321『僕は負けない』
自分は劣っている。
僕の周りには、強い奴ばかりだ。
そいつらの強さは……輝きは。
きっと、僕が手を伸ばしても届かないものなんだ。
そう、思っていた。
「つまり、どーゆーことだ?」
シオンが口を開けて問いかけた。
コイツ……頭がいいはずなのに、たまにアホにしか見えないのはなんなんだろうか?
僕は苦笑しつつも、前方から視線を逸らせない。
「……あいつは、災躯系統じゃない。僕と同じ、逸常。他人の力を強奪することに特化した、最悪のタイプってことだよ」
「……つーことは。おいカイ、てめぇ、何を奪われた」
やっぱり、根っこのところは頭がいいんだろう。
シオンは顔をしかめて、暴走列車へと視線を戻す。
僕は脚へと力を籠めるが、先ほどまでの力は感じない。
信じたくはない。
それでも、理解してしまった。
「……【活性】と【脚力】が奪われた」
その言葉が、響いた直後。
暴走列車は、ここに来て最大の咆哮を鳴らした。
【GOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!】
「ぐう……ッ」
あまりの爆音に、鼓膜が裂けそうになる。
僕は咄嗟に耳をふさいで……次の瞬間、目と鼻の先に暴走列車の拳が迫った。
「は」
先ほどとは、比べ物にならない速度。
その場にいた誰もが反応することができず。
標的にされた僕ですら、ほとんど生身で攻撃を受けた。
瞬間、弾けたのは痛みではなかったと思う。
ただ、衝撃。
信じられないほどの勢いが叩きつけられ。
僕の体は、まるでゴムボールのように飛んでゆく。
「……ッ、カイ!?」
シオンの声が聞こえた。
僕は、壁に叩きつけられる直前で勢いを殺す。
「が、は、ぁ」
鼻から、眼球から、口から、全身から血が溢れる。
それでも耐えられたのは、深淵での修行の成果か。
地竜アラガマンド、毒提灯グレアス、そのほかにも、多くの魔物との戦闘で鍛え上げた復讐技能。
その効果で、ありとあらゆる攻撃に対する耐性が、大きく向上している。そのおかげで……なんとか、今の攻撃を受けても意識を保てた。
けど……ッ!
「なん、つー、威力……ッ!」
馬鹿じゃねぇのか、たった一撃で瀕死だぞ!
復讐技能に、加えて超再生を持つ僕だからこそ耐えられた。
けど、他のメンバーからすれば、その一撃は――。
「阿久津さん……!」
「分かっている!」
声を上げると、阿久津さんの目が金色に染まった。
その光景に、いち早く動いたのは暴走列車。
二年前の彼が、唯一破ることのできなかった盾。
全てを無条件に反射させる、最強最硬。
暴走列車は、拳を振り上げる。
そして、金色の瞳が煌めいた。
「【臨界天魔眼】」
瞬間、奴の右腕が振り下ろされて。
真正面から、金色の絶対防御へと突き当たる。
――そして、奴の右腕は爆散した。
ここ二年間で、大幅に強化された阿久津さんの力。
かつてはただの全反射。しかし、今では攻撃を数十倍に増幅して反射させる――という、チート此処に極まってる感じへと変化、強化されている。
それはもはや、進化とも呼べるものだろう。
攻撃したが最後。
その威力が何十倍にも引き上げられて、体を内から爆散させる。
暴走列車の体が吹き飛ばされていく。
僕は大きく深呼吸をして身体を回復させる。
みんなが僕のもとへと集う頃には、既に傷は完治していた。
「だ、大丈夫か、御仁っ!」
「……ああ」
毒提灯グレアスから奪った【超再生】。
遥かなるG以降は結局能力を奪えなかったが、グレアスからは超再生を奪い取ってる。
活性の力が消えた今、僕の回復手段はそれだけだ。
だけど……もしも、万が一。
この、超再生すら、奪われてしまったら。
僕はもう、今までのようには戦えない。
そう考えると、背筋が凍った。
今までの僕の、根底にあった【回復力】。
それが根っこの部分から消えてなくなる。
――奪われる。
そう理解した瞬間、体が震えた。
……ふざけんじゃねぇよ。
ただでさえ勝ち目がなかったのに。
どうして、禁書劫略以上の【強奪能力】まで手にしてんだよ。
僕の力は、一瞬で複数回奪うような力はない。
加えて、仮に奴の力に【強奪の回数制限】なんてものがなかったら……。
「……てめぇ」
僕の内からあふれ出したのは、絶望――
――なんかよりも、ずっと熱いモノ。
まるで、命よりも大切なモノに泥を塗りたくられたような。
耐えがたいほどの、怒り。
憎悪とすら読んでもいいものだった。
僕よりも後に、強奪の力を手に入れたやつが。
どういうわけか、僕の禁書劫略を、上回った?
