表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/170

318『帰結』

一部設定矛盾がありましたので訂正しました〈2020、10/10〉

 その光景を、男は倉庫の屋根から見下ろしていた。

 無論、壁や屋根が邪魔をして、その場所から地下を見通すことはできない。

 それでもその男は、実に楽し気に笑っていた。


「いやー、いいねいいね、最高だね!」


 その表情は、満面の笑顔。

 男は両手を広げる。

 目が痛くなるような、ド派手な和装が風に揺れる。


「物語はこうでなくちゃ! 大きな成長、強い敵、見守る仲間! そして繰り広げられる熱戦! 熱を帯びた観客席! 誰もが決着を待ち望んでるその光景! ……それをぶっ壊すと考えると、それだけで達してしまいそうになる」


 男の頬が、気色の悪い赤色へ染まる。

 薄い紫色の髪が奇怪に揺れて、男は語り掛ける。



「ねぇ、君も思うだろう? ()()()?」



 その言葉を受け。

 男の後方に立っていた銀髪の女性は、顔をしかめた。




 ☆☆☆




 銃弾が放たれる。

 よりも先に、下から銃口へと拳を振り上げる。

 ぐしゃりと、鉄からは鳴ってはいけない音がした。

 見れば、奴の構えていた拳銃は大きくへしゃげて、その内部で弾丸が暴走。大きな音を鳴らして拳銃そのものが炸裂する。


「ぐ……っ」


 異能者殺しは、目の前で炸裂した銃を前に、顔をしかめる。

 その全身を破裂した銃の残骸が傷つけてゆく。

 まるで、鉄片の嵐。

 その中を、僕は瞬き一つなく駆け抜けた。


「!?」


 男が気づいた時にはすでに遅く。

 振るった拳は、深々と男の腹へと突き刺さった。


「が……ッ!?」

「お前、本当に異能者殺しか?」


 噂で聞いていたよりも……。

 僕は思わず困惑を浮かべて……気が付いた。

 振るった右拳が、直前で彼の掌に受け止められていることに。

 思わず目を剥き、男は笑った。


「ああ、()()()()()()()()()()。やっと捕まえたよ」

「ま、まず――」


 背筋に、冷たいものが走り抜けた。

 顎の下へと銃口が触れたのは、直後のこと。


 ――鈍い衝撃。


 顎先に痛みが走り、顔が跳ね上がる。

 放たれた弾丸は顎を貫通、口内へと突き破り、口の中から飛び出していく。

 真っ赤な鮮血がほとばしる中、僕はたたらを踏んで……その横っ面を、異能者殺しは銃で殴った。

 縦に続いて、横への衝撃。

 目まぐるしく変わる視界に、思わず歯を食いしばる。


「てめぇ……!」

「先に言っておく。もう、逃がさない」


 ジャラリと音がした。

 気が付いた時には、僕の右腕と奴の左腕は手錠でつながれていた。

 大きく目を見開く。視界の端には、壊れたはずの銃が元の姿に戻っているのが見えて。

 僕は、此処に至って一つの答えにたどり着く。


「【具現】……! お前、基礎三形で、銃を――」

「だけじゃない」


 眼前から、右拳が飛んでくる。

 咄嗟に首をひねって回避する。

 だが、回避と同時に右腕を引かれ、バランスを崩す。

 思わず足をもつれさせた僕に向かって、頭上から拳銃が物理的に迫る。


「ぐっ!」


 グリップで思い切り顔面を殴られた。

 あまりの痛みに鼻血が噴き出し、その衝撃に理解した。

 具現……だけじゃない!

 この男、活性まで僕と同レベルの化け物だ!


