212『授業開始』
入学試験から、3ヶ月弱。
僕は、新しい制服に身を包んでいた。
鏡の前に立つ僕は、随分と全盛に戻ってきたように思える。
というか、今ならイミガンダと戦った時の僕より強いかも。
そう思えるほどに、僕はこの3ヶ月弱で体を鍛え上げた。
「なんだ、カッケーじゃねぇか! オレもそっちにしよーかな!」
このヒラヒラうぜーんだよ!
そう叫んでいるのは、シオン・ライアー。
彼女もまた、女性用の制服に身を包んでおり、……こう言ってはなんだが、けっこー似合ってると思う。元が美人だから、普通の女の子らしい制服を着たら、ちょっと可愛い。
本人に言ったら絶対調子に乗るから、言わないけど。
というかこいつ、可愛いなんて言われて嬉しいんだろうか?
「お前も……ハッ、随分と可愛いじゃねぇか」
ニタニタとした笑顔を浮かべてそう言うと、シオンは顔を真っ赤にした。
「う、うるせぇな! だからこんな服嫌だったんだよ!」
「いいじゃんか。これならお前もモテるかもよ? ほら、新たな下僕が増えて、僕のお役御免もあるかもしれない」
「うるせぇ! そんなもんはねぇ!」
シオンはそう言うと、腕を組んでそっぽを向いた。
やっぱり、可愛いだなんだと言われて喜ぶタイプじゃないか。ま、僕の言い方も問題だったと思うけど。
僕はシオンのいじけた姿に笑っていると、ふと、視線を感じてそちらへと視線を向けた。
「朝から仲が良くて何よりだが……時間は大丈夫なのだろうか」
そちらへと視線を向けると、寝起きの阿久津さんが立っている。
悪魔王の名に相応しく、彼女はとても朝が弱い。
正直、目のやり場に困るような服装なのだが、彼女は半分寝ぼけているため、自分の服装の危うさに全く気がついていないという奇跡。
シオンがそういうことを全然気にしないということもあり、正直、見たとしても何も言われないと思う。だけど……まぁ、家をお借りしてる立場として、見ないのが礼儀だと思う。
「時間……は、まぁ、転移していけば問題ないだろう」
僕はそう言って、シオンへと手を伸ばす。
彼女はムニムニと口元をゆがめながら、僕の手を取った。
「い、言っとくが、怒ってるからな! カイ!」
「分かった分かった。後でアイス買ってやるから機嫌直せよ」
僕に対するイライラと。
そんでもって、僕の手を握れる嬉しさと。
なんとも言えない表情をしていたシオンは、僕の言葉を受け、にまっと笑った。
「そっか! なら許す!」
「あぁ、許された」
僕は玄関へと移動して、次元技能を発動する。
ドアの部分に渦が発生し、外靴を履いた僕らは阿久津さんを振り返る。
「それじゃぁ、行ってきます」
「行ってくるぜ! 晩飯には帰る!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
阿久津さんの声が響いて。
僕らは次の瞬間、見覚えのある校舎の前にいた。
これが、完成したハイライトスクール、本校舎。
中二病だらけの地獄学校。
頭のイカれた奴ばかりが集う、世界一イカれたクソ学校だ。
☆☆☆
入学式は、すぐに終わった。
教師陣も例に漏れず中二病で、彼ら彼女らは『多くは語らない、背中で語る』的な発言をして、すぐに降段したからだ。
そうだな……入学式で1番長かったのは、首席合格者からの代表者挨拶だったと思う。
ちなみに、やはり首席は六紗になった。
シオンもいい所行ったと思うんだが、さすがに世界の王様が主席を力技で奪われる、なんてのは評判が悪い。
なので、知らない場所で大いなる力が働いたんだろう。
まぁ、僕もシオンも『あんな面倒くさいことしなくてよかったァ』と思ってるわけだし、首席の座は六紗に渡して正解だったと思う。
とまぁ、そんなこんなで。
「初めまして。今日から君たち、1年2組の担任となった『シガラミ』だ」
時は流れて、自分の教室。
今回の合格者は、全員で90名。
それが、三クラス、それぞれ30人ずつつに別れていた。
僕はクラスを見渡した。
六紗の姿は…………無さそうだ。
代わりと言ってはなんだが、隣にシオンが座ってる。
「おい、あれって……」
「えぇ、S級の……」
ざわざわと、視線がシオンへと集まるのを感じた。
さすがはS級、シオン・ライアー。
ただつまらなさそうに頬杖をつくその姿でさえ、有名人ってだけでなんか風格があるように感じる。ちなみにこの顔は『あー、腹減った。まだかな昼飯』って顔だ。まだ午前10時だぞお前。
ちなみに、僕に視線は集まってない。
いくら入学試験で目立ったとしても、3ヶ月前に1度だけ見た赤の他人を、今の今まで鮮明に覚えているやつも少ないだろう。
何人かは僕の方を見ているけれど、ほとんどのクラスメイトはシオンへと注目を集めている。久しぶりにシオンへ感謝を贈りたい。
「……とりあえず、皆の自己紹介と行くか。どうやら、皆の注目はそこの生徒に向いているようだからな。……なぁ、シオン・ライアー」
「……あ? もしかして呼んだか?」
全く話を聞いていなかったのだろう。
シオンは、少し驚いたように目を開いた。
「なんか用か? オレは特に用はねーぞ」
「いや、皆に自己紹介をして欲しくてな。出来れば、有名な君から自己紹介をしてくれれば嬉しいのだが」
「なんでお前を喜ばせねぇといけねぇんだよ」
ド正論、ここに極まれり。
僕以外は、阿久津さんの言うことしか聞かないシオン・ライアー。彼女の傍若無人っぷりが遺憾無く発揮されてしまった。
シガラミ先生は笑顔のまま固まってしまい、頬に冷や汗を伝わせている。
生徒たちは静まり返り、シオンはフンと鼻を鳴らして机に足を上げる。
こら! 女の子がそんなはしたない格好しないの!
