008『作者VS創作物』
増減するポイントに一喜一憂している今が幸せ。
一気に100pくらい増えたなー、と思っていたら、日間ランキングに載っておりました!
まだ一週間もたってませんが、ありがとうございます。
最初の衝突。
押し負けたのは、僕の方だった。
「ぐっ……!?」
ビキビキと、右腕の筋肉から悲鳴が上がる。
鮮血が吹き出し、痛みに顔を顰めた瞬間、吹き飛ばされた。
10メートルほど吹き飛ばされて着地した僕は、痛みとは裏腹に、意外と冷静に状況判断することが出来ていた。
「やっぱり……!」
純粋なパワー勝負じゃ、まだ少しだけ向こうが勝る。
通常のスカイゴーレムならまだしも、こいつは僕の設定したモノより、さらに強化されてここに居る。
……もう少しレベルが高ければ打ち勝てるだろうけど、この時点じゃまだ勝てない。今の一撃でそれが分かった。
「なら、速さで翻弄する……!」
僕は両腕を元へと戻し、両足を狼のものへと変える。
まだ技能に慣れていないせいか、影狼の技能で変化できるのは両腕か両脚のどちらかだけだ。
両腕両脚をいっぺんに変化、あるいはもっと部分的に変身出来れば戦いも楽なんだろうけど……まだ、僕にそこまで出来るだけの能力はない。
能力を手に入れて、すぐに使いこなせる主人公じゃないんだ。
そりゃ、手間取るし鈍臭い思いもする。……だけどな。
「僕の黒歴史滅却への渇望! 舐めんじゃねぇよ!」
ゴーレムの視覚外から、回し蹴り。
奴は咄嗟に右腕でガードしてきたが、勢いの乗った一撃にゴーレムの体が押し込まれる。
一体……僕がどんな思いでここに立っていると思う!
憎悪、羞恥、後悔、絶望?
そんな言葉じゃこの感情は言い表せねぇよ!
お前に分かるか! 黒歴史の塊みたいなノートを、あろう事か本物の異能力者たちがマジになって熟読している! それを知った時の僕の気持ちが!
道端で黒歴史を音読された時の僕の気持ちが!
妄言使いがドヤ顔で黒歴史ノートを見せびらかしてきた時の気持ちが!
主人公がなんだ!
異能使いがなんだ!
異世界人がなんだってんだ!
全員まとめてぶっ潰してやんよ!
僕の連続攻撃が、ゴーレムへと叩き込まれる。
あわよくば弱点を……とも思っているが、核だけはガッチガチに防御が固められている。あ、背中の術式? あれは単なるフェイクだよ。ただのアクセサリーです。
と、そんなことを考えていた時だった。
『ゴォォォ!』
「うおっ!?」
こちらの蹴りに合わせて、ゴーレムの拳が飛んでくる。
咄嗟に上体を逸らして避けたけど……。
「……こ、コイツ、まさか学習したのか?」
僕は咄嗟に距離を取る。
ゴーレムはまるで、ボクサーのように防御を固めて僕を見ていた。
「……思考能力の無いことが、唯一の弱点だったんだけどな」
こうなりゃ、短期決戦以外に道はない。
長引けばそれだけ『体力∞』のゴーレムが有利になるし、加えて学習能力もあると来た。ほんっとうに、挑戦者を馬鹿にしてるとしか思えない場所だこと。
僕は両腕を構える。
まぁ、ボクサーの見真似だ。僕に殴り合いの経験はない。
対するゴーレムも、ドスドスと音を立ててフットワークを使い始めた。
ジリジリと、互いの距離が縮まってゆく。
相手の間合いを見誤ったら……その時点で負ける。
頬を汗が伝い、緊張に喉がなる。
もう少し……もう少しで、攻撃が届く。
一歩、後一歩と距離を縮めてゆき。
――そして、僕らは目の前に向かい合って、立ち止まる。
それぞれ、互いの間合いの、少し手前。
向こうの方がリーチは上で。
僕の方が、速度は上。
これ以上踏み込めば、僕の攻撃が当たるだろうし。
――同時に、相手の攻撃も当たると思う。
僕は大きく息を吐き。
ゴーレムの眼光が、薄く細まる。
そして、次の瞬間、一斉に地面を蹴った。
『ゴォォァ!?』
「ぐぇ……!」
核を狙った僕の蹴りが、狙い外れてゴーレムの顎を砕く。
と同時に、ゴーレムの拳が僕の脇腹を砕いていた。
凄まじい衝撃と痛み。
僕は一直線に壁まで吹っ飛んでゆく。
体勢を整えるも痛みは引かず、脇腹を押さえて血反吐を吐いた。
「肋骨……、ッ!」
脂汗を滲ませ、顔を顰める。
痛ぇ、めちゃくちゃ痛ぇ!
