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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
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213『授業風景』

日曜日は休日に非ず。

強奪能力が強化される日でもなく。

日曜とは、小説を書き溜めるために存在する。

 数ヶ月前。

 そこは、日本の山奥にひっそりと佇む、小さなログハウスの中だった。


「ハイライトスクール……ねぇ?」


 そこには、数名の男が集まっていた。

 いずれも、剣呑な目をした、人殺し。

 世界に名を馳せる、異能犯罪者。

 俗に、反正統派と呼ばれる者達だ。

 その上座に座る男は、新聞を手に鼻を鳴らす。


「はっ、下らねぇ……下らねぇなぁァ。異能ってのは、悪魔の力。つまんねぇ(しがらみ)をぶっ壊して、どこまでも自由に生きるための力。それを……寄りにもよって育てるだァ?」


 男は、壁を殴りつける。

 瞬間、その部分が弾け飛び、ログハウスに風穴が空く。

 衝撃はそれだけに留まらず、山を削り、森を薙ぎ、周囲一体を更地と化した。


 ――手加減した拳、たったの一振で。


 その力に、男たちは恐怖する。

 だが、それ以上に安心していた。


 この男が、敗れる未来が想像できない。

 この男について行けば、自分たちは安全だ。そう、確信できるから。


「とりあえず、テメェら。あの学校とやら、ぶっ潰すぞ」


 だが、今回の発言は、正気とは呼べなかった。

 相手は世界中に広がるハイライトスクール。

 正統派異能力者の巣窟とも呼べる場所。

 加えて彼が狙うというのは、正統派最強の異能力者、六紗優が所属する学園だ。


 正統派の王。

 最強たる界刻の異能力者。


 そんなものを敵に回すなど、いくら男が強いと言っても悪手にほかならない。

 多くがそう思った。だが。


「安心しろよ、そう思って、援軍がいる」


 男は、指を鳴らした。

 次の瞬間、背後の扉が開かれた。

 驚いたように、多くの男が扉へと視線を向けて。

 そして、その先から現れた少年を見て、限界まで目を見開いた。


「ばっ、馬鹿な……!」

「な、なんでS級の男が……!」


 男たちの動揺が響く中。

 その少年は、リーダーの男を睨んでいた。


「おー、怖い怖い。そう睨むなよ。……テメェの大切な女の子が、どーなっても知らねぇぜ?」

「……ッ! 指一本でも触れてみろ。その瞬間、貴様の命はないと思え」


 少年は、ドスの効いた低い声を出す。

 全身から想力が溢れ出し、男は空笑う。


「……お前だけだぜ。オレが、勝てるとは思えなかった相手はよ。だから、期待してるぜ、大先生」


 いいや。

 そう続けた男は、楽しげにこう言った。



「S級異能力者【妄言使い(ファントムワード)】」




 ☆☆☆




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 生徒たちが逃げ惑う。

 そりゃ、こんな化け物が目の前に現れたら逃げると思う。現に、2年前、死ぬ前の僕がこの場にいても即逃げてる。

 今逃げないでいられるのは……ある程度自分の力に自信が持つことが出来たことと、僕の隣に、シオン・ライアーが居るためだ。


「よし、ぶん殴るぜ!」


 シオンの異能が解禁される。

死搭載の我が身(ルナティック・マイン)

