311『ノートの在処』
予約投稿したと思っていたら、普通に投稿してた件。
何度も願う。
何度殺したかも分からなくて。
どれだけ涙したかも分からない。
殴った拳が痛い。
殴る度に心が痛い。
誰でもいい。
誰でもいいんだ。
僕より強い人ならば。
『誰か』
『GOA』
言葉は汚く濁り果て。
僕は、咆哮の限りを吐き散らす。
周囲は血溜まり。
生けるものはなく。
全てが僕に殺された。
死に尽くした。
その中で。
僕の涙は血色だった。
『GOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!』
誰でもいい。
早く来てくれ。
そして、助けて。
頼むから、僕を殺してくれ。
☆☆☆
「…………?」
ふと、僕は振り返る。
気のせい……だろうか。
周囲へと視線を向けるが、人影は無い。人避けの結界的なものでもあるのだろうか?
僕は、目の前へと視線を戻し、口を開いた。
「おい」
「「「ひいぃっ!?」」」
僕の言葉に、少年少女は怯えの悲鳴を漏らす。
戦闘開始から数分後。
まぁ、結果からいうと瞬殺だった。
なんなんだろうこの子達。
めちゃくちゃ強そうな登場の仕方でびびったけど、あんまり強くなかったよ?
「お、おおお、お前! なんなんだよ! 俺たちはけっこー強いんだぞ! それを一蹴だなんて……イカれてるって!」
「ほう、ならそのイカレ加減を試してみるか?」
拳を鳴らすと少年は震え上がった。
少年少女たちは、頭に大きなたんこぶを作っている。既に教育は終えたあと。それでもまだ騒ぐって言うなら……これ以上は教育じゃなくて戦闘になるよ、少年。
「僕が聞きたいのは一つだけ。どこで、僕がノート所有者だと聞きつけた?」
僕は単刀直入に聞いた。
その言葉に、少年は言葉を詰まらせる。
視線が泳いだため、その首へと手を伸ばす。
一瞬で少年の首を掴むと、少年は唖然と口を開閉させる。
「いいことを教えてやろう。そのノートに関して、僕は気が長くない。一言一句、無駄にすることは許さない。端的に、真実のみを話せ。嘘と察すれば、その瞬間殺す」
「こ、ここかこ、ここっ……、こ、殺す……」
その首から手を離すと、少年は途端に振るえ始める。
その様子は尋常ではなく、少々マジになって殺気を向けすぎたな、と少し反省。
だが、殺気を弱めるつもりは無い。
「あ、あ……そ、その」
少年は、大粒の汗を流しながら、その言葉を口にする。
それは、僕が驚くに足る言葉だった。
☆☆☆
「……地下格闘技?」
僕の言葉に、阿久津さんは首を傾げた。
「なんだ、それは?」
「僕もよく分からないよ……。まぁ、漫画とかでは見ることもあるけれど」
地下格闘技。
なんとなーく僕のイメージで言わせてもらうと。
なんでもありのデスマッチ。
周囲は電流の流れる鉄牢に囲まれていて。
スーツを着た大金持ちが観戦してる……みたいな? あまりいいイメージがないのが本当のところ。
「少年が言うには……その場所の現チャンピオン、【異能者殺し】って野郎が、黒れき……デュアルノートの第伍巻を持っているらしい」
「……第伍巻、か」
現在、在処の分かっている黒歴史ノートは三つ。
阿久津さんの持つ【第壱巻】
成志川から僕に渡った【第参巻】
シオンが暴走列車に奪われた【第肆巻】
……まだまだ、10冊のうち3割弱しか在処が分かっていない。
それに、その異能者殺しが持つという【第伍巻】
それが本当なら、必ず手に入れなければならない。
そうこう考えていると、シャワー上がりのシオンが僕らの方へと歩いてくる。
「お。それならアイツ、暴走列車の野郎。元々【拾】を持ってやがったぜ!」
「シオン……ケツは無事だったか?」
「痒かったけど、洗ったら治ったぜ!」
それは良かった。
悪いね、トイレットペーパー遅くなって。
僕は彼女にそう言うと、改めて10冊の黒歴史ノートの在処をまとめる。
〇壱
阿久津真央
〇弐
???
〇参
成志川景→灰村解
〇肆
シオン→暴走列車
〇伍
異能者殺し
〇陸
???
〇漆
???
〇捌
???
〇玖
???