「く、そっ」


 ダメージに膝が折れる。

 奴がその隙を見逃すわけもなく、足を掛けられ転ばされる。

 頭上に馬乗りになるように男は迫り。

 幾度となく、僕の顔面へと右の拳を振り下ろす。


 鈍い音が、何度も響く。

 その度に鮮血が溢れて、叩きつけるグリップが血に染まる。


 大歓声が聞こえる。


「いけぇ! やっちまえ異能者殺し!」

「これで異能力者を殺したの、何人目だよ!」

「やっぱりお前が最強だ!」


 悲鳴が聞こえる。


「や、やべぇよ……し、死んじまうぞあいつ!」

「審判! 試合を止めてやれよ! 死んじまうぞ!」


 応援する声が聞こえる。


「てめぇ、カイ! オレの代わりに出といて、何だそのざまは! ぶっ殺すぞ!」

「は、灰村くん! が、がんばって!!」

「ふん。その程度なら、優ちゃんを渡すことはできそうにないぽよな」


 ……うるせぇ。

 どいつもこいつも……僕が負けるって?

 ふざけんな、僕は勝つためにここに来てんだ。

 こんな程度の傷で試合を止められるなんざ……まっぴらごめんだ!


 僕は、右の拳を握り締める。

 それを見て、異能者殺しは警戒したように目を細め。


 僕は、その顔面へと思いっきり頭突きした!


「が、は……!」

「さんざん殴ってくれやがったな……!」


 僕は立ち上がり、右手の手錠へ視線を移動。

 目の前で、異能者殺しは顔面を押さえている。


「き、さま……!」

「【異常稼働(フルドライブ)】」


 全身から、血の蒸気があふれ出す。

 手刀を落とすと、僕らをつないでいた手錠は粉砕した。

 その光景に、異能者殺しは目を見開いて。


 次の瞬間、その両手を漆黒の杭が串刺しにする。


「――!? い、一体何が……、ま、まさか貴様も!」

「うるせぇ」


 ただ一発。

 されど、本気の一発。

 顔面へと直撃した僕の拳は、異能者殺しを勢いよく吹き飛ばす。

 周囲の鉄檻すらぶち破り、観客席へと突っ込んでゆく。

 悲鳴が上がり、観客が続々と避難してく中。

 僕は、血色の煙に身を包み、一歩、また一歩と歩いてゆく。


「ぐ、くく……手を抜いていたのは、お互い様か!」


 異能者殺しは、客席に背を預けるように、倒れていた。

 余力を振り絞り、奴は僕へと銃を向ける。

 だが、そのトリガーを絞るより、僕の方が速かった。



「【串刺し公(ヴラド・ツェペシュ)】」



 呟いた時には、奴の手から拳銃は転げ落ちていた。

 異能者殺しは大きく目を見開いている。

 銃を握っていた右手は、鋭い杭によって串刺しにされている。

 その光景を一瞥、僕は目の前で倒れる男を見下ろす。


「悪いな。僕の勝ちだ」


 既に、勝敗は決しているだろう。

 僕は傷を負いながらも、ほぼ回復した状態。

 対する男はダメージが深く、両手も使えず、武器も具現せねば使えない。

 そして、武器を具現するよりも、僕がとどめを刺す方がずっと早い。


 だからこその発言に。

 されど、異能者殺しは不満を表した。


「貴様の……勝利? その目は節穴のようだな、灰村解」

「……お前、一体何を言って――」


 理解の出来ない言葉に、僕は思わずそう言って。

 次の瞬間、()()()()()()()()()()を見て、僕は咄嗟に後方へと飛んだ。

 その光景を見て、真っ先に思い当たるのが【消滅】技能。

 だから、考えるより先に動いてた。

 ……だけど、よく考えたら、それも違うとすぐに分かった。

 他者の異能封印――おそらくは【久理】の異能種別であるこの男が、杯壊系統に属する力を使えるわけがないからだ。


「いったい何が……」


 杯壊でないなら……なぜ、僕の杭が崩れ落ちた?

 僕は困惑を浮かべながらも、集中力を高める。

 なにか、とても嫌な予感がする。

 姿勢を整え、想力全開で拳を構える。


 ――そして、拳を構えた時点で気が付いた。



「……!? な、なんで……()()()()()()()()()()!」



 僕の体からは、血の蒸気が噴き出していなかった。

 嫌な予感が加速する。

 咄嗟に僕が解除しただけ?