そんなこと、誰が許そうと――創作者、僕のプライドが許さない。
「……よりにもよって、中二の僕に、喧嘩を売るか」
あの時期は、黒歴史としか呼べぬもの。
思い出すだけで鳥肌が立つ。
あの過去を無かったことにしたい。
そのためだけに今を生きてるわけだが――。
「なくなんねぇんだよ、作者の意地は」
どれだけ忘れたくても。
どれほど忌々しくても。
消えないからこそ、消したいわけで。
今もなお、あの設定を――昔の僕が僕が心血注いで造り上げた【力】を、忌々しくも愛している。そんな自分を消したくて、無謀にもお前らに挑んでんだ。
そんな、僕の人生の誇りとも埃ともつかない力に。
……暴走列車。お前、真正面から喧嘩を売ったわけだ。
なあ、分かるか、この気持ちが。
心血注いで造り上げ、今や現実と化した【作者の考えた最強】が。
ぽっとでの強奪能力に、全ての面で上を行かれた――今の気持ちが。
「――ブッ、潰す」
拳を握り締め、一歩踏み出す。
怒気に想力が荒れ狂い、周囲を破壊してゆく。
シオンが頬を引き攣らせ、成志川が喉を鳴らす中。
ポンタが、僕に向かって口を開く。
「……活性の強奪、か。おい男。それは【暴走列車から奪った分】か?」
「……? それはどういう――」
彼の言葉に、僕は問いかけ。
彼は、驚くべきことを口にした。
「貴様……【活性】が残っているだろう」
「な……!」
在るのか、そんなことが。
強奪能力が、能力の一部を奪い損ねる、だなんて。
僕は、改めて自分のステータスを見る。
灰村解
Lv.95[Sランク]
異能[禁書劫略][暦の七星][超加速]
技能[神眼][神狼][廻天][復讐][指揮][次元][消滅]
特異[飛行][毒支配][超再生]
基礎三形
活性[S→C]
遮断[A]
具現[S]
「……!」
そのステータスを見て、僕は思わず目を剥いた。
「活性の力が……残ってる?」
その事実に、僕は目を見開いた。
僕の禁書劫略は、一度奪えばそのあとに塵すらも残さない。
活性で言えば、また一から鍛えなおさないといけなくなる。
されど……奴の異能【強奪の悪魔】は違った。
強奪されて、そのあとに残るものがある。
時間的な余裕が無かった――という、理由があるにせよ。
僕の強奪は、奪い残すということがない。
僕の表情を見て、ポンタは告げる。
その表情に、一切の悲壮感は感じられなかった。
「安心こそできんが――おそらくは、奴の強奪は、お前の下位互換だろう」
前方で、瓦礫を押しのけ、暴走列車が立ち上がる。
その瞳はギラギラと僕らを睨んでいた。
……表記【SS】ランクの活性。
それを見て、勘違いしていた。
奴は、僕のSランクの活性を全て奪い、その影響でSSランクへ到達したのだと思ってた。
2年間で、多少は活性を鍛え直してると思ったからな。
……けど、違った。
僕は3段階分しか、活性の力を奪われてない。
にも関わらず、奴はSランクを超えて見せた。
……ってことは、2年間で、正攻法で活性をBランク以上まで上げていた、ってことになる。
「…………」
僕の強奪は、才能から何まで全てを根こそぎ奪う。
つまり、才能すら消すってことだ。
にも関わらず、奴はたったの2年間で、活性をBランク以上まで鍛え上げた。
……それの、どれだけ難しいことか。
僕は、顔を上げる。
暴走列車。
反則の権化みたいな存在だけど。
……その下に、想像もつかない努力を垣間見た。
無論、腹立たしいことには変わりないが……。
僕は大きく息を吐き、ポンタに言う。
「……奪う速度が桁違いだ。それに、もしも強奪できる制限が無かったら?」
「ふん、安心したぞ、冷静に把握しているじゃないか」
彼はそう言って、僕を振り返る。
「確かに、アレは楽観視できる力ではない。正直、近接戦をためらうほどの反則能力。あれのせいで、ボクたちの勝利が大きくゆがんだ。そう言っても過言じゃない。それほどまでの強奪速度……。確かに、あの速度にお前の異能は敵わない」
きついことを言うじゃねぇか。
僕は歯を食いしばって、拳を握り。
ポンタは、意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「だが、それ以外のすべてに勝る。違うか?」
その言葉に、僕は思わず顔を上げた。