〇拾
暴走列車
それと、もうひとつ。
まだ確かめてはいないけど、正統派側で少なくとも1冊、ノートを所有しているものだと僕は考えている。
なんせ、天下の正統派だ。
世界の王様が率いる世界最大の異能者集団。それなのに、ノートの1冊や2冊、確保してなくてどうするのか。
そこん所はのちのちに六紗へと確認するとして、在処の検討もつかないのは4冊程度、と考えるべきだろう。
「まぁ、とりあえず今は伍巻について、か」
「そうだな。ディュゥェアルノォーゥトは禁忌の書。異能者殺し……何とも物騒な名だが、果たしてノートに相応しいだけの人格者か否か……」
まぁ、仮に凄まじい聖人だったとしてもノートは強奪するけどね? どんな重たい理由があったにせよ、勝手に人の黒歴史を見ていい理由にはならねぇよ。
「というわけで、来週末はその、地下格闘技、とやらに行ってみることにするよ」
「おお! 格闘技か! おもしろそーだな!」
当然のようについてくる気のシオン。
……まぁ、S級は僕より弱かったことの方が少ないくらいだし、今回はそれに加えて黒歴史ノートまで保有している可能性がある。
さすがに、僕個人で攻略するのは難しい……か。
そう考えていると、ふと、阿久津さんは気になったように口を開いた。
「……そういえば御仁。最近は修行? とやらに行っている気配がないが、どうしたのだ? 行き詰まっているのであれば、なにか助言できるかもしれないが……」
彼女の言葉に、思わず僕は肩をはね上げた。
僕の様子を、不思議そうに見てくる阿久津さんと、シオン。
「ん? おいカイ! てめぇ隠れて修行なんてしてんのか! オレもまぜろ!」
「それは嫌だけど」
「うるせェ! まぜろ!」
やかましいシオンを一蹴。
僕は阿久津さんへと視線を戻した。
「……いいや、少し、訓練相手が強すぎてな。少しだけ行き詰ってたんだけど、ちょうど良かった。第伍巻、って目下の目標ができたからな」
僕に足りてなかったのは、やる気だ。
純粋にやる気が尽きてた。
地竜アラガマンドに続いて、新たに相対した深淵の魔物。
そいつがあまりにも強すぎて、もうね。
やる気の欠片も無くなっていた。
だけど、ここに来ての第伍巻ブースト。
既に、尽きたはずのやる気は全快だ。
僕は立ち上がり、拳を握る。
「それじゃあ、来週めざして頑張りますか!」
僕はアイテムボックスへと、手を突っ込んだ。
そして、その本に触れた瞬間。
僕の体は、深淵の最下層にあった。
☆☆☆
その男は、強かった。
――異能者殺し。
業界を代表するS級異能者。
その力はその名の通り【異能者殺し】。
ありとあらゆる異能を破壊する力。
否、封印する力。
自身を中心として数百メートルにその力は効力を発揮し、その中においては何人たりとも異能が使えなくなる。
まさしく、異能者殺し。
加えて、男は常軌を逸した強さを持っていた。
超高位の活性能力に、二つの銃を持たせた状態でならば、おそらくは世界でも最高峰の戦闘能力を誇るだろう。
「や、やばいですよボス! アイツは異常だ!」
その男に、少年は叫ぶ。
その少年は、先程灰村解に敗れ、その足でこの場所へと直行していた。
全身からは絶え間なく汗が吹き出している。
それは、灰村解への恐怖心か。
――否、この男を前にしての、緊張だった。
「……異常。それを言うなら、この世界が異常そのものだろう。弱きものが力を振るうなど……弱肉強食の理念すら崩壊している」
「い、一体何を……!」
少年は叫ぶ。
次の瞬間、その頭を銃弾が撃ち抜いた。
悲鳴はない。
少年は唖然とした顔で後ろに倒れる。
控えていた少年少女が悲鳴をあげる中、少年を殺した異能者殺しは溜息を漏らす。
「分からないか、貴様らのことだよ。弱者が調子に乗って、力を振るう。力を振るっていいのは強者のみ。貴様らは強者か?」
「……っ、そ、それは――!」
耐えきれず、声を発した少女。
彼女もまた、直後には頭蓋を撃ち抜かれていた。
肉袋が、またひとつ地面に転がる。
逃げ出した少年も撃ち殺されて。
泣き始めた少女も殺される。
殺されて、殺されて。
そこにいた全員が、さした理由もなく死に絶えた。
その中で。
血溜まりが広がる室内で。
異能者殺しは、背後を振り返る。
「いやー! すごい残酷! 素敵な性格をしてるね、君は!」
その場にそぐわぬ声がした。
異能者殺しの座る椅子。
その背もたれに、一人の男が寄りかかっていた。
異能者殺しは銃を放つ。
それはその男の頭蓋を撃ち抜いた。
確実に命に届いた。
長年の経験がそう叫んだ。
されど、その男は死んでいなかった。
「おやっ、素敵な挨拶、どーもありがとー! 今のはちょっぴり驚いたよ」
「……貴様、化生の類か」
その男は、異能者殺しの前へと進む。
薄紫色の髪に、ド派手な衣装。
歴史に真正面から喧嘩を売った和服は、見ているだけで目が痛くなる。
異能者殺しは思わず顔を顰め。
次の瞬間、紫髪の男は移動していた。
「――ッ!」
「実は、その……灰村解? って言うのかな? 実は、僕が二年前に第参巻、を渡した少年と合流したみたいでね〜」
その男は、【玖】の書を持っていた。
異能者殺しは、いつの間にかすぐ隣までやってきている男を見て、理解する。
この男……自分よりも遥かに強い。
間違いなく、今まで会ってきた中で最強の存在。
「……それで、俺に何の用だ」
銃を構える。下手なことをいえば殺すと言わんばかりの形相で。
それを前に口笛を吹いたその男は、紫髪を楽しげに揺らして口を開いた。
「なーに、僕ってば、成長チートって嫌いなんだよねぇ。だから、潰そうと思って」
その化け物は、そう言って。
満面の狂気を浮かべて笑った。
「灰村解を、もう一回殺すのさ」
それは、灰村解の殺人計画であった。
悪意が蠢く。
それは、筆舌に尽くし難い狂気。
そして、彼らが初めて対面するナニカだった。




