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金の群の、箔と銭

敵さん初登場です。主人公は出てきません!


三途の川へ出ることのできる門。金の群に区分される付喪神、『箔』と『銭』が岩が転がり荒涼とした河原を川上に向かって歩いていきます。『箔』は長身で、『銭』は十かそこらの背丈。二人とも体全体を覆うような黒いローブを纏っており、フードの隙間の口元だけしか見えません。


箔がちらりと川岸に目を遣ります。三途の川の向こう岸には渡し船が。最近は風情なくフェリーを二十四時間体制で運行しており、人の黄泉の国上層部も何考えてんだかって感じであります。箔の感情に気が付いた銭が石ころを蹴飛ばしました。


「仕方がない。そういう時代になっちゃったんだもん。『貨』はとっくの昔に作られなくなっちゃって、『幣』も落ち込んでる。銭ももうすぐ用済みになっちゃうんだしね。もう一人の金の群に地位を捥がれて。箔はいいよ、価値変動しない貴金属の付喪神なんだから。」


金の群は少し前まで四人。強力な力を持つ順に、


貴金属の付喪神、『箔』


銅銭など小銭の付喪神『銭』


小判の付喪神、『貨』


紙幣の付喪神、『幣』


銭の展望を聞いた箔は適当な小石を浮かび上がらせ、手の上に載せます。


「箔も、もうすぐ金庫にしまわれるか、装飾品になるかの二択になる。」


箔は小石をころころと手の上で転がせた後、後ろへ放り投げました。


岩の間に岩の柱が建っています。箔は足を止めると、滑らかな岩に手を翳しました。岩が中央で割れ、光が漏れ出してきます。大きな音を立てて割れ目が開いていくのを箔は微動だにせず見つめていました。


「どなたか。」


同じ、黒い服を纏った人影が正面に立ち塞がりました。自身の証明として箔はローブから金色に輝く鎖を掴みだします。


「金の群。久しく。」


「こちらこそ、対雑鬼連合の方々。」


銭はきょろきょろと辺りを見回すと、遠くへ案内される箔に追いつこうと足を速めます。その前に、槍が振り下ろされました。


「お連れの方はここでお待ちを。」


槍の奥から、小柄な人影が片手を挙げて制止します。袖の隙間から白い人間らしい手が見えます。


「な、銭も金の群だ。入っていいだろ!」


「子供が入っていい場所ではないのよ。」


目の前のローブが槍をくぐり、銭に近づいてきます。銭は腹ただしそうにフードを脱ぎます。8歳ほどの幼い男の子の顔がそこにはありました。


「子供…銭は子供じゃない、付喪神としての姿が子供なだけだ!」


  付喪神の姿は、単(ひとえ、綾など一つのものからできる付喪神)群共に、最も影響を与えた人の姿に近くなります。銭が子供の姿を取るのは、駄菓子屋などに小銭を握りしめて向かう子供に影響されたから。それは大人の事情で一蹴されます。


