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五 説明は簡潔に

よろしくお願いします!


神社の石でできた鳥居の前。神社の縁台の上で三人並んで座ります。賽銭箱の上に腰かけた歴史書の群は朗々とした声で祝詞のようなものを述べました。


「事実は人が入れ代わり立ち代わり紡いでゆくもの。歴史は事実を都合よく改竄したもの。」


中身は全くもって祝詞ではありませんでした。それよりも、歴史書の付喪神が自分自身を『事実を改竄した代物』とか言って、いいのでしょうか?私たちが今まで習ってきた『歴史』は事実っぽい噓ということになってしまいますよ?前途多難であると判断した結界桜は逃げました。


左右に並んだ火の玉流れとつる枯れのすき間を胡坐のまま後ろに下がって、よろしく頼むよ、と二人の肩をポンと叩きます。火の玉流れはムッとした顔でこちらを見たあと、歴史書の群に向き直ります。


「つまり?」


「つまりは、赤の他人が一文ずつ言葉を紡いで物語を作っていくのは、事実の羅列としてまた正当であると。」


つる枯れが恐る恐る手を挙げました。


「あの、いいですか?あなたは付喪神の国の中枢機関、『掌』のお一人だと伺ったのですが。」

「おぬしぃ、名はなんと申すのじゃ?わしの」


歴史書の群がいそいそ近づくそぶりを感じ取った瞬間、つる枯れが肩をビクンと振るわせました。森の方から、苔が生えてカブトムシだかそこら辺の幼虫いる朽木が吹っ飛んできて、歴史書の群の後頭部に激突します。老人は賽銭箱の上からバランスを崩してひっくり返りました。


  お見事。


つる枯れは手をパンパンとはたくと立ち上がり、突っ伏した歴史書の群に汚物を見るような視線をくれました。


「こいつが『掌』の一人なわけないわ。時間の無駄無駄。帰りましょ。」


  おい歴史書の群。そいつはしつこさと生真面目さだけが売りだかんな。加えて火の玉流れのキンッキンに冷えた視線が注がれていることにはお気づきで?恐ろしいよぉ~


歴史書の群が鼻血を垂らしながらよっこーらしょ、っと賽銭箱の上に復活します。


「ま、待てって。ちゃんと話すから!その前に自己紹介とかやっといた方がいいかなと。」


「分かった。次やったら、結界桜に切り伏せてもらうから。」


真顔で火の玉流れの冷静なツッコミが炸裂。


「『切り伏せる』じゃなくて、『切り刻む』の間違いだろ。」


「ふっ…っ…っっ。」

  上手い。ツボ、ツボに入った。だめ、今はダメ。笑っちゃダメ!


ぷるぷる肩を震わせている結界桜を横目で見てから、つる枯れがメモ帳で火の玉流れをさします。


「隣の、周り見下してる感半端ない奴が『火の玉流れ』。着物を着た後ろの歩く凶器が『結界桜』私が『つる枯れ』。」


火の玉流れが長い息を吐きだし、続けました。


「このひどいセリフ吐き散らすが社畜としては超有能なやつが『つる枯れ』。今はおとなしいが満月になるとあたりかまわず襲い掛かる危険な獣が『結界桜』。」


歩く凶器、危険な獣。完全なる嫌がらせに聞こえます。結界桜は仕返しとばかりに喉を整えて、優雅で女性らしい声を作り出しました。


「二人ともひどくない?努力してもどうせ失敗するからって初っ端から諦めて手を付けようともしないけど、脳みそがいいから大抵は何でもできる『火の玉流れ』さんと、スペックがファミコン並みだからいくら努力しても全く身になってない『つる枯れ』さん?」


