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408『最強すぎる相談会』

「そろそろ、天戒を考える段階だろう」


 神力の操作修行を初めて、およそ一週間。

 だいぶ……というか、最初と比べたら信じられないほどの速度で神力を操れるようになった僕は、爺ちゃんの言葉を受けて目を開く。


「灰村解、君は()()()()()()()()()


 喧嘩を売っているのだろうか?

 僕は思わず首をかしげて青筋浮かべたが、爺ちゃんは笑って殺意を受け流す。


「我ら王級の陰陽師であればその数倍の神力量を保有している。そんなハンデを抱えた上で、王級を目指す――というのであれば、相応の神力操作能力を得なければならなかった」

「ならなかった、ねえ」


 僕は立ち上がると、全身へと神力を巡らせる。

 手足のように……とまではいかずとも。

 力を失う前の僕が使っていた想力よりかは、ずっとうまく扱えている。

 それはひとえに、真眼のおかげ――……とも、今じゃ言い切れるか怪しいな。

 拳を握ると、それに従って神力が集まる。


「あまり、こういう言葉を使うのは、好きではないのだがね」


 爺ちゃんはそういうと、端的に言った。



「君は天才だよ、灰村解」



 異能の面では、圧倒的な才の無さに歯噛みした。

 だけど……爺ちゃんの言葉を信じるとするならば。

 きっと、僕の【適正】はこちらに在ったのだろうと思う。


「すでに、基礎だけならばプロの陰陽師にすら劣らない。神力の少なさも、それだけの操作能力を身に着け、加えて真眼を保有するならデメリットにすら成り得まい」


 操作能力に優れているということは。

 そのまま、天戒使用時の消耗率が少ないということ。

 同じ能力を使うのに常人が神力『100』を使うところを。

 僕は、その能力を使うのに神力『50』で済んだとする。

 そうしたら、僕は常人の二倍、天戒を使うことができるわけだ。

 爺ちゃんが言ってるのは、端的に言えばそういうことだろう。


「爺ちゃんがそういうのなら、その通りなんだろうな」


 僕は彼の体を視てそういうと、爺ちゃんは苦笑した。

 なにせ、老巧蜘蛛・九法院善治の体内には、僕とさほど変わらないだけの神力量しか流れちゃいない。

 それが何を意味しているのか。

 そんなもの、深く考えずとも理解ができる。


「とにかくも。灰村解。君には自分の使う天戒を決めてもらう」


 おそらく、今日のメインがその話なのだろう。

 僕は腕を組むと、目を閉じて考える。


 言わずもがな、僕が一番合うのは【肉体強化】系の能力だろう。

 一番得意としているのは、無論『禁書劫略』だが、使っていて一番『感じがいい』のは、技能で言うところの『神狼』技能。

 つまりは、自身を強化しての殴り合いだ。


 だが、今回はその力を使うことはできない。


「神力……天戒は、自身を直接強化する力がない……か」


 最初にそう言われたのを、よく覚えている。

 第一希望を真っ先に潰されたようなもんだ。


 なら、相変わらずの強奪能力を取る?

 ……いいや、それじゃあ奪えはしても戦う力は何もない。

 それは、禁書劫略の作者である僕が、一番よく分かってる。

 あくまでも、あの力の『最強』は、解然の闇が使ってこその『最強』なのだ。

 神狼、廻天、復讐、指揮、消滅、次元。

 それだけの力があって、初めて脅威を発する力。


 つまり、ごりっごりのサポート能力。


 それが、僕の用いた【禁書劫略】という力の本質。

 僕が天戒であの能力を再現することはない。

 確実に、と言っても過言ではないだろう。


「ううーん……」


 ならば、僕がとるべき力は何か?

 僕は腕を組んで、首をかしげて考える。

 ……こうしていると、最初、深淵でどんな能力を選ぶか迷っていたころを思い出すが……そうだ、あの時取れなかった能力はどうだろうか?

