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004『零巻』

「なんで無視すんのよ!」


 少女は叫んだ。

 場所は僕の住んでいるアパート。

 少女は机の前に座り、どんどん拳で机を叩く。

 机の上にはよく分からない生き物が座っていて。

 僕は、我が家のごとくくつろいでいるその生き物の頭を掴みあげ、言った。


「で、なんでお前らがここにいるんだ?」


 あの後。

 阿久津さんと僕の家へと帰ってきた訳だが。

 どういう訳か、この1人と1匹まで着いてきていた。

 目の前の少女は、さっき妄言使いとの戦いのさなか、乱入してきた子だ。

 今は魔法少女っぽい服装から地元の中学の制服へと戻っており、彼女は僕の言葉を聞いてキョトンと首を傾げた。


「……? 無視されたから、なんか言ってやろうと思って」


 なるほどなるほど。

 僕は謎生物を握る手を強めた。


「ぽよ? おいお前、ちょっと握る力が強いぽよ。注意するぽよ」

「……あぁ、そうだな。そうしよう。うん、注意するよ」


 僕は、窓を開けた。

 外はもう夜だ。

 真っ暗闇に街灯の光がポツポツ見える中。


「すぅぅぅぅ……よし!」


 大きく息を吸って。

 僕は、思いっきり夜空へと謎生物を投げ捨てた――!


「ぽ、ぼよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「ぼっ、ポンタァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 夜空に謎生物の悲鳴が響く。

 少女は思わず立ち上がると、闇夜に消えていったポンタを追って窓の外へと飛び出してゆく。よし。

 僕は窓を閉め、玄関のチェーンをかけ、その他全ての出入り口を念入りに封じた。これでもう入ってくることは出来ないだろう。


「ふぅ、これで厄介者が居なくなったな」


 僕は額の汗を拭って息を吐く。

 先程少女が座っていた場所に座り込み、何気なく前を見る。

 そこには、居なくなったはずの少女が立っていた。


「ちょっと! いきなり何してくれてんのよ! バッカじゃないの!?」


 ……ふむ。

 ふむふむふむ。

 ……ん? どういうことだろう?

 とりあえず僕は立ち上がると、スマホを手に取る。

 少女の方へとスマホを向け、音の鳴らないカメラアプリで、彼女の顔を写真に収めた。

 彼女は警戒したように僕を見ている。

 腕の中には怯えた様子の謎生物がいて。

 僕は大きく息を吐くと、スマホでとある番号へと電話した。


 その番号?

 あぁ、ただの『110』番だけど。


「あ、もしもし。警察ですか? 実は……家に不法侵入者が。……はい、今です。女の子なんですけど。はい。写真は取りました。あとはこれで指名手配を――」

「ちょっとおおおおおおあおお! ちょっと待ちなさい! まっ、待てって言ってんでしょうが!」


 少女の回し蹴りが、僕のスマホを捉えた!

 僕のスマホがクルクルと宙を舞う。

 飛んでゆくスマホを目で追った僕と少女は……ふと、そのスマホをキャッチし、通話終了ボタンを押した女性を見て固まった。


「御仁。それに貴様も……一体何をしているのだ?」


 そこに居たのは、阿久津さんだった。

 彼女は僕の予備のパジャマを着ていて、それを見た少女は顔を真っ赤にして叫んだ。


「ちょ! それはこっちのセリフよ悪魔王! あんた、初対面の男の家で……はぁ、もしかしてシャワー浴びてたわけ!? ドーリで姿見ないと思ったわよ!」

「いや、だって泊まるところないし」


 阿久津さんの素直な返答に、少女、言葉に詰まる。

 そして、阿久津さん相手に何を言っても無意味と理解したのだろう。今度は僕へと視線を向けた。だが。


「あ、今電話していたものです。……はい。実は携帯電話を奪われまして。……はい。住所は――」

「家庭用電話を使うんじゃないわよ!」


 少女は、家庭用電話の線をコンセントから抜いた!

