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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
52/170

218『平凡の積み重ね』

作者の別作品、第3巻が発売します。

是非、お近くの書店にて。

 自分が特別だと、思ったことはない。


 ……ごめん、嘘言った。

 昔は思ってた。中学二年生のころだ。

 自分は特別で、他のみんなが一般で。

 一般だからこそ、自分の特別に気が付けないんだと。

 そう、思ってた。


 だけど、違った。

 きっかけは些細な事。

 ただ、テストの点数が振るわなかった。

 自分としては、かなり点数を取れた気でいた。

 何なら、学年一位を取ってやると、そう意気込んでいた。


 それでも、張り出された結果は3位。


 二年生、最後のテスト。

 本気を出した、全力を尽くした。

 それでも勝てないやつが、この小さな学校に二人もいる。


 そう知った時。

 僕の患っていた病は、粉々に砕け散った。


 その日から。

 その日からなんだ。

 僕が、こう思うようになったのは。



 自分は、特別なんかではない。


 ただ、ありのまま。

 積み重ねてきた平凡な過去が、今の僕を作っているんだ。




 ☆☆☆




 僕とポンタは、一気に走り出す。

 スタートダッシュはほぼ同時。

 それでも、ポンタの方が先に相手へと接敵した。


「……ッ」


 やっぱり、コイツは強い。

 僕が最も自信を持つ速度で、まったく勝てなかった。

 変身時間が二年前と比べて増えているのか減っているのかは分からないけど、それでも理解した。

 僕、灰村解は、ポンタには敵わない。


 理解して。

 痛いほど身に染みて。

 それでも歯を食いしばり、前を向く。


「【神狼】」


 小さく呟き、一気に加速。

 接敵したポンタを抜き去って、彼の前にいた数名の敵を回し蹴りで吹き飛ばす。ポンタは大きく目を見開いて、僕はその姿を見下ろした。

 勝てない、敵わない。


 ――()()()()()()()()()()()()


 僕は無理やり口の端吊り上げて、大きく笑う。


「そんなもんかよ征服王、ハエが止まるぜ」

「……よく言った。後悔するなよ、男」


 瞬間、ポンタの姿がさらに加速した。

 僕もまた、さらに加速して彼に張り合う。

 黒と白、二つの影が侵入者たちを排除する。

 次々と仲間がやられていく様に、リーダーの額に青筋が浮かぶ。


「てめぇら……情けねぇ! ガキと畜生になにやられてんだ! てめぇら、それでも【黒き解放】の一員かァ!?」

「……黒き解放?」


 聞き覚えの無い単語に、思わず殲滅の手が緩む。

 と言っても、既に周囲に立ってるやつはいない。

 ほとんどが倒れ伏し、ポンタの周りにしたって似たようなもの。

 僕と同様に、一時殲滅の手を止めたポンタは口を開く。


「なるほど……道理で、こんなバカげたテロ起こせるわけだ。黒の解放。反正統派の異能者派閥で、その中でもかなりの過激派で知られている大組織だ。そのリーダーには賞金もかけられているほど」

「……なるほど。納得だ」


 じゃなきゃ、あの強さは納得できない。

 僕は、リーダーの男へと視線を向ける。

 男は上着を脱ぎ棄てると、黒いインナーの姿となった。

 異様なほどに鍛え上げられた肉体。全身から吹き上がる闘気のようなものは……僕の見た幻だろうか? だとすれば、僕が思わず幻視してしまうほど、高位の【武】が、そこにはあるのだろう。


「もういい、てめぇら下がれ。俺が殺る」

「ぼ、ボス……! わかりやした、お願いします!」


 男の捉えていた、エニグマ先生が解放される。

 かと思いきや、他の下っ端が彼女を捉え、リーダー格の男が自由になっただけ、という最悪の状況。

 僕は大きく息を吐くと、隣のポンタへと視線を向ける。


「……おい。あとどれくらい動ける」

「いつまでも。……と、言いたいところだがな。おそらく、あと一分弱。あの男を倒すところまでは言っても、人質を助けるところまでは持つまい」


 一分弱なら……それが限界かな。

 僕は周囲へと視線を向ける。


 現実的に考えろ。

 僕なら、どこまでできる。

 ポンタが男と戦っている最中。

 どれだけ強いとも知れぬ、残りの侵入者たちをすべて倒して、どころか人質には一切の被害は出さず……すべてを守り通せるだけの力はあるか?