二人がぐっと詰まります。


「お前が一番ひどいだろ!」

「事実述べただけです。」

「事実が一番人を傷つけるの!」

「ちょ、どんだけ腹ん中真っ黒なのか、見せてみろやてめぇ!」

火の玉流れが結界桜の腕をひねり上げます。


「あだだだだだだ、腕捻んな!折れます!いくら柔軟性があっても折れます!」

顔の裏で笑っているのを目敏く見つけたつる枯れ。

「質問です。今何考えた?」

「えとぉ、火のは関節技が下手だな、もっと捻って動かないようにしないと……痛いって!」

「ひでぇ!」

「考えるだけに留めたんだぞ!聞かなきゃよかった話だろうが!」


混乱に目を白黒させながら歴史書の群が呟きます。


「随分と、立派な紹介をしてくれるねぇ。」


「これが立派?」

「悪口のオンパレードでしょ!」

「常識欠落してんじゃねえのかくそじじい!」

なんだかんだ息がピッタリなのは気のせいでしょうか。


ひと悶着ふた悶着あった後やっと元の話に戻ってきました。


「綾から聞いたけど、『掌』の一人なんだって?」

「おぅそうじゃ。」

「ちなみに掌とは?如何様なもの?」


歴史書の群は長くなるぞ、と前置きをしてから始めます。


「付喪神の国は二種類の付喪神からできておる。一つは、『崇の鏡の守』そして、十二の『勾玉の守』。崇の鏡の守はこの空間を成り立たせている。その補佐として『掌』という付喪神の集まりがあるわけじゃな。勾玉の守はこの次元を超えて物のやり取りをする六つの『門』と六つの『泉』を司る。門は現と、泉は三途の川と。お前たちも見ただろう?ここに呼び込まれるときに、赤い着物を着た童子に。」


あの、不気味過ぎる、この付喪神の国に引き込まれる直前に見たアレは……勾玉の付喪神。


「門と泉を守るために存在する特殊な付喪神が『番』。寺の門は呪の壺の守だったかの。」


綾は番。だからずっと寺に居る。


「この神社も門の一つなの?」

「おう。そうだ。他の質問は無いかの?何でも答えるぞ?」


「何でも?じゃあ、『門』はどのようにして人を呼び込むのか。」


火の玉流れがずいずい行きます。が、歴史書の群と通じるのでしょうか。

  呪文だとか出て来てもさっぱり分からないぞ。


「現在の状況を理論的に理解したい。」


「ふうむ、少し長くなるぞ、そもそも、付喪神の国は現とはまた別の次元に存在する。本来交わり得ない二つの空間を如何様にして繋いでいるのか、その仕組みはテレポーテーションの根源的な仕組みと酷似している。まず、現に存在しある程度に成長した建物の付喪神を一時的に空間を引き延ばして付喪神の国に置く。すると、同じ建物が現と付喪神の国両方に存在した状態にする。この二つは同一性を持ち、現の建物が変化すれば付喪神の国の建物も同時に変化する。」


  まさかの科学で説明してくれてる。有り難い。


「ちなみに、門の魂も器が現にある限り変化し続ける。ちなみに、付喪神の魂は、近くにいる人間から流れ出る感情を受け止め蓄積させていくことによってできる。もちろん門の付喪神もそこに入った人近くを通る人、その都度その都度魂の形が変化していく。」


  魂の蓄積ですか。おやぁ、つる枯れが首をかしげてますねぇ。


「これでどのように魂や人間のやり取りを行うか?それは簡単。触媒作用と同じだ。寺の守の魂に一時的に運搬したい魂をくっつける。すると、付喪神の国側の門の魂が変わる。その後、付喪神の国でくっつけた魂を切り離す。すると、魂が付喪神の国に来たことになる。実体ある付喪神も人もおんなじ仕組みだ。ただくっつけるのが器、ということになるがな。」


「じゃあ、テレポートしたら別人になる問題は?」


  流石火の玉!私そこまで行けない!


「門は現と付喪神の国両方に同じものが存在しているわけではない。逆だ。同じ建物が二つの時空をまたいで存在しているのだ。テレポーテーションよりは橋だと考えた方がよい。橋を渡って移動したのには別人問題は付随せんじゃろう?」


「そうすると、現へ魂や物を送り出すのもおなじ方法で、ということですか。」


「いや、現から付喪神の国へ変化することはあってもその逆は出来ない。橋は一方通行、不可逆反応だ。」


  帰れないってことじゃないの?


