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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
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211『これをきっと、相棒と呼ぶ』

 爆発に巻き込まれ、僕は大きく吹き飛ばされた。

 彼女の影が、強すぎる光に弱いというのは知っていた。

 爆発の発光で、既に影の束縛からは解かれている。

 僕はすぐさま態勢を整え、全身の服の下を狼へと変身させる。


「ここで、決めるッ!」


 活性を限界まで高める。

 残りの体力も、あとわずか。

 もう、十数秒も動けない。

 なればこそ、残る力を総動員し。


 この数秒で、余力の限りを燃やし尽くす。


 頬の傷が、瞬く間に癒える。

 そして、癒えた先から炸裂した。

 体中、ありとあらゆる体表を突き破り、血があふれ出す。

 それは蒸気となって全身を覆い尽くし、僕は拳を構える。


「【異常稼働(フルドライブ)】……ッ!」


 今の僕が発揮できる、最大限度(フルスペック)

 神狼×異常稼働。

 今の僕の身体能力は、間違いなくS級に達している。

 僕は前を向き、大地を踏みしめ。


 次の瞬間、煙の中からシオンの姿が現れた。


「うるせぇ! オレの方が強ぇ!」


 彼女の飛び蹴りが、僕の顔面を直撃した。

 駆けだそうとした瞬間を、狙い撃つかのような一撃。

 狙ってたのか? ……いや、偶然だな。

 シオンはきっと、そこまで考えない。

 それでもこの一撃が必然だっていうなら、それはきっと、野生の勘だ。

 僕はたたらを踏んで後ずさるが、すぐに彼女を睨んで拳を握る。


「そういうのは、僕に勝ってから言うこった!」


 彼女は剣を構える。

 銃身をこちらへと向け、標準を合わせる。

 だけど、その瞬間には、もう僕はそこにはいない。


「……ッ!?」


 シオンが、僕の攻撃を直前で回避する。

 彼女の頭が直前まであった場所を、僕の回し蹴りが通過する。

 彼女は大きく目を見開いて僕を見上げた。


「て、てめぇ……!」

「知ってるさ。お前に言われなくたってな」


【次元】ってのは確かに、強い力だと思う。

 だけど、僕はどこぞの主人公でも、選ばれし者でもないわけで。

 そんな、いきなり七つかそこらの力を与えられたところで、そのすべてを十分に使いこなせるわけがない。……当然のごとく、能力ごとに得手不得手が存在する。


 そして僕は、その中でも一番、この力を得意としてる。


「ごりっごりの近接型! お前の好きな、抜身の刀だ!」


 ――黒狼系技能。

 あの日、あの瞬間。

 半ば事故のようにこの技能を手にしたのは、間違いじゃなかった。


 さあ、シオン。

 ついてこれるなら、ついてこい。

 もう、下手な技能はやめにする。

 残り数秒、僕の体力が持つ限り。


 ――僕が一番得意とするこの技能で、お前を倒す。


「なはは!」


 何が楽しいか、笑ったシオンへ。

 最短距離で、肘打ちを叩き込む。

 今の僕が放てる最高速。

 それは、咄嗟に回された影へと防がれたが、僕の攻撃は防御を貫く。

 一瞬の硬直の後、僕の一撃は彼女の影を打ち砕く。

 勢いそのまま、肘打ちは彼女の腹部へ直撃するが……いまの【一瞬】で、自ら後方へと下がって威力を殺しやがった。


 僕は歯ぎしりすると、さらに加速した。


 ――残り活動時間、たぶん、六秒前後。


 彼女の周囲を、限界を超えた速度で駆ける。

 シオンは目に負えぬ僕へと焦りをにじませながら、楽しそうにしていた。


「いいね、いいねェ! 最高だぜカイ! オレが死んだあの日、オレが最期に見た光景よりも、ずっと死が身近にある! てめぇは、当時の暴走列車より強いのかもなァ!」


 だが。

 シオンは続けた。

 その後頭部へと、僕の回し蹴りが直撃した。

 手加減、一切なし。

 何ならもう一度霧矢のところ行ってこい。

 そういわんばかりの一撃に、されどシオンは折れなかった。


 よろけ、前方へと倒れるシオン。

 半ば勝利を確信した僕は――彼女が、僕に銃口を向けていることに気が付いた。


「――ッ!?」

「逝くなら、てめぇも一緒だぜ、カイ!」


 銃口が火を噴く。

 至近距離で浴びた、彼女の左腕の銃弾。

 それは、背中のミサイルとは比べ物にならない威力だ。

 衝撃に、咄嗟に防御した左腕が完全に砕ける。

 痛みに呻き、僕はそれでも前を向く。


 ――残り活動時間、三秒弱。


 もう、意識が朦朧となってきた。

 息のつらさも、限界を超えている。

 血液が沸騰したような。

 体中が泣き叫ぶような感覚すらある。


 今、足を止めれば、二度と動けなくなる。

 そんな予感があって。

 僕は、砕けた左腕を放ったらかしに。


 ただ、全力で大地を蹴って、駆け出した。


 お前が生きて、学び培った一年半。

 僕が死後、憎悪に駆けた一年半。

 どちらが、より正しく、強く、なれたのか。


「さあ、答え合わせを始めよう」