 そう考えて、僕は笑った。


「……おいポンタ。あのガチムチは僕がやる」


 あからさまな悪口に、男の眉が吊り上がる。


「……言っておくが、強いぞ、あの男」

「知ってるよ、一度はボコられてるからな」


 つい、数十分前。

 僕はこの男に敗北した。

 理由はあれど、言い訳はしない。

 あの時、僕が出せる力は、この男に劣ってた。


「だから、もっかい戦わなきゃな」


 何事も、負けっぱなしは性に合わない。

 暴走列車にも。

 シオンにも。

 イミガンダにも。


 ――妄言使いにも。


 いつか絶対、勝って、見返す。

 そうしなきゃ気が済まない。

 僕はきっと、先へは進めない。


 僕は一歩、前へと踏み出す。

 そして、ポンタを振り返り、言った。


「それに、お前ならできるだろ? 人質全員、一切の傷を負わせることなく、エニグマ先生を救うことが、さ」

「……無茶を言う。イスカンダルとて万能ではないというのに」

「少なくとも、無謀じゃないだろ?」

「無論だな」


 そうして、ポンタは周囲へと視線を向ける。

 彼は拳を握り締め、大地を駆ける。

 されどその直前、声が聞こえた気がした。



「今度は、背中を預けるぞ、男」



 目を閉ざせば、思い出せる。

 僕が死ぬ、直前の光景。

 迫る暴走列車の拳。

 そして、僕へと必死な形相で手を伸ばすポンタ。

 あの光景、あの表情。

 僕はきっと、一生忘れることはないと思う。


 そしてたぶん、今の言葉も。



「ああ。背中は任せろ、征服王」



 拳を握る。

 両腕が狼へと換わり、想力が弾ける。

 対するは、見上げるほど長身の外国人。

 全身から強者の風格を漂わせ、一歩、一歩と僕の方へと向かってくる。


「おい、今からでも遅くねぇ。あの畜生と代われ。見たところ、あいつの方が早いし、強ぇ。対するてめぇは、力を隠していようが、何だろうが、一度俺に敗北してる」


 数十分で覆るほど、実力差ってのは甘くねぇ。

 そう続けたその男に、僕は思わず苦笑した。


 その通り、現実は何も甘くない。

 いきなり力に覚醒して、格上を倒すことなんてない。

 死ぬときは死ぬ。どうあがいたって死に絶える。

 相棒だって、何の感慨もなく死んでいく。

 命は軽く、容易に僕の手の中からこぼれていく。


 未来は変わらず、過去は変えられない。

 苦々しいと知っていながら、それを噛みしめ、歩き続ける。

 それの、どんなに苦しいことか。


 分かってる。

 全部わかってる。

 この身をもって、しっている。


 ただ、それでも。

 たった一つ、あきらめきれないものがあるから。


 どうしても消したい過去があるから。


 僕は前を向いて歩いていられる。



「【暦の七星(セブンスタ)】」



 全身の黒色が、銀色へと変わる。

 男は大きく目を見開いて、僕は拳を振りかぶる。

 知ってるよ、現実は苦く、辛く、険しいものだ。

 生きることだけで大変だ。

 だというのに、僕は愚かにも、その先を目指した。

 ただ生きる以上のものを求めて、走り続けた。


 その、集大成。


 二年間、ただ平凡を積み重ねただけの、今の僕。



 ――それを、お前に教えてやる。



 僕は拳を振りぬいた。

 きっとその拳に、才能はない。

 技術もなければ、特出した暴力性もない。

 ただ、全力で、平凡な拳を振りぬいた。


 それは、男の顔面を芯に捉えた。


「…………は」


 間抜けた声が、直前に聞こえて。

 男は、大きく吹き飛ばされてゆく。

 体育館の壁を突き破り。

 グラウンドに出て、それでも止まらぬその威力。


 最終的に、男はグラウンドの対面に在るフェンスへと直撃。

