309『灰村解と六紗優』
クールな銀髪悪魔王。
ツンデレ六代目勇者。
最初期の設定では、ヒロインはこの二人だけでした。
いつの間にか、シオンとかいう作者のイチオシが生まれていましたが、今回は、その元祖ヒロインと主人公のお話です。
ポンタも出るよ!
六紗優が、向こうから話しかけてきた。
その事実に呆然とする、お供の女子生徒たち。
僕は思わずそちらへと視線を向けて、僕の視線を追った六紗はビクリと身を震わせた。
「ろ、六紗……お姉様?」
「あ、あーっ、あ、そ、その! アレです! そういうドラマが昨日の晩にやっていたので、ついつい真似したくなってみたのです! ねぇ、灰村くん?」
ものすごいテキトーな言い訳だった。
なので僕は、耳くそほじって視線を逸らした。
「いや、えっと……どなたでしたっけ?」
「嘘でしょあんた!?」
「「「う、ウソデショアンタ……?」」」
少女たちの、困惑交じりの総合唱。
六紗の頬に冷や汗が伝い、彼女は顔を思いっきり引き攣らせる。
「そ、そういう呪文! そういうドラマだったのです! ねぇ灰村くん!」
「は? いや、たぶんそんなドラマやってな――」
「ねぇ灰村くん!」
僕が言いかけて、次の瞬間。
そう叫んだ六紗はラリアットの要領で僕の首を掻きよせ、耳元で小声で怒鳴った。
ものすごい衝撃。思わず「ぐえぇ」と声が出た。
「ちょっとアンタ……! 私の立場分かってんでしょ!? ちょっとくらい話を合わせなさいよ!」
「おいおい、それが人にものを頼む態度か?」
「それが世界の王様に対する態度かしら!?」
六紗に協力したくない僕と。
僕に協力させたい六紗と。
僕らは至近距離でにらみ合っていると、群れの中から遠慮気味に一人の少女が姿を現す。
「あ、あの、六紗お嬢様? そ、その男とお知り合いで?」
「ええ、二年前にお世話になった方で、その当時から生き別れになっていたのですが……つい先日、再会を果たしたのです」
そういって、嬉しそうに微笑む六紗。
はっ、嘘くせぇ顔。
そんな感情が透けて見えたか、六紗は頬を引き攣らせる。
「ただ、すこし気まずかったのか、ここ二週間は避けられておりまして。ついつい、無理を承知で捕まえてしまったのです。……ふふっ、灰村くん、もう逃がしませんよ?」
六紗の言葉に、女子たちから黄色い悲鳴。
何事も恋愛に結び付けたいのがこのお年頃。
間違っても「おいカイ! すげぇう〇こ出たんだけど!」とか報告してくるような女子高生は、僕の知る女子高生ではない。あいつは一体どこを目指しているんだろう……?
僕は六紗の目を見下ろす。
その目は全く笑ってなかった。
「それでは皆さん、少々、灰村くんと積もる話もございますので。今日は二人だけにしていただけますか?」
「ふっ、二人っきり!?」
ざわざわと女子生徒たちがざわめき立つ。
あれっ、これってもしかして厄介な勘違いされてるんじゃ。
僕はそう考えて、口を開いたが。
「それでは、ごきげんよう」
次の瞬間、僕は体育倉庫の柱に縛られていた。
その事実に、固まったのは一瞬。
僕の目の前で拳を鳴らす六紗を見て、すぐに理解が付いた。
ので、僕は叫んだ。
「きゃああああああああああああ! 六紗に犯されるうううううううう! 阿久津さん助けて!」
「さ、叫ぶんじゃないわよ馬鹿! そんでもって、なんで助けを求める相手があいつなのよ!」
焦って僕の口をふさぎに来る六紗。
その顔は真っ赤になっていて、彼女は僕に言い聞かせるように小声で叫ぶ。
「分かってんでしょアンタ! 私は正統派の王なの! この世界の王様なの! 昔みたいにアンタと普通に話したくても話せないのよ! ちょっとは協力しなさい!」
「わかった、わかった……悪ふざけが過ぎたって」
僕はそう謝罪すると、六紗は頬を膨らませる。
その顔は、どこか泣きそうでもあった。
「……ほんとよ。勝手に死んで、勝手に出てきて……ほんと、勝手すぎるわよ、アンタ」
言葉尻に、彼女の勢いは失せてゆく。
縛られた僕の胸へと顔を押し付け、肩を震わせた。
その姿に僕は苦笑し、次元技能で縛っていた縄を切る。
頭に手をのせてやれば、彼女はいよいよ泣き出した。
……僕が死んでから、彼女は一体何を考え、どういう思いで、どんな努力の末に、この場所に至ったのか。
それは分からないし、説明されても理解できるとは限らない。
だけど、なんとなく、感じることはできる。
彼女の背中は、二年前よりずっと大きくなっていて。
「ただいま、六紗。いま帰ったよ」
こうして僕らは、本当の意味で再会した。
☆☆☆
「わ、忘れなさいよね! さっきのことは!」
「さっきのこと?」
「わざと言ってんでしょアンタ!」
その後、十分とすこしして。
やっと泣き止んだ六紗は、開口一番にそう言った。
はたして彼女は何に対してそう言ったのか。
いきなり拉致したこと?
