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『純白の未亡人』
彼女は、白い着物を着ていた。
奇しくもその姿は、数ヶ月前に行った結婚式の時の彼女を連想させる。みんなが、彼女を祝福するため、色鮮やかに変身していた。……だが、ここでは全員が、彼女の夫を送り出すため黒に染まる。
耳をすませば、彼女に対する嫌味や、軽蔑が流れている。
「場違い」「人でなし」「頭が悪い」
直接浴びせない代わりに、空気をよどませ、感染させる。悪意は波紋のように広がり、葬儀場を埋め尽くす。大人は意味を理解した上で、子どもは意味を理解しないままに。各々が各々の言葉で、卑怯卑劣という名の骨を、正義感という皮で覆い、投げつける。
それが聞こえようと、聞こえまいと、彼女は片手にハンカチを持って、凛と佇む。
傍らには、生気を無くした夫。先日、永遠を誓い合った夫。それを破り、先に逝ってしまった夫。
「ご出棺致します」
その言葉にゾロゾロと人が連なる。もちろん、彼女も並ぶ。追いやられても最後尾に、並ぶ。
それを人は、疎ましそうに見つめる。
誰も、彼女の深い愛に気づかない。
(白い喪服は、二度と結婚はしない、彼以外と添い遂げない決意表明)