 そうこう考えていると、爺ちゃんは微笑ましそうにこう言った。



「まあ、修行が嫌なくらい順調なんだ。自分の能力くらい、じっくりと考えすぎても罰は当たるまいさ」



 そう言って、僕の修行はやっとひと段落を迎える。

 そして、次の問題――【天戒の決定】が僕の前へと立ちふさがった。




 ☆☆☆




「というわけで、相談なんだけど」

「お、おお、お、おでにだか?」


 翌日は土曜日。

 僕は昼頃、カフェで待ち合わせしていた。


 僕の護衛は基本的に一日ごとに入れ替わりとなっている。

 その間、残った一人は休日的な感じになり、私用に時間を費やすもよし、修行してさらに強くなるもよし、ボイドみたいに【我が王に拝謁すること。それは休日に勝る我らが誉れ。我は常に王のお傍に】的な感じでもよし。

 基本的に、何しててもいいよ、って感じの日になる。


 とまあ、ルール上はそんな感じ。

 だが、基本的にこいつら……滅多なことじゃ僕の護衛を外れない。


 ボイドはもとより、この男。


 外国人ゆえに、日本語もままならない。

 にも関わらず、どういうわけか僕に恩を感じ、舌ったらずな日本語で自ら護衛を買って出た。

 無論、最初は信用していいモノか、大変迷ったけれども……。


「ある意味、一番よく知る間柄だろ? 強さに関しては」

「おっ、おお、おで……たしかに、カイくん強さ、しってるだ」


 その男――暴走列車、ナムダ・コルタナはそう言った。

 僕の始まりの因縁。

 僕をぶっ殺した張本人。

 体内に複数の黒歴史ノートを持っていた男でもある。


 ……ちなみにだが、今、彼の持っていた本は、僕がもともと持っていた本(力を失う前にアイテムボックス内のモノはすべて出しておいた)と一緒に然るべき場所へと封印している。

 まあ、あくまでも余談だけどな。

 そうこう考えていると、ナムダは嬉しそうな表情で語りだす。


「暗かった。なんにも見えんで、それでも、カイくんさ光は見えてただ。ひっしになって、たすけてくれようとしでる。それだけは分かっだ。おでがみたなかで、いちばん強くて、かっこいいひかりだ」

「…………」


 なんでしょう。

 コイツに言われると、すこし照れ臭い。

 死んでから今まで、ずっとこいつの強さを目標にしてきた。

 そんな奴に、認められてる。

 その事実が……なんだ。うれしいのか、僕は?