 全身凶器の全身狂気。

 僕と戦った時よりも、刃は少なく、銃火器や鈍器を多く召喚したシオンが、僕の隣には立っていた。

 彼女は早速駆け出そうとしたが、それを僕は右手で制した。


「あぁ!? なんでだよ!」

「まぁまぁ、お前だけでも倒せるかもしれないけど、これは授業だぞ」


 授業ってことは、他の生徒たちがこの恐怖から何かを学ぶ必要もあるわけだ。

 お前が【オレTUEEEE】してそれで全て丸く収まるほど人生甘くないんだよ。

 小説(ラノベ)ほど、この世界は甘くない。

 この世界がテンプレな小説だったならば、今頃僕は超絶怒涛の反則チートに成り果ててるっての。


 そういう思いを、僕は一言にまとめて彼女に言った。


「待てたら褒めてやろう」

「なんだと! 何日待てばいいんだ!?」


 シオン、即決。

 たったの一言で彼女は折れた。

 僕は想定通りすぎる彼女の反応に苦笑しつつも、巨大なドラゴンへと視線を向けた。


 ドラゴンは完全に、シガラミ先生の支配下にあるのだろう。

 僕らの準備が出来てない今は、威嚇や咆哮はしていても、実質的な攻撃はして来ない。

 つまり、ビビってないでさっさと攻撃してこいよ、ってことだ。


「さて、どうしたもんか」


 周囲を見るが、まだ冷静さを取り戻していない生徒がほとんど。

 中には際限なく、どこまでも逃げ出してゆく生徒の姿もある。おいおい……この火山地帯で走る方が危ないと思うんだが。


 そうこう考えていると……ふと、両手をポケットに突っ込み、余裕を浮かべている生徒の姿があった。

 というか、先程のチャラい男子生徒だった。


「へっ! ンなもんハリボテに決まってんだろ! 異能があるからこんな化け物も居るだなんざ、そんなの聞いたことねぇぜ!」


 少年はそう叫び、ずんずんとドラゴンへと近づいてゆく。

 その姿にはドラゴンも思わず動揺。

 えっ、なにこの隙だらけの生物。倒しちゃっていいの? みたいな目をシガラミ先生へと向けていた。


「おら! ハリボテ野郎! テメェの正体は分かってんだよ! さっさと退けろよ! 俺たちゃテメェみたいな偽モンに構ってる暇ねぇーんだよ、馬ァァァ鹿!」


 ついこの前まで中学生だったんだし……まぁ、挑発もこの程度が限界なのかもしれない。

 僕は特にカチンとは来なかったが、ドラゴンは別だったようで。

 ドラゴンは、大きく腕を振りかぶった。

 そして――!


「あぁ? やんのかコラ、上等ぶげっ」


 ――思い切り、少年をたたき潰した。


「「「たっ、タケシーッ!」」」


 少年タケシ、危うし!

 というか生きてるのかアイツ!

 というみんなの悲鳴を他所に、僕は大きな息を吐いた。


 一瞬で、僕の姿は後方へと移動していた。

 右手には、襟首を掴まれたタケシ少年がおり、彼は呆然と口を開閉させ、僕を見上げた。


「い、今、今の……ほ、ほんっ」

「本物らしいな。分かったら無茶はするなよ」


 僕はそれだけ言って、再びシオンの隣へ瞬間移動で戻ってくる。

 ドラゴンは、潰したと思ったタケシ少年が別の場所に移動していて、首を傾げていた。


「てめー、オレには『待て』させといて、自分は好き勝手やってるじゃねぇか」

「まぁまぁ。兎にも角にも、これで少しはみんなも焦るだろ」


 ドラゴンは本物だった。

 そして、攻撃してくることが分かった。

 なら、逃げ惑っていても死ぬだけだ。

 今すべきは、戦うこと。

 焦れ、生き延びることに固執しろ。

 きっと、これはそういう授業だ。


「こ、こうなりゃヤケだ! ドラゴンだろうがなんだろうが、やってやるよ!」

「そうよ! こんな所で死にたくない!」

「みんな、力を合わせよう! 皆がひとつになればドラゴンにだって勝てるさ!」


 人が1番団結するのは、団結無しでは乗り越えられない強大な敵、巨大な壁を前にした時だ。


「この授業は、クラスの絆を創り出す目的がひとつ。そしてもうひとつは……人は得てして、死の間際に感じたものを【鍵】としやすい。……君たちならば分かるだろう」


 ふと、背後から声がした。

 遮断を使ってたみたいだが、僕とシオンにはバレてたよ、シガラミ先生。


「さて? シオンなら知っているかもしれないですけど。僕は一般生徒ですよ」

「底の知れないS級を、一般とは呼ばんだろう」


 シガラミ先生は、困ったようにそう言った。


「最高ランクの遮断性能。加えて、実技試験で垣間見せた活性と具現。……加えて、それだけではないと来ている。貴様の正体について、教員の中ではかなり話題となっているよ」

「うわ、やだなぁー」


 なにそれ。

 なんでそんなに目立ってる訳?

