『季語』
「夜鷹蕎麦」
寒い寒いこんな日は、一人が淋しい誰かを慰めに行く。
煌びやかな服に身を包み、少し濃いめの化粧で素顔を隠す。本来の名前は忘れ去り、『夜鷹』へと私は変貌する。
日が暮れて、季節が終わりに近づくと人は寒さを覚える。身体だけじゃない、心にも寒い風が吹き込むのだ。
そんな日には『夜鷹』をどうぞ。
あなたの身体を癒します。あなたの心を癒します。……あなたに満足をご提供いたします。
そんな謳い文句と貼り付けた笑顔を携えて、今日もあなたの元へと向かう。
どんなに寒くても、あなたが喜ぶから、薄くて短くて露出の多い服を着る。
どんなに汚くても、あなたが喜ぶから、薄くて短くても褒め続ける。
どんなに下手でも、あなたが喜ぶから、薄くて短くて貧相なあなたのテクに酔いしれる。
そうしてあなたは、満たされ温まり、財布は冷えて、それすら気にせず。明日を生きる。
……ならば、私のこの冷えはどうやったら癒えるだろう。
ずっと探しているけれど、答えなんてどこにも無いのだ。だからその場しのぎで自分を騙して生きてきた。
よろめく足に鞭を打ち、店の中に帰ってく。
中では『夜鷹』がその場しのぎの温もりを抱え、啜り、喉に流し込んでいる。
【 あぁ、私も私を癒さなければ 】
一時しのぎの温もりを抱えて
夜鷹たちは 夜を羽ばたく