006『原作との違い』
レベルアップを経て。
今のステータスを、開示した。
灰村 解
Lv.5[Dランク]
異能[なし]
技能[上級鑑定][未選択]
Lv.5になって、EランクからDランクへ。
異能は変わらず持っておらず。
鑑定は上級鑑定技能へと進化して。
新しく、未選択の技能が増えている。
総じて結論。どういうこっちゃ?
「え、なになに、これどういうこと」
全くもって想定外。
まぁ、いい意味での想定外なんだけどさ。
こう、原作との差異が出てくると不安が一気に溢れ出して来る。
「進化? 新しく……技能の習得? え、なにそれ。そんな設定……書き加えてないよな? いや、断じてない」
僕はこんな設定知らない。
つまりは……なんだ。
特異世界クラウディアが、想像以上に僕の黒歴史へ影響を与えているってことなんだろうか?
今回だって、多分、ランクが上がったことで、こういうことが起きたんだろう? ランクなんて概念がなければ、そもそもこんな変更は無かったはずだ。
「……まぁ、上方修正だからいい、気もするんだけど」
なーんか、引っかかるなぁ。
そもそも、僕の作った設定を無理やり書き換えてる感じが既に気に食わない。この世の全ての作家へ喧嘩を売ってるんじゃなかろうか。
ま、それはひとまず置いておくにしても……。
「新しい技能かぁ……? どんなのがあるんだろ」
たぶん、こういうのは零巻に出てくるはず。
直感で零巻を開くと、案の定、習得可能な技能の一覧が浮かび上がった。
剣術、槍術、体術なんて基本的なものから……魔法まであるみたいだな。他を探せば、全く使えなさそうなゴミ技能から、ちょっと強すぎない? って感じの反則技能まである。
「これは迷うな……」
ここで強力無比な技能を取るか。
あるいは、今後の深淵攻略のための技能を取るか。
……ううむ、すごく悩む。
「あ、そういえば鑑定でスキルの内容見れるんじゃ」
とか思って使ってみたら、本当に見れた。
鑑定スキルはステータスを見るためだけに考案した力だ。他の物を見る用には考えていなかったが……どうやら、進化した上級鑑定技能は僕が想定していなかった細部まで確認することができるようだ。
というわけで、改めて習得可能な技能を調べてみることにしよう。
カブトムシが寄ってこないように周囲へと松明のバリケードを張って……よし!
僕はその場に座って鑑定を始めるが……これはまた、いやがらせみたいなシステムだな
「うっわ、これはひどい」
詳細を見て分かった。これは嫌がらせだよ間違いなく。
名前負けしている技能も、詳しく見れば結構強いし。
逆に、明らかなチート技能もよく見ればデメリットがある。
例えば、『崩壊』の技能。
手で触れたものを崩壊させる技能。
ここだけ見たら反則技なんだけどね……。
ただし、崩壊は触れた箇所30cm以内に限る。
しかも、敵味方の区別関係なく崩壊させる。
ここで疑問。僕の手は崩壊するのでしょうか?
そう考えたら取る気も出ない。
そんな感じで、見た目強そうな技能ほど、とんでもないデメリットが隠されている感じだ。
デスゲームの名にふさわしいクソっぷり。殺す気満々である。
いかにも深淵を攻略させたくない僕が考えそうなことだ。
閑話休題。
でもって、一通りの技能を確認して。
その中でいくつか、よさそうな技能を見繕ってみた。
黒狼の技能
体の一部分を狼の部位へと変化させる技能。
身体能力が飛躍的に向上する。
気配移動の技能
自分の気配のみ移動させることができる技能
気配の移動中は自分の気配はゼロとなる。
回転の技能
手で触れたものを回転させる技能。
また、既に回転しているモノの速度を強化できる。
振動の技能
手で触れたものを振動させる技能。
相手の体内へと衝撃を伝播させることもできる。
泡沫の技能
三十分に一度、自分の傷をなかったことにできる。
耐性の技能
あらゆる攻撃、状態異常に耐性を得られる技能。
以上、この五つだ。
回転、振動については、純粋な戦闘で使えそうだと思った。
振動は言わずもがなだし、回転にしても、回し蹴り、裏拳等の攻撃をメインにすれば全体的な攻撃力の向上が見込めるだろう。ぜひとも欲しい。
だが、今回のメインはそっちじゃない。
「泡沫と、耐性」
僕の本命はそっち。
ここ深淵は、お察しの通りベリーハードも真っ青な難易度してる。
この先も似たような……否、これ以上の難関が待ち構えている。
そこで、万が一のミスを帳消しにするための『泡沫』技能。
全体的な安定感を増すための『耐性』技能。
これは欲しい! なんとしても欲しい!
