210『カイVSシオン』
「『次元結界』」
初手として、僕は周囲の安全へと配慮した。
いくら試験官が名の知れた異能力者であったとしても、僕やシオンが本気で戦えば、巻き沿いにあって怪我をする。というか怪我で済めばいいほうだ。
なら、そんなのを目撃してる野次馬は?
そう考えると、気が気でなくて力も出ない。
僕を中心として、銀色透明のドームが生まれ落ちる。
それは、僕とシオンだけを囲うように数十メートルを覆い尽くす。
シオンは周囲へと視線を向けると、試しに、と言わんばかりに背中の大砲をぶっ放した。
感じたのは、異常すぎる想力量。
……やべぇな。あれに触れただけで粉微塵になる気がする。
ミサイルは一直線に結界へと向かってゆく。
そして――ブツリと、結界に触れた瞬間、ミサイルが消えた。
「……あ? なんだこれ」
シオンは首をかしげてミサイルの消えた方向を見つめている。
僕は小さく息を吐き、彼女に対して視線を向ける。
そして――次の瞬間、僕の姿はシオンの背後にあった。
「気にすんな。ただ、消しただけだ」
拳を振るってから、声をかける。
だけど、彼女は僕の発声より先に反応していた。
彼女は銃身の腕で、僕の拳を受け止める。
瞬間、彼女の銃身は大きくへしゃげ、シオンは驚いたようにバックステップ。
大きく目を見開いて、自分の左腕へと視線を向ける。
「おいおいおい……まじかよ。この腕、暴走列車でも砕けなかったんだぜ?」
「知ってるか? 世の中には防御貫通なんて、便利な力もあるらしい」
今僕は、黒い手袋を履いている。
季節は真冬。
いくら戦闘中とはいえ、手袋を着用するのに違和感はない。
だからこそ、思う存分見えないところで変身させてもらった。
僕は長そでを、少しだけ捲る。
シオンにのみ見せた腕は、とっくの昔に狼のモノへと変わっていた。
「なはは! すげぇすげぇ! そんな異能があるっていってたっけか!」
シオンはそう叫び、左手を振るう。
直後、破壊された左腕は元の状態へと戻っていた。
……いくら破壊しようとも回復し放題、ってか。
想力が尽きない限りは、どれだけ攻撃しても、どんな威力を叩き込もうと無意味。
それこそ、核ミサイル級のドでかい攻撃をすれば話は別かもしれないが、そんな威力、今の僕には出せないしな。火曜日……久理の強化される日ならば或いは……いいや、どーせ使えないなら今は考えるだけ無駄だな。
「さて、どう攻略しようか」
僕が呟くと同時に、シオンの砲台から無数のミサイルが放たれた。
その総数、優に五十を超えている。
砲台の数からは到底考えられない弾数。装弾速度。
さすがは異能、ローファンタジー。
物理的とか、物理法則とか。そういう言葉に真正面から喧嘩を売ってやがる。
「『次元盾』」
僕は合掌すると、目の前へと大きな盾が現れる。
その盾は迫りくるミサイル全てを受け止め――完全に消し去った。
僕はすべてのミサイルを消したのを確認してから、盾を消し去る。
そして、僕はシオンの方へと視線を向けて、目を見開いた。
僕の眼前へと、彼女の剣が迫っていたから。
「――ッ!?」
咄嗟に近距離へと転移し、回し蹴りを叩き込む。
だが、僕の蹴りは彼女の銃身に防がれ、銃身がへし折れる音とともに、僕の腹へと強烈な一撃が叩き込まれる。あまりの威力に大きく吹き飛ばされて……それが、前蹴りであったと気が付いたのはそのあとだった。
「ぐ、が……っ」
「その力! ぜんぜん慣れてねぇだろ! よっぽど狼の方がオッかねぇぜ!」
シオンの言葉が頭に響く。
……よりにもよって、嫌な場所に蹴りが当たった。
鳩尾だ。
僕は浅く息を吐き、何とか呼吸を整えようと深呼吸。
されど、シオンは回復の暇を待ってはくれない。
彼女は腰のジェットエンジンを駆動。
踵のタイヤで、滑るように僕へと迫った。
その速度、間違いなく僕の【神狼】と互角だろう。
僕は距離を取ろうと次元を発動。
しかし、僕の視線の先へとシオンは左腕の銃口を向ける。
「――ッ」
「バレてんだよ、目線の先だろ?」
転移はもう、停止できない。
僕の姿が掻き消えて、視界が移り変わり。
その直後、僕は眼前に迫るミサイルを見た。
「……がッ!?」
脳天へ、ミサイルが直撃する。
かつて、感じたことの無い衝撃波。
咄嗟に頭を後方へと下げたおかけで、一撃死ってのは避けられた。
けど、頭蓋は割れて、血が吹き出している。
ちらりと、試験官へと視線を向ける。
試験官の女性は試合を止めようとしているのか、僕の結界をガンガン拳で叩いている。悪いな、その結界は外からの攻撃は防ぐんだ。
「さっさと本気出せよ! 終わっちまうぜ、カイ!」
シオンが大地を蹴る。
僕は歯を食いしばり、大地を蹴った。
瞬間、僕の足元から溢れ出す無数の【杭】。
串刺し公、ヴラド・ツェペシュの具現能力。
イミガンダから奪った力を、僕の想力で運用する。
それは、凶悪無比な範囲攻撃へと成り果てた。
だが。
「あ? んなもんがオレに通用するとでも思ってんのか!」
