316『参戦!』
そこは、隣町の港区。
あまり人の出入りが少ない倉庫地帯。
今日は、そんな場所が妙に人の気配で満ちていた。
多くの黒塗りの車が止まる。
そのたびに、一般人でも顔を知ってる社長や、超一流ブランド会社の役職者、そのほか、スポーツ選手や、中には……僕は知らないけれど、異能力者の姿もあった。
おそらく、護衛かなにかだろう。
僕は……否、僕らはその様子を、倉庫の屋上から見据えていた。
「すごいな……これほど高位の遮断。あの護衛達も名の売れたA級だが、まったく気づいた気配がない。悪魔王以外にここまでの遮断能力者がいただなんて……」
となりで、成志川がそう呟く。
まあ……阿久津さんはな。
活性も具現もあまり才能は無かった代わりに、常軌を逸した遮断能力を保有する、一種の化け物だ。
ああいった類と一緒にされると立つ瀬がない。
そうこう考えていると、足元からぽよぽよ音がした。
「お、おい男! この女、さっきからよだれを垂らしながらボクを見てるぽよ! ぜったいボクを食べる気してるぽよ!」
「なぁカイ……コイツ、うめぇのかな? なんか全身柔らかそうだし……帰ったらすてーきにしよーぜ!」
「ぽよおおおお……!」
ポンタが恐怖に震え、僕は苦笑して前を向く。
灰村解、S級。
ポンタ、S級最上位。
シオン・ライアー、S級上位。
成志川景、S級上位。
以上。
なんか悪そうな大人たちの中に突っ込み。
正々堂々、暴力で第伍巻を奪い取ってくる作戦の参加メンバー。
僕は笑う。
拳を握り、前方の倉庫へと視線を向ける。
「ポンタ、シオン、あと成志川」
「あれっ、なんか僕だけおまけみたいな……」
成志川がなんか言ってたが、無視。
「第伍巻を取り戻す。力を貸せ」
相手はS級、異能者殺し。
相手にとって不足はなく、こちらの戦力に不備もない。
ポンタは呆れたように息を吐き。
シオンは笑い、成志川は嬉しそうに頷いた。
どいつもこいつも、最初は敵として出てきた奴ばかり。
それが……どういうわけか、このメンバーでチーム組んでる。
……二年前、死ぬ前ならこんな未来は信じられなかったと思うけど。
不思議と、このメンバーには不満はない。
「行くぞ、三人とも」
「指図すんじゃねぇ! オレが親分だ!」
シオンが叫び、僕らは倉庫屋上から飛び降りる。
いきなり現れた僕たちに、倉庫の入り口の門番は驚いたように目を見開いて。
僕は開口一番に先駆け、拳で語った。
門番は顔面を殴られ、そのまま倉庫の奥へと吹き飛んだ。
閉ざされていた内部に日が差す。
あまりの衝撃、あまりの音に、中にいた全員が僕らを振り返る。
その中心には、地下へと降りる階段があって。
「地下格闘に参加希望、よろしく頼む!」
とりあえず、これで拒否ったらその度胸だけは認めてやるよ。
☆☆☆
結果から言って。
僕らの格闘技参加は、普通に認められた。
「こちらです」
そう言って通されたのは、観客席の一角。
座席は三つ。
僕を除いた3人が席に座り、僕を見上げる。
「けど……本当にいいのかい? 僕らが出た方がいいんじゃ……」
成志川が、心配そうにそう言ってくる。
彼の言葉の通り、今回は僕が出場する。
他の3人は欠場だ。
……なら、連れてくる意味なかったんじゃないか、って? いやいや、もしも交渉決裂とかなって、乱戦になった時には活躍してもらわないといけないからね。
「心配すんな。それに……元々これは、僕の戦いだ。矢面に別の人間立たせて、胸張って願いなんて叶えられるかよ」
「灰村くん……」
感動した風に僕の名を言う成志川。
なんかカッコイイこと言ってる風だけど、これってただの自己満足よ。それになにより、異能者殺しと戦う際、最も勝算が高いのが僕だからな。
単純に、僕は勝算の高さを取っただけさ。
