『クリスマス』
「良い子のクリスマス」
サンタさんはね、いい子のところにしかやってこないんだよ?
「先生!またあの子が僕のおもちゃを取った!」
僕を指差しながら、彼が泣き叫ぶ。
泣くなんていけない子だ。泣いたら大人が困っちゃう、困らせるのは悪いことだ。
「なんで取ったりするの? 仲良くしないとだめよ」
違うんだよ、先生。彼が言ったんだ、「あと少ししたら貸す」って。あと少しがどのくらいか分からないから、「何分」って聞いたら、「う~ん……100秒!」って言ったから、その通りにしただけなんだ。
本当はそう言いたいけど、先生が怒ってたから言わなかった。大人が怒っている時に反論するのは悪いことだから。
だから僕は言う。絶対に僕は悪くないと思うけど、大人が怒るなら、悪いのは僕なんだろう。
「ごめんなさい」
おうちに帰ると、パパとママがけんかしてる。いつもなら、邪魔はしちゃだめだから、すぐに部屋に帰るけど、今日は違う。だってクリスマスだから。
「パパ、ママ。クリスマスカード書いたんだよ」
二人はこっちをチラリと見ると、僕のカードをゴミ箱に捨てた。
「パパたちがお話してるときは静かにしなさいって言ってるだろ!これもお前の育て方が悪いから!」
「はあ? そんなのアタシの知ったことじゃないでしょ!大体あなたは!」
ゴミ箱に捨てたってことは、これは要らないものなんだ。ゴミを持ってはいるなんて、悪い子だ、パパが捨ててくれなかったら、気づかないままだった。
「ごめんなさい……」
そっと呟いて、僕は部屋に帰る。
部屋に入ると、今日作った松ぼっくりのクリスマスツリーを飾る。横には縞々のお気に入りの靴下を用意した。最後に、大切な大切なサンタさんへのお手紙を、そっと置く。
今日までの僕はとてもいい子だった。
挨拶は欠かさない。信号はちゃんと手を挙げて渡った。ご飯を食べたら歯磨きを忘れない。悪いことをしたらごめんなさい。いつも笑顔を忘れない。自分のことは自分でする。ゴミはゴミ箱に捨てる。
きっとサンタさんは来てくれる!
「おやすみなさい」
靴下は空っぽだった。
リビングからは、パパとママの声がする。
「……自分のことは自分でする」
ゴミは、ゴミ箱に入れなくちゃ。
『サンタさんへ 助けてください』
彼にとってのゴミとは 何だったのだろうか……