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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
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215『人質』

 一言、強い。

 男は、その一言に尽きた。


「くっ」


 僕は、狼の両腕で攻撃を弾き、逸らす。

 その男の攻撃は、基本的に殴る蹴る、頭突きの3種類だ。

 一切の技はなく、ただ、純粋な力技でぶっ潰す脳筋タイプ。

 言葉にしてみれば与しやすく感じるだろう。

 だけど……得てしてそういうタイプが、最も戦い辛く、厄介なのだと思う。


「おいおい、そんなもんかよォ!」


 大ぶりの拳。

 何度も見て、完全に見きったはずの拳。

 僕はカウンターを叩き込もうとして……それでもその直前に、拳が止まった。


「ぐっ……!」


 僕の顔面へ、拳が突き刺さる。

 あまりの衝撃に、踏ん張っていてもなお、数メートル押されてしまう。


 ……何故、今一歩踏み出せないのか。

 完全に見切っているはず。

 この男の動きは全て理解した。

 それでも、拳が直前で止まる理由。

 そのひとつはきっと、妄言使いへの警戒だ。


「手を……出してこないのか」


 妄言使いを見れば、彼は拳を強く握り締め、ただ、傍観に徹するばかり。

 彼の使役するオーガも似たような状態で、僕は眉根を寄せて血反吐を吐いた。


 少なくとも、信用出来ない。

 手を出してこないと見せかけて、僕の隙を窺っているのかもしれない。

 そう考えると、容易に攻勢にも出られない。


 そして、もうひとつ。

 僕が、本気で攻められない最大の理由がある。


「ひぃっ」


 僕のすぐ後ろには、クラスメイトたち。

 僕は、吐き出した中に見えた歯の残骸をみて苦笑すると、侵入者の男は首を傾げる。


「おっかしいなー。今の一撃、首の骨を折るつもりだったんだけどな。まぁいいや。楽しみが続くってのは最高だね!」


 男は、一気に追撃をしかけてくる。

 僕は痛みに顔を顰めながら、真正面から体当たり。その胴体へとしがみつき、逆に押し返そうと力を込める。

 だけど。


「気持ち悪ぃな! 男が抱きついてくんじゃねぇ!」


 僕の背中へと、肘打ちが突き刺さる。

 骨が砕けて、嫌な場所に突き刺さったような痛みが走った。


「か、は……ッ」


 あまりの痛みに、思わず崩れ落ちる。

 そして、僕の顔面をやつの脚が蹴りあげた。

 鮮血が吹き上がり、悲鳴が上がる。

 僕の体は大きく吹き飛ばされ、多くの机にぶつかりながら、床に倒れる。


 クソ……本当に強いな、こいつ。

 イミガンダと戦ってもいい勝負するんじゃないか?

 匹敵するとは思えないが……それでも、イミガンダや、2年前の暴走列車に近しい実力を持っている。

 そんな感じがする。


「オイオイおい、まだ生きてるんですかァー?」


 僕の腹を、男は踏みにじる。

 腹筋に力を入れて内臓を守るが、それでも焼け石に水。あまりの威力に内臓にまでダメージが及ぶ。

 口の端から血が溢れて、それを見た男は実に楽しげな笑顔をうかべた。


「いいねイイねぇ、人に限らず、何かが壊れる瞬間ってのは、最高に唆るもんだ! 未来ある若者から希望を奪う! 正統派が叫んでるこの学園をぶっ潰す! 俺ァそれだけが生きがいだ! それが俺の自由ってもんだ!」


 性格悪いなぁ、こいつ。

 僕は思わず苦笑して、男を見上げる。

 その態度が気に食わなかったのか、男は額に青筋をうかべ、さらに力を強めた。


「おい。てめぇ……今笑いやがったか」


 あまりの力に、内臓が押し潰れるような錯覚すら覚えた。

 口からの血が止まらない。

 僕は力をふりしぼり、やつの脚をにぎりしめる。


 クソッタレが……ッ。

 こうなりゃ、後ろに妄言使いが控えていようが、全力でやるしかないか……!