 ブツっと切れる家庭用電話。

 惜しいな。もう少しで住所まで伝えられたんだが。


「あ、あんた! どんだけ私を犯罪者にしたい訳!?」

「事実じゃないか。だって不法侵入に器物破損。ほら、机壊れてる」


 僕が指さすと、彼女か叩いていた机が少し壊れていた。

 その光景を見て少女は「うぐっ」と声を漏らすと、押され気味なのを察した謎生物が声を上げる!


「負けちゃダメぽよ! こ、コイツは悪魔王より凶悪ぽよ! まさか、初対面であんな酷い目に会うとは思わなかったぽよ! コイツはきっと、とんでもないやつぽよ!」

「あ、そうだ阿久津さん。キャッチボールしません? ちょうどいい球が見つかったんですよ」


 満面の笑顔で謎生物へと手を伸ばす。

 すると、少女は僕から大きく距離を取り、謎生物を庇った。


「こ、これ以上、ポンタでもてあそぶことは許さないわ……!」

「なら出てけよぉ。お前たちが居なくなるなら何もしないっての」


 ついつい素の口調でそう言うと、少女は奥歯を噛み締めた。


「そ、それは……そうだけど。その……」


 彼女はとても悔しそうに僕を見上げている。

 ……ふと、きゅるるるる、と、彼女のお腹から音がした。

 少女はとても恥ずかしそうに顔を赤くしていて、それを見た謎生物が、庇うようで全く庇ってないことを言い出した。


「ゆ、優ちゃん! こんな男に頼ることはないぽよ! 昨日の朝にこの世界にやってきて、それ以降頼れる人も誰もいなくて、昨日から何も食べず、川の水を飲んで喉を潤してはお腹を壊して! 野宿で精神もすりへって! もう結構女の子として限界だけど問題ないぽよ!」

「…………」


 僕は、哀れみの視線を送らずにはいられなかった。

 視線に気がついた少女は、顔を真っ赤に染めて蒸気を上げる。


「お前も……大変だったんだな」

「そ、そんなこと、そんな目をして言わないで! そんな……哀れまないでよ! 野宿だっていいじゃない! お腹減っててもいいじゃない! お腹鳴ったから何! 別にあんたが悪魔王と上手くやってて、もしかしたら私も家に泊めてくれるんじゃないかとか思ってついてきた訳じゃないんだからね!」

「ツンデレぽよ。察せよ男」

「ポンタは黙って!」


 ポンタは黙った。

 その姿を見てなんとも言えない感情を覚える。

 これは……一体どうしたものか。

 これ以上、よく分からない輩を抱え込みたくないんだけど、ここで見捨てたらものすごく後味が悪い。

 腕を組んで頭を悩ませていると……ふっと、右肩に阿久津さんの手が置かれた。


「御仁。……私とその女が敵対関係にあるから、と。そういう事で悩んでいるのだろうが、心配は無用だ。私もその女も、一宿一飯の恩がある御仁の前で争うようなことはしない。それくらいの礼儀はあるつもりだ」