思いっきり抱き着いてきたこと?
それとも、泣きじゃくって僕の制服が鼻水だらけになってることかな? 最後のだったら少し怒るよ? クリーニング代よこせオラ。
僕は制服の上着をアイテムボックスへと放り捨てる。
それを見て、六紗は今更ながらつぶやいた。
「にしてもアンタ……逸常の異能力者でしょ? なんで界刻の異能まで使えてんのよ。序列戦見たけれど、反則過ぎじゃない?」
「その言葉、そっくりそのままダリアに言ってやれ」
第四席、ダリア・ホワイトフィールド。
詳しいことは聞いていないが、彼女の異能は十中八九、因果に作用する類のものだ。どのような過程が挟まれたとしても、放った瞬間に必中が定められている。ゆえに、どんな防御、優れた回避能力をもってしても【当たらない】という未来はない。
つまり、チートってわけだ。
まあ、常人なら一度使っただけで気絶待ったなし。
想力量の多いダリア・ホワイトフィールドでさえ、二度は使えなかった。しいて言うならば、消耗の大きさこそがあの能力の唯一無二の弱点と呼べる。
「ああ……ホワイトフィールドの。あれはまあ、この世界で言っても有数の反則能力の家系だからね。アンタが傷を負わされるのも納得よ。だって、放たれた瞬間に終わってる。初見であれをどうこうできる奴はいないわよ」
「慰めてほしいわけじゃないんだけどな……」
僕は頬をかき、体育倉庫の扉へと手をかける。
「まあ、それはそれとして。僕がこの学校に来た目的……もう、薄々わかってんだろ?」
「……ええ、そうね」
彼女の苦々しい表情からも、理解が伝わってくる。
僕は足元へと視線を落とすと、両手で目を隠してるポンタを軽く小突いた。
「おいポンタ、いつまで気配消してるつもりだ」
「おっ、もう終わったぽよ? 安心するぽよ。二人がたとえ学校の体育倉庫で初めてを散らしたとしても、なんにも見て無いぽよ。抱き合ったあたりから目も耳も隠してたぽよ」
「下世話なペットだ……」
言うことが生々しすぎるぞお前……。
ほらご覧、六紗が鬼のような形相になってるから。
お前、帰ったら間違いなく地獄を見るぞ。
ポンタは何気なく振り返る。
鬼と目が合い、彼は視線をそらした。
僕を見上げた。
「……助けてぽよ」
「すまん」
僕は端的に謝り、ポンタは真っ白に燃え尽きた。
言葉の途中だったら止められたんだがなぁ。
如何せん、まったく止める気がなかったせいか、止められなかったなあ。
僕は六紗へと視線を向ける。
僕の視線を受けた彼女は、なぜか顔を赤くしている。
「お前……まさか真に受けてないだろうな」
「そ、そそそっ、そんなわけないじゃない! 自意識過剰もたいがいにしなさいよ!?」
「そうだな。僕がお前とそういう関係になるとか、天地がひっくり返ろうとあり得ねぇもんな」
「て、てんち……っ」
首肯すると、なぜか落胆した様子の六紗。
あっ、これはまずい反応だ。
僕の中二センサーが『追及するな』と叫んでる。
なので、僕は視線を外して話題を変えた。
というか、元に戻した。
「で、ポンタに説明させるつもりだったが……お前、いい加減阿久津さんと仲直りしろよ。アホみたいな理由で喧嘩しやがって……」
「あ、あほって何よ!」
六紗は叫び、僕は体育倉庫の扉を開ける。
今日は、体育館を使う部活はやってないのか。
道理で、六紗がこんな場所を対談に選んだと思った。
体育館の側窓から溢れる光に、六紗は目を細める。
そんな彼女を振り返り、僕は手を差し伸べた。
「とりあえず、暇な時でいい。遊びに来い。いつでも僕らは待ってるからな」
その言葉に、少女は大きく目を見開いた。
そして、どこか眩しそうに僕を見て、微笑んだ。
「……ええ、楽しみにしてなさい」
そう言って、彼女は僕の手を取った。
これにて僕の学園生活、最重要目的は完遂した。
――なればこそ、あとは学園をやめるだけ!
嬉しそうな六紗の手を引き。
僕は、職員室へと直行した。
さあ! お待ちかね!
学校をやめるお時間だ!
次回、果たしてカイは学園をやめられるのか!?
A)退学手続きの最中、学園の闇を知ってしまい、全生徒を人質に取られる。
新章【学園の深淵】編へ突入!
B)突然、暴走列車の襲撃。うやむやになってやめられない。
新章【血濡れた竜の暴走】編へ突入!
C)アンタがやめるなら仲直りしない! と暴虐の六紗。
新章【六代目勇者の暴虐】編へ突入!
D)嘘だろ……か、かか、紙がねぇ!
新章【死地にて紅神はトイレットペーパーを求む】編突入!
E)その他。
さあ、君の選択で物語は変わらないけど!
作者の想像を超えるユニークな案を受け付けております!