「おいカイ! 異能者殺し? って、異能はフーインされても、具現はつかえんだろ! なら、お前よりオレの方が強いぜ! オレが出ようか!」
そう言って、元気よく手を上げるシオン。
「ちなみにボクはパスぽよ。異能を封印されたら手の打ちようがないぽよ」
でしょうね。
ポンタが言った。
僕は2人の反応に笑みで返す。
「まぁ、見てろって」
僕はそう言って、リングへと歩き出す。
『さぁ! 今月もやってまいりました! 月に一度のビッグフェア! 地下格闘技戦【夜飛び】の開催だァァァ!』
司会と思しき女性の声が響く。
リングの周囲には、多くの異能力者たちが集まっている。
中には想力を持たないものも居るが……どっちかって言うと、そっちの方が強そうだな。
『ルールは簡単、ただ倒すだけ! 何を使ったところで文句は無し! 決着は双方どちらかの戦闘不能、あるいは死亡! サレンダーなどが上げられます!』
つまり、デスゲームって話だな。
そうこう考えていると……ざわりと、周囲がざわついた。
ひときわ大きな気配。
そちらを見ると、黒いコートを羽織った一人の男が歩いていた。……真っ直ぐに、こちらへと向かってきていた。
身長は……僕より高い。
日本人だとは思うけど、詳しいことは分からない。
男は僕のすぐ前へとやってくると、僕を見下ろし、口を開く。
「貴様が……灰村解。なるほどな。何も感じないことが何より恐ろしい。……貴様、相当強いだろう?」
「……人に物を尋ねる時は、自己紹介くらいはしてからにしろよ。異能者殺し」
聞いていた容姿と合致する。
加えて、今この場にこの男より強い輩は見当たらない。と来れば、この男こそが異能者殺し……と、そう考えるべきだと思う。
僕の言葉に、異能者殺しは鼻を鳴らす。
「なるほどな……。あの男が殺したがるわけだ。無根拠に吠える格下。本来であれば一笑に伏す存在が――これほどまでに忌々しい」
その顔が、僅かに歪む。
それだけで周囲へと殺意がばら撒かれた。
ざわついていた会場が一瞬で静まりかえる。
あまりの圧。
濃厚な死臭。
……間違いない。
この男、今まで戦ってきた誰よりも多く、人を殺している。人を殺し過ぎている。
僕は男を睨むと、異能者殺しは視線を外した。
「おい」
「へい、ボス!」
男の背後から、1人の大男が現れる。
なんという巨体か。暴走列車を除けば最大級の大きさかもしれない。
「灰村解。貴様を試させてもらう。この男と戦え。万一この男に負けるようであれば……相手する価値なし。疾く去るがいい」
「……随分と、舐められたもんだな」
紹介された男を見上げる。
男は見下げ果てた目で僕を見下ろす。
「なぁ、ボス。こいつを殺れば、アンタと戦わせてくれるって本当だよな?」
「あぁ、仮に勝てれば、の話だが」
異能者殺しは、そう言って去ってゆく。
その背を見送り、その男は大声で笑った。
「がはははは! この俺が、こんなチビに負けるとでも思ってるのか! だとしたらお前の正気を疑うぜ!」
☆☆☆
「ほげらぁっ!?」
とりあえず殴った。
この男、ものすごい噛ませ犬感がする。
なので、試合開始と同時に移動、その顔面を殴り飛ばした。
「こ、この……!」
「これで終いだ」
僕はその横っ面を殴り飛ばす。
男は顔面から地面にめり込み、痙攣。やがて動かなくなった。
「な、な、なな……!」
『な、なんとおおおおお! しゅ、瞬殺! 我らが誇る【壊し屋アレン】が、初登場の高校生に瞬殺だァァァァ!!』
周囲からざわめきが聞こえてくる。
ステージの上から、僕は異能者殺しへと視線を向ける。
そこには……驚きはないが、忌々しそうに顔をゆがめる男の姿があって。
「どうだい、測れたか、僕の実力」
短時間で測りきれる程、僕の底は浅くはないけど。




