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22 レナルド様が熱のせいで朦朧としているようです


「いいか、ノエル。とりあえず落ち着け」


「落ち着くのはアルフォンス様です。僕はレナルド様を着替えさせていただけで……」


「着替え!?」



 いつも冷静なアルフォンス様が、口元に手を当てて顔を青くしながら小さく叫んだ。まるで信じられないものを見るかのような怪しむ目が、メガネの奥から私を見据える。




 ちょっと。これ絶対、何か変な誤解をされてるよね?




 その時、ふとレナルド様が女性の使用人を一斉に解雇した時のことを思い出した。

 レナルド様を慕っていたメイドが、夜に寝室のベッドに潜り込んできた──という、あの事件を。




 ああっ! そっか! 今、まさにその状況に似てるんだ。だからアルフォンス様はこんなに取り乱して……!




「あの! これはお医者さんに頼まれて、ですね」


「まさかノエルまでレナルドに魅了されてしまうとは……」


「違いますっ!」


「……お前ら……うるざい……」


「あっ」



 必死に絞り出しましたとでも言わんばかりのガラガラ声に、私とアルフォンス様は言い合いをやめた。そちらに顔を向けると、呆れ顔のレナルド様と目が合う。




 しまった! 病人の前で大声出しちゃった。




「ごめんなさい」


「レナルド、大丈夫か?」



 扉の前で立っていたアルフォンス様がこちらに歩いてくる。

 レナルド様は起きあがろうと身体を動かしたが、先ほどの着替えで体力を全て使い切ったのだろう。途中で諦めてまたベッドに横になっていた。



「ああ……。……ノエルの言っだ通り、着替えざぜでもらっでだだげだ」


「そうか。変なことはされていないな?」


「アルフォンス様!?」




 ちょっと! どれだけ信用されていないの、私!?




 ジロッとアルフォンス様を睨みつけると、不思議そうにレナルド様が尋ねてきた。



「……ノエルは男なのに、何をぞんなに心配じでいるんだ?」


「あ……」



 ハッとして私とアルフォンス様が固まる。

 私達は私が女だとわかった上での会話をしていたけど、レナルド様にとったら私は男なのだから会話に違和感を覚えたのだろう。




 たしかに、男が男の着替えを手伝ってるだけなのに、あの反応はおかしいよね。




「なんでもないですよ。それより、もう僕は出て行きますのでゆっくり休んでくださいね」




 

 ここは早めに話を切り上げて、部屋から出よう。

 レナルド様だってゆっくり眠りたいはずだもんね。




 そう言ってベッドから離れようとした時、ガシッと手首をつかまれた。




 え!?




「レ……レナルド様?」


「もう行ぐのか?」


「え、ええ。ここにはアルフォンス様がいますし、僕は他の仕事を──」


「ノエルが……いでぐれ」




 ええっ!?




 普段のレナルド様らしからぬ甘えた発言に、耳を疑ってしまう。

 アルフォンス様も同じ気持ちなのか、メガネをクイッと動かしながらレナルド様と私を交互に見ている。



「あ、あの、でも……」


「アルよりも……ノエルのが……癒ざれる……から……」


「!!」




 癒されるって!! ええ!? この人、本当にレナルド様なの?




 瞳を潤わせながら見つめてくるレナルド様は、いつもの男らしい公爵子息の顔ではなく、まるで母親に甘える子どものように見える。

 弱々しい力で私の手首を握っているのも、その愛らしさを倍増させている。




 年上のレナルド様を可愛いと思ってしまうのは、失礼かな……。




 私にあったのかも疑わしい母性本能が疼いてしまう。

 こんなに求めてくれてるのなら、側にいてあげたい。



「アルフォンス様。僕がここに残ります」


「…………」



 まるで聖母にでもなったかのような気持ちでそう言った私を、アルフォンス様が軽蔑した目で見つめてきた。




 えっ? なんでそんな顔してるの?




 ベッドから少し離れた場所に移動したアルフォンス様は、手招きで私を呼んだ。

 早足で向かうと、ビシッと人差し指をさされ、極小さな声で文句を言われた。



「お前はちゃんと考えてから喋っているのか!? 長時間、男の寝室に2人きりでいるつもりか?」


「あ……。で、でも! レナルド様は僕を男だと思っているし、大丈夫です!」


「あいつは今、熱で朦朧としているんだ。さっきだって変なことを口走っていたし、何をするかわからないぞ」


「そんな。いくらなんでも、病人のレナルド様をそこまで警戒すること……」


「お前はもっと危機感を持て!」



 コソコソと言い合いをしている私達を、ベッドから不思議そうに見ているレナルド様が目に入る。そのどこか寂しそうな表情に、またなけなしの母性本能が疼く。




 たしかに男性の寝室で2人きりなのはよくないけど、私は今は男だし。相手は病人だし。なんでこんなに反対するの?




「アルフォンス様、どうしてそこまで反対するのですか? 僕がここにいたほうが、アルフォンス様は別の仕事ができて効率がいいではないですか」


「…………!」




 そうだ。普段のアルフォンス様なら、きっとその選択肢を取るはず。レナルド様が倒れてしまった今、代わりに仕事を進められるのはアルフォンス様しかいないんだから。

 私にこの場を任せて、自分は仕事に戻る──いつものアルフォンス様だったら、絶対にそうしたと思うのに……なんで?




 私に問いかけられたアルフォンス様は、何も答えずに黙ってしまった。

 なぜかやけに悔しそうな顔をしている。責められているような雰囲気だけど、どうしてそんな不機嫌なのかもよくわからない。

 


「……たしかに、その通りだな」


「えっ」



 絶対に納得してないであろう顔をしているのに、アルフォンス様はそうボソッと呟いた。



「じゃあ、ノエルはここでレナルドの看護をしてやってくれ。夜は誰かに交代してもらう」


「……わかりました」




 本当に納得してくれた……のかな?

 なんだかすごく落ち込んだ様子で行ってしまったけど……。



 

 トボトボと出ていくアルフォンス様の後ろ姿を見送ってから、私はレナルド様のもとに戻った。



「あの……では、昼間は僕がここにいますね」


「ああ。ありがどう」



 弱々しく笑うレナルド様の笑顔に、ドキッと心臓が大きく反応する。

 



 なんで……こんなに緊張してるんだろう? それなのに、全然嫌じゃない。……不思議。




「え、と。薬! 薬をまだ飲んでいなかったので、飲みましょう」


「ああ……」



 起きあがろうとするレナルド様の背中を支えようと手が触れた瞬間、またもや心臓が激しく跳ねた。思わず手を離してしまいそうになったけど、なんとかこらえる。




 何やってるの! ここで背中を離したら、レナルド様が倒れちゃうじゃない! ノエル、しっかりして!




 頭の中で自分に喝を入れて、医者が置いていった薬をレナルド様に渡す。

 すぐに水を入れたコップも手渡すと、レナルド様はゴクッとそれを飲み込んだ。




 これで熱が下がってくれるといいけど……。




 新しいタオルや水を用意している間に、レナルド様は眠りに落ちていたようだ。少し苦しそうではあるけど、すやすやと眠っている。

 ずっと感じていた緊張がなくなったと共に、どっと疲れが出た。




 はぁ……なんでレナルド様が起きているだけで、こんなにドキドキしちゃうんだろう……。ほんと疲れる……。




 色々な準備を整えた私は、ベッドから少し離れた場所にあるソファに座った。

 レナルド様が目を覚ますまで、ここで休ませてもらおう。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回はアルフォンス視点です。


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