207『S級の実力』
キャラクター(主にシオン)が生き生きしすぎて、作者の想定通りにストーリーが進まない事故が起きております。
今回の実技試験。
その第一種目【10キロマラソン】。
極力人通りの少なく、家の少ない場所を通るようなコースを定められているが、100%そのような道を通って学園へと戻ることはまず出来ない。
そのため、コース周辺の住民には一時的に避難して頂いている。
また、住宅に損傷が出た場合も全額学園側が負担するという約束の元に、今回の10キロマラソンという競技は成り立っていた。
「ヒャッハー! どけどけェ! オレ様たちのお通りだぜ!」
僕は、遠い目をしてそんなことを考え直していた。
ただいま現在、僕はシオンに連れられ爆走していた。
既に、スタートダッシュを切った生徒の過半を追い抜いている。
1歩も動いていないのに。
というか、ずっとシオンの後ろに座ってるだけなのに。
なんだかもう、理不尽なまでの速度で、僕らは走っていた。
「な……ッ!?」
「ちょ、それってアリなの……きゃぁっ!?」
受験者たちが、次々とぶっ飛ばされてゆく。
それを前に、シオンは爆笑。
アクセルを強く踏みつけて、吹き飛ばされた生徒は叫んだ。
「バイクなんて、そんなのアリかよ!?」
「うるせぇ! オレ様が言ってんだからアリだ馬鹿どもが!」
シオンは、更にバイクを加速させる。
S級異能力者、シオン・ライアーの異能。
僕という個人を探れるような探査系で。
加えて、何も無い空間からバイクを生み出す召喚系。
全く関係のない、2つの相反する能力。
……一体、コイツはどんな能力を持ってるんだ。
「ひゃっほー!! 雑魚どもがゴミのようだぜ! なぁ、カイ!」
「もっ、もうちょい! もうちょっとスピード落としてぇ!」
「あ? なんだって!? スピード上げれってか! 了解だぜ!」
「下げれって言っ――ぁぁぁぁぁああああああああ!?!?」
凄まじい速度。軽く100km/hは超えているだろう。
そこから更に加速だなんて……そこから先は地獄だった。
無論、10キロなんてあっという間に走破してしまう。
気がつけばほとんどの生徒……いいや、全ての生徒を追い越していて。
ぴっちりキッカリ5分後。
シオン・ライアーはかなりの余裕を持ってゴールする。
「あ、ぁ…………」
試験官の女性は唖然と固まっており。
燃え尽きた僕はバイクから転げ落ちる。シオンはバイクをどこかへ収納し、僕を見下ろして笑って見せた。
「どーよ! また第1位だぜ! 今度は褒めてもいいんだぜカイ!」
シオンは無邪気な笑顔でそう笑い。
僕は、気絶する直前に、彼女へ言った。
「……絶対に、褒めて、やるものか……ッ!」
ガクリと、僕は意識を失った。
数秒後、僕はシオンに叩き起こされた。
☆☆☆
『それではこれより、2次の実技試験を始めます』
1時間半後、午後2時半時。
たったの1時間半という時間で10キロを制覇。
市民ランナーか異能力者でなければ確実に制覇不能な難易度だったと思う。
まぁ、それをものの五分で踏破してしまうシオンイカれてると思う。
学校側がコース周りの整備をしてくれていたからよかったものの、一般人がいたら間違いなく何人か轢き殺してるよ。
「なはは! 1位1位! 次も1番!」
ここに来て、1位の座に固執し始めたシオン。
実技2次試験がどういう試験になるのかは分からない。
だからこそ不安だ。……シオンのやる気がから回って、嫌な方向に向かってくれなきゃ良いんだけれど。
そうこう考えていると、グラウンドの真ん中で教員が口を開いた。
『実技2次試験は、実質最終試験となっている。内容は簡単、君たちで順々に戦ってもらう』
教員の言葉に、受験生たちがざわめいた。
そりゃそうだ。
仮に異能を使えたとしても、実践なんてほとんどの受験生がまだだろう。
そんなのにいきなり戦えとか、無理がありすぎでしょ。
それに、純粋な戦闘能力に劣る【志壁】や【薬聖】の人はどうするっていうんだ? そんな疑問を覚えていると、試験官が説明を始めた。
『今回の試験は、どれだけ保有する力をつかいこなせているか、を試させてもらう。事前に得意としている分野を伝えてもらい、仮に支援や防御に特化しているのであれば、その都度、受験者に応じて試験内容を変えてゆく』
