『大晦日』
その年の事は、その年の内に。
「やっとここまで終わった……」
昨日から急遽始めた大掃除は、やはりと言うべきか大晦日の夜中まで掛かってしまった。しかしほぼ不眠不休で頑張った甲斐あってか、あとは目の前のゴミを袋に小分けにして捨てるだけとなった。
「これならカウントダウンには間に合いそうだな」
恋人も居なければ、家族とも離れた。一緒に年越しの瞬間を迎えるのはテレビ越しに歌番組を盛り上げる出演者たち。最早こんな年末にも慣れたものだ。
さて、仕分け作業に戻らねば。
しばらくサボっていたので当然と言えば当然だが、匂いがこもって仕方がない。寒いけれど、換気のために窓を開けなければ。
「お、除夜の鐘」
遠く、どこから響いてくるのかわからない鐘の音が冷気と共に部屋の中に侵入してくる。
「あいつと年越せたら良かったのになぁ」
とほほ、なんてついぞ漫画でも聞かないような溜息を零しながら、つい先日別れを告げた彼女を思い出す。可愛い顔立ちに、気立ての良い子だった。そこそこ長いお付き合いもしていて、ゆくゆく将来は……なんて思っていたけれど。
「思ってたんだけどなぁ」
残念ながらあの、少し他の子よりも目立つ腹は頂けなかった。凹むどころか、どんどん膨れるあのお腹。それ以外は完璧だったのに。
「っと、いけねぇ。掃除終わらせないと」
その日の事は、その日の内に。その年の事は、その年の内に。
綺麗好きな彼女の口癖だった。未練たらたらで、その言葉だけはずっと守っている。もう別れて一ヶ月経つのに。
「それにしても匂い酷いな。やっぱ直ぐに片付ければ良かった」
けれど面倒くささが勝ったのだ。過去の自分の尻拭いは今の自分の役目だ。けれど、彼女の口癖を守らなかった過去の自分を殴りたくはなってしまう。
文句と手の動きは止まらない。
「よっ、と。少し固いな……。けどまあ、いけるか」
何とはなしに手に取った、今しがた輪切りになったソレを見て、誰にでもなく呟く。
「へぇ……。手首って楕円形なんだ」
そう言って、俺は大きいゴミとなった肉と、小さいゴミとなった肉。ソレらを再び仕分けてしていく。
……ゴォォォォォォン……。
今年の内の一夜の煩悩を、鋸を引く音と共に、除夜の鐘が消していく。掃除はまだ終わらない。
彼の指し示すゴミとは?