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13 初めてドレスを着たけど……どうかな?


「こ……これが私……?」



 鏡の前に立っている私は、目の前にいる綺麗な人を見てそう呟いた。


 男装する前の、平民の自分じゃない。

 雑用の格好をしていた自分じゃない。

 お付きの格好をしていた自分じゃない。




 このご令嬢は、本当に私なの?




 ただドレスを着ただけだというのに、貴族令嬢に見える。

 どこからどう見ても、可愛い女の子だ。──まぁ元々女の子なんですけど。



「ノエル、とっても可愛いわ。何度かドレスを着せようとしたことはあったけど、あなた嫌がっていたから……こうしてドレス姿が見られて嬉しい」



 奥様が顔をほころばせながら言う。

 たしかに昔から何度かドレスを着せたいと言われたことがあったけど、全部断っていた。

 いくら友人の娘とはいえ、使用人と雇用主の区別はつけたかったからだ。




 本当は着てみたかった……。これは仕事の一環としてだから、遠慮なく着られる! ちょっと……いや、かなり苦しいけど、それでも嬉しいっ。




「サイズもちょうど良さそうね。薄いブルーもとっても似合っているわ」


「ねぇ、カーミラ。髪型はどうしましょう? レナルドの好みはわからないのよ」


「そうねぇ。この綺麗な髪をそのまま見せたいとも思うし、アップでアレンジするのも捨てがたいわ」



 奥様2人が、私をジロジロと見ながらうーーんと唸ってしまった。

 話に混ざりたいけど、ドレスにはどんな髪型が合うか……なんて話に入っていけるわけがない。



「外で待機させている2人に、男の意見を聞いて見ましょう! ノエルをよく知ってる男性の感想も聞きたいわ」



 カーミラさんはそう言うなり、バルテルとトーマを呼びに行った。

 昔から知ってる2人に、ドレスを着た自分を見られるのはなんだか恥ずかしい。



「失礼いたします」



 頭を下げた状態の2人が、部屋に入ってくる。どうやら合図を出すまで頭を上げないように言われているらしい。

 カーミラさんが楽しそうに私を手招きしている。



「ノエル、ここに立って」


「はい……」


「では、2人とも顔を上げていいわよ」



 そう言われた瞬間、バルテルとトーマが顔を上げる。

 2人とも無表情とはほど遠いほど、顔全体で驚きを表現していた。



「ノ……ノエル……?」



 バルテルが指をプルプルと震わせながら、私を指している。

 同じように信じられないものでも見てるかのようなトーマは、口をポカンと大きく開けていた。




 何この反応? 変なの? おかしい?




「似合ってない?」


「い、いや……似合ってないどころか、その辺の女性より……あっ」



 不安な気持ちで尋ねると、バルテルは何かを言いかけて途中でやめてしまった。なぜか奥様やカーミラさんをチラッと確認している。

 奥様はそんなバルテルを見て、クスクスと笑いながら言った。



「大丈夫よ。本当にその通りだもの」




 ん? 本当にその通り? な、何が?




 奥様とバルテルの言ってることはよくわからないので、私はいまだ黙ったままのトーマに向き直った。

 遠慮なく言いたいことをズバッと言ってくれるトーマなら、ハッキリとした感想を言うはずだ。



「トーマ、どう? 私の女装、男から見ても大丈夫そうかな?」


「…………」



 いつも自分の意見をキッパリ言うトーマが、何も答えてくれない。

 初めは目が合っていたのに、だんだんと視線が横に流れていっている。見ていられないほど、今の私は変なのか。




 トーマがこんな反応するなんて……! 自分では素敵って思っちゃったけど、もしかして男目線ではおかしい!?




 自分にドレスが似合わないことは、この際どうでもいい。

 いや。どうでもよくはないけど。できるなら似合ってほしいけど、今は別にいい。

 今は……おかしな自分を妻として紹介しなければいけないレナルド様が心配だ。



「奥様……僕がレナルド様の妻役では、レナルド様の評判が落ちてしまうのでは……」


「あら。うふふ。ノエルってば、そんな心配はいらないわ」


「ですが……」



 チラッとトーマに視線を向ける。

 なぜか少しニヤニヤしたバルテルが、トーマの肩に腕をのせながら私に言った。



「大丈夫だよノエル! すげーー似合ってるから! トーマだってそう思ってるって!」


「本当に?」


「本当だって! ほら、お前も自分で言えよ」



 バルテルがトーマの背中を小突くと、ハッとしたトーマがやっと声を出した。



「…………悪くない」


「本当!?」



 トーマの言葉に、身体を前のめりにして反応する。

 なぜかトーマは私が近づいた途端に顔をプイッと背けてしまった。

 


「なんか、俺の時と反応が違うな」


「だってバルテルは優しさで嘘を言ってる可能性もあるし。トーマなら嘘つかないと思うから」


「なるほど」



 不満を口に出したバルテルが妙に納得してくれた。

 そんな私達のやり取りを見ていたカーミラさんが、ニコッと笑って会話に入ってくる。



「男性から見ても問題はないようね。ではこの形で作業を進めましょう。あとは髪型なのだけど、こんな感じで髪の上半分を上げて残りを垂らすのと──」



 カーミラさんが私の髪の毛を半分だけ持ち上げて、奥様とバルテルとトーマに見せる。



「こうやって全部上げてしまうのと──」



 今度は髪全部を持ち上げた。

 私を見ている3人は、真剣な表情で「うーーん」と唸っている。



「どっちもいいけど……個人的に、自分なら髪を全部上げているほうが好きです」


「バルテルはこっち派ね。では、トーマはどうかしら?」



 すでに2人の名前を覚えたらしいカーミラさんが、バルテルからトーマに視線を移す。

 トーマは気まずそうな顔で、ボソッと呟いた。



「……最初の、です」


「あらあら。意見が分かれちゃったわね」



 困ったような口ぶりだけど、カーミラさんも奥様もニコニコしてやけに楽しそうだ。こんな感じはどうかと、サイドで編み込んだり高い位置でまとめてみたりと私の髪の毛で遊び始めている。

 結局、髪型はまた後日改めて考えようということになった。

 


「ノエルのドレス姿、きっとレナルドも見たら驚くわ。ああ楽しみ」


「ガッカリしないでしょうか」


「大丈夫よ。これで女性は可愛いものなんだって感情に芽生えてくれるといいんだけど」



 そんな奥様の言葉を聞いて、やはり奥様としては息子の女嫌いを治したいんだなと感じた。




 それもそうだよね。この公爵家の跡取り問題もあるし、きっと本音は結婚してほしいって思ってるんだ。私のせいでより女嫌いになったりしないように、気をつけなくちゃ!




 そう心の中でグッと気合いを入れた。


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