「つまり、強ければいいってこったな!」
シオンが隣でそんなことを言う中。
早速試験の幕は上がり、最初の十数名が呼ばれてゆく。
どうやらグラウンドの各所でそれぞれ試験を行うらしい。
僕はそれらの受験者を順々に眺めていく。
だけど……やっぱり、ぱっとしたのは居なさそうだ。冥府帰りでもあるまいし、元一般人に僕らと同等を求めるのは無理がありすぎる。
とか、そうこう考えていると、シオンが僕の袖を引いた。
「おい、カイ。……ひとり、やべぇのが居るぜ。ありゃ、冥府のボスとは比にならねぇ。アクツと同格だ」
イミガンダ以上。
そして、阿久津さんと同格。
その言葉に驚くと同時に、周囲から様々な声が沸き立つ。
みんなの視線の方向を追えば……そこには、見覚えのある少女が立っていた。
2年前とは打って変わって、腰まで伸びた栗色の髪。
後ろには数名のボディガードと、疲れた様相の謎生物がついている。
「……アイツは本当に、変わらないな」
「あ? もしかして知り合いかよ」
シオンがそう問うてきて、僕は苦笑した。
知り合い。まぁ、そうだな。
一晩だけ家に泊めたってだけの関係。
だけど、一緒に死地を戦った関係でもある。
「――六紗、優」
その名を呟いた、次の瞬間。
何となく、六紗がこちらを見た気がした。
僕は咄嗟に遮断を発動、シオンの後ろに隠れると、六紗は不思議そうにしながら僕らの方から視線を外す。
あ、危な……ッ!
って言うか僕、なんで隠れてんだ?
アイツと話して、阿久津さんと仲直りしてもらう為にこんな場所に来たんだろ。なら、さっさと見付かって話した方がいい気がする。
僕は恐る恐るとシオンの影から出ると、既に六紗は対戦相手の少年と向かい合っていた。
「よ、よろっ、よろしく……お願いします!」
少年は緊張で、ガッチガチに固まってる。
そりゃそうだ。世界の王様が対戦相手ですなんていきなり言われたら僕でも緊張する。加えて美少女と来たもんだ。
僕は2年前に魔法少女のコスプレしてた六紗を知ってる手前、鼻で笑える自信があるが、アレを見ていない人にとっては、六紗はさぞかし美人に映るだろう。
というか、六紗。なんで魔法少女の格好してたんだろう。
もしかして、あれが勇者の正装なのかな?
「こちらこそ、よろしくお願いします」
凛と声が響き、六紗は静かに拳を構える。
ビクリと反応し、少年もまたぎこちなく拳を構える。
他にも試験を受ける者は多くいる。
が、今この瞬間だけは、野次馬の全ての視線がその戦いへと向けられていた。
「……り、両者、戦闘が得意ということで、純粋な試合形式とさせてもらう。そ、それではこれより試験を開始する……!」
試験官の男性が、緊張気味に声を出す。
然してそれは、瞬殺劇の幕開けだった。
「は、始めッ! ………………えっ?」
開始の合図と同時に、勝負は決していた。
目で追えるとか、そういう次元の話じゃない。
周囲の野次馬は呆然としていて、シオンは目を見開いて固まっていた。
かく言う僕も、頬を引き攣らせて笑っている。
もう、笑うしか無かったのだ。
「……あ、ぁっ」
「勝負ありですね」
少年の喉へと、ナイフが突き付けられている。
少年は1歩も動くことが出来ずに固まっており、それを見た六紗はつまらなさそうにそう言うと、次の瞬間にはナイフは消えていた。
「し、勝負あり! 勝者……六紗優!」
試験官から勝者コールがあって、数秒後、大歓声が響く。
目の当たりにした、S級異能力者による瞬殺劇。
彼女の力を垣間見た受験者たちは、興奮に包まれている。
……しかし数名、静かにしている者もいた。
きっと彼ら彼女らは、本気で上を目指している者だ。
どれだけ六紗との実力差があるかを知り、絶句する者。
おい六紗、学園の運営側としては、出来ればこういう人たちを取った方がいいと思うよ。
素人考えだけど、伸びると思う。
「……高速移動、いいや違ぇな、目で追えなかった。おいカイ、もしかしてあの野郎、お前と同じ【界刻】使えんのか?」
シオンの言葉に、周囲の数名が驚いたように僕を見た。
おいおい……僕は界刻じゃなくて逸常なんだけど?
