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28 レナルド視点③


 屋敷を出た頃はまだ小雨だったが、途中から雨が激しくなってきた。

 騎士が天候の悪い日に着るこのコートを羽織っていなければ、今頃びしょ濡れで熱を上げていたことだろう。


 薬草畑にはノエルの姿がなかった。

 奥にあるハウスが目につき、そちらへ急ぐ。扉を開けて中に入ると、歌声が聞こえてきた。



「……ザーーザーー降るよ〜〜! は〜〜やくやめやめ雨よやめ〜〜♪」




 ……なんだ、この歌は。




 声ですぐにノエルだと気づく。

 元気そうな様子にホッと一安心しながら、声のするほうへと近づいていく。



「く〜〜すり〜〜のぉ実ぃ〜〜はぁ〜〜♪ あ〜〜め〜〜に〜〜弱い〜〜♪」




 ぶはっ


 思わず吹き出してしまったが、ノエルはまだ気づいていないようだ。大声で歌っていることから、きっと1人だと思い込んでいるのだろう。




 本当におもしろいヤツだな。




 自然と顔が綻んでしまう。

 ノエルといると、飽きないし楽しい。こんなに笑顔で過ごすことはなかった。その姿を見るだけで、声を聞くだけで、心が温かくなる。……不思議だ。


 俺はそっと後ろからノエルに声をかけた。









 誰にも言わず、熱もある状態でここまで来たことで、ノエルに呆れられてしまった。

 それもそうだろう。冷静に考えると、自分でもなぜそんな勝手な行動に出たのか謎である。




 帰ったらアルに怒られるだろうな。




 アルや他の使用人に心配をかけているかもしれないと思うと罪悪感が湧くが、後悔はしていない。こんな薄暗いハウスの中で、ノエルを1人にしなくて済んだという安心感のほうが強いからだ。

 ……男相手に過保護な考え方だろうか。




 それにしても、やはり無理をしすぎたかもしれない……。体が重い……。




 だんだんと目の前がぼやけて、頭がクラクラしてくる。

 これはかなり熱が上がってしまっていることだろう。早く薬を飲まなくては、意識を失ってしまうかも──。



「あっ」


「どうしました?」


「薬! ノエル、バロラ熱に効く薬は取れたのか?」


「取れましたよ。この紫色の実がそうです」



 ノエルが籠の中から小さな紫色の実を取り出して見せてくれる。



「飲む!」


「ええっ!? このままですか!?」


「そのまま食べていいんじゃないのか?」


「わかりません。調合が必要かも……」


「毒ではないのだから、そのまま飲んでも問題ないだろう」


「あっ!」



 戸惑っているノエルの手から実を奪うと、俺はそれを口の中に入れてゴクッと飲み込んだ。ノエルが真っ青な顔をしている。



「だ、大丈夫ですか!? どこかおかしいところはないですか?」


「特には……ただ……眠いから少し寝る」


「へっ!?」



 もう限界だ。少しだけ横になりたい。

 俺は座っていたベンチにそのまま倒れ込むなり、すぐに意識を失った。







「……ん……」



 目が覚めると、やけに頭や体がスッキリしていることに気づいた。

 ズキズキと痛んでいた頭や、重くだるかった体がとても軽い。




 熱が下がったのか……?




 横になっていた体を起こすと、自分の頭があった部分に布が置いてあった。ノエルの上着だ。きっと、枕代わりに置いてくれたのだろう。

 しかし、そのノエルの姿が見当たらない。



「ノエル?」



 立ち上がって探し回ると、ハウスの入口付近で寝ているノエルを見つけた。扉に寄りかかり、地面に座ったままの状態で寝ている。

 窓から外を見ると、空に少しだけ明るさが戻り土砂降りだった雨が弱くなっていた。これなら屋敷に戻れそうだ。




 ノエルを起こすか? もう少し寝かせてもいいが、早く戻ったほうがいいだろうし……。




「クシュッ」


「!」



 そんなことを考えていると、ノエルがくしゃみをして体をブルッと震わせた。上着を俺の枕にしてしまったせいで、風邪をひいてしまったのかもしれない。




 やはり起こしてすぐに屋敷に連れて行かないと!




「ノエル、起き……」



 そう言ってノエルの肩に手を置くと、ピクッと反応したノエルが俺の胸にくっついてきた。温もりを感じての行動だろう──が、突然抱きつかれて心臓がドキッと跳ね上がる。



「ノッ、ノエル!?」


「んんーー……」



 起きる気配のないノエルは、なぜか俺の胸に頭をグリグリと押し付けてくる。




 なっ、なんだ!? 寝ぼけているだけか!?




 ノエルの行動にも驚くが、それ以上にドクドクと激しい自分の鼓動の速さにも驚いてしまう。緊張で、体が硬直する。熱は下がったはずなのに、また一気に体温が上昇してしまったようだ。



 

 なんでこんなに緊張する!?

 相手は男だぞ!? まだ13歳の子どもだぞ!?




 まるで自分がおかしくなってしまったのではないかという不安が押し寄せてくる。

 緊張と動揺、そしてなんとも言えない不安に襲われパニックになりかけた時、ノエルの頭に違和感を覚えた。


 ノエルがグリグリと頭を動かしているが、髪の毛がその動きに合っていない。




 ……なんだ?




 そっとノエルの髪に触れると、短い茶色の髪がズルッと取れた。



「!?!?」



 ボフッと地面に落ちた髪の毛。

 そして──ふわっと広がった、薄紫色の長い髪の毛……。



「…………は?」



 この髪は見たことがある。

 王宮に行った日。ノエルが女装をした日。ウイッグだと言って、ノエルが被っていた髪だ。




 なんであのウイッグがここに……?

 と、いうよりも……これは……。




 ノエルの髪の毛に指を通し、頭皮に触れる。間違いなく、この薄紫色の髪はノエルの頭に生えていてウイッグではない。むしろ、今目の前で地面に落ちたこの茶色の短い髪がウイッグなのだ。




 どういうことだ……?

 ノエルの茶色の髪が、ウイッグだった? この薄紫色の髪が、本物……?




 抱きつかれた時とは違う、嫌な緊張感にまた鼓動が速くなったのを感じた。




 ノエルは普段からウイッグを被っていたということか? なぜ?

 

 ここまで髪を伸ばしているのを隠すため? なぜ?


 女装の時にこの髪を出したということは、今のノエルの姿を知っている者がいるということか? なぜ……なぜ隠している?




「まさか……」



 

 ノエルは本当は女……なのか?


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