「とすると抜け道は時間遡行。」


  早ぁ!そして、ついてけない!


「そう、こっちの寺の守と対象をくっつけた状態で寺の時間を巻き戻す。付喪神の国で魂がくっついているということは現から運び込まれたということだからな。」


  なるほど。どんだけややこしくなるんです?


「ウラシマタロウ効果。あの、現とこっちの相対時間は?」

「ま、百倍だな。こっちが百倍速い。」


  そんなに心配することはない、か。こっちで百日過ごしても、現ではたったの一日だ。


「あと質問。」


なぜだか知らないけれど、物凄く冴えている今宵の火の玉流れです。


「生死の境をさまよって天国に行きかけたって話は聞いたことがあるが、間違って付喪神の国に引き込まれたって話は聞いたことがない。つまり、

一現に戻った時に記憶をなくしているってことか、

二誰も帰れなかったか、

三誰もここに来れたことが無いということ

のどれかってことになる。実際はどうなんだ?」


ふうむ、と感心したように歴史書の群が長いひげを撫でます。


「人が万一巻き込まれたとしても、瞬く間に送り返し付喪神に会ったなどという記憶を持たない。選択肢であれば『一』にあたる。綾など門の番は、不純物―付喪神以外の魂―を即座に送り返す仕事を担っておる。故に知られることもない。しかし、綾がその力を失ったよって手動で門を動かす必要があり、その為のエネルギーがガシャの核だ。」


「はい。」


結界桜が手を挙げます。


「なんですぐ帰れなかったの?」


歴史書の群はひげを撫でました。


「金の群のせいじゃ。」


金の群?金属やお金の付喪神が合体した群って事か?


「つまり?」


「このところ、奴らの動きがおかしくてな。金の群もわしらと同じようにここで余生を過ごして居った。そもそも、現に現れる付喪神はな、器が滅び魂だけの存在となった付喪神が付喪神の国へ『門』を通じてやってくる。そして、ここで魂に形を与え余生を過ごす姿を取る。人間に認知されているような付喪神はわざわざ脅かすためにおどろおどろしい格好をするわけだが。」


最初にドッキリのようなものを仕掛けられた『盛装』と呼ばれている、の例のアレです。


「まぁ、最近は恨みつらみを言えるほど強い付喪神を生み出せる人間はそう居らんからな、実体を持たず魂だけで夜帰り旅行に行くのが主流じゃな。なぜ『夜』帰りかと言うと、昼間に出ていけば太陽の力でカス魂は吹き飛ばされるからな。」


こいつ、もしかして綾より話が長いんじゃない?マシンガンではなく、ツァーリボンバだぞ、と考えた結界桜さんですが、後の祭りです。今更止まりません。


「またよくある設定が。」


ポロッと火の玉流れがこぼした単語に叱責が飛びます。


「黙れ若僧!」


バンッと歴史書の群が賽銭箱の縁を叩きます。


「百鬼夜行も『昼』でなく『夜』なのだぞ!古の時代より日の光は理外れたものにとって毒なのじゃ。伊邪那岐より夜の食国を治めよと仰せつかった月読命のその後は全く記述がないじゃろう?人間の意識の中で昼と夜は明確に区別されていて、夜には恐怖心が芽生えるのじゃ。だがしかし、夜は太陽が昇らない間にしか存在できない。太陽は、不明瞭な事象を消滅させる。相分かったかッ!」


火の玉流れに捻られた腕をさすっている結界桜。指先の皮をむいて手入れしてる火の玉流れ、目が明後日の方向いて泳いでるつる枯れ。


「えぇ~、じゃあ、金の群が綾に何をしたのか具体的に述べよ。」

「つま…。」


長引きそうなのを察した火の玉流れがピシャリと。

「三十字以内で。」

「『寺の門に攻撃を仕掛け綾の力を大幅に削った』。」


  ちゃんと三十文字じゃないですか。内容はほぼゼロに等しいけど。


歴史書の群は押し黙り、神妙に口を開きました。


「わしら掌のもんは番には関われんのだ。知りたければ綾に聞くとよい。おっとしまった、本来の目的を忘れておった。」


歴史書の群が賽銭箱から立ち上がって神妙に地面に座り直しました。


「歴史書の群。掌の一人としてあなた方をお迎えできたこと光栄に思います。つきましては事の仔細をこちらにあります本に纏めさせていただいております。今後ともお話しする席を設けさせて頂きたく…」