 一宿はまだしも、こいつら一飯までお世話になる気か。

 そして思いっきり勘違いだよ阿久津さん。

 別にあんたのことを思って悩んでたわけじゃないよ。

 ただ、面倒くさそうだなぁ、って思ってただけ。

 そんな言葉を内心で押し込めながら、僕は少女へと視線を戻す。


「阿久津さんと喧嘩しないって約束できるか?」

「そ、それくらい簡単よ! た、たしかに悪魔王と仲良くするのは嫌だけど……喧嘩しないってだけなら大丈夫! お風呂とかご飯とか、もう限界だもの!」


 乙女の切実な言葉だった。

 ポンタは『ぐぬぬ』と阿久津さんを見ていたが、彼女はポンタを相手にもしていない様子。よく考えたら阿久津さんを倒すとか困難極まりないしな。多分大丈夫だろう。

 と、言うことで。


「……分かった。とりあえず、飯にしよう。話はそれからだ」


 僕の言葉に、少女は隠すことも無くガッツポーズした。




 ☆☆☆




「そういえば自己紹介がまだだったわね」


 その後。

 晩御飯の後、風呂に入った少女は、阿久津さんとお揃い……というか、僕も含めて三人同じ服なんだけど、僕のパジャマを着て座っていた。


「私の名前は六紗(ろくしゃ)(ゆう)。見ての通り、特異世界クラウディアの、六代目勇者なのよ!」

「ほーん……」


 横になりながらテレビを眺め、生返事を返す。

 僕の姿を見た六紗少女は、怒ったようにテレビとの間に割り込んでくる。


「そ、その返事……信じてないわね!? いいこと、私はこれでも初代勇者の再来とまで言われた天才なのよ! もう少しで悪魔王だって倒せるんだから!」

「ふーん」


 六紗の頭を押さえてテレビを見ていると、青筋をうかべた六紗少女は立ち上がった。立ち上がって僕を見下ろした。


「こ、この……!」

「落ち着け勇者。聞いていなかったのか、御仁は消耗しているのだ」


 ここで、阿久津さんから声が飛んできた。

 その言葉に体を起こした僕は、机の前に正座で座っている阿久津さんを見る。


「……それで、阿久津さん」

「あぁ。分かっている。……御仁、さては記憶を奪われているな?」


 全く分かっていない阿久津さんの言葉に、僕は乗っかった。

 さっすが阿久津さん。いい設定を思いつくね。

 その方向でいってみよう。


「……よく分かりましたね」

「――!? あ、あんた……大丈夫なの!?」


 六紗が焦ったように僕を見下ろしてくる。

 彼女に薄く微笑んだ僕は、即興の作り話を告げる。


「実は……阿久津さんと出会う前。同じように、解然の闇について探っていた者と遭遇しました。その際、僕は全力で交戦した……はずなのですが、その記憶もあやふやで。分かっているのは、力を全て奪われたということだけ」

「ってことはあんた! もしかして今は……」

「あぁ、一般人と同等の力しかない。そう思ってくれた方がいい」


 僕の言葉に、阿久津さんと六紗は息を飲む。

 ちなみにポンタは『解然の闇って何ぽよ?』と首を傾げていた。こいつが知らないって事は六紗も知らないはずだが……この女は何を驚いているのだろう?

 そう考えながら六紗を見ていると、彼女は真剣な面持ちで口を開く。


「……正直、話についていけてるか心配よ。あなたが言っている解然の闇。それについて知らないもの。……だけど、私の直感が言っているの。あなたは私たちの同類。下手をすれば私たち以上の傑物だってね」


 おや、こいつもイカれた直感を持っているようだな。

 中二病としての『同類』ならば頷けるが、もしも異能力者としての同類だと言っているなら正気を疑う。こいつらは何をもって自分の直感を信頼しているのか。


「……そんな人が、記憶も、力も奪われたって聞いて。今まで積上げてきたものが全て消えたと知って。……それでも同情しないほど、人間性が無いわけじゃないわ。だって勇者だもの」

「……それについては全面同意だ、御仁。貴方ほどの人物がその力を奪われるなど……おそらく、正攻法ではないな。間違いなく、何らかの隙を突かれたか、あるいは……人質などの卑怯な手を使われた可能性もある」


 勝手に色々なことを妄想してくれる二人。

 そんな2人に苦笑しながら、僕は言った。

 こっから先が、僕にとっての本題なのだ。


「それで、阿久津さん。ついでに六紗。2人に頼みたいことがある」


 異能力者に頼りたくは無い。

 何がきっかけで、僕の中二病が再発するか分からないから。

 だけど、10冊の黒歴史を燃やし尽くすには、この道は避けては通れない。

 僕は2人に、誠心誠意頭を下げた。


「どうか、僕に力の使い方を教えてくれないだろうか……!」


 僕の言葉に、2人が微笑んだ気がした。

 右肩に手が置かれた感覚があって、顔を上げる。

 すぐ目の前で、阿久津さんが膝を着いて笑っていた。


「あぁ、任せておけ。記憶がなんだ。私が一から教えてやるさ」

「わ、私も! そもそもアンタは人間でしょ! 悪魔王より同じ人間である私の方が教わりやすいってもんよ!」


 二人はそう言ってくれて、僕は、顔を伏せて肩を震わせた。

 ありがとう、二人とも。

 これで、僕も彼女らと同じ舞台に登ることが出来る。

 そして、必ずや10冊全ての黒歴史ノートを、闇に葬ってみせる!


