表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/170

305『モテ期到来』

ただし恋愛感情があるとは言ってない。

 序列戦。


『詳しい話については、来週、担任の教諭あたりから説明があるでしょう。ぜひ、楽しみにしていてください』


 といって、その女性は去っていった。

 ちなみにVIPメニューは本当に無料だった。まさか、自分の力をひけらかしてよかったぁ、だなんて思う日が来ようとは。

 シオンと戦ってなかったら……今頃どうなっていたことやら。


 とまあ、それは置いておくにしても、今は序列戦だ。


「なんなんだろうな……」

「序列戦。……ふむ、確か、明日からの解禁だったか?」


 場所は阿久津さんが借りているマンションの一室。

 日曜日。

 僕らは朝食をとった後、例の話について考えていた。


「序列、と聞くと特異世界クラウディアを思い出すな。……ふふ、懐かしい。あの頃はまだ若く、目につくもの全てが敵だと考えていた。ただひたすらに悪位序列を高めようと……」


 出た、特異世界クラウディア。

 阿久津さんや六紗やらポンタやら。

 ああいった存在はその特異世界からこの世界へとやってきた、みたいな話をよく耳にする。

 だが、その世界の実在の証拠が何一つ出てこない。

 本当に実在するのか、それともただの妄想クラウディアなのか。

 ……まあ、さすがに妄想ってことはないと思うけど。


「ちなみに、特異世界クラウディアの序列戦? ってのはどんな感じだったんだ?」


 あの学校を経営するのは正統派異能力者。

 その筆頭は六紗優だし、なにより、二人のほかにクラウディア出身の異能力者がいないとも限らない。

 となれば「もしかしてクラウディアの序列戦システムをそのまんまパクってるんじゃないか?」という疑念もある。

 僕の質問の真意に気が付いた阿久津さんは、顎に手を当てて脚を組む。


「そうだな……我ら悪魔王側の、まあ、いってみれば現代における半正統派か。そちら側のルールとしては、相手へと挑戦状を渡し、受理されれば戦闘を行い、勝った者と負けた者の序列が入れ替わる。そういうシステムだ」

「うっわ、えぐいな……」


 負けたら序列が下がるんじゃなく、()()()()()

 極端に言えば、一位が体調不良で最下位に負けたら、その瞬間から第一位と最下位が入れ替わる、ってことだろ。

 な、なんつーハイリスクなシステムだよ……。

 そんなの、序列格下から挑戦を受けるやつの方が少ないんじゃないか? そう考えた僕の思考を読むように、阿久津さんは付け加える。


「そしてルールの一つとして、最初に申し込まれた挑戦は必ず受けなければならず、前回の序列戦より二日間以上のスパンが開いている場合、申し込まれた序列戦は必ず受理しなくてはならない、というルールもある」

「二日間……」


 異能力者同士の対戦で、休息がたったの二日間?

 生身の人間が殴り合うボクシングでも、試合2日後にもう一度試合――なんて馬鹿な話はないぞ。

 あたまイカレてんじゃないのかな?


「いやいや、聞いといてなんだけど、まさかそんなルール、あの学校で適用されるわけが――」

「あるだろうな」

「あるの!?」


 驚いた。

 えっ、仮にも高校よ?

 そんなふざけたシステム導入したら保護者一同が許さないと思います。PTAを舐めたら痛い目見るぞ。ただのそういうイメージだけどな!


「御仁よ、よく考えろ。あの学園は育成機関。この間の侵入者等、ああいった輩と戦い、勝利できるだけの異能力者を育成する場だ。教育者としての視点で考えれば、そう言ったスパルタも頷ける話だ」

「まあ……そりゃそうだけどさ」


 そんなもん、あくまでも特異世界出身の考え方だろう。

 確かに、異世界ならそんな頭のぶっとんだシステムも頷けるよ。ぶんぶん首を縦に振ってやる。


 だけど、ここは異世界なのよ。

 平和な世界なの。

 殺伐としてない現代日本なの。

 ちょっぴり中二病が蔓延してるけど、おおむね平和。

 突如として襲撃してくる暴走列車を除けば平和そのもの!


 そんな世界で、そんなイカレたシステムなんて……!




 ☆☆☆




「……以上が、本日より導入される序列戦のシステムだ」


 翌日、月曜日。

 シガラミ先生から説明を受けて。

 僕は、頭から机に突っ伏した。


 ふざけてやがる!

 阿久津さんに受けた説明、まんまじゃねぇか!

 あの野郎、六紗!

 あいつ、特異世界の序列戦システムまるパクリしやがったな! もう絶交だ! 次に会った時を覚えてやがれ!


「せ、先生……それってつまり」

「ああ、皆には、序列戦を挑まれない限りは、三日に一度、必ず異能力戦闘を行ってもらう」


 委員長的な眼鏡女子が問いかける。

 帰ってきた答えは、絶望そのものだった。

 周囲の視線が、シオン……ではなく、僕に向かう。


「お? おいカイ、てめえ見られてんぞ?」

「知ってるよ……」


 なんで僕が見られているか。

 その答えは簡単だ。

 第一に、序列が高いこと。

 そして第二に、有名でないこと。

 その二つが、僕の注目の答えだろう。


 生憎、このクラスの過半が、僕の強さに気づいてる。


 シオンと仲がいいことから、入試の際に彼女と戦った界刻系異能力者だってことはバレているだろう。

 シガラミ先生の幻術空間でも暴れたし……、本領は発揮できなかったとはいえ、シーゴと一対一で戦ったのも見られてる。

 だからたぶん、このクラスの生徒から戦いを挑まれることはないと思う。


 ――ただ、()()()()()()()()()


 シオンみたいに、名が通っていれば勝負を挑まれることもない。

 だって、死地の紅神だぜ?