 僕はイヤリングへと想力を流し。

 男は、僕の反応に不機嫌そうに歯を食いしばる。

 そして――。



「……おい。そこまでにしておけよ、外道」



 男の後頭部へと、妄言使い(ファントムワード)の指先が触れた。

 ぴくりと、男は反応した。

 既に、その顔から怒りは消えていた。


「……おいおい、どーゆーことだ、こりゃ」

「悪いが、その御仁は僕らの目的のために必要な人物でな。ここで死なれては困る」

「さっきは、潰してもいいと……」

「潰すのと、殺すのは違う。意味を履き違えるな」


 妄言使いの、鋭い言葉。

 僕は活性を高めて傷を癒しながら、その様子を見ていた。


 ……二人の関係性。妄言使いより、この男の方が立場的に上なのかと思っていた。

 だが、この話を聞く限り……そうでも無いのか?

 疑問を覚えていると、僕の腹から男の足が退いた。

 そして、思いっきり、僕の顔面を蹴りつけた。


「が、は……!」

「貴様!」

「これくらいは許せよ。潰しただけだ。文字通り、その鼻っ面をな」


 痛みに顔を押さえれば、鼻がへし折れていた。

 僕は力技で鼻を戻すが……骨折を治すには少しだけ時間がいる。

 異常稼働を使っていいなら話は別だが……あれをやれば目立ってしまう。

 せっかく、人がぼこすかぼこすか殴られてやったんだ。

 まだ力を隠してたー、ってなって再び暴力嵐、なんてのは御免です。


「は、灰村……! 済まない、私がついていながら……」


 シガラミ先生が、駆け寄ってくる。

 彼女はそういうが、シガラミ先生はどちらかと言えば非戦闘型。

 油断しきった生徒たちには幻術が通用しても、アドレナリン出まくってる戦闘中に、あれだけの幻術は通用しない。


 つまり、今の彼女に、僕らを守り通せるだけの力はない。


「……まぁ、大丈夫っすよ。僕らが倒れても、シオンが残ってる訳ですし」


 僕はそう笑って、大きく息を吐く。

 おい、シオン・ライアー。

 お前と別行動になったこと。

 運が悪いと思っていたけど……ここに来て、幸運だと思えてきたよ。


 お前がフリーであるということ。

 侵入者の1人が、イミガンダ級であること。


 ――妄言使いに、何らかの事情があること。


 全部分かった。

 なればこそ、僕は僕のすべきことをする。

 間違ってもそれは、この男をこの場で倒すことではない。


 僕の目的は――守ること。


 そしてその対象は、生徒だろうが、たとえ敵だろうが、関係ない。

 僕が守りたいと思った連中を守る。今すべきなのは、きっとそれだ。


「おい、こいつら縛って体育館にでもぶち込んどけ。待望の、人質()2()()ってわけだ! ぎゃはははは!」


 男の言葉に、妄言使いは顔をしかめる。

 僕はその光景を、静かに見つめていた。




 ☆☆☆




「はぁ!? なに負けてんだあの野郎!」


 シオン・ライアーは叫んだ。

 場所は、1年2組のクラス。

 そこには取り残された数名の生徒たちと、1組、3組から集まった数名の生徒。

 その中にはシガラミ先生や灰村解の姿はなく、事情を聞いたシオンは歯を食いしばる。


「あの野郎……! S級二人を相手に自分から攻撃すりゃ、いざって時にガキ共を守れねぇとか考えやがったな!」


 カイが本気を出せなかった最大の理由。

 それは、背後にクラスメイトが居たから。

 だから、下手に攻勢へ出られなかった。

 自分から攻撃するということは、それだけ防御を捨てるということ。

 S級が2名も居る中で、あの瞬間、カイは攻撃することよりも、守ることを選択した。

 ただ、それだけの話だ。


 それが、シオンは気に入らなかった。