「二人とも……! ありがとう、本当に……!」


 僕は心の底から感謝した。

 きっと、この感謝は彼女らの想像しているものとは違うものだろうけど。

 それでも、この感謝は本物だ。


 ありがとう、二人とも。

 これで、僕は目標へと向かって歩き出せる。




 ☆☆☆




 夜。

 2人が寝静まった頃。

 僕は、阿久津さんの持っていた【壱巻】を前に立っていた。


「…………」


 右手にはマッチ棒。

 左手にはマッチの箱。

 何をしようとしているか。

 そう聞かれれば燃やそうとしていると答えよう。


「………………はぁ」


 しかし、僕の手は今の場所から動かない。

 理由は簡単だ。

 阿久津さんに協力を求めた手前、今、この本を燃やすのはデメリットにしか繋がらない。せっかく結んだ信頼を、こんな場所で切ってしまうのは勿体ない。

 ……そうさ、我慢だ僕。我慢するんだ。

 この本は、いつだって燃やせるだろう。

 阿久津さんは、僕に対しては無防備だ。

 なんなら、直接「その本貸してくれないか?」とか言っても見せて貰える気がする。つまり、この本を燃やすにあたってはなんの支障もないということだ。


「……ふぅ、辞めよう。少なくとも今は」


 僕は大きく息を吐き、マッチを片付ける。

 僕は学習机に腰掛ける。

 手元には黒歴史の代名詞とも呼べるディュゥェアルノォーゥト。

 10冊、10冊か……。

 この本を、10冊、この世界から探し出さなきゃ行けない。

 いいや、下手をすれば特異世界クラウディア、とやらにまで捜索の手を伸ばさなきゃ行けないかも。そう考えると気が遠くなる。


 だけど、頑張る。

 それしか出来ないんだから。

 なら、僕のすべきことなんてのはそれだけだ。


「……あ、そういえば」


 今は反応無いけれど、さっき、この本光ってたよな?

 でもって、僕の身体中の傷が癒えている。

 てことはなんだ……もしかして、この本には何らかの力が、本当に眠っているとでも言うのか?

 僕は腕を組み、首を傾げて頭を悩ませていると……ふと、そういえば()()1()()()()()()な、と思い出す。


「……こっちの家に持ってきてた気が」


 10冊ある黒歴史ノートの、幻の11冊目。

 それは、まぁ、言ってみれば白紙のノートだ。

 文字のひとつも書き連ねていない。

 ただ、使用者へ試練を与え、それをクリアした者に、ありとあらゆる事象を把握出来る英智の力を与えるとか何とか。そんな感じのノートだったはずだ。



「……あった。これだ、【零巻】」



 押し入れの中を探ると、真黒いノートが1冊仕舞われていた。

 中を開くと、やっぱり白紙。

 何か、普通のノートとして使えるかも? と思いこのアパートへと持ってきたものの、結局は表紙の【零巻】って文字が恥ずかしすぎて1度も使わなかったノートだ。


「もしかして、この本にも何か力が……」


 って、そんなことあるはずないか。

 僕は苦笑しながら、パラパラとページを開いてゆく。

 そして、1番最後のページを開いた、その瞬間。




【使用者を確認。これより試練を開始します】




「………………はっ?」


 気がついた時。

 僕は、全く知らない場所に立っていた。



次回、レベルアップ。

一般人主人公が、いよいよ異能バトルに足を踏み入れます。


次回が気になった人は、下の☆ボタンを押してください。

☆の数だけ作者が頑張ります。

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