 そんな希望にすがって、再び発動するべく動くが――発動しない。

 まるで、その力の源、【活性】そのものが封印されてしまったように。


「な、なら!」


 具現を発動し、奴の周囲へと杭を召喚しようとする。

 が、これもできない。

 どれだけ想力を籠めようと、杭の一本も生み出せない。


「……っ、ま、まさか!」

「く、くくく……無様、ここに極まったな! 灰村解!」


 ……すでに、思い過ごしと考えるには、嫌な予感は大きすぎた。

 拳を握る。

 されど、いつものような力はない。

 杭どころか、小さな具現も発動できず。

 遮断も一切が使用不能になっている。


 ……認めたくはないが、認めざるを得ない、か。


 僕は大きく息を吐き、目を閉ざす。

 そんな僕へと、異能者殺しはあざ笑う。



()()()()()()()()()。異能のみを封印する等……俺自身が流した嘘ハッタリさ」



 その言葉に、拳を握り締める。

 ……やられた。

 異能なしの純粋な戦闘では、僕が一番強いと思った。

 だからこその、僕の参戦。

 されど、純粋な身体能力で言えば、たぶん僕はさほど高くない。

 活性や具現を奪われてしまえば――僕はただの一般人だ。


「あくまでも、保険。万が一のための嘘だったが……まさか、このような局面で効いてくる、とはな。灰村解。その強さは認めよう。弱者なりに、努力してきたのは認めよう。だが、弱者は弱者。生まれながらの強者には及ばずと知るがいい。その理解こそが、俺が贈る、冥途の土産だ」


 男は、銃を構える。

 その銃口は、寸分たがわず僕の頭へ向いている。

 異能者殺しの声色から、彼の表情は想像できた。

 形勢逆転、自分の勝利を確信した笑顔。

 そんなところか。


 僕は、目を開く。


 僕の想像は、裏切られていた。


 異能者殺しは、()()()()()()()()()()()()()


 まるで、何か忘れ物をしてしまったような。

 心のどこかで、何か引っかかりを覚えているような。

 間違っても、形成を逆転させた男の顔ではなかったと思う。



【何か、とても嫌な予感がする】



 その目は雄弁に語っていて。

 僕は、思わず噴き出した。


 なあ、異能者殺し。

 お前の嘘には、まんまと騙されたよ。

 まさか、異能だけじゃなく、基礎三形も封印できるとは。

 正直驚いたし、何なら敗北も脳裏をよぎった。


 されど、それは一瞬。


 僕は彼の目を見て、問いかける。



「一つ質問。なら、どーして最初から、基礎三形も封印しなかった?」



 僕の言葉に、異能者殺しの肩が揺れる。

 ちなみに、奥の手は隠しておくものだ……的な答えはやめろよ?

 お前と戦っていて、いくつか理解できたこともある。

 お前は、後々の戦略のために手を抜くことはあっても――そんなカッコつけみたいな理由で手を抜くことは絶対にしない。言ってみれば、中二病とは正反対に位置する男だ。

 僕の中二病センサーが真逆に振り切ってるからな。

 そこの部分に関して言えば、間違いないと断言できる。



 ――だからこそ、疑問だった。


 なぜ、この男は出し惜しんだのか。

 最初からすべてを封印しなかったのか。

 衆目があったから? 想力の消耗が激しいから?

 もちろんそれも、在るのかもしれない。


 だが、違うだろう。本当の理由は。


 僕は右手を前方へと掲げる。

 想力を込めて、ただ、その名を口にした。




「【神狼】」




 瞬間、僕の腕が狼のモノへと変化する。

 その光景に、男は驚き、大粒の汗を流す。


「な、なぜ……! 異能も、基礎三形も封じたはず!」

「驚くなよ。また、封印すればいい話だろ?」


 僕はそう言って笑うと、男は唇をかみしめた。

 異能者殺し。

 お前の力はきっと――お前が言う通り封印する力なんだろう。

 でもって、その力はきっと【異能を封印することに特化している】。


 何故、僕の基礎三形をすぐに封印しなかったか。

 正確には――()()()()()()()()