 シオンの方がよっぽど目立ってただろ。

 実際、あの時はシオンが勝ったわけだしさ。


 そうも考えたが、確かに教員の言わんとすることも分かる。

 知らないものは恐ろしい。

 無知を既知で埋めつくしたい。

 そう思うのは道理だろう。


 僕は背後を振り返る。

 シガラミ先生は、緊張したように喉を鳴らした。

 そんな反応を、僕は笑ってスルーした。


「まぁ、大丈夫っすよ。僕は進んで目立つつもりも無いですし、授業の邪魔をしようとも思いませんから」

「……それ、ならば。良いのだが」

「なら、それで解決じゃないですか」


 僕は、この学校が嫌いだ。

 一刻も早くこの学校を去りたい。

 だってクラスメイトは、ドラゴン相手に【黒き腕】【青き炎】【煉獄の燈】【不滅の太刀】とか言いながら立ち向かっていく中二病共だ。

 ……絶対に相容れねぇ。

 絆より先に吐き気が来る。

 というか、既に吐き気がする。

 もう帰りたい。

 そんな一心でこの場に立っている。……一心として言い表すには嫌悪感が強すぎる気がするけど。


「問題は、シオンといると、僕が入学試験での異能力者だとバレる可能性大、って話なんだけど」

「安心しろよ! オレはカイからは離れねぇぜ! 離れるのはう○この時くらいだ!」


 残念ながら、シオンは僕からは離れない。

 そう分かってるからこそ、僕が入学試験での異能力者だと特定させるのは、仕方ないと割り切るつもりだ。


「というかシオン。女の子がう○こなんて言うんじゃありません」

「うるせぇ! う○こはう○こだ! 一緒に居てやってもいいけど、臭いの嫌だもん!」


 そりゃ、誰でも嫌だよ……。

 つーか、トイレしてる時に一緒に同席するってどういうぶっとんだ考えしてる訳? 同席する側よりもされる側の方が辛いと、僕は思うんだけれども。


 そうこう考えていると、生徒たちがほぼ全滅状態になっていた。

 特に手助けもしていないので、何人かは気絶してる子もいるみたい。


「とりあえず、シオン。みんなを医務室へ。先生ならこの場所からの脱出方法も知ってるでしょ」

「分かったぜ! 後で褒めろよ、カイ!」


 そう言って、シオンはみんなの元へと駆け出してゆく。

 その背中を見送って、僕は、ドラゴンへと視線を向けた。


『グルルルル……』


 ここに来て、ドラゴンは1番の警戒を示す。

 それはこの上ない程の、正解だったと思う。


「【暦の七星(セブンスタ)】、今日は月曜」


 狼の日だ。

 僕は右手を狼へと変えると、瞬く間に黒色が銀色へと変わる。

 ドラゴンは、僕の変化に警戒したようだが……その警戒も、あまりに遅すぎる。


 僕は一息でドラゴンの懐へと入り込み。

 そして、シンプルな掌底を繰り出した。


 それは、ただの掌底。

 されど、竜鱗を砕くには十分すぎる威力だった。


『ァ…………ッ』


 蚊の鳴くような悲鳴が響いて。

 ドラゴンは、僕の一撃で地に伏した。


 ――呆気ないほどの、一撃決着。


 意識の残っていた数名の生徒は目を見開いて、すぐに、なにか思い出したように僕を見た。

 それはきっと、入学試験での光景に違いない。


「……ちょっと待て。前より強くなってないか?」


 シガラミ先生が問うてくる中、僕は先生を振り返り、笑いかけた。



「当然。今の僕は、3ヶ月前よりずっと強いよ」



 その言葉に、一切の誇張は無かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり中二病抜けてないんだよな まあ実力と精神の伴った中二病は普通にかっこいいんだけどね
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