けど、こんな痛み……中二の『イタさ』に比べりゃ屁でもねぇ!
耐えろ、堪えろ! 前を向け!
僕は無理やり頬を吊り上げ、ゴーレムへと駆け出した。
『ゴ、ォ……』
顎を砕かれたゴーレムは、三半規管に狂いが出て、膝をついている。
――ゴーレムの設定。
彼らは限りなく人に近しく造られた存在。
だからこそ、それ故のデメリットも多い。
バランス感覚を取る装置は、三半規管と同じ形状で。
そこを揺さぶられれば、ゴーレムの活動に大きすぎる支障が出る。
「らぁッ!」
回し蹴り一閃。
程よい高さまで落ちてきた奴の横っ面を、ぶっ飛ばした。
ゴーレムは不意の一撃に大きく体を仰け反らせる。
両腕のガードは解け、胸の核が顕となる。
僕はその『核』目指して大地を踏み込み――
次の瞬間、ゴーレムの前蹴りが僕を捉えた。
「が――」
声も出ず、痛みが弾けた。
鮮血が溢れ出し、踏ん張ることも出来ず、近くの壁へと寄りかかる。
こ、この野郎……僕の場所が分からないからって、攻撃された瞬間を狙ってカウンターを決めにきやがった……!
僕はゴーレムの方へと視線を向けると、奴は周囲へと視線を漂わせながら、警戒したように胸の核へと右腕を添えている。
「ぐっ、げほっ……! クソッタレが……!」
やばいな……口から血が止まらない。
ボタボタと、赤いシミが石畳に広がってゆく。
体が少しずつ冷たくなってきた……気がする。
勘違いだったらいいのになぁ。
僕は天を仰いで笑った。
ひとしきり笑い切ってから、前を見た。
既に、笑みは消えていた。
「これで決める」
思い出せ、設定の限りを。
頭を回せ、お前はなんのために小説書いてんだ。
自己満足のため? 金儲けのため?
違うだろう。
こういう状況で、なんかいい感じの戦略思いつくためだろ!
「……こうなりゃヤケだ! 一撃必殺!」
大きく声を上げ、僕は突っ込んだ。
ゴーレムは僕の声に反応、こちらを振り向く。
奴は今までの僕の行動、加えて今の言葉、この場の雰囲気、全てを鑑みた上で、もっとも有り得そうな先読みで動くだろう。
この深淵が、僕の心理をベースにしているならば。
きっと、そういう風に設定するはずだ。
「スゥゥゥ……」
静かに、息を吸う。
狼の両脚で、助走から勢いをつけて。
右手を振り被ったその瞬間、足から腕へ、影狼変化。
ゴーレムは、核へと迫ると予想した僕へと手を伸ばし。
――そのすぐ隣を、青い炎が過ぎった。
『ゴ…………ガッ、ッ!?』
鈍い音が響きわたり、ゴーレムの驚いたような声がした。
僕は、右手を振り下ろした姿で、奴を見ていた。
「よくあるだろ? 食べられるのに破壊不能属性のアイテム」
奴の核には、松明が突き刺さっている。
ゴーレムの胸で、青い炎が煌々と燃え盛っている。
自分の胸へと視線を下ろしたスカイゴーレムは、ジジシッと目の光を点滅させた。
壁際の松明。
コバルトブルーを倒す際は、いとも簡単に食べられてしまうこの木の棒だが、その実、破壊不能属性を持つという謎のアイテム。
それは、【戦闘で松明壊されたら、なんか深淵の雰囲気を損なうよな。暗くなっちゃうし】という作者の都合により生み出された、ブラックアイテムだ。
スカイゴーレムは、僕へと手を伸ばす。
それを前に、僕は狼へと変えた右手を差し出した。
強かったよお前は。
正真正銘、格上だった。
何度も、死んだかと思った。
けど、僕の知識がお前のゴリ押しの上を行った。
……ま、最初から言ってるように、お前の敗因は一つだな。
僕は口内の血を吐き捨てて、右手を払う。
「これが作者の、意地ってやつだ」
スカイゴーレムが、砂へと変わる。
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《レベルが上がりました》
《特異個体を討伐しました》
《討伐報酬・帰還の技能を獲得しました》
僕は、口の鮮血を拭って、息を吐く。
安堵にその場へ腰を落として、僕は、あまりの疲労に目を閉じる。
あぁ……くそ、もう、体が動きやしない。
僕はその場に大の字で倒れると。
気絶する間際、何とかその言葉を捻り出した。
「『帰還』」
僕の体は、深淵から自宅へと転移した。
その時にはもう、僕の意識はなかったと思う。
次回、帰還。
下の☆を押してくださると、☆の数だけ筆が進みます(白目)。