304『学園序列』
昼休み。
僕は、シオンと二人で学食に向かうはずだった。
おそらく、シオンと二人で身内飯を食うことになるのだろう。
少なくとも、朝の段階ではそう思っていた。
……そう、思っていたのに。
「あら、なんだか目立ってるわね成志川! アンタ、もしかしてモテ気到来してるんじゃないかしら! 先生、アンタの努力が実を結んだようでうれしいわ!」
「ふっ、僕はエニグマと灰村くんが居てくれればそれでいいんだけれどね。……現実は残酷だよ」
後ろに、想定だにしていなかった二人が付いてきていた。
「確かに現実は残酷だよな。お前がモテるなんて四半世紀掛かったとしてもあり得ねぇっての」
「もてる、って何を持つんだ、カイ!」
「なんだろうね、僕にはわからないや」
そんな二人へ、僕らはそんなことを言いながら歩き続ける。
「ははっ、辛辣だね、灰村くん。確かに、悪魔王に正統派の王、シオン嬢と……君のモテ具合には劣るけれどね」
「やめろ吐き気がする」
お前……もしかしてわざとか?
僕の中二病嫌いを知ってて言ってんのか?
だとしたら殺意が沸くレベルだぞお前。
僕は嫌悪感に顔をゆがめて吐き捨てる。
すると、彼は驚いたように目を丸くした。
「おや、僕は、灰村くんはシオン嬢とお付き合いしているのかと思っていたけれど」
「あり得ねぇな。天地がひっくり返ろうとあり得ない。どの世界線にもそんな未来はねぇだろうよ」
「? 何の話してんだ? オレの話か?」
いいや、気にすんな。
どーせありえない仮定の話だからな。
僕は歩く速度を上げると、すぐに食堂へたどり着いた。
既に多くの生徒たちが集まっていて、がやがやと様々な声が飛び交っている。
「さて、と。どこか空いてる席は……っと」
僕は周囲を見渡すが、少々出遅れたせいかなかなかまとまった席が見当たらない。
なんなら二人席でも、一人席でもいいんだが。
そう考えて視線を巡らせていると……ふと、調理場の横の方に上へと登る階段を発見した。
「あら、カイ! あんたも早速見つけたわけ? あれはね、学園序列の上位10人だけが上がれるVIPエリアよ!」
「……学園序列?」
なんだろう、それは。
僕は問い返すと、彼女は自信満々に胸を張った。
「ちなみに、詳しいことは知らないわ!」
胸を張って言えることじゃなかった。
僕は思わず苦笑して、シオンはじっとエニグマ先生を見ていた。
「コイツ……異能力者の匂いはしねぇが、オレに似通った匂いがするぜ。もしかして強ぇのか?」
いいや、たぶんエニグマ先生はこの学園最弱だろうよ。
だって、彼女からは想力の欠片も感じない。
道を歩いていたら4人に1人くらいはすれ違うけれど、彼女この世界において何の能力も持たない一般人。根っからの無能力者、ってやつだ。
それでも何か、似たようなにおいを感じるのだとすれば……うん、きっと君たちの性格じゃないかな?
難しいことは考えない、やるならどこまでもシンプルに。
そう言葉にしてみれば格好いいが、その実はただのアホ。
エニグマ先生には悪いが、アンタはウチのシオンとどっこいどっこいのアレだと思う。
「それじゃあ、あそこには上がれないのか。空いてそうなのに」
僕は上の席を見て、そう呟き。
そんな僕の声を受け、エニグマ先生は目を丸くした。
「あら? 上がればいいじゃない。第三位でしょ?」
「……………………第三位?」
彼女の言葉に、思考がフリーズ。
やっとの思いで、同じ言葉で聞き返す。
すると彼女は、懐から一枚の紙を取り出した。
折りたたまれたその紙を広げると、そこには、十名の名前が記されている。
第一席【六紗優】
第二席【シオン・ライアー】
第三席【灰村解】
第四席【ダリア・ホワイトフィールド】
第五席【聖淵両】
第六席【神宮寺滅】
第七席【アリス・フォン・ダールベルン】
第八席【ブラック・コード】
第九席【偽善忍】
第十席【花園さくら】
「第四席から一気に中二になったな……」
すごい。
第一席から第三席までは「まあ、第二席がちょっと怪しいけど、まだ許容範囲かな」って感じだったのに、第四席になった瞬間から色が変わったぜ。
なに、ホワイトフィールドって。
なに、聖淵って。
そんな名前、現実に存在するのかよ。
「で、なんで僕が三位なんだ?」
「さぁ? 入試でなんかやらかしたんじゃないの?」
「……ああ、あれか」
シオンとの実地試験。またの名をただの喧嘩。
もしかしたら……というか、言われてみればあれしか上位に食い込む理由が見当たらない。そう考えると、僕より上にシオンが来ている理由もわかるし、主席の六紗が一番上、っていうのもわかる。
「つまり、オレたちがVIPってわけだな! 行くぜカイ! うまい飯が待ってるに違いねぇ!」
そう言ってシオンは突撃してゆく。
VIP……ねぇ。あんまりそういう質でもないけど、まあ、席が空いてるっていうなら上で食うか。
そう思いながら、僕はシオンの後を追い。
その途中、階段の真ん前。
さりげなく佇んでいたメニュー表を見た。
そして、愕然と目を見開いた。
「……ッ!? し、シオン! 戻ってこい!」
「……あ? んだよいきなり」
僕は彼女を呼び戻し、額の冷や汗をぬぐう。
や、やべぇ……なんだよこの値段!