 シオンが大地を駆け、僕へと迫る。

 その顔には満面の笑顔。

 彼女は拳を固めて、影を纏う。


「……逃げんじゃねぇぞ?」


 シオンは、ふと、そんなことを言い放つ。


 僕は思わず苦笑し、拳を握った。


 期せずしてそれは、一年と八ヵ月前。

 初めて僕らが出会った時と、同じ構図だった。


 力と力の、真正面からのぶつかり合い。

 今回は、以前のような小細工をできる余力はない。


 だから、この一撃で、全てを決めよう。

 シオン・ライアー。



 僕は拳を撃ち放つ。

 と同時に、真正面から影の拳が叩きつけられた。



 常軌を逸した衝撃が突き抜け。

 次元結界すら、砕け散る。


 野次馬たちが、吹き抜けた衝撃に悲鳴を上げる中。

 僕は……眼前へと突き付けられた拳を前に、目を見開いていた。


「…………っ」


 自分の右手へと、視線を向ける。

 そして、気が付く。

 既に、拳を振れるだけの体力は、なかったのだと。


「……これが一か月後だったら、分かんなかったな」


 シオン・ライアーは、僕に拳を突きつけ、そう言った。


 そうして僕は、敗北を悟った。


 体力尽きて、後ろから地面に倒れる。

 それを、彼女は無事な左腕で抱き留めた。

 右の拳は、凄惨なまでに傷を負っていて。



「強かったぜ。次は、てめぇが全快の時に戦おう」



 僕は目を閉じ、大きく息を吐く。


 勝者が敗者に掛ける言葉があるとするなら。

 きっと、こういう言葉を言うのだろう。




 ☆☆☆




 学科試験を受けた会場にて。


『それでは、以上をもちまして、今年度のハイライトスクール、入学試験を終了いたします。お忘れ物の無きよう、お気をつけてお帰りください』


 試験官の女の人が、マイク越しにそう言った。

 僕とシオンは、その言葉を聞いた瞬間、背もたれに体重を預け、大きく息を吐いた。期せずして全く同じ反応だった。


「「いやー、疲れたぁ……」」


 そして、飛び出た言葉も同じ。

 僕は嫌な予感に彼女と反対方向へ視線を向ける。

 すると、シオンはにやにやしながら僕へと顔を寄せてきた。


「んー? おい、カイ! だいぶ親分であるオレ様に似てきたんじゃねぇか? いい傾向じゃねぇか! なはははははは!」

「うるさい、そして似てない。絶対に似てない」

「うるせぇ! オレが似てるって言えば似てるんだよ!」


 シオンはぎゃーすか騒ぎ始める。

 コイツ……あれだけ戦って、よくぴんぴんしていられるな。

 僕なんて、暴走列車の活性能力をもってしても、まだ体が怠いっていうのに。こいつは不死身かなんかなのか?


「つーか、終わったんなら帰ろうぜ! この一日、ぶっちゃけ何やってたのかよく分かってねえけどよ! 終わったんなら帰ろう! そーいや、スペシャル定食的なヤツは食えねぇのか?」

「お前……」


 もしかしなくても、よくわからずにこの一日過ごしてたのか?

 入学試験とも知らずに、入学試験で主席級の成績をとりまくってたわけ? だとしたら真面目に試験を受けに来た皆さんに謝りなさい。

 あ、ちなみに僕には謝らなくていいですよ。

 お前と同じく、この学校自体に興味の欠片も持ってないから。


「……まぁ、さっさと帰るには賛成だな」


 周囲へと視線を向ける。

 そこには、S級二人に対して興味を示す、多くの受験者の姿があった。

 中には、今にも話しかけてきそうな受験者の姿も。

 ……大方、僕たちの戦いを見て、まだ興奮冷めやらぬ、ってやつなんだろう。

 最初は化け物だなんだと怯えてたくせに……掌を返すのが早すぎるだろ。


「デラックス肉弁当は!」

「ねえよ。いつから特別メニューが肉弁当になった」


 ただの特別メニューとしか言われてねぇよ。

 僕の言葉に、シオンが目に見えてしゅんとする。

 彼女は赤髪を指先でいじり始めて、僕は大きなため息を漏らす。


「分かったよ……ほら、なんか、帰りにスーパーよっていこう。でもって、なんか、肉とソーセージでも買ってこう」

「そーせーじ!」


 僕の言葉を受け、シオン、復活。

 彼女は元気よく立上り、僕もまた椅子から立ち上がる。

 僕らが動いたことで、周囲がざわつく。

 だけど、それも得には気にならない。


 きっと、シオンがいれば、何とかなるさ。


「おいカイ! はやくいこうぜ! オレのそーせーじがなくなっちまう!」

「そうやすやすと売り切れるようなものでもないと思うけど」


 僕は、シオンに手を引かれて歩き出す。


 さっきまで、殺しあっていたっていうのに。

 今じゃ、まるで仲のいい兄妹みたいなもんだ。

 シオンに言わせれば姉弟になるのだろうが、僕は断じて兄妹を推したい。


 喧嘩しても、殴りあっても、殺しあっても。

 どんなことがあろうと僕らの仲は変わらない。

 根拠はないけど、そんな自信がある。



「早く行こーぜ! お前と食う飯が1番うめーんだ!」



 シオンはそう笑い、僕もつられて、微笑んだ。



これをきっと、相棒と呼ぶ。

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