「S級二人ぐれェまとめてぶっ潰してこそのオレ様の子分だろうが! こりゃあ仕置だな!」

「……ふふ、不謹慎だけれど、少し笑えてしまうわね。だって、とてもアイツらしいもの」


 隣の六紗が、そう言って笑った。

 しかし、シオンはそんな言葉は聞いていない。


「おい首席! てめぇ、カイの知り合いなんだろ、知ってるぜ! ただ、妄言使いってのは知らねぇ! なんだそれ!」

「……そうですね。妄言使い。彼とは、一度だけ遭遇したことがあります。あの時は、灰村解と、悪魔王。あの二人に対して襲撃していましたね」

「なるほど! 悪いヤツってこったな!」

「そう簡単な話でもありませんよ……」


 六紗はそう言うと、聞き及んだ情報を整理してゆく。


「妄言使い。知名度はさほど高くありませんが、純粋な戦闘能力で言えば、おそらく全異能力者の中でもトップレベル。シオン、貴方も相当高位の力を持っていますが、彼は、それに匹敵すると考えた方がいい」

「オレにか? そんなやついんのかよ」


 シオンは全く信じていなさそうに首を傾げる。

 その光景に苦笑しながら、六紗は疑問を呈した。


「そんな男が、力を抜いた灰村解が『マトモに戦えていた』程度の男に平伏している。それ、おかしくありません?」

「おかしいぜ! この世は弱肉強食! 弱い奴は子分で、強いヤツが親分だ! ほんとにソイツがオレ並に強ぇなら、そいつが親分に決まってらァ!」

「そう。そうなんですよ」


 六紗は顎に手を当て、考える。


「ならば、何らかの要因があったと考えるべき。その要因は……おそらく、妄言使いが格下に従わざるを得ないもの。つまりは……」

「……胸糞悪ぃな、人質ってことかよ」


 シオンの答えに、六紗は顔を歪めた。


「憶測の域は出ませんが、最も可能性が高いでしょう。……おそらく灰村解は、その人質と合流、あわよくば救出するためにも敵方へ捕まったのでしょう」

「へぇー! 頭いいなアイツ!」


 この中で1番頭のいいシオンがそういった。

 六紗は彼女の発言に苦笑しつつ、窓の外へと視線を向ける。

 そこには、校舎に隣接して造られた体育館があり……今、人質はあの倉庫の中に集められている。


「……では、話もまとまったことですし、私達も救出へと向けて動きますか」

「そうだな! 早く助けてやんねぇと、カイのやつ、また死んじまうかもしれねぇし!」


 二人はそう言って、廊下へと出る。

 多くの生徒たちは、不安に駆られて彼女らの後について行くが……廊下に出た瞬間、そこに転がっていた多くの人物を見て目を見開いた。


 ――そこでは、侵入者達が死に絶えていた。


 喉を一撃で切り裂かれたもの。

 顔面を弾丸で撃ち抜かれたもの。

 多くの惨死体。


 それを前に生徒たちの多くが口を抑えてその場に崩れ落ちる。

 だが、二人はその光景に一瞥をくれることも無い。


 ただ、犯罪者には死、あるべし、と。


 振り切った正義感の元に、強大がすぎるその能力を行使する。



「さぁ、行くぜ、首席女」

「こちらのセリフよ、シオン・ライアー」



 ここに、最強の2人が動き出す。


ふわっとした強さの目安。


化け物級に強い

【暴走列車】

【ポンタ】

【阿久津さん】【六紗】【シオン】

【灰村解】

【冥府の王イミガンダ】

【侵入者の男】

普通に強い


不明【霧矢ハチ】


ここに、どう【妄言使い】が入り込んでくるか、ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] シオンより強いとか継戦能力の無さがある分ポンタの強さはやばいですね その分暴走列車のヤバさが際立ちますが
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