馬鹿こんなの毎食食ってたら、たぶん口止め料の札束なんて二か月も持たないぞ……!
僕の隣まで戻ってきたシオンは、メニュー表を見始める。
「きゃびあ? ほふぁぐら? りぶろーす……すてーきじゃねぇか! おいカイ! やっぱり行こーぜ! すてーき喰いてぇ!」
「だめだ! ダメったらダメ! こんな高いもん、僕らみたいな庶民に食えるか!」
「うるせぇ! オレの腹はもうすてーきの気分だ!」
シオンは叫び、僕は唸る。
ま、まずい……こうなったシオンを止めるのは至難の業。というか、どんな手を使ったところで今までに止められた前例がない。
一種の暴走モードだ。
コイツの食欲には、多分誰も勝てない。
だからといって、一度この高級料理を食べさせてしまえば、明日も食う! となるのは明白。
シオンの口止め金は預かっているから当分は大丈夫にしても……あくまでも当分。長くは持たない。
「くっ、どうすれば……」
僕は頭を抱えて、考える。
どうすればシオンに諦めを覚えさせられるんだ。いっそのこと、成志川の野郎に奢らせるか? シオンがステーキ云々と言ってたし。
いやでも、そもそもコイツ序列にも入ってない転校生だしな……。
そうこうしていると……ふと、背後が少しざわつき始めたことに気づく。
「おや、そこに居るのは……」
どこかで聞き覚えのある声だった。
振り返ると、そこにはスーツ姿の一人の女性。
その姿を見て……僕は、朧気に覚えていた入試の記憶を思い出す。
「……あぁ、アンタはたしか」
「お久しぶりです。入試の際以来でしょうか。灰村解くん。シオン・ライアーさん」
そこに居たのは、女性教諭。
入試の時に、僕とシオンを戦わせた張本人だった。
☆☆☆
場所は変わり、VIPルーム。
すっかり忘れていたが、僕がシオンと戦う条件、それこそがスペシャルメニューの無償提供だった。
その女性教諭に言われて始めて思い出した僕とシオンは、その先生と三人で円卓を囲んでいた。
ちなみに成志川とエニグマ先生は下だ。
アイツらはVIPルームには入れません。
だって転校生だもん。
「うめぇ! アクツの飯を超えたなこりゃあ!」
「失礼なことを言うんじゃないよ」
リブロースにかじりつくシオンの頭を、僕は軽く叩いた。
その様子を、その先生は微笑ましく見つめている。
「何はともあれ、入学おめでとうございます。改めて、祝福させていただきます」
「ありがとう……って言っても、僕もシオンもすぐ辞める予定ですし」
「おや、それは困りますね」
困ると言われても、こっちも困る。
そも、この学園に入った一番の理由は、阿久津さんと六紗の仲直りのためだ。
そのために1番問題視していたのは六紗との対談だが、もう顔合わせは済んでるからな。
あとはテキトーなタイミングで事情を説明して、テキトーに仲直りさせれば、僕がこの学園に所属している意味は完全になくなるわけだ。
そう考えていると、その先生は僕らの前にプリントを差し出した。
奇しくもそれは、先程まで見ていた序列が記された紙だった。
「これは、入試の試験結果を元に考えられた、この学園の強さの序列です。この中で、君たちは二位と三位。贔屓目なしに見れば一位に手が届くかも」
僕は分からないけど……シオンなら届くかもな。
ただ、時間停止をどうやって攻略するか。
そこだけが問題だと思う。
「そんな君たちに抜けられては……少々、こちら側としても困ります」
「困るだけならなんとかなるだろ」
「…………まぁ」
彼女は暫し沈黙し、最終的にそんな言葉を返した。
嘘をつかなかったのは評価するけど、正直に言ったら言ったでアレだよな。
僕はそう考えていると、リブロースを平らげたシオンが口を開いた。
「安心しな! こんな美味いもんが食えんなら、オレはここに居てやってもいいぜ! そして、オレが居るってことはカイもいるってことだ!」
「なんだその謎理論」
常に二人一組とでも言いたいのか?
僕だってな、お前と別れて行動することもある…………かなぁ? なんだかシオンの行動が不安すぎて、結局コイツについて行く僕の姿が目に浮かぶ。
「……まぁ、なんです。あなた方にも楽しんでいただけるよう、今週末から新しいシステムを導入する予定ですし」
「……システム?」
問いかける僕に対し、彼女は言った。
「実はこの序列、来週から公開される予定のものでして。来週からは、この序列を争って全生徒による抗争が起きます」
笑顔でとんでもねぇことを言いやがった。
僕は思わず頬を引き攣らせ、シオンは面白そうに目を輝かせる。
そんな僕らを前に、彼女はその名を告げる。
「その名も【序列戦】。必要最低限、退屈しないだけのシステムだと保証しましょう」
なんというか、嫌な響きの言葉だった。