この二つがあればこの先も何とかなる気がする! 安心感が断然違う!
「よし、もうほとんど決まったも同然だな!」
僕は大きくうなずき、その文字へと手を伸ばす。
最初は万が一の場合により安心できる、泡沫の技能を習得するべきだろう。
そう考えての行動だったが――
《技能【黒狼】を習得しますか? YES/NO》
YESを押しかけている自分に気が付き、唖然とした。
「…………は?」
僕は今……何をしようとしていた?
えっ、黒狼? どう考えてもネタだろこれは。
落ち着けよ僕、深呼吸だ。素数を数えて心を静めろ。
黒狼? そんなもんに惑わされちゃいけない。
だって、ただ、なんか黒狼の腕とかに出来るだけだよ?
闇夜に紛れて、白銀の爪で敵を屠る。
技能発動時、きっと僕の目は、血のような赤色に染まるだろう。
僕が黒狼スキルを設定するとしたら間違いなくそうする。
つまり、間違いなくかっこいいということだ。
そう、鳥肌が立つくらいかっこよくて、思わず興奮してま――……はっ!?
僕は今……何を考えていた?
まさか、無意識のうちに、黒狼習得の言い訳を考えていなかったか!?
ふっ、ふざけるな! 冗談もたいがいにしろこの野郎!
ロマンなんて捨てたはずだろうが!
中二病はやめたはずだろうが、目を醒ましたはずだろうが……!
今更……今更そんなもんに憧れてどうするってんだ!
僕は叫ぶ。
だが……心の内にある中二の心が叫んでいる。
心が叫んでいるよ!
――黒狼技能、めちゃくちゃかっこよさげじゃね! と!
薄っぺらい! 取りたい理由が非常に薄いよ中二の僕!
だけど……それでも、その声だけは誤魔化せそうにない……!
……そうだよ! 確かに黒狼技能が欲しいですぅ!
確かにかっこいいと思う! 普通の身体能力強化でよくないですか? なんて正論に吐き気がするほど欲しいですぅ! 喉から軽く手が出るよ!
「だけど……ッ、しかしッ!」
寸前のところで、本能を理性が押しとどめた。
YESを押そうとする右手を、必死に左手で押さえつける。
そうさ、中二病は卒業したはずだろう?
今更、なんでったってそんなことを思って――。
「ま、まさか……」
嫌な予感に目を見開いた。
僕は、元中二病としては超一流だ。
何が起ころうと、二度と中二病にはならない自信がある。
耐性がある。
あのどす黒い底なし沼に、二度と足を踏み入れたりはしない。
だけど……それでも。
血の滲むような覚悟をもってしてもなお、抗いきれない僕がいる。
その原因は、たぶん――。
「引っ張られている……とでもいうのか? 阿久津さんや、六紗に」
この僕が? あいつらの発する中二病オーラに影響された?
心の奥底に封印し、禁忌指定したはずの中二病が表層へと浮かび上がるほどに。
そこまで考えて、僕は頭を抱えて絶叫した。
嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だァ!
中二病なんてクソくらえだ!
そんなもんになるならなァ……僕はここでくたばった方がいい!
もう、ふとした瞬間に頭を掻きむしりたくなるような黒歴史は懲り懲りなんだよ!
僕は、衆目もはばからずに頭を掻きむしって。
そして……ゴツッと、肘が『零巻』へと当たってしまう。
「あっ」
肘が当たったのは、奇跡的に、ピンポイントで『YES』の部分。
本当にこの技能でよろしいですか? なんて確認文は出てこなかった。
スキル一覧表が消えてゆく。
嫌な予感が膨れ上がった。
というか、嫌な予感しかしなかった。
僕は頬を引き攣らせて、自分の姿を鑑定する。
そして、僕はその場で白目を剥いた。
灰村 解
Lv.5[Dランク]
異能[なし]
技能[上級鑑定][黒狼→影狼]
《Dランクに伴い、習得した技能『黒狼』が進化しました》
「ジーザスッ!!」
僕は、天を仰いで涙した。
……中二病なんざ、ホンっとうにクソ喰らえだ。
主人公が一歩も動かない回でした。
次回、主人公のバトルなるか……!
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