 最初にその答えを言ってしまおう。



「お前……基礎三形の封印、慣れてないんだろ」



 その言葉に、男は大きく反応した。

 ……大前提として。

 基礎三形なんて鍛えてるやつ、異能力者には多くない。

 理由は、基礎三形より異能の方が強いから。

 だから、異能の方をメインで鍛錬し、基礎三形をおろそかにする異能力者は多い。

 そう、学校の授業で習った。


 だから、S級クラスでもない限り、基礎三形を警戒する、なんて事態は起こらない。

 異能を封印する=勝敗が決するというイメージがあっても、おかしくはない。


 そのイメージが、基礎三形封印の、遅延に繋がった。


「な、なぜ……そ、そんなものは憶測で――」

「なら、コレも封印してみろよ。ただし、気をつけろ。これは異能でも基礎三形でも、何でもない。おそらく、お前が生まれて初めて見知る技術だ」


 言ってしまえば、僕は最初から【技能】を使えた。


 だってこれ、異能でも基礎三形でもないんだし。


 なら、なぜ最初っから使わなかったんだ、って?

 そりゃ、アレだよ。

 奥の手は最後まで残しておくものだから、だよ。


 これは、異能ではなく、技能。

 誰から与えられたものでもなく。

 ただ、自分の力で勝ちとった、技術の一種。

 努力の集大成。


 なあ、異能者殺し。

 仮にお前が、ファンタジー的なすべての力を封印できたとしよう。


 それでもなお、この力はお前の範囲に該当しない。


 なんせ、この力はお前の見知るソレとは違う。



「ふっ、ふざけ……ふざけるな! 何故貴様がそのような力を持っている! 弱者にはふさわしくない、相応しくないッ! そのような力は、俺ら強者にのみ相応しい!」



 男は叫ぶ。

 僕は、拳を握り締める。


 さあ、決着つけようか。異能者殺し。


 お前は、結構強かったよ。

 ただ、僕とは相性が悪すぎた。


 僕は拳を振りかぶる。


 異能者殺しは、顔を赤くして声を上げ。







「さあ、ショータイムを始めよう」




 どこからか、声が聞こえた。

 尋常ではない、寒気。


 ――その場に居てはいけない。


 理性ではなく、本能で理解した。


 大気が震える。

 体が震える。


 腹の底にまで響く圧。

 たぶん、この会場にいるほとんど感じられない恐怖。


 感じているのは、僕と、ポンタと、シオンだけ。


 気配がした。

 頭上を見た。


 天井が砕けて、化け物が落ちてくる。




【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAA!!!】




 巨大な体。

 マグマが胎動するような、赤黒い肉体。

 胸には、【肆】の文字が浮かび上がり。


 その全身からは、絶え間なく蒸気があふれ出す。


 ……忘れられる、はずもない。


 僕の、()()()()()()




「――ッ!?」



 咄嗟に、僕はその場を飛びのいた。


 その巨体が、落ちてくる。

 落下地点には、唖然と口を開く異能者殺し。



「……あ」



 あっけない、最期だった。

 嫌な音がして、真っ赤な血だまりが広がる。


 その際に、血だまりの中へと【伍】と記されたノートが転がる。

 僕が動くより先に、その化け物は、そのノートを手に取り――喰らった。


 まるで、ごちそうにありつくように。

 僕の目の前で、僕の黒歴史を貪り食った。


「おいおいおい……嘘だろ、こんちくしょう」


 僕は思わず、頬を引き攣らせる。

 現実ってのは、予想通りにはいかないけれど。


 ……これは、あまりにも想定外だ。


 赤黒い目が、僕を捉える。

 瞬間、その顔が笑みにゆがんだように見えた。


 それは、獲物を見つけた、獣の目だった。



「【暴走列車】……随分と、久しぶりじゃねぇか」



 想いは繋がり、因縁は巡る。

 僕とこいつが対峙するのは……一種の帰結なのかもしれない。


第一章はシオン・ライアー。

第二章は成志川景。


第三章は、灰村解と暴走列車。


さあ、此処に記そう。

二人の始まりの因縁を。

その帰結を。


次回【対峙】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 質問。暴走列車と食人野郎って、同一人物ですか?
[気になる点] 技能は零巻と別離しているなら冥府で使えなかったのはなぜ?
[一言] どこまであんたは、俺の心を満たしてくれるんだ... なにこの厨二心をくすぐる作品、好きすぎる 書籍化マジで希望
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