技能【次元】を使えるって意味では、まぁ、界刻の能力も使えると言えるのかもしれないけれど。
「……あぁ、そうだな」
僕は、六紗優へと向けて鑑定を使う。
冥府では確かな肉体が無かったためか、鑑定技能を使っても何も見えなかったからな。実質、1年と数ヶ月ぶりの鑑定だ。
然して、その鑑定結果は目を見張るもので。
六紗 優[Sランク]
異能[我が前に刻は要らず]
基礎三形
活性[A]
遮断[A]
具現[A]
2年前とは、まさに別格。
異能も……覚醒、進化と呼ぶべきか。
以前の【時の潜水者】とは別格になっている。
名前見ただけで分かるもん。
より長く、より中二になっている。
「……中学二年生の当時より中二極めてるとか、どーゆーことだよ」
僕はそう呟いて、頭をかく。
六紗はと言えば、試験を瞬殺で終わらせ、どこかへ去ろうとしていた。
というか、帰ろうとしていた。
「試験官。申し訳ありませんが……私の存在は、あまりこの場の平静に良くないと判断致します。……私個人の試験は終わった様子ですので、ここで失礼させていただきます」
「あ、あぁ、はい。分かりました……」
そう言って、六紗優は去ってゆく。
その姿に、僕はやっぱり……ほっとしていた。
安堵して、僕は頭を悩ませる。
安堵したことが、今回は問題だった。
なぜ僕は、六紗が帰ることを喜んでるんだ?
もしかして僕、六紗に会いたくない、とか?
僕は腕を組んで、首を傾げる。
必死に考えていたせいか、僕は気づけなかった。
――僕の隣からシオンがいなくなっている事に。
「おい! 思い出したぜ、てめーだな! オレ様のカイを殺した野郎は!」
その声に、僕は目を見開いて前を見た。
そこには、六紗に向かって指をさすシオンの姿があり、シオンの言葉を受け、六紗の雰囲気が目に見えて変わったのを理解した。
それは、僕『灰村解の死』を、六紗優が覚えているということに他ならなかった。
「…………誰です、貴女?」
「オレ様か! オレ様はカイの親分、シオン・ライアー! S級だ!」
彼女の自己紹介に、周囲がざわめく。
そして僕の心は既に大嵐。
やべぇよ、やべぇ。
どーしよう。どーすればこの状況、上手く収まるの?
というかシオン! お前なに六紗に喧嘩売ってんだ!
「シオン・ライアー……【死地の紅神】、正統派以外の異能力者だったと記憶していますが、それが、何故このような場所にいるのです」
「あ? テメーの質問には答えねぇよ。今はオレ様が言いたいことを言う時間だ!」
まさに一触即発。
僕は心臓を抑えて浅く息を吐く。
ど、どうする僕、どうすりゃいい!
止めに入るか?
つーか今の僕で止められるの、あの二人を?
「……いや、無理臭くないか」
両方が、S級を代表する実力者。
全快の僕でも勝てるかどうか怪しい化け物たち。
そんなのが、僕らの目の前で喧嘩を始めようとしているわけだ。
「ど、どうすりゃいいんだよぉ……」
僕は頭を抱え。
シオン・ライアーは、六紗の前で口を開いた――
そろそろ僕TUEEEEEに入りたい。