彼女の影が、杭の全てを飲み込んだ。
その力だけでA級最上位という、シオン・ライアーの【影の具現】。
異能がなくても、下手をすれば今の僕と同等の力を持つだろう。
あまりの反則加減に笑えてくる。
ほんと、どうやって勝てばいいんだよ。
僕は大きく息を吐く。
そして、迫り来るシオンを前に……さらに、距離を取った。
僕は十数メートル後方へと転移。
それを見たシオンは、不機嫌そうに歯を食いしばる。
「てめぇ……さっきから何してんだ! 逃げてばっかりじゃねぇか! 防いで逃げて! んな戦い方で、オレに勝てると思ってんのか!」
「……………………」
僕は無言で返す。
それは、シオンの怒りに油を注いだ。
「……これ以上、失望させてくれんなよ。オレは、1年半前のてめぇと戦いたかったぜ。血湧き肉躍る、懐に入れちまえば殺されちまいそうな、抜き身の刀みてぇなてめぇとよォ……ッ!」
「……それは、悪い事をしたな」
1年半前。
お前が生き返るより前は……僕はまだまだ餓鬼だったんだ。
戦い方も一辺倒。
ただ、前に出て殴るしか戦うことを知らない。
そんな、危なっかしい、それこそ抜き身の刀みたいな状態だった。
それをお望みというのであれば、僕は期待には答えられない。
「つーか、そういうのは僕を倒してから言えよ。その異能、カッコつけてた割には全然僕を殺せそうにねぇんだが?」
挑発だった。
あからさま過ぎる挑発だった。
されど、シオンはそれに気づかない。
冷静に判断するには、あまりにも頭に血が登り過ぎていた。
「……いいぜ、そこまで言うなら……本気で殺してやるよ」
――そうすりゃ、頭も冷えるだろ。
そう言ったシオンの体から、冷たいオーラが溢れ出す。
僕も、こんなシオンは初めて見た。
正真正銘、敵を前にし、激怒したシオン・ライアー。
彼女なら、怒りに身を任せて馬鹿みたいに騒ぐと思っていたのに。……それは、どこまでも静かな、静謐な怒りだった。
「……怖いなぁ、さすがに」
悪いな、シオン。
お前のことは、あの2ヶ月間で随分と分かってるからな。
お前の好きな事、お前の嫌がること。
お前がされて、怒ること。
だいたい分かってる。
だから、その怒ることを実行した。
「――Go Ahead。ちったァ頭冷やしてこい、クソ子分!」
シオンの全身から、凄まじい量のミサイルが放たれた。
それは、1発1発に殺意が籠った致死の攻撃。
間違いなく、当たれば即死。
シオン・ライアーは、灰村解を、殺しに来た。
――なればこそ。
僕も僕とて……ようやく本気を出せる。
「【渦】」
右手を掲げて、膨大な想力を行使する。
瞬間、彼女の発射した全てのミサイルが、消失した。
「…………は?」
シオンは、驚いたように目を見開いて。
僕は、掲げた右手を握りしめる。
――その瞬間。
今までに消えた全ての攻撃が。
シオンへと向かって、再出現した。
「……ッ!? う、嘘だろォ……ッ!」
シオンは、今になって気がついたようだ。
僕は、攻撃を消していたんじゃない。
一時的に、別の空間へと移していただけなのだと。
そして今、この瞬間。
その空間を、シオンへ向けて解放した。
その結果、どうなるか。
僕は右の拳を振り落とす。
と同時に、それら全てが始動した。
「悪いなシオン。僕は期待を裏切る男だ」
彼女が放った、ミサイルの数々。
その数、優に【173】発。
それを全て、彼女へ向かってお返しする。
「クソッタレが……!」
シオンは、咄嗟に【防御】を選択。
回避するのは難しいと理解したのだろう。
体全体を影で覆い、それらの攻撃に耐えきる為の殻を作る。
だけど、それってさ。
こっちが攻撃手段を変えたら、対応できないよね。
「ごはっ……!?」
僕の拳が、殻を突き破ってシオンの腹へと突き刺さる。
影が粉々に砕け散り、シオンが吹き飛ばされていく。
彼女は周囲へと視線を向ける。
既にミサイルの全ては消えていて、彼女が視線を逸らしたその一瞬で、僕は彼女の懐へと踏み込んでいた。
「さぁ、待たせたな」
拳が、容赦なく彼女の顔面を捉えた。
鼻血が吹き上がり、野次馬から悲鳴が上がる。
それでも、シオン・ライアーは嬉しそうだった。
「なはははは! 勘違い! ならよかったぜ!」
拳が、シオンの腹へと突き刺さる。
彼女の体がくの字にへし折れた……と思った、次の瞬間。
影が僕の身体中を縛りあげ、思わず呻く。
「ガッカリしちまうところだったぜ! 危ねぇな!」
とか言いながら、右手の剣で襲いかかってくるシオン。
咄嗟の転移は、視線を読まれて状況を悪化させる。
ならば、どうする?
答えはすぐに出た。
「【渦】」
僕は、彼女の剣に、ミサイルをそのままぶつけた。
彼女は右手でミサイルを両断。
切り裂いてから、こりゃマズいと理解したのだろう。
「あっ、やべ」
そんな声が響いてまもなく。
僕らは、大きな爆発に巻き込まれた。
シオンが力尽きるが先か。
解の体力が尽きるが先か。
次回もバトル続行。




