『金木犀』
「金木犀茶」 名前の響きが優雅
うろこ雲が広がっているのを眺める傍ら、私は手の平一杯に金木犀を集める。
帰り道、歩くたびにポロポロと零れてしまうから、被っていた麦わら帽子を器にする。
人は何も知らずに、自分の正義を振りかざして、好き勝手に「日焼けの対策をしろ」と言ってくるけれど、私は自分の日焼けした肌は、何よりも艶々としていて好きだ。
けれどあの子曰く、紫外線を浴びすぎるのは良くないらしい。麦わら帽子で遮ってみる。頭は蒸れるけれど、意外と快適。
今は花籠となった帽子よ、褒めて遣わす。
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家に着くなり、小花をさっと水に潜らす。そこまで気にしないけれど、一応、念のため。
この日のために新調したガラスのティーポットに、ティーカップ。一目惚れした金の枯れ木の絵柄は、目立った色に反して、その存在は控えめ。
アッサムと金木犀を2:1でブレンドする。あとはいつもの通りに。
そこでやっと一息。花籠を帽子に戻し、片付ける。残った花は、また今度使おう。あの子にも飲んでもらいたかった。魔法瓶に入れたら運べるし、今度持っていこうか。
そこまで考えて、自身の顔が緩んでいることに気が付く。
今日、十月七日は私の、そしてあの子の誕生日。
顔が緩むのも仕方がない。
だって、特別なあの子と同じ日に生まれたその奇跡。
そんな特別な日には、特別なお茶を。
あの子は私の理想。私なんかに、気づいてもらえなくてもいい、けれど、遠くから見るだけでは足りなくなった。
あの子の為ならなんだって出来る。隣に並ぶなんて烏滸がましい。何時だって、陰から支え続けたい。
……今はもう叶わないけれど。
私を受け入れてくれないことはショックだったけれど、流石はあの子。散り逝くその姿、最後の一瞬まで気高さを忘れなかった。
誰が、もしくは何が言ったんだったか。初恋は甘酸っぱい苺のよう? そんな陳腐なモノ、私は要らない。
……あぁ、お茶が完成した。
私にとっての初恋、甘く素晴らしい、至上の香りをゆっくりと味わう。
私は銀木犀、あの子は金木犀。似て非なる存在。あの子の希少価値は、その辺の野花にはわかるわけない。
あの香りは、私だけのモノ。
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さて、明日は何も予定はない。ならばあの子のために目一杯使おうじゃないか。
魔法瓶には黄色い小花。今日、とても美味しく入れられた、きっと明日はもっと美味しい。
そうそう、忘れてはいけない、腕には黄色と白の花束を。数少ない白は、あなたに気づいて欲しい私の恋心。
一日遅れの二人の特別な誕生日会、紫煙立ち上る冷たい石碑の前で行おう。
誰とお茶を 飲みかわすんですか?