなく走り続ける。

 助けを求めてバルテルに視線を向けると、肩をすくめられただけだった。俺にも止められない──という意味だ。



 

 何!? どうしたのよ!?




 やっとトーマの足が止まったのは、いつも洗濯をしている屋敷の裏庭だった。

 


「ゼェ……ハァ……もう……な、なんなの……」



 怒りたいのに怒る気力がない。トーマに合わせた全力疾走のせいで、息切れ中だ。

 必死に息を整えている私に、余裕そうなトーマが詰め寄ってきた。



「おい! 女装して妻のフリしろって言われたって、本当か!?」


「は……? 本当……だけど」


「それで!? お前まさか、了承したんじゃないよな?」


「…………したよ」


「はああ!?」



 なんでこんなに怒ってるの?

 乱暴に連れてこられて、怒りたいのは私のほうなんですけど。



「なんで断らなかったんだ? 女だってバレるかもしれないんだぞ?」



 トーマみたく怒っているわけじゃなく、心配そうな顔のバルテルに尋ねられる。



「だって、話を聞いたらレナルド様本当に困ってたし。それに、近くで話したけど僕のこと女だって全然気づいてなかったから、大丈夫かなって……」


「だからって……!」


「トーマ、落ち着け。それで、妻のフリって何をするんだ?」


「なんか、ここぞという時に人前に出てくれればいいって。そんなに長い時間一緒にいるわけでもなさそうだし、大丈夫だよ」



 そんな私の説明を聞いて、トーマは「ちっ」と舌打ちをしてプイッと顔をそらしてしまった。かなり苛立っているようだ。

 バルテルは、真剣な顔で「変なことをされるわけじゃなさそうだな……」などと呟いている。



「とりあえず、僕は奥様のところに行って話をしてくるよ。もし奥様に反対されたら、断るしかないし」


 

 普通であれば、下位使用人が自分から奥様に話しかけに行くことなどできない。

 でも私は奥様の親友の娘として可愛がってもらっていたから、特別に許可されているのだ。



「そうか。奥様なら反対してくれそうだな」



 バルテルはそう返してくれたけど、トーマはまだ無視したままだ。

 なんでこの件でここまでトーマが怒る必要があるのかわからない。



「もう! たとえ危険だとしても、直接頼まれちゃったんだもん。雑用の僕が断れるわけないでしょ。そんなに怒んないでよトーマ」


「奥様がなんとかしてくれることを願うしかないな」



 それだけ言うと、トーマはスタスタと行ってしまった。

 一体なんなの……。



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