 やっとの思いで衝撃を殺しきった男は、血反吐を吐き、殺意の滲む視線を僕へと向けた。


「て、てめぇ……!」

「お前は強いよ。たぶん、才能もあるんだろう」


 僕は、男の背後へと転移した。

 奴は咄嗟に僕へと裏拳を放つが、僕はその拳を真正面から受け止めた。


「……っ!? て、てめぇ……俺の災躯と同等の――ッ!」

「いいや、僕の神狼は、たぶんまだお前に劣るよ」


 所詮は、七つの技能のうち一つ。

 S級異能力者の、本物の異能に比べれば嫌でも劣る。

 だから、お前に【神狼】単体で勝つつもりはないんだ。


 僕の全身から、血の蒸気が吹き上がる。

 白銀の毛並みの、一部が赤く染まる。


 神狼技能。

 異常稼働に、暦の七星。


 僕が今まで、身に着けてきたすべての努力。

 その結晶を、一つ、一つと積み重ねる。

 余計な見栄は、要らないんだ。

 ただ、ありのままの積み重ね。

 それだけでいい。


 きっと、今の僕は、それだけで強く在れる。


 ぼくの姿に、男は大きく目を見開いた。


「て、てめぇ……いくつ異能を持って――!」

「【禁書劫略(イクリプス)】」


 零距離で、僕は異能を行使した。

 手首に浮かび上がった黒色の円環が、男の体へとまとわりつく。

 この力は……一度失敗して痛い目を見ているからな。

 二度と失敗しないよう、冥府で鍛えに鍛え上げた。


「容赦なく、奪わせてもらう」

「……ッ、て、てめぇ!」


 男は僕の手を振り払うと、大きく距離を取った。

 彼は僕を睨み、拳を握りしめ、構える。

 その構えは独特で、その身体中から感じられる威圧感は……今までの比ではない。


 間違いない、何か、厄介なことを始めるつもりだ。


 そうは思ったが、特に感慨はなかった。

 僕の右手の甲には、既に文様が浮かび上がっていたから。


「くく、俺にこの構えをさせたが、お前の運の尽き! 俺の異能は【超加速(フルアクセル)】! 拳の速度を何十倍、何百倍へと引き上げる異能! 速度は威力、この拳を受けて立っていた者はいねぇ!」


 僕は静かに、拳を構える。

 男は嘲るような笑顔を浮かべた。

 同じ構え、同じ拳。

 なれば、より速い方が強いのは明確。


 故に彼は、自分の勝利を確信して。



 僕もまた、僕の勝利を理解していた。



「さぁ、行くぜ! アクセル――」


「【超加速(フルアクセル)】」


 男の声に被せて、僕は呟く。

 次の瞬間、僕の体は凄まじい速度で加速。

 一瞬で、男の眼前へと迫っていた。


「な――」


 最後に見えたのは、大きく目を見開く男の姿。


 僕は拳を振り抜いた。


 その一撃は深々と男の腹へと突き刺さり、その口から鮮血が溢れ出す。

 それは、先程よりもさらなる一撃。

 男の体は一直線に体育館の方へと吹き飛んでゆき、そのまま、体育館前の渡り廊下へと突っ込んでゆく。


 破壊音と、砂煙。

 その中へと転移すると、僕の方を驚いたように見つめてくる3つの影が見えた。


「な、な、なな……っ!」


 そのうち一人。

 どうやら苦戦していたらしい少女は、僕の方を見て愕然と目を見開いた。

 僕は視線を下ろす。

 そこには、白目を剥いて気絶する男の姿があって。

 僕は、改めて少女へと視線を向けた。


「あ、あんた……ほ、本当にっ!」


 少女は、両の瞳に涙を浮かべ。

 僕は笑って、彼女へ言った。



「久しぶり、六紗。助けに来たぜ」



 って言っても、もう終わったと思うけど。



次回【第参巻】

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[一言] え、待って、かっこいい
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