 僕は頬をつねって大きく息を吐くと、無理やり元の表情へと戻した。


「ま、まあ、それはともかくとして。ナムダ。お前は僕の能力、何にしたらいいと思う?」

「んだ。おでは頭がわるいから、よくわかんないだ」


 そういって、困ったように笑うナムダ。

 大柄な体格に、どこか丸っこいシルエット。

 その口調に、優しい笑顔と相まって……なんだろう。ポンタよりもよっぽどマスコットキャラクターみたいに見えてくる。

 哀れ、作者の都合だけで作り出された謎生物。

 内心で、ポンタに思いっきり失礼なことを言っていると――


「おい男、もしかして失礼なことかんがえてるぽよか?」


 ふと、机の下から声がした。

 ……失敬、そういえばこいつもいるのを忘れてた。

 僕は机の下へと手を突っ込むと、今しがた思考に挙がった謎生物、ポンタを引っ張り出した。


 僕が今回呼び出したのは、ナムダとポンタの一名と一匹だった。

 何を基準に呼び出したか、と聞かれれば。

 僕が、純粋な強さとして【最強】だと思う二人を選出した。


 ああ、そうそう。ちなみにボイドは勘定してない。

 アイツは【我が王ならどんな能力でも使いこなせるかと!】しか言わないからな。力を頼る相手としては最適だろうが、相談する相手としては最悪だ。


 窓の外を見れば、黒髪の女がポンタとナムダを見て血涙している。

 体中から悔しそうな感情を垂れ流し、窓に張り付くその姿。

 まるで不審者。

 女の背後に警察官の姿が見えて、僕は視線をそらした。


「ボイド、警察官に暴力振るうんじゃないぞ」

『承りましたッ、我らが王よ! 今日も御身の言葉を授かることができること、心より感謝します!』


 そんな言葉が窓の外から聞こえてすぐ。

 警察官二人に、黒髪の女は連行されていった。


「……男。おまえ、とんでもないペット飼ってるぽよな」

「ああ。とんだ狂犬だよ」


 哀れ、ポンタにペット呼ばわりされるボイド。

 されど否定はしませんよ。……否定できないからね。

 僕は小さくため息を漏らすと、改めて二人へと視線を向ける。


「で、話を戻してもいいか?」

「お前の新しい能力ぽよな? おい暴走。お前もしっかり考えるぽよ」

「お、おお、おで。カイくん、つよかった、思う。まえと同じかんじの力に、すればいいど思う」


 すごい。ポンタとナムダが会話してる。

 今までからは想像もできない光景だな。

 そんな事を思いながら、僕はナムダに答えを返す。


「残念ながら……それはできないらしくてな。神力に、純粋な強化能力はないんだってよ」

「そ、そそ、そうだか……」

「ぽよ……。ボクも、暴走の意見には賛成だったぽよが」


 個性的すぎる口調二人は、どうやら意見は同じだったようだ。

 簡潔に言うと――以前と同様の力を手に入れるべき、と。

 つまりはそういうことだろう。


「とはいっても、男。ボクが思うに、お前の強さは『複数の能力を使える』という点に集約すると思うぽよ。天戒ってものは、そんなにたくさんの能力、使えるようになるんだぽよ?」

「……まあ、理論上は……な」


 天戒が異能と異なる点はいくつかある。

 その中で最たるものは『異能発動の鍵が不要となる』ことが挙げられるだろう。

 つまり、神力が使えれば誰でも天戒を習得できる。

 異能のように、鍵から作らなくてもいいわけだ。

 そのため、能力の数だけ鍵が必要となる【異能】とは異なり、【天戒】は神力さえ操れればいくらでも能力を増やせることになる。


 ――ただし、それは悪手に他ならないとされていた。


「天戒は十だろうが百だろうが習得可能だ。だが、それを使えはしても、使いこなせるかどうかはまた別の話だろ?」


 聞いた話によると、陰陽師は基本的に、一つの能力を集中して鍛え上げるのが普通なのだそうだ。

 その理由としては、天戒は鍛えれば鍛えるほど強くなることや、他の能力を習得すれば訓練に使う時間が割かれること、数多の能力であっても鍛え抜かれた純粋な個には敵わないことなどが挙げられる。


 そして何より、シビアな理由が存在している。



「――今の僕には、無限に思えるだけの【燃料】がない」



 その言葉に、ポンタは大きく目を見開いた。


「お前……もしかして」

「ああ、想力は想力、神力は神力さ」


 僕は神力の操作能力に才能はあれど。

 神力量には一切の才能は持たなかったということだ。

 そういう面で話をすれば、僕は想力量に関しては常軌を逸した才能を持っていたのかもしれないが、それも過ぎた話だろう。


「多くの能力を使えば、それだけ神力量も必要となってくる。対し、一つの能力を極めれば、それだけ技の精度も上がってくるし、熟練するにつれて消耗も抑えられる」

「つまり、今のお前には……」

「一つの能力を極める。それ以外に道はない」


 あるいは想力を使い果たす前提で第二・第三の天戒を用意する、とか?

 ……ま、それはあくまでも可能性の話だな。

 基本的に、僕は天戒を一つしか習得できない、と考えるべきだ。


 僕の言葉を聞いて、ポンタとナムダは頭を悩ませる。

 ナムダの頭からぷすぷすと蒸気が上がり始め、ポンタがうむむとうめき声をあげる。

 そんな中……ふと、来店を知らせる鈴の音が響いた。

 何気なく僕は、入口の方へと視線を向ける。


 すると……なんだろう、見覚えのありすぎる少女が立っていた。



「あら。ポンタを探していたら……珍しい組み合わせね」



「「うげっ」」


 僕とポンタの声が重なる。

 ナムダは不思議そうに僕らを見ていて。


 その少女は、僕らの反応に青筋を浮かべた。



「……いい反応ね。ちょっと、お話宜しいかしら?」



 そう言って、栗色の髪の少女――六紗優が、最強すぎる相談会に参加した。



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