 名前からして、もう勝負を挑みたくないもの。

 だけど、ほら、ごらん?

 一から十まで、なんか強そうな名前が並んでいる中。

 ぽつんと、三番目に出ている一般(バンピー)臭漂う僕の名前を。


 第二席【シオン・ライアー】

 第三席【灰村解】

 第四席【ダリア・ホワイトフィールド】


 頼むからやめてくれよぉ!

 ライアーとホワイトフィールドに挟まないで!

 なんだか灰村がかわいそうに思えてくるでしょ!


「挑戦は、これより配る挑戦状を相手へとたたきつけることで成立する。……最初の挑戦は、必ず通る仕組みだ。くれぐれも気を付けるように」


 シガラミ先生は僕の方を見てそう言った。

 反吐が出そうになった。


「灰村……これから、壮絶なモテ期が到来するだろうな」


 シガラミ先生は、笑顔でそう言って。

 次の瞬間、一組と三組から、ものすごい量の気配が動き始めた。彼ら彼女らが目指す先は――うん、二組(ここ)だった。


「灰村解ってのはどいつだああああああああ!」

「はっ、灰村君っ! 私の初めて、貰ってくれる!?」

「ハァ!? 灰村君に初めてをプレゼントするのはこの私よ! 邪魔しないでくれる、この泥棒猫!」

「はっはは! 悪いが彼の初めてはこの俺が貰い受ける! 覚悟しろ灰村解君!」

「「「「三位の座は頂いたァ!」」」」


「ひいいいいいいいいいっ!?」


 モテ期、襲来。

 教室のドアを蹴り破り、雪崩のように生徒たちが押し寄せてくる。その数……やばい、数えるのも億劫になるほどだ!

 彼ら彼女らは、皆一様にその手へお手紙を握り締めている。

 全員が全員、僕の初めて(の挑戦者)になろうと必死だ。見ていて涙が出ちゃう。だって男の子だもん。


「ぎゃああああああああ!? 近寄んな中二病どもが!」


 男が頬を赤らめて迫ってくるより。

 僕は、半分中二病の混じった生徒たちが迫ってくる、その事実の方が受け入れがたかった。

 僕は椅子を蹴って窓際まで移動すると、迫りくる人の群れに、何の躊躇もなく窓ガラスを突き破った。


「な……っ! 灰村貴様!」

「すいません先生!」


 人には学校の窓ガラスを割りたくなる時期があるんだと思います! 僕の場合は今がその時だったという話さ!

 僕は地上まで生身のまま飛び降りる。

 着地の直前に【廻天】技能で念動力を発動。

 落下の勢いを殺し、衝撃もなく着地した。


「クソったれ……! 嫌な予感が的中したな!」


 頭上を見上げると、二組の教室だけ人口密度がおかしい。

 窓ガラスに張り付くように、無数の血走った目が僕を見下ろしていた。きもちわるっ。

 僕は怖気に背筋を震わせると……ふと、背後から気配がした。


「お、おい! 今の動作、刹那に感じた想力量……貴様が第三席、灰村解で間違いないな!」

「……!」


 すごいな……話しかけられる直前まで気配を感じなかった。

 僕は驚いて振り返り、そして、振り返ってからまた驚いた。

 そこに立っていたのは、白髪の美少女だったから。


 腰まで伸びる白い髪。

 雪のように白い肌に、海のように青い瞳。

 学校の制服を着てるってことは、同級生かな?

 僕は首をかしげて。


 少女は、僕へと向かって駆け出した。


「な……っ!?」


 咄嗟のことに、思わず転移。

 彼女の背後へと移動すると、一瞬で姿を消した僕に、その少女は悔しそうに歯を食いしばる。


「貴様……やはり、六紗優と同じ界刻の……!」

「いや、誰だよアンタ……いきなり襲い掛かってくるなんて」


 お前は暴走列車か。

 突然襲ってくる輩は、奴か、シオンか、成志川くらいしか僕は知らないよ。考えてみたら碌な奴がいない。

 つーことはなんだ、アンタも碌じゃない、って話だな?


 僕は警戒し、少女は拳を構える。


 ……ん?

 よく見たら……なんか握ってる?

 よく目を凝らせば、封筒に入った手紙だ。


「【神眼】」


 小声でつぶやき、目を細める。

 この力の神髄は、視力の超強化。

 やろうと思えば、視界内に限って空間の把握能力さえ行使できる。

 というわけで、空間把握でその手紙を確認。


 そこには熱烈な感情のこもった、三文字が記されていた。



【挑・戦・状!】



「……うげぇ」


 僕は思わず顔をしかめて。

 その少女は、その手紙を僕へと突き付け、宣言する。



「灰村解! 第四席、ダリア・ホワイトフィールドが、今から貴様に挑戦状を叩きつける! そこを動くな!」



 僕は迷うことなく、逃げ出した。


本格的に学園編が始まりました。

ちなみに、第一章で言うところのシオン、第二章でいうところの成志川的なポジションの人は、まだ第三章には未登場です。

全編通してみれば、もう登場してるんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これ、3日に一度シオンか勇者に挑み続けるか 自分より下位の人間に挑まれ続けるのか 挑み続ける方は大変そうだから クラスの人間捕まえて適当に序列戦挑ませる方向で回避できます? 序列戦開始と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