「そんなこと、あるはずもないでしょう。付喪神の分際で私たちに意見しようなど、おこがましいにも程がある!」


バシッ


平手打ちで頬を叩かれ、銭が呆然とします。頬を痛そうに抑え、睨み上げました。手を挙げた方はその表情をあざ笑っているのが、ローブの奥から分かります。


「痛いはずがないでしょう、物なんですから。痛覚器官は備わっていないってことは科学で証明されているわ!」


「痛いものは痛い!今の平手打ち、自分に向けて撃ってみろよ!」


「なに?人間様に逆らうの?人間のために作られた物が?」


「……逆らえる。」


銭が望めば、子孫も全員金欠であえぐ事になります。その態度が気に喰わなかった証拠に、もう一度平手打ちが飛んできました。


「まがい物が取っていい姿ではないわ!人外の化け物は化け物らしくしてなさい!」





「報告を。」


箔が踏み入れた先は、広く黒い石造りの空間。目線より高い位置に設けられた椅子には、幾多の黒フードが座っています。箔は正面の一際大きな人物に向け頭を下げました。


「報告は3つございます。一つ目、崇の鏡の守は、人間十二人を現から召喚いたしました。」


一際大きなフードは鷹揚に肯きます。


「生きている人間をか。」


大きさに似合わない掠れた声です。


「はい。」


その隣のフードが威厳もへったくれもなくわめきます。はっきり言って、見苦しいです。


「侮辱ではないか!我らの子孫が付喪神ごときに利用されるなどあってはならん!早急に付喪神の国を滅ぼす!」


箔は口元に笑みを浮かべました。


リーダー格の中央のフードが手で彼を制します。


「人質を取られているようなもの。見捨てても良いが、それは最終手段だ。残りの報告を。」


「言霊についての報告になります。付喪神の国で、言霊の力の現れであろうというものを発見いたしました。機構に戻ることで言霊の力は徐々に回復する可能性があります。」


しばらくの間、音のしない時間が過ぎました。台座に並んでいるフードの口元が全て中央のフードに向いています。中央フードの口が躊躇うことなく開きました。


「箔、付喪神の国の泉の破壊を開始しなさい。言霊の機構を復活させるためには、付喪神の存在が邪魔なのだ。言霊の件については真偽を観察するように。」


一呼吸置いて、箔がさらに頭を低くします。


「は。お望みのままに。」


「もう一度聞く、崇の鏡の守とは通じてはおらんな?」


金の群は笑みを浮かべます。


「ええ。勘違いされるなど、無駄なことでしかありません。付喪神の本質は主に使えること。」






金の群二人が門をくぐり、閉まると同時に、銭がローブの脱ぎ捨てました。箔のローブをぐいぐいと引っ張ります。


「箔、あいつらを喰いたい。ねぇいいだろ、あいつら、銭はあいつらの下になんかいたくない。」


「銭。いつの話をしている。」


付喪神記には、現へ流れ出た付喪神が人や牛馬を喰っていたという記述があります。そりゃ当然、人間の姿をして現で生活するのですからものを食べなければ生きていけません。ですが、密教を心得た僧侶によって現にいた付喪神が付喪神の国へ退却するという事件がありました。掌は現へ出る際の期限を一夜と定め、生を奪ったものは付喪神の国へ戻ることができないようにしたのです。


銭が箔の心臓部分に手を置きます。先程の銭の記憶を箔は見て、すがすがしいほどの笑顔を口元に浮かべました。


「我慢だ、銭。機が熟すまで。」


遠くを見ながらお決まりのセリフを繰り返す箔。銭はむぅと口を膨らませ箔の服から手を離しました。


「三途の川は人間が人間のために作った、魂を実体化することのできる異次元空間。そこに人間ではない魂、付喪神とか妖怪とかに利用されるのが気に喰わないんだろう。」


淡々と告げる箔。感情の乗らないそれは、どこに向かっているのでしょう。


「後戻りはできない。これは金の群の得意なことだ。」


銭は箔の前に回り込み、歩みを止めさせました。


「でも、対雑鬼連合は、付喪神の国を潰すつもりなんでしょ。」


「ああ、『邪魔』なんだそうだ。」


「邪魔って、付喪神の国は何も邪魔してないよ!」


一呼吸置いて、影で覆われた目元が銭の方をむきます。


「それは俺たちが言う言葉じゃない。力を持つ連合が邪魔だといえば『邪魔』になる。金の群として、そのことについてはよく知っているはずだ。」


銭が求めたのはそんな考察ではありません。苛立ちは収まらないようです。


「分かった。付喪神の国にいる人間で我慢する。」


さっさと歩き出す銭を見送って、箔は脱ぎ捨てられたローブを拾い上げました。すごい速さで離れていく銭の背中に、声を張り上げ伝えます。


「彼らは生き物としての時間が止まっているから、不老不死の神みたいなものだ。喰えないし、返り討ちにされる。」


「知らない!」


銭はあまりにも素直すぎるのです。



読んで頂きありがとうございます!

早く伏線回収したい……

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