  忘れてたんかい。


「話が長い!」


訳の分からない話に置いてきぼりを喰らっていた、つる枯れの怒声が響きました。


############


寺に帰ってきたころには月が西に沈みかけていました。受け取った本は全部で三冊。一つは蔦と落ち葉の模様。一つは流水紋と炎。一つは桜と月。だれがどの本を読むべきなのかがすぐに分かります。

  勢いに負けて持って帰ってきてしまったけど、どうするかはもう決めている。


「本は寺の外で管理をする。その本が歴史書の群と常に意思疎通が取れる可能性がある。危険かもしれないから。」


極端な思想だと感じたのか、つる枯れが不機嫌そうに髪を触ります。


「そこまで気にする必要がある?」


ピシャリと言い切ってやります。


「石橋は叩いて渡れ。」


諦めたつる枯れに結界桜はにこりと笑って本を回収し、鐘撞堂に腰を下ろしました。月と桜の表紙をパラパラと捲ります。少し黄ばんだ紙。書いてある文字は筆での手書き。孫子、闘戦経、兵法書。地図には泉と門の位置。そして、掌の座所。後半はほとんど白紙。火の玉には地図と門の構造がより詳しく書いてあります。つる枯れには地図と掌や番の付喪神の名前。余白のページがかなりあります。一人一人書かれているものが違うのは、特徴を見抜き書き分けたためでしょう。それにしても、結界桜の本にだけ兵法書がふんだんに書き込まれているのはどうしてなのでしょうか。結界桜は隣に座った火の玉流れに本を押し付けました。二人の距離は片手が届くか届かないか程度、友人関係を示しています。


火の玉流れが本を持ち上げ、振りました。

「この本の意図、あるか否か。」


「その前に、」


三冊纏めて結界を張り、本を干渉できなくします。その様子を見て、火の玉流れがため息をつきました。


「用心深いな。それで、どうして?」


「考え中のことだから、文章がまとまってないけど。火のが歴史書の群だったらどうする?これはチャンス。付喪神について人間が手に入れる情報を操作できるから。バイアスをかけることができる。これからする判断を誘導できるように。目的は、『よく分からないけど存在する率が高い』というのが正解、でなけりゃ一人一人の内容を変えるなんて野暮な真似はしない。それが私たちが帰れない理由に影響するものだとすれば。金の群、綾。ここが糸口。」


結界桜は警戒心が強いのです。少し呆れたように火の玉流れがため息をつきました。


「だが証拠はない。」

「掌。」


「掌から歴史書の群に指令が来た?もしくは、掌が…何かさせたがっている?だって、ガシャの地図は要るにしても、掌のリストなんて伝える必要はない。」


結界桜は空を見上げます。


「託したのがマシンガンを超えるツァーリボンバトークのお爺さんだからぁ。」


単純に見てほしくて書いただけかもしれないのです。


「誰なら信用できる?」

「番は掌と管轄が違うらしい。信用するならここか。」


結局、付喪神の国で腰を落ち着けられるのがこのお寺、感慨深いものがあります。

「まさか付喪神の出入り口だったなんて。長年ここに住んでいるのに、びっくりだなぁ~」


「ここに住んでるって言った?」


何でもない単語に火の玉流れが反応しました。まずい事でも言ったのか、と結界桜が真っ青になります。


「え、あ、いや。まあその……」

「苗字は『さんずいにかわ』で合っている?」


  つまり『波』。合っている。


「つると俺の祖母の苗字がそれと同じ、つまり俺たちははとこ同士だ。」


「は?」


  は?はとこ?……は?


