405『才覚の片鱗』
よくメッセージで「こんな小説を書きたいです! どうやったら書けますか!」と質問が来ます。
毎度『毎日挫けず書いてればこんな風になりますよ』と返事するのですが。
メッセージをくださった皆さん。
読者及び、執筆者自身の中二病が悪化するので、中二病を題材にした作品は書かないのがおすすめです。
そんな事を思いながら、作者は今日も筆を執る。
「まず初めに、神力について説明をしておこうと思う」
神泥の適合過程を一晩ですっぽかして。
翌日の放課後、僕はすっきりした頭で説明を聞いていた。
「……なんだか、嫌にすっきりとした目だね。眠くないのかな」
「安心しろ、あの学校は寝るために行っている!」
もとより退学上等!
授業をすっぽかすことはもとより、居眠りなんて朝飯前さ!
それが嫌なら僕を退学にするこった!
そういうと、九法院の爺ちゃんは苦笑した。
「教え子としては最高でも、君を学園に入れるとなると考え物だな」
「大丈夫、僕はもう二度と異能系の学校には入らないからな」
今回で身に染みた。
こんな学校は二度とごめんだ、とな。
「……まあ、良くはないが、その話は置いておくとして。神力。君も神泥に適合したということは、既に自分の体内における神力を視れていると思う」
「……まあ、な」
自分の体へと視線を落とす。
人の体には、様々な力が宿っている。
想力、神力だけでなく。
肉体そのものが持つ物理的な力のほかに、たぶん、まだ僕らの知らない第三、第四のエネルギーが渦巻いている。
この眼はそれらが色に分かれて視えるのだが……如何せん、色が多すぎてすべてを把握するとなると難しい。
その中で、今回。
どこまでも白い力の流れ――神力について、僕は把握することに成功した。
神泥を飲む前は、爺ちゃんの糸はなんだか白く見えるなぁ、って程度で、自分の体のどこにその力があるのか分からなかった。
でも、今ならわかるし……ゆっくりとなら、動かせる。
ただ、動かすだけですさまじい体力を使うわけだけど。
「神力。それは諸説あるが、神様から賜った力、とも呼ばれている。代々、物の怪や呪いと戦う我らは、それらを『対人外』のために用いている。その神力を燃料にして使う異能こそ――」
「【天戒】……爺ちゃんで言うところの、糸、か」
そう続けると、爺ちゃんは笑った。
軽く指を動かすと、爺ちゃんの背後に無数の糸が張り巡らされる。
「私の天戒は、その名そのまま【老巧蜘蛛】」
神力を正確に見ることができるようになった――今だから、よく分かる。
その糸には、端から端まで寸分たがわず一定量の力が流れている。
ただ、糸によって微妙に神力量が違うのはどういうことだろうか。
その疑問を読んでいたように、彼は言う。
「私の天戒はね、糸一本一本が、全て性質の異なる糸なんだ。攻撃用の鋭い糸。捕縛用の頑丈な糸、防御用の硬い糸。索敵用の細く長い糸。それらを無限に等しい数だけ並べて、あらゆる隙から相手を切り崩す」
「……凄まじいな」
「なんの。使いこなせなければ、ただの器用貧乏さ」
アンタはそれを使いこなせてるだろうが。
だからこその、凄まじい、って感想だよ。
僕はそういうと、爺ちゃんはすべての糸を消し、僕を見下ろす。
「さて。ここらで最初の話に戻ろう。神力について。まず第一に理解してもらいたいのは一つ。神力に、身体能力を向上させる力はない」
「……!」
その言葉に、僕は少々驚いた。
想力には【基礎三形】というものがあった。
活性、遮断、具現。
それぞれ、身体強化、気配の遮断、物質具現化能力。
様々な力に変化する、妄想力の権化。
それが想力。
それに対し、神力はそう言った万能性は無い。
「神力は、純粋な【燃料】として使う以外に道はない。そのため、純粋な能力性能で言えば――そうだね。天戒は君らの言う異能を上回るだろう」
……それが、僕らと鮮やか万死の大きな差、か。
物の怪特有の、人外尽くした身体能力。
加えて、僕らを優に上回る異能強度。
活性ですら奴の身体能力には遠く及ばず。
異能で勝ろうにも、そもそも出力からして大きく違う。
……それで勝とうとしてたんだ。
そりゃ、想力の全損くらいはワケないわな。
「それでも身体能力を強化したいというのであれば、裏技のようなものもあるが……それに先んじて、君にはまず、その凝り固まった神力を何とかしてもらわなければね」
そう言って、彼は……なんだろう、変な物体を投げ渡してくる。
僕はそれを受け取り、まじまじと見つめる。
それは……一言で言えば、毛玉だった。
マフラーとかを編むのに使う、あの原材料の毛玉。
ただ……なんだろうか。
真眼で見ると、それがものすごく複雑な形状をしていることがわかる。
「それは、古代から改良を重ねてきた、最新型の神力訓練用具でね。それに神力を流し――一番中心、最奥まで一定の神力で満たすことができたのなら、その時、毛玉が爆発する」
「ば……っ!?」
爆発って言ったかこの男!