彼は気恥ずかしそうに視線をそらし、前を向く。
……おいポンタ。
おまえ、いつから僕にそんな信頼よせるようになった。
僕は思わず苦笑すると、彼は苦々しい表情を浮かべ、言った。
「……ボクはただ、あくまで事実を言っただけだ」
「……ああ、そうだな」
暴走列車から、咆哮が響く。
あまりの声量。されど、もう怯むことはない。
「……御仁よ」
「『確固たる自信、思い込みが異能を強くする』……だったか、阿久津さん」
隣に並んだ阿久津さんへ、いつかも聞いた言葉を口にする。
彼女は大きく目を見開いて、嬉しそうに笑った。
「二年前の言葉……よくぞ、覚えていたな」
「死んでた二年間。何度もこの言葉に助けられたからな」
自分を信じる。信じぬく。
それは、とても難しいことだ。
だけど、無理を通して、初めて先に未来が見える。
暴走列車は駆け出した。
その速度は、先ほどと同等。
されど……おい暴走列車、歪が見えるぞ。
僕は転移し、奴の顔面へと蹴りを叩き込む。
カウンターなんてのは、軌道上に蹴りを置いてやればそれで済む話。奴の首から嫌な音が響き、その突進が止まる。
が、同時に蒸気が噴き出して、首が一瞬で再生した。
……僕の超再生とタメ張る回復能力。
加えて、活性を取り戻したことで増した能力値。
対し、僕は活性を奪われ、身体能力は落ちている。
ただ、それでも。
お前はすべてを奪え返しちゃいないんだ。
お前は全盛には戻れちゃいないし。
僕もまた、最弱には至ってない。
僕は、頭上からの踵落としを叩き込む。
弱体化されたはずの一撃。
異常稼働は使えない。
それでもなお、通常時の僕より威力があった。
暴走列車は両腕で防御して、衝撃が突き抜ける。
【GOOOOAA……!】
「お前の脚力、残ってる分は使わせてもらう!」
僕はそう叫び、右手を奴へと向ける。
それをみた瞬間、暴走列車は僕へと手を伸ばす。
そして腕をつかみ、思い切り握りつぶした。
突き抜ける痛み。
……だけど、その行為が確信を呼んだ。
僕の腕を握りつぶせるだけの時間があった。
にもかかわらず、男は僕から何も奪わなかった。
その理由が、絶対に在るはずだ。
僕の異能に【強奪制限】があるように……コイツの異能にも、必ず制限がある。
それが何かは分からないけど……。
阿久津さんが、防御一辺倒しかできないように。
六紗が、息を止めている間しか時間を止められないように。
ポンタが、本気を出せる時間に制限が掛けられているように。
必ずしも、反則には反則なりの、都合と条件が存在する。
円環が伸びて、その体へと絡みついた。
暴走列車は目を見開いて……残る、僕の左手へと視線を向けた。
信じろ、自分を信じろ!
今まで歩いてきた、僕の人生を!
暗がりの中で書き上げた、黒歴史を!
心血注いで造り上げた、僕の力を!
それを鍛え上げた、この三年間を……!
今の僕を、信じろ!
どれだけ自信が無かったとしても。
空っぽな威勢でも、何だっていい。
確固たる自信。それが強さの原材料だ!
「禁書劫略……奪うは【腕力】!」
その瞬間、奴の体から腕力が消えた。
抵抗しようと動き出していた両腕が、力なく下がる。
【GOA……!】
「キツいだろ、根こそぎ奪ったからな……ァ!」
その光景に、僕は消えた右腕を振りかぶる。
力を込めた次の瞬間には、潰れた腕は癒えていた。
暴走列車は、僕を見上げた。
その真っ赤な瞳に映ったのは、拳を振り上げた僕の姿。
さあ、二番煎じの強奪野郎。
「――歯ぁ、食いしばれよ」
今の僕が放てる全力に、あらん限りの感情をのせて。
僕は、拳を振りぬいた。
衝撃が、地下空間の崩壊を加速させる。
暴走列車の顔から、骨が砕ける音がする。
奴の体は、勢いよく吹き飛ばされてゆき。
壁へとぶち当たった暴走列車は、力なく四肢を大地に投げた。
その姿を、一瞥して。
僕は拳を握り、宣言した。
「僕は、負けない」
もう、弱者はやめだ。
暴走列車、お前は――僕が倒す。
自分を信じろ。
劣等感など放り投げ。
自信を胸に、前を向け。歩き出せ。
もう、劣っていると身を引くのはやめにする。
自分の評価は破り捨てた。
――僕は強い。
そんな空虚な自信こそが、僕を強くしてくれる。
さあ、始めようか、決戦を。
覚悟しろ、今の僕は結構強いぜ。
次回【灰村解VS暴走列車】