「この寺で親戚の集まりがあって、そこで顔を合わせたことがある。俺とつるは。」


地面に木の棒で血縁図を描き始めます。


「俺の祖母は、ここで育った。つるの祖母もそう。この二人の弟が結界桜の祖父にあたると思う。」


  ちょ、ちょっと待って。


「二人とも、知り合いだったの?それもはとこ?知らない聞いてない!というか会ったことある?」


「大丈夫。」


歩み寄ってきたつる枯れが不機嫌そうに腕を組みます。


「火のとも数か月前に会ったっていうのに、声掛けたら『はぁ?』って。ねぇ、ちっちゃい頃おばあちゃん同士の繋がりでよく遊んだのにねぇ?」


「……。」

火の玉流れは半ば聞き流しました。横目で見てから木の棒を拾って家系図を書き足します。


「じゃあ、この一番上に曾祖父がきて二人姉妹の弟が私の祖父。おじいちゃんは三人子供がいる。女男男で、真ん中の人が私のお父さん。子供が私それと妹弟一人ずつ。間違ってはいない?」


火の玉流れ、つる枯れ両名にも会った記憶が全くないのに腹が立って、家系図を書き足し見せつけてやります。


二人を見ると顔から『緊張感』が吹っ飛んでいます。ありえない現実に巻き込まれているときに明らかになる血の繋がりほど安心できるものはありません。描き終わった家系図を足でかき消しました。


  はとこ同士と分かった瞬間に共通点ばっかが目に付く。つると火のの、上白下黒といういで立ち。ペアルックか。

つる枯れが首を傾げます。

「くしゃくしゃやって平然としているところもそっくり。」


火の玉流れはつま先で土を蹴飛ばしました。

「変なところを妙にこだわるのもな。」


面白くなって、さらに言い募ってやります。

「盗聴器の件は適正な対応のはずですお二人さん、単純な神経質と一緒にしないでください。」


「いつまでもガキっぽくて礼儀知らず。」

「話がなげぇ。」

「文句言うのだけはいっちょ前。」


三人が三人ともブーメラン発言をした後、黙り込みました。台風の目に入ったような急に穏やかな雰囲気が流れます。


  すべきことを全力でやろう。この二人ならきっと、背中を預けられる。


「話を戻す。私は有事の際の準備のために動きたい。付喪神の間で情報収集等をして、いち早く危険を遠ざけたい。」


二人はしっかりと肯きます。


「無事に元の世界へ戻れたらそれに越したことは無いんだけど。」


############


布団に入って、眠れませんでした。不安に煽られて、想像が膨らんでいきます。


  付喪神が敵だったらどうしよう。もし、歴史書の群みたいな温和な人でなく、凶悪な奴だったら?困る、いや、そうじゃない。私はどうしたい?


手のひらをぎゅっと握りしめます。


ここにいる十一人を守り切る覚悟が、私にある?


上体を起こし、布団と子供がてんでバラバラに転がっている状況をぼんやりと見つめます。


  そう、思える?手放したくないと、傷つけたくないと、思っている?私はくじけない?完結できる?


ふと、家出をした事を、付喪神に連れ込まれる直前のことを思い出しました。


  両親はどう思っているだろう?この子たちの親は?もしかして酷く心配しているのでは?


水布とした、早く帰りたい、不安の話。


  万一、二度と元の世界に戻れなくなったら?


胸が切られたように痛み出します。古傷に触れたような感覚。


  嫌だ、行かないで!


自分を潰したくなるぞわりとした嫌悪感が態度に出そうになるのを無理矢理押さえつけます。


  同じ気持ちになる人がいる。


もし、結界桜の努力の如何で回避できるなら、安いものでしょう。


  私は、同じ失敗を繰り返さない。私は危険を見過ごさない。私は約束を守る。


「水布、約束は守る。私は、できる事をする。」


結界桜が目を閉じると、寝息しか聞こえない静かな時間が過ぎていきました。


読んでいただきありがとうございます。応援していただけると嬉しいです。

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