パンツ見えるわよ!
そんな思いを込めて、僕はぽつりと呟いた。
「……これは、アイスは無しかな」
「オレの名前はシオン・ライアー! 詳しくは調べろ! 有名だからな!」
彼女は唐突に立ち上がり、叫んだ。
言い終わって、彼女は直ぐに席へと戻った。
そして、ちらりと僕を見た。
「アイスは有りだ……」
ドスが効いた、低い小声だった。
お前……どんだけアイスを楽しみにしてんだよ。
僕は思わず苦笑すると、周囲から困惑気味の拍手が聞こえる。
僕とシオンの会話が聞こえていたのは、せいぜい近くの生徒たちだけ。
ほとんどの生徒たちは僕らの会話は聞こえていない。たぶん、渋ってたのに何故か突然に自己紹介をし始めたシオン、みたいな図に映るだろう。
「あ、ありがとう。それでは……そうだな。出席番号1番の子から自己紹介を始めていこう」
担任教諭はそう言って、僕らは順々に自己紹介を始めていく。
その中で、当然のように僕の出番もやってきたわけだけど。
「初めまして、灰村解です。得意なことは、活性と具現です。あまり戦いは好きじゃないけど、頑張りたいと思います」
という、無難な自己紹介に収めておいた。
ちなみに担任の先生、思いっきり頬をひきつらせていました。
どの面下げて『戦いは好きじゃない』とか言ってんだよ、というセリフが垣間見えた。目が口よりも雄弁に語っていた。
だが、下手に僕を目立たせるつもりはないのか、特に何も言わずにスルーしてくれた。
だというのに……。
「それでは次の……」
その教諭が、そのように声を出した。
その直後、机が思い切り蹴られる音がした。
大きな音に、教室内から女子たちの悲鳴が上がる。
驚いてそちらを見れば、明らかにチャラチャラした男子生徒が足を組んでいた。
「センセー、いつまでダラダラやってんだよ? 俺たちゃ、この学校に異能鍛えるために来てんだぜ? なら、さっさと異能について教えろや」
「そーだそーだ! 鍵さえ貰えりゃ、こんな学校なんの用もねぇんだよ! さっさと始めろ!」
その男子生徒の周りにも、数名、なんとなーく雰囲気の悪い生徒たちがいた。
もしかして問題児だけをあの空間にまとめているのだろうか? ……いや、席は名前順だし、ただの偶然なのかもしれない。
にしては、少し出来過ぎな気もするが……。
僕は、チラリと教師へと視線を向ける。
そして察した。
彼女は僅かに、笑っていたから。
「そうか。では、早速始めよう」
シガラミ先生は、指を鳴らした。
次の瞬間、僕らは見たことも無い場所にいた。
そこは、火山地帯のような場所だった。
熱気が肌を焼く。
肺に入り込んだ空気が重い。
生徒たちから驚きの声が上がる中、僕とシオンはいち早く異変に気がついていた。
「……おいおい、嘘だろ」
「へっ! なんだ、ガッコーってのもなかなかどーして面白い場所じゃねぇか! 」
僕らは、先生のいる方へと視線を向ける。
「異能があるように……元来、この世には常人の知覚できない超常生物が居る。元気が良いようなので、早速、第1の授業だ。こいつを倒せ」
妄言使いが、オーガを率いていたように。
僕らの目の前には、巨大な山がそびえ立っていた。……いいや、それは山なんかではない。見上げるほど巨大な生き物だった。
『グルルルル……』
「ど、ドラゴン……とか」
僕は頬を引きつらせ、生徒たちから悲鳴が上がる。
赤い鱗のドラゴンは、大きな咆哮を響かせて、僕とシオンは拳を構える。
前言撤回は、やっぱり無い。
この学校は、世界一クソッタレた学校だ。