僕は驚いて彼を見ると、爺ちゃんは笑っていた。
僕は察した。マジなヤツであると。
「そして、失敗するたび、その毛玉は黒く染まっていく。陰陽師の見習いは、たいていその毛玉を黒く染め上げるのが習わしでね。よほどの天才でもない限り、その毛玉を爆発させるまでに数年かかる」
「す、数年……」
ま、マジですか……。
さすがは陰陽師。
妄想力こそ強さ! みたいなふわっとした異能とは格が違う。
これを極めた先に、初めて鮮やか万死と並び立てるのだろうか。
まあ、あいつとは、肩を並べるより拳を交える方だと思うけど。
「とにかく、習うより慣れよ。まずは挑戦するところから始めようか」
「お、おう!」
僕は座り込むと、目を閉じ、大きく深呼吸する。
出遅れてるのは百も承知。
焦りは禁物……地に足つけて、確実に進むだけ。
爺ちゃんから、静かな視線が突き刺さる中。
僕は、目を開く。
「よし」
世界が、力だけの世界へ変わる。
視覚の完全な切り替え。
普段は、通常の視界に力の流れが重なるように見えるけど。
今、僕には人間が見る世界は何ひとつ見えていない。
僕が見ているのは、力の流れだけが映る世界。
まるで自分が、知らない世界に迷い込んでしまったような不安感と。
どこまでも清らかな静寂が、そこにはあった。
「…………」
まず、自分の体内の神力を知覚する。
凝り固まった――とは、良く表現したもので。
僕の体には、固まり始めたバターのような、半固形、半液体のような熱い力が、まるで溶岩のようにゆっくりと流れている。
それに対し、爺ちゃんの力はまるで【気体】だ。
ふわふわとして。
蒸発したように、その力は猛烈な熱さを感じさせる。
……目指すべき姿は、目に視えている。
ならば、あとはそこを目指して進むだけ。
「腹を中心に、力を回すんだ。イメージとしては、固まった力を高速で回して、熱を持たせるような」
「……なるほど、こういう感じか」
固まった力に、さらに力を加えてゆく。
熱さに熱さが加わって、その熱は常軌を逸したものへと変化する。
爺ちゃんから驚きの力が伝わってくる中。
僕の腹で、その力は回り始める。
「な……!?」
爺ちゃんから声がしたが、それもすぐに意識の外へと放り投げる。
こ、これ……本当に難しい!
想力とは比べ物にならないほど、熱い力だ!
下手をすればこちらが焼けてしまいそうな。
まさしく、神の力。
回しているだけで体力がごっそり持っていかれる。
僕は大きく深呼吸して、神力の回転を徐々に最適化させてゆく。
もっと消耗を少なく、純粋な力ではなく、慣性を使え。
10分もすれば、力の流れは滑らかに。
半固形は、完全なる液体へと変わっていた。
……おそらく、これが第一段階。
荒くなった息も、少しずつ整ってくる。
僕は糸玉に意識を集中すると、少しずつ、少しずつ力を流していく。
限界まで目をかっ開く。
力を流した瞬間の余波で、その構造が一気に頭に浮かぶ。
それは複雑怪奇極まりなく、長い時を経て改良されてきた、というのも頷ける難易度だったと思う。
――だけど。
「……思い込みが、人を強くしてくれる」
自信を持て。
力は失っても、経験は一つたりとも失っちゃいない。
今までのすべて。
戦い、訓練、敗北、そして勝利。
それら全てを思い出せ。
その中にはきっと、使えるものが残ってる。
僕は、改めて大きく深呼吸して。
一気に、力の世界へと潜り込む。
体中が、力の海に沈み堕ちる。
全身に白い力が流れてゆき。
その世界で、僕は目の前に壁を見た。
達成するのに約数年。
複雑怪奇な最初の難関。
海の底までたどり着き、海底を踏みしめた僕は。
それを前に、ただ、声を上げて殴りかかった。
「――てめぇは、邪魔だ」
それから、どれだけ経ったか。
気が付けば、既に日は暮れていて。
もう、驚きすら通り越した爺ちゃんの前で。
――僕の手に在った毛玉は、真っ白のまま爆発した。
今までの戦果。
①神泥の適合訓練(達成率10%)
→泥を飲んでから10分足らずでほぼ完了。
②神力の操作訓練(通常は数年単位